海賊の海兵【完結】   作:恋音

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めちゃくちゃな自慢の相棒。

 

「な、なんっ、ナミ、なんで……!」

 

 朝。

 ギョッと目を見開いたルフィがナミを指さしながらパクパクと鯉の様に口を開閉した。

 

「おはようルフィ中将、なによ、なっさけない顔しちゃって」

 

 ナミは特に気にした様子を見せず、朝の挨拶をするとそっぽを向いた。

 しかし、我慢ができなくなったのだろう。しばらくするとにんまりと悪戯が成功した子供の様に笑った。

 

「え、おま、お前なんで」

 

 ルフィの驚きようは異常だ。

 それもそうだろう。

 

「ナミの髪がッ!」

「私ってどんな髪型でも似合うのね」

 

 ナミの髪は大胆に切られており、ベリーショートになっていた。さっぱりした頭を揺らしながら自慢げに毛先を遊ばせている。

 

 似合ってることに違いはないのでなんとも言えずルフィが驚き固まったままだった。

 

「よォルフィ中将、おはようさん」

「ウソップ、ナミの髪が…──」

 

 言いかけて絶句した。

 ウソップは髪を切っていないが額にバンダナを付けており、髪は結ばれず下されていた。

 ウソップの父親であるヤソップと同じような髪型だ。

 

「ん〜? なんだなんだァ? そこの中将はどうしちまったのかなぁ〜?」

 

 からかうような笑みを浮かべてウソップはルフィに視線を注いだ。

 

「ウソップ、やめてやれ」

 

 朝食の準備をしていたサンジが厨房から出てくる。髪は後ろにざっくりと結ばれており、なんと両目が出ていた。

 

「……!?」

 

 違和感のある姿に、もはや言葉すら出ない。

 肺から零れる空気だけが彼の驚きを周りに伝えていた。

 

「それより麦わら! 今日こそは美味いって言わせるからな!」

 

 サンジは普段通り笑う。

 その笑顔は挑戦的だ。

 

 するとトントンと大部屋から大欠伸をしながらゾロが降りてきた。

 

「コック、飯」

「当然、準備は完璧だ」

 

 普通だった。

 見慣れた姿形と変わらないゾロに何故か安心感を覚える。

 

 ルフィ以外の上官がチラホラ姿を見せているのでゾロも流石に欠伸を噛み殺した。

 

「お前ら一体……」

 

 やっとこさ絞り出した言葉を被せる様にナミが大きな声で宣言をする。

 

「私! 海賊支部の航海士兼測量士として! あんたの仲間を越えてみせる!」

「お、俺の仲間を?」

「そう!具体的な実力なんて私には分からないけど()()()()()()が敵なんて燃えてくるじゃない」

 

 え、と再びルフィが驚く。

 衝撃の連続に頭がついて行ってない様だ。

 

 彼女は今何と言ったか。自分の仲間をなんと言ったのか。

 

「だからルフィ中将、私決めたの。世界を知ったあんたが知らない所に連れて行くって!」

 

 ルフィはナミの言葉に泣きたくなった。

 

「俺は『海賊の海兵』の冒険記を書きたい。麦わらのルフィじゃなくて、ルフィ中将の話を」

 

 続け様にウソップが照れ隠しに髪を触りながらルフィに告げる。

 

「俺は他の3人に比べて旅を続ける理由がなかったんだ……。だけど海賊の海兵を世界に広げて俺なりに世界を変えたい!」

 

 ナミの様子からルフィはこの4人が『麦わらのルフィ』を知った事は察せられた。

 それでもなおウソップは「海賊の海兵」を求める。ジワジワと心に澄み切った海の様な何かが溢れてくる。

 

「俺は変わらずお前に美味いって言わせる! その先はまァその時考える!」

 

 キッ!と両目でルフィを見ながら、サンジは年単位の勝負を続けると言う。

 

「1つの世界じゃなくて、お前の味わった2つの世界で1番の料理人になってやるさ」

 

 そう言えばヘビースモーカーのサンジから煙草の匂いがしない。

 

 違いがルフィの中に根付く。

 段々と『ルフィ』の記憶が消えてしまいそうで恐怖を抱いた。

 

 忘れたくない、覚えていたい。例え『仲間』がこの世界に存在しなくても!…──何も知らない頃に戻りたくない!

