「「いたーーーーッ!」」
ナミとサンジが指差す先には、言葉にするのを遠慮したい程の面子が集っていた。
「なん……で…お前らこっちに……」
ルフィが驚愕に染った声色で言葉を発する。
海賊支部の前で逆行者の宴に参加していた面々は突然の来訪者に視線を寄せたが、さほど強くない事もあり大して気に停めなかった。
しかし逆行者の5人、そして中途半端な逆行者のローは、その
「……久しぶりね、海兵さん」
自分の背に隠れたナミを仕方ないといった様子で笑いながら、ロビンは震える手を無視して声をかけた。
海軍大将赤犬の顔を知らない訳がない。
「ロビン……ナミ……」
遂に出逢ってしまった。
思ったより自分が動揺していない事にルフィは気付いた。
「なんだお前ら、ウチの弟に何か用かァ?」
「……去った方が身の為だ」
「エ、エース!サボ!」
過去であり未来を知って、彼らが『仲間』と同じ顔をしていると分かっているエースとサボは思わず警戒心を露わにしてルフィを背に庇う。
嬉しいのやらやめて欲しいのやら、ルフィ自身上手く言葉が出なかった。
「そ、それで……。お前ら何の用なんだ?」
ぴょこぴょこと2人の背から顔を覗かせるルフィに対し、意を決してナミが口を開いた瞬間。笑い声が高らかに響いた。
「ヨホホホホホ!貴方が噂の海賊の海兵さんですね!私、死んで骨だけ、ブルックと申します!」
「お、おう……」
「ちょっとブルック!あ、あんたよくそんなノリで話しかけれるわね!?」
「おや、女性が困っていらっしゃる様でしたので私、思わず!……骨だけで身元が判明するとも思いませんし」
姿はまるで夢を見ている様。アフロを生やした骸骨の音楽家はさり気なく前に出てロビンとナミを庇った。その外見は普通では無い。しかし『麦わらの一味』を知っている者からすれば感想はただ一つ、こいつも居るのか、である。
「それに、私から見れば誰であろうと若造ですしねェ……ヨホホホッ」
互いを警戒し合う両陣営。ブルックの言葉に衝撃を受けたのはどちらかと言えば賞金稼ぎ一味の面々だった。別に喧嘩を売りに来た訳じゃない。
しかし自分達を心配してくれているのも伝わり強く止めれなかった。
「ルンバー海賊団」
サカズキが口を開く。
誰よりも早く『前』を思い出し、なおかつ海軍という世界の中枢で様々な『答え合わせ』をしてきた海兵が、視線を合わせず呆れと共に口から出した言葉。
ブルックを驚かせるためには充分過ぎた。
「おいおいおいおい……やべーってブルック、お前の身元普通にバレてるじゃねーか……!」
今にも飛び出しそうなゾロやサンジを押さえながらウソップは怯えた声を出す。
「〝
「え……」
驚くウソップの声にようやくサカズキは賞金稼ぎ一味に視線を寄せた。
「ベルメールの義娘、コウシロウの弟子、ジェルマのヴィンスモーク、悪魔の子」
その顔には挑発的な笑みが浮かんでいる。各々が思わず武器に手を伸ばした。
「ちょ、赤犬!お前何言ってんだ!」
「既に知れ渡っている事だろう……」
「そういう事じゃねーよッ!」
立ち上がったサカズキにルフィが噛み付く。余計な真似だ!と言おうとしたその時、何故かサカズキの手はルフィを掴んでいた。
「へ?」
「フンっ!」
気付けば空を舞っていた。投げ飛ばされたと瞬時に理解し反射的に体勢を立て直す。
着地した先はナミやゾロが居る所だった。
「『麦わら』……。いや、ルフィ中将」
「……!」
「そいつらの処遇はお前が決めろ。権限ならくれてやる」
本来ならありえない事だが、残念ながらその事を指摘する人間が居ない。精々生粋の海兵であるモーガンが凍りつく程度だ。
『麦わら』は足を止めた。しかし「海賊の海兵」は足を進める。
「まだ、麦わらを捨てねェぞ、俺は」
「……捨てる必要があるのか」
「グラララ…! 欲張ってこそ海賊だろ!」
ニューゲートの海賊という言葉は魔法の様に自分に力をくれる。
「なァ白ひげのおっさん」
「なんだ?」
「白ひげのおっさんは、何を失って、今この世界に立ってる?」
今聞くべき時では無いと思ったが、「今」に立ち向かうために言葉が欲しかった。
その考えを察したのかニューゲートは笑う。
「無くてはならない相棒だ」
『何かを失った』という曖昧な共通点。ルフィは仲間を、サカズキは親を、ハンコックは友を。エネルの話は細かく知らないが話を聞く限り失うと言うより壊したの印象が強い。
「相棒?」
「そうさなァ。声、みたいなもんだな」
生まれた時から傍にいて、一緒に生きる。そんな存在を亡くした。その喪失感。
