いつだっただろうか。この平和な生活に違和感を覚えたのは。
やんちゃ盛りの少年、名をサカズキ。
痩せこけた身体だったが眼光は鋭く、治安の悪い町で獣のように毛嫌いされていた。
貧しい生活、いつ死ぬか分からない町、浴びるのは血、奪わなければ奪われる。
そんな生活を平和と感じてしまった自分はどこか異様なのかもしれない。
「(どこが平和だって……の!)」
脂が付着したボロボロのサーベルを振り回しながら獣を狩る。
家族のしばらくの食い扶持だ、森から家へ持って帰るのにも一苦労かかるかもしれない。誰にも見つからないように持って帰るのは至難の技だ。
「ふぅ」
たかが野ウサギ1匹であろうと貴重な栄養源。
毎日が競い合い奪い合いの生活。
随分と温い生活だ。
「違う、苦しい生活だ」
刃は苦手だ。
「これしか武器は無い」
まだ幸せだ。
「どこが幸せだ…!家族もまともに守れやしないこんな生活が…!どこに幸福がある!」
心の中で『ナニカ』が渦巻く。
こんな生活は嫌だ。もうやめたい。家族に頼られるあの目は嫌いだ。苦しい。助けてくれ。
力があれば、守れる。
無力な人間を、守るべきなんだ。
歳に似合わない葛藤がせめぎ合う。
「(どうかしてる…──異常だ)」
頭を思わず抑えてため息を思いっきり吐いて血抜きの作業に取り掛かった。
「血の匂いで他の生物がやってくれば…」
そう呟いたがいままで野ウサギ以外狩った事が無い。己の殺気に反応してか警戒心の強い野生動物は寄ってこないのだ。
「(そうだな、熊が居れば豪快に鍋にでもするか。そうすれば栄養源を余すことなく取れるだろ…ヘビも栄養素があったか、んー…出来れば虎程度は狩れる様になっておきたいが──)」
そこまで思考を勧めてふと止める。
サカズキは野ウサギ以外お目にかかった事が無い。これは普通の子供にとって正常だ。
──なんで熊やヘビを知っている?
おかしいのだ、絵本や他の本など貧しいこの町にある筈の無い代物。ならば何故この男は、サカズキは知っている。
見た事も聞いた事も無い事を。
「─────ぅっ!」
ゲェっ!と思わず胃の中に入っていた物を戻してしまう。そうは言ってもまともに食べたことが無いので胃液くらいしか出てこなかったが。
「(気持ち悪い…なんだよこれ)」
身体の中に自分じゃない者がぐちゃぐちゃと引っ掻き回す感覚に思わず恐怖する。何かの病気何じゃないかと。
「それは、困る」
その時のサカズキは幼い、子供だ。
しかし家計を支える大事な役割を担っている。だから、倒れるわけには、死ぬわけにはいかないのだ。
「よぉ、小汚いガキ」
──血の匂いに誘われたのは獣では無かった。
「その獲物、寄越せや」
ギラリと刀が鈍い光を作り出す。
「(この程度なら受けても無傷で──)」
刀を振りかぶられたその時、正気に戻った。
──ブンッ
間一髪で刀を避けきる。男は仕留めれなかった事に小さく舌打ちをするとフラフラした足取りで近付いて来た。
「(今、今何を考えた!)」
無傷?それどころか大怪我を負うに決まっている。死んでいたかもしれない、いや確実に死んでいた。
サカズキは自分の異常さを突き付けられた。それは目の前で鈍く光る銀色よりも恐怖。
「っ!」
「あ…まて!」
慌てて森の中へ逃げ込む。
ああ、折角狩った獲物を置いてきてしまった、とどこかで考えていた。
「ハァ、ハァ…」
森の中にある湧き水の畔で息を整える。辺りに何もいない。安心したが同時に残念と思ってしまった。
「くそ、くそッ、くそくそくそくそ!」
足りない、何かが足りない、違う、でも違わない。
自分が壊れていく様なナニカ。
もはやサカズキは正常な精神をしていなかった。この状態が続けば間違いなく廃人同様。
それもまた恐怖だ。
「(助けて、くれ)」
居るはずの無い友に願う。
分からないのに分かる。ぼやけた輪郭が浮かぶ。
青や黄や紫や緑。
それらの色が何故か目に焼き付く。
「どうなってんだよ、俺は…。うっ…う……」
思わずサカズキの目から涙が零れたその時、視界に一つの果実が入った。
「え…………」
赤黒い一つの果実。
何故か希望の様に見えた。
「(…アレを食べねば)」
空腹感はある。好奇心もある。
それに勝る義務感と希望がサカズキの中に生まれた。
そっと手を伸ばせばずっしりとした実が手の中に吸い込まれる様に落ちた。
────これだ。これを待っていた。
自分の思考に疑問が浮かばない。
それでもいい。
そう思いながらサカズキは1口食べてみる。
「ゔェ…ッ!…ッ」
あまりの不味さに吐き出しそうになるが飲み込む。喉の奥が焼けるように熱い、それと同時に喜びと懐かしさが込み上げた。
「悪魔の実」
自然と口から零れ出る。
そうだ、これは悪魔の実だ。
自分は悪魔の力に魅入られたのだ。
「……………帰るか」
浮き足立つとまではいかないが何もやる気が起きなくて、サカズキは帰途へつくことにした。
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「ただい…────」
