ルフィ、13の春。
「伍長?」
「普通は有り得ない出世だが、戦闘能力を考えれば、上も一等兵扱いが納得いかん所があるんじゃろう」
「ふーん……」
赤犬、サカズキの推薦…──という名の命令により一等兵から伍長への昇格が決まった。サカズキはあまり納得いかない顔でルフィを見る。
今のルフィの実力なら前線に立つ大佐は相手にならない。戦闘能力だけならば、だが。
純粋な戦闘能力のみで上下が決まりやすい海賊とは違い指揮官能力や処理能力が劣る様では海軍で名をあげる事は難しい。
しかしルフィ自身昇格に興味が無いのか手紙と睨めっこをして唸っていた。
「海軍の階級って難しくてよく分かんねぇや」
「それくらい覚えろ」
「歳をとると段々物忘れが激しくてだな」
「………お前はいったい自分を幾つだと思っているんだ」
「心はとっくにじじいだ」
「阿呆ゥ。とっくに合計3桁いっておるわしを目の前にして合計40手前の貴様が何を抜かすか」
ルフィの戯言を軽く流しながら仕事を進める。
サカズキはルフィの祖父であるガープや同僚のクザンの後始末が追加され不機嫌になっていた。
「ハァ〜〜〜………貴様は生まれてなかろうが生きておろうが死んでおろうがどれだけわしに迷惑かける…」
「や、じいちゃんや父ちゃんの事を俺に押し付けられてもどうしようも無いんだけどな…!」
そんな事知っとる、とブツブツ言いながら損害を確認して眉間にシワを寄せるを繰り返す。
「なぁ赤犬」
「あ?」
「俺って海賊王になって世界を冒険してきたけど世界の事全然知らなかったんだな」
「………それがどうした」
「俺はこの世界の明るい所も暗い所も全部見てこれからどうして生きたいか決めるよ」
じっ、と目が合う。
昔の頃は海賊王になると子供の頃から決めていたがよくよく考えれば世界を全く知らない子供の戯言。決断が早すぎたのだと自覚していた。
戯言を実現する事に関してルフィは才能を持っているが、今度の人生はゆっくりと決めるつもりなのだとサカズキに告げる。
その時ふと扉の前に気配を感じた。
──コンコン
「麦わら、出ろ」
「人使い荒いな赤犬」
ノックの音で張り詰めた空気が一気に四散する。良かったのか悪かったのか判断は付きにくいが、指示されてルフィは立ち上がってノブに手をかけて開けようとした。
「ッ」
しかしバッとノブから手を離して扉を睨みつける。
ギィッと音を鳴らして、ルフィの倍はある背の男が入ってきたのだ。
「……あらら〜。な〜に警戒してんのかねこの子」
のんびりとした低い声でサカズキも気付いた。
「クザン。用がないなら帰れ、仕事しろ」
「冷たい事言わないでよねサカズキおにーさんや。ちーっとは熱くなんないの?アンタ、マグマでしょーに」
大将青雉、クザンだ。
『前』のルフィにとっては馴染み深い人物であるが、今のルフィにとって初めて会う相手だ。
軽々しく挨拶するわけにもいかずにどうしようかと悩んでいると、クザンの顔がグイッとルフィに近付く。どうやら観察されている様だ。
「ほおー?あんたがモンキー・D・ルフィか」
「お、おう」
「まだガキじゃないの……。これ、本当にサカズキのお気に入り?」
「……」
「おー、こわこわっ」
クザンがルフィを指差しながら言うとサカズキはギロリと睨んだ。否定の言葉を口にしない事でクザンは事実だと確認したが。
「麦わら、ロシナンテに使いに行かせろ」
「ん、どこだ?」
「ドレスローザ。お前も行ってこい」
「………赤犬って優しいのと厳しいのどっちだ?」
「知るか。非能力者も連れていけ」
ルフィはサカズキの手から封筒を受け取る。
そのやり取りに非常に驚いたのはクザンだった。
サカズキは幼い頃から人を睨み殺さんとばかりに威嚇し他人と馴れ合う事が大嫌いな男で──部下に対してまるで
「(これは……予想以上に面白いモンを見たな)」
ここ最近サカズキの様子が違っていたのもこの男の影響か、と麦わら帽子をじっと見る。
「……………へェ、その帽子」
「ん?シャンクスに貰ったんだ」
「(マジかよ……)」
思った所からの繋がりに少々理解出来なかった。自分の記憶が正しければアレは確か海賊王が被っていた帽子だ。
「海賊旗は掲げていいですか」
「却下、自分の船が持てる地位になってから言え」
「ん、分かった」
今度こそ理解しきれない会話が飛び交う。
海賊旗?それを今で無くとも許可している?……そして何より笑っているのだ、サカズキが。
「じゃあ行ってくる!」
──バタンッ!
元気な足音と声が扉越しに小さくなっていくのをぼーっと聞きながらクザンは一つの疑問を口にした。
「……………あれ、本当に人間?」
「お前は馬鹿なのか?」
心底呆れた目がクザンにつきささった。
海兵の中で最も堅物、と名高いサカズキが、見るからに自由人な彼に付き合って巫山戯ているのだ。クザンからすればぬいぐるみに話しかけてるんじゃないかとも思ってしまう。
「……にしても元気な子じゃないの」
「英雄殿の実孫があの程度だと思うか?あれでも静かな方だ」
「マジかよ」
英雄の孫だと噂は聞いていたが見て確信する。
しかし続けられた言葉に驚くとクザンは飄々とした態度で椅子に腰掛けて腕を組んだ。
「サカズキ、何考えてんだ?」
「…あ?」
「実績を上げてない一等兵を実力だけで伍長になんか昇格させりゃあ恨まれるぞ、あの麦わら」
「そこで潰れたらそこまでの事」
「お気に入りなのは分かった、けどよぉ。理解と納得は別モンなんだわ」
「………なら、実績を上げさせればいい」
一つ、周りを黙らせる方法がある。海兵らしくない笑みを浮かべながらサカズキはクザンの手に書類を置いた。
「ついでにお前は働け」
「………マジかよ」
ドレスローザでは将校のロシナンテで行ったが門前払いを受けただけで特に何も無かった。
処理能力が劣る様では海軍で名をあげる事は難しい。
と言っても出来ないわけじゃない(例:ガープ)