「辛かったか?」
「辛いなんてもんじゃねェな……体の1部が引き裂かれる気分だった」
そっか、と軽い返事をする。大切なモノを失った気持ちは共感できる。その痛みを。乗り越える苦痛を。
「礼くらい、してやれば良かったんだがなァ」
ニューゲートの
「……話、いいか?」
『ルフィの仲間』と同じ姿形をした6人は、状況処理に陥った頭を無言で縦に振った。
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シャボンディ諸島13番
エネルの見聞色の覇気の範囲外に出る方が難しい。仕方なく普通の声が聞こえない程度まで距離を離した。
「えーっと……何から話せばいいか……」
「聞いていい?海兵さん」
ロビンが手を少し上げてルフィに疑問を投げかけた。
「私も音楽家さんも賞金首だけど判断に迷う立場にあるわ。まず安全性を保証して欲しいの」
「俺、お前ら捕まえる気全くねェけど……」
「あの支部に居た海兵さんも同じ様に思っているの?」
「元が荒れてる奴らばっかだから大丈夫だ」
「赤犬も……?」
疑り深いロビンの様子にルフィは少し笑う。
「赤犬も」
どうしても胸が痛む。
なるべく気にしない様にしながらルフィはまだ顔を合わせた事の無い2人に目を向けた。
「あー、俺が海賊の海兵デス……。まだ会ったこと無いよな」
「お、おう。俺はウソップ、こっちはブルックって知ってるか……」
「まァな」
引き攣り笑いのウソップが自己紹介をするが知られていた事に気付き言葉を続ける。ブルックは帽子を取り頭を下げていた。
「お前ら、どうやってここへ?」
「スモーカーって海兵に教えて貰って
「そっか、ケムリンと砂鰐も関わってたのか。ロビン、アイツ元気してるか?何企んでる?」
道筋に妙に納得する所がある。確かにその方法なら『前』の航路と違い安全に来れたのだろう。
納得したルフィの発言に、ロビンの笑顔が固まる。ナミやウソップはまさかと思い視線を投げかけた。
「あら……バレちゃった……!」
海賊支部という名前だけで諸島まで突き止めるのは非常に難しい。しかしロビンがその名前だけでここまで一味を連れてこれたのは、スパイとして紛れ込んでいるからだ。
開き直って笑うロビンにルフィはため息を吐いた。相変わらずアラバスタの2人は底意地悪い。
「ボスから貴方達を見張れと指令があったの。もし何か海兵さんに悪影響を及ぼす様なら殺せってね……。ウチのボス、なかなか可愛い性格をしているでしょう?」
「いや可愛くねーよッ」
反射的にウソップはツッコミを入れた。アラバスタのカジノで起こった出来事を思い出してナミの表情がヒクリと引き攣った。
「ロビンの理由は分かった。お前らはなんでここに来たんだ?」
「私はあんたにお礼がしたかったから……もう意地になってたし……」
「俺は昔言った通りだ」
「俺もだ!」
ゾロは刀に手をかけて再び決意を固める。サンジも腕を組みながら意気込む。
それに対してルフィは何度目かのため息を吐いた。こうした原因を作ったのは自分だが、負けず嫌い過ぎるだろう、と。
「俺は色々聞きたい事とかあってよ。海に出るついでに何か目的欲しかったし。それに、やりたい事決まったから!」
ウソップは何が面白いのか笑いながらルフィの前に胡座をかいて座った。
「私は助けていただいたので護衛代わりにこちらまで。あ、スリラーバークに来てくださってどうもありがとうございます」
「いや、気にすんな」
お礼を口に出したブルックに対してルフィは手を上げてさり気なく制する。
「あー、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」
そんな中サンジが苦笑いで視線を逸らしながら口を開く。
「俺の名前、なんだけど」
「なまえ?」
「……ジェルマの、ヴィンスモーク」
ルフィは無い頭を必死に回転させる。そしてようやくぐる眉一族の事だと分かり息を着いた。
海賊支部では正当な読者である
「多分赤犬と、ハンコックと、エネルかな、知ってるのは」
「ハンコック様ってのはあの絶世の美女の!」
「エネルは隠し事出来ないからな、多分心で思ってたらバレるぞ」
「…………思考回路が読めるのか」
サンジは弱々しく笑う。誤魔化す事すら出来ないのか、と。
運のいい事にジェルマの兵器などものともしない人間が揃っている。心臓を鷲掴みにされた気分だったが直ぐに持ち直した。
「しかしあの王下七武海の美女とお知り合いとはうらやまけしからんッ! 麦わら、お前は絶対に許さねェ!」