おかえりなさい、と母の声が頭の中で木霊する。
「ッ!」
視界がゆれて、
吐き気が、襲ってくる。
「居ちゃ、いけないんだ」
ここにいれば、悪魔の実の能力者だとバレる。
自分を狙う海賊が家族を殺す。
「母さん……ごめん、なさ…い」
親不孝ですまない。
思い出した。全て。
心の中で言い訳をしながら家を飛び出す。
「─………──…キ…──!」
名前を呼ばれても振り返らない。
まともな道具など持っていない。
けれど行かなくては。
「すまない…。どうか…わしの、俺の、事を忘れて生きてくれ…!」
その時からサカズキは正真正銘生まれ変わった。
スガラ・サカズキはもう居ない。
海軍の赤犬サカズキだ。
「あのガキ…──おいテメェ!さっきは良くも逃げてくれ──」
「でぇりゃあ!」
武装色を使った蹴り1発だ。それだけで男は呆気なく倒れる。
追い剥ぎの様に金目の物を奪うと用無しとばかりにさっさと立ち去った。
───向かうは海軍本部。もう一つの我が家だ。
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「昔は、こんな感じだったのか……」
身体が小さいせいで大きく見える本部を見上げる。
サカズキは付近の島の海軍支部にて入隊希望届けを提出し、今日やっと海軍育成学校へ入るのだ。
同学年や年上に囲まれながら移動していくと若い男の騒ぎ声が耳に入った。
「見ろ見ろ、アレらが部下になるんだぞ」
「あーもう…うるさいなお前は」
「楽しく行こうじゃないか!ぶわっはっはっ!」
「──ッ!」
その笑い方には聞き覚えがある。
若干の不安と大きな期待を込めて視線を向けると目が合った。
若かりし頃のセンゴクとガープだ。
やっとこさ成人といった所だろうか。まだ周りと変わらない姿と制服で違和感を感じるが思わず笑顔が零れた。
「お、目が合ったな。センゴク」
「細っこいな」
「ガープ…センゴク!」
思わず名前を言ってしまい慌てて口を塞ぐ。
2人が仰天していたのだ。
「おーおー、ちっこいの。わしらの事を知ってるのか」
「あ、いや、えっと」
「ガープ!困らせるな!」
「ガープ兄ちゃんでもガープ先輩とでも自由に呼べ!ほれほれ、呼ばんか!」
楽しそうな声を聞きながら思わず苦い顔をする。
ガープやセンゴクは覚えてない。気付いて無いだけという可能性は少なかった。
「弱いな」
弱い、弱いのだ。
同僚達より頭一つ分飛び抜けてるだけで弱い。
見聞色の覇気を使えばすぐに分かる。
2人は思わぬ言葉に絶句しているようだったがサカズキは敢えて無視をして、背を向けた。
「変わらんな」
変わらない態度。変わらない物言い。
何も変わらないのだ。
「(違う、変えられない)」
ブワッと現実が突きつけられる。
悔しいという感情が湧き出る。
この場所や海で死線をくぐり抜けて生きてきた。
2人の海賊王と戦った。
数々の部下や同僚を失った。
「(また、繰り返す……そうだ、繰り返す)」
涙は自然と流れていた。
この世界には自分ただ一人だと改めて気付いてしまったのだ。
「(何故、わしがここにいる!)」
悔しい。
「(こんなデカイ世界で!)」
悔しい。
「(1人で何が出来る!)」
……悔しい。
元帥にまで上り詰めても頂上から見た景色はただ真っ暗な世界だけだった。海賊という悪を許すな、と滅ぼして来たのに、自分が海賊と同じような事をするだけで後は何も残らない海軍の嫌われ者。
「(何故わしだ!)」
クザンやボルサリーノでは無く、何故自分なのだと悔しくて涙をボロボロとこぼした。
周りの視線などガン無視すればいい。
苦しい。この先に起こる不安や時代のうねりを知っていながら生きていくのが。
辛い。誰も知らない世界で本当の一人ぼっちなのが。
悔しい。時を戻る事になって尻込みするこんな弱い心を持っていることが。
怖い。間違えた歴史を進むのが、そして辛い歴史を繰り返すのが。
嫌だ。少しでも、ほんの少しでも心を開いた人間に会うのが。
出来ない。もう一度、なんて出来っこない。
疲れた。世界には清々したというのに、ここに戻ってきてしまった事が。
「あー…ちょいとにーちゃん、大丈夫?」
「ん、ハンカチ。涙拭いときな〜?」
顔を上げると同じ新入生。
「あ、俺ァクザン。海賊を薙ぎ倒す気満々なイケてる少年ね」
「あっしはボルサリーノ。とりあえず食いぶち稼げりゃどうでもいいねぇ」
この間の悪さには思わずほうけてしまう。
寄りにもよって、この2人。
かつて派閥や考え方は違えども同僚であったクザンとボルサリーノに見つかった。
サカズキはグイッと涙を拭うと眉間にシワを寄せ、渋々言葉を交わした。
「……サカズキ。絶対的正義の名の元に、わしはこの世界を恨み続ける」
──その目に希望が映るまで。
サカズキ「変えたい黒歴史。心折れそう」
ガープ「失敬だな」
センゴク「……(ショック)」
クザン「あらー、感動して泣いてる?やっべぇ隣だどうしよう」
ボルサリーノ「ナンダコレ」
実家「見捨てられたでござる」
評価等どうぞよろしくお願いします