7月に入って定期テストも終わり夏休みを待つだけという俺たち受験生は受験の為の難問の演習の授業を受けていた。
「レイー。もう頭がパンクしそー。」
「美知留。高校の最初から授業中に居眠りしていたツケが回ってきたみたいだな。流石に俺も俺の受験勉強で忙しくなってきたから助けられることは減ってくると思う。これも彼氏からの愛の鞭と思って頑張ってくれ。」
「レイの鬼!悪魔!人でなしー。」
「誰が鬼とか何とかだって?そんな奴にはきついお仕置きが必要かもなー?」
「ひっ。レイ。暴力はよくないですよ。話せばわかりますから。」
「問答無用。」
「うあーごめんなさいー。鬼とか言ってごめんなさいー。頭ぐりぐり痛いですー。」
「わかればいいんだよ。」
「九条君、戸村さん。いつまでもいちゃついていないで。ホームルームを始めるよ。」
「はいすみません。祐天寺先生。」
「皆さんこの学校を卒業したら進学という人も多いかもしれませんが、少数派の人や進学する人でも社会経験をするべきだという学園長からの意見があったことから皆さんには一日職業体験をしてもらいます。選択肢はいくつもあるので自由に決めてね。ちなみにどの選択肢にも聖櫻のOBの人に面倒を見てもらえるから安心してね。締め切り破ったら私直々にお仕置きしちゃうからね?」
その瞬間祐天寺先生から禍々しいオーラが出た気がした。
「どれにするか悩むなー。一般企業で事務や営業かなー。恭介はどうする?」
「俺はレコーディング会社かな。軽音部の高1の時の部長の浅野部長の会社だし。それにしても浅野部長スゲーよな。大学二年で学生やりながら起業しちまうなんて。」
「事務所に所属しているバンド的に俺たちとは違う感じだから俺たちにとっては縁のないレコード会社かもしれないがパイプにはなってくれるかもしれないな。悠のほうはどうするんだ?」
「俺は保育園で保育士の勉強かな。」
「へー神崎君も保育士なんだー。実はアタシも保育士コースにしようと思っているんですよねー。」
「そういえば美知留は中学の時に保育士を体験したんだったな。悠。困ったら美知留に力を借りるのもいいかもな。」
「悪いけど戸村。もし困ったら助けてください。」
「いいでしょう。お姉ちゃんに任せなさい。」
「美知留。調子に乗りすぎ。」
「だって神崎君って弟系の雰囲気を感じるんですから。」
「まあ確かにな。神崎先生の従姉弟だし。」
「うるせー!ほっとけ!」
「ゆーくん。落ち着いて。」
「味方はゆーちゃんだけだよ。」
「花房さん意外と母性あるわね。」
「るいも同じだと思うけどな。」
「なっ。私に母性って。まだ母親は早いかなー?」
「だって何かと美味しい弁当作ってくれるし、朝練ない時はまだ余裕あるのにたたき起こされて一緒に登校するし。」
「そっそれはルイ君の健康が心配だからよ。」
「それは建前だろ?」
「ムキー!ルイ君のくせにルイ君のくせに!わかっているのならもっとルイ君からイチャイチャしに来てよ!」
「付き合いたてで浮かれるのはわかるけどほどほどにな。受験勉強でしくじって志望校落ちたら元も子もないんだからな。」
「レイ。落ちる、滑るはアタシ達勉強できない組の心をえぐるから勘弁してー。」
「勉強できない組って誰のこと言っているんだ?」
「それはもちろん神崎君。」
「戸村お前今回の試験俺より下だっただろ。」
「ここ最近レイが勉強見てくれないからですよー。」
「それが本来の戸村の力だ。諦めろ。」
「神崎君。表出てもらっていい?」
「やるのかコラ。」
「はいはい落ち着けバカ二人組。どっちもどんぐりの背比べだろ。」
「恭介。そこは俺も混ぜろ言って喧嘩し合って絆を深めるって流れだろ。勉強のし過ぎでノリ悪くなったか?」
「そうですよー。恭ちゃんノリ悪いですよー。」
「あ?」
「恭介。バカの言うことに目くじら立てても仕方ないぞ。」
「そうだな。」
「この野郎…。