 

「ルフィ、中将」

 

 ゾロが言いにくそうに階級で呼ぶ。

 背中に流れる冷たい汗を気にしながらルフィは視線を向けた。

 

──ガチャ…

 

 ルフィの目の前に出されたのはゾロの使っている三本の刀だった。1つは確か形見の筈だ。

 

「六式と、あと覇気。それ習得するまで刀は封印する」

 

 その言葉は今までで1番の衝撃だった。

 

「ええぇぇぇええええッ!?」

 

「う、嘘だろ、死んでも絶対刀を手放さないって豪語してた剣士が……」

刀馬鹿(ゾロ)が刀を封印……?」

「なんでお前はそうなった!?」

 

 ルフィだけで無く、何年か旅を共にしていたサンジやナミやウソップまで酷く動揺していた。

 

「お前の仲間は大剣豪だったんだろ。なら俺は剣の道だけじゃなくて武道を極める」

 

 刀を手放すと腕を組んで真剣な顔をした。

 

「なんでお前らいきなり……」

「……これなら、()()でしょ?」

 

 ナミの泣きそうな笑みにルフィはハッとする。

 

 違うのだ。この世界は。

 でも捨てられなくて忘れたくなくて足掻いていた。逆行者に期待をしたし、その分『仲間』が居ないことに辛かった。

 

 兄であるエースとサボに『自分』を見てもらえなくてとても辛かった。

 

 

 

「ルフィ、テメェは見て欲しかったんだろ?」

 

 ルフィの耳に相棒の声が届いた。

 

「なら、見てやらなくちゃな」

 

 口角を上げた姿に、抱いたのは安心感だ。待っていてくれた、隣に居たのに過去ばかり見てモーガンを見なかった。

 見てくれと叫んでいたのに、見ていなかったのは自分だった。

 

 そして今も。

 

 ただ静かに穏やかな時間が過ぎるのを、いつもと違う平和だと勘違いして気付かないフリをしていた。その悲鳴に。

 

 

 

 ルフィは初めて4人の姿を()()

 

「ナミは…──泣き虫だな」

「なによそれ」

 

 へらっと力なく笑いながらナミが言葉を返す。

 

「あと子供だ。それとワガママ。だけど芯が強くて勇気があるな」

 

 義姉や義父と共に居た時間が多いせいか、年相応の子供に見えた。

 独りでお金を稼ぐ為に無理矢理大人にならざるを得なかった『ナミ』では無い。

 

「ウソップは逆に大人だな。苦手な食べ物も克服してるし、ネガティブって感じがしない」

「そりゃ、東の海(イーストブルー)から4人でずっと居たからな」

 

 まとまりのない4人を仕方なくまとめていたのはナミであるが、個々を潰さない様にフォローを加えていたのはウソップだ。

 

「サンジは違いが顕著だ。だって未だに俺の事麦わら呼びだし」

「……料理人(おれ)にとって客は敵だから当然だな」

「だからかな、サンジは自分を大切にしてる。あと欲深いよ、俺のコックを越えるにはまだまだなのによォ」

 

 拗ねた様子でサンジは言い訳を紡ぐ。

 ルフィは困った様に笑いながら言った。

 

 そして視線はゾロへと移る。

 

「ゾロはな、愚かだ。世界には強い奴が沢山いるのに世界に負けた俺から学ぼうなんて…──」

 

 自信たっぷりに、ニヤリと歯を見せる。

 

「──まだ足元にも及ばねェよ」

「はっ、貪欲って言え」

 

 

 心に立ちこめていた霧が晴れた。

 

「ごめん!長い間待たせたッ!」

 

 清々しい朝が来た。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 その日は澄み切った晴天。

 海と空の境目が見えぬほど輝いた日で、太陽の光はそこらを照らしていた。

 

 

「やっちまえモーガンー!」

「ルフィ中将頑張ってー!」

 

 

 シャボンディ諸島13番GR(グローブ)海賊支部前。

 

 今日はモンキー・D・ルフィ中将とモーガン大佐の模擬戦日だった。

 シェルズタウンや本部で交わした拳。しかし支部に移っての模擬戦は初であった。

 

「ちょっと模擬戦してねェ間に随分と強くなったなァ、モーガン」

「これでも鍛えてるんでな」

 

 ルフィが腰に手を当て草履を地面に慣らす。

 モーガンはコートを脱ぎ捨て、中腰に構えた。

 

「『麦わらのルフィ』の事、ナミ達になんで話したんだ?」

 

 中将の戦いという事で海賊支部の全員が観戦に回っている。

 

 ルフィは責めるような声色ではなく、純粋な疑問を口にした。周りに聞こえない程度の音量だったがモーガンには充分に伝わったようだ。

 

「俺達海賊支部に弱卒は居らねェ」

「うん」

「選択肢を与えた上で話したんだがな…──頭撃たせて自害させるつもりで」

 

 実際、彼らは自分を見えない弾丸で撃った。

 きちんと生まれ変わった。

 

 『麦わらの一味』に似た彼らは「海賊支部の海兵」として生まれ変わった。

 

「身分も低い称号もねェ奴らは、将校(おれら)に逆らう権利すらない事を覚えておけ」

 