「ホント、美人に目がないんだなァ。ハンコックは確かに美人だけど、俺、仲間が綺麗だったからあんまり気にした事無かったな」
その言葉に思わず全員目を見開いた。ちなみにブルックだけは目が無い。スカルジョークと騒いでいる。
「……なんだよ」
その態度に不服と思ったのか眉を寄せながらルフィはじとっとサンジを代表して睨んだ。
「てっきり、美醜に興味無い人間かと……」
「びしゅう」
「綺麗、醜い。って事だ」
「失敬だなお前ら!」
この様な話に興味無さそうなゾロでさえも笑っている。
フゥ、とため息を吐くとルフィは改めて彼らに聞いた。
「これからお前らどうしたい?」
視線は地面から溢れるシャボンに向けられている。様々な色が魅せる中、情けない顔の自分が歪んで見えた。
「俺は、いや海賊支部は、お前らを迎え入れても良いと考えてる」
ルフィという個人ではなく組織としての言葉であった。それは自分1人で背負える重さじゃないから、逃げた事に等しい。
あくまでも1人の中将としての発言。そうすれば私情は混ざらない。
「「「「入るッ!」」」」
その言葉に対しロビンとブルック以外はすぐに声を揃えた。
「化け物だらけの支部なんて俺の期待以上だ!」
「こうなったら意地でもお礼したいわ!言葉だけじゃ足りないの!航海術には自信あるのよ!」
「正直俺は強くも無いし取り柄も無いけどやりたい事があるから傍に居させて欲しい!」
「絶対に美味いって言わせる料理作りてェ!」
興奮して詰め寄る4人に驚いたが落ち着けと押さえながらルフィは残った2人に視線を向けた。
「ロビンは?」
「……そうね、私は彼らの監視を含めてここに居るんだけど。賞金首が海軍に入れるとは流石に思えないし、ボスの所へ一旦戻るわ」
「そっか、じゃあ送るよ」
「あら、いいの?」
少し考え結論を述べたロビンに、ルフィは最低限の手助けをしようと提案する。ロビンは意外とばかりに首をかしげた。
正直自分は嫌われていると思っていたのだ。
「ブルックは……」
「そうですねェ、当初の目的…──ここまで来るという目的は果たしてしまいましたし」
熟考するブルックにルフィは1つ思い出した。
「ゾロ達はラブーンとは会ってないんだよな」
「ラブーン!?」
ルフィは『前』に出逢ったブルックに運命を感じた。何せ
「いるぞ、ラブーン。双子岬でお前を待ってる」
冗談でもお巫山戯でも無い。
真剣な顔にブルックはその言葉が真実だと確信する。
どこまで自分達の事を知られているのか、疑問を持つ事は多々ある。
しかしその感情よりも先に溢れて来たのは涙に混ざった喜びだった。
「まだ……待ってくれているのですね……!」
ルフィはただ何も言わず目を閉じた。
……苦しい。
やはり同じ姿形は堪える。
「私、決めました。海を戻ります。彼に渡したいモノがあるんです」
「そっか、送ろうか?」
「いいえ。あ、でも出来れば船が欲しいです」
返事を予想していたのかルフィは頷く。
「ナミ…お前ご機嫌だな」
その傍らでウソップは浮かれた様子のナミを小突いた。自分だって嬉しいのは同じだ。しかしナミの喜びは誰よりも明らかだった。
「だってようやくよ?思えば数年……私ばっかり酷い目に遭った気がするわ」
「それはお前が人一倍厄介事に首を突っ込むからだろ」
「なんの事かしら」
「オイ」
横目にルフィは『仲間』と同じ彼らを眺めた。
少し違和感を覚え、寂しい気持ちもある。
「ようやく」と喜ぶ彼らを前に、もう関わらないでくれとは言えなかった。どうしようも無い理不尽程、辛いものは無いから。
ここまでの執念は世界が生んだのか、それとも自分が生んだのか。
皮肉にも、変わった部分──船医の立ち位置が空白な為、どうなのか分からない。
変えたいと願えど変えさせてくれない、そのしがらみに頭痛がした。
卵が先か鶏が先か、そんな終わりの無い議題に取り掛かっている気分だ。
「………きっついなァ」
これから先の生活に、霧が立ち込めた。
それでも昔より前進中。
多分宴は厳かに(やかましく)解散された。
ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、海賊支部入隊決定。
次回は海賊支部で友人と再会しながらなんやかんやします。(予定は未定と言うやつだよ諸君)
白ひげの声を務める有本欽隆さんが食道がんでお亡くなりになられたと聞いて本編を急いで変えました。今まで素敵な親父をありがとうございました、ご冥福をお祈りします。
【4】