 ゾロ達は選択の余地を与えられた、のではあるが上からの命令として聞かねばならない。

 ルフィも彼らにとっては雲の上の様な地位、中将の意志に逆らうなんて出来ない。

 

 なら上が察すれば良い。『逆らう』事が出来ないのなら逆らうなんて事をさせない様に望みを把握してしまえばいいのだ。

 不満を溜めてしまうより良い。

 

「お前の話は難しくてよくわからん」

「大馬鹿野郎……ッ!」

 

 モーガンは言葉を発すると同時に六式の剃で瞬間的に加速し距離を詰めた。

 攻撃に構えたルフィだったが嫌な予感がしてその場で飛び上がる。

 

──ズパッ!

 

 足先ギリギリに斬撃に似た風圧が生まれる。

 力を込めて発したモーガンの初手はどうやら避けられたようだ。

 

 申し訳程度に造られていた訓練場所を区切る為の鉄製の柵が横1文字に割られている。

 

「なんだそれ!めちゃくちゃだな!」

「嵐脚の応用技……〝嵐手(らんしゅ)〟って所か」

 

 素手で繰り出された技とは思えない鋭さだ。刃であるが重量もある。例えるなら斧。

 どれほどのスピードだろうか。

 

 しかしルフィの疑問はモーガンの普段相手にしている雷の移動速度を思い出して納得した。

 

「ッにゃろ!」

 

 足の筋肉に熱と空気を溜めると着地する前にルフィは顎を狙って強力な一撃を繰り出した。

 

 ガンッと鋼鉄にぶつかった感覚。そう簡単にやられてくれはしない。

 

「武装色の覇気か!」

「お陰様でなッ!」

 

 手応えがあった、そして人体の急所である顎を確かに蹴った筈だ。しかしモーガンは特に効いた様子も無く飛びかかる。

 

 殴る、はモーガンの十八番。

 しかし嵐脚を腕で再現出来るスピードを考えれば、拳1つで体は簡単に穴が空いてしまう。そうなれば最早打撃では無く、巨大な斬撃の塊。

 

「(その前に……殴る……!)」

 

 ルフィが地面を蹴った瞬間脳裏に声が響いた。

 

 『小僧…──死刑だ!』

 『死ぬか!』

 

「─…!」

 

 気を取られてしまい目の前に居るモーガンの行動を許してしまう。

 しかしそうやられない。ルフィは降り注ぐ雨の様な拳の斬撃を未来視の見聞色の覇気を使って避けた。

 

「こ…ッの!」

 

 ヒュッと避けた体を捻るように上へと。

 回転を加えながら放たれた足は、モーガンの左頬へと吸い込まれる様に蹴りつける。

 

「ル、ルフィさん強過ぎる……」

「モ、モーガン大佐が一方的に……」

 

 コビーの驚いた声とウソップの声がルフィに届く。

 

「チッ、めちゃくちゃはどっちだよ……!」

 

 脳を激しく揺らした衝撃でモーガンは地面に倒れるが、当然ながら起き上がろうとした。

 しかしそれよりも先にルフィがモーガンを思いっきり地面に縫い付ける様胸ぐらを掴む。

 

 『何が海軍だ。コビーの夢をぶち壊しやがって……』

 『待てェ! ──待てっつっただろう!』

 

 『こいつの命が惜しけりゃ動くんじゃねェ!ちょっとでも動いたら撃つぞ!』

 

 『ルフィさん!僕は!ルフィさんの邪魔をしたくありません!──死んでも!』

 

 走馬灯の様に光景が蘇る。

 ルフィは思わず呟いた。

 

「ああ………知ってる………」

 

 モーガンは追撃の無い事に訝しげに眉を寄せ呆然としているルフィを見た。

 

 『──俺は海軍大佐!斧手のモーガンだ!』

 

 瞬間、ルフィは模擬戦など忘れ大笑いをした。

 

 周りは仰天し、何事かと様子を伺う。

 モーガンでさえそうだ。

 

「そっか!そっかぁ!」

「何がだルフィ……頭イカれたか?」

「なぁモーガンッ!俺さ!」

 

 驚いた。

 天変地異でも起きた様な衝撃だ。

 

 この世界で手に入れた友、相棒。

 変えようと足掻いていた世界。

 

 なんだ!

 とっくの昔に変わっていたじゃないか!

 

「──お前を知ってたよッ!」

 

 初めての海兵は、かけがえの無い相棒だった。




過去1番サブタイトルに悩んだ。
この話はこれをオチにするって決めてたんだ…!そうだよルフィ!とっくの昔にキミは世界を変えていたんだよ!仲間という光に目が眩んで見えてなかったけど!
海賊の海兵の相棒は〝斧手のモーガン〟なんだよ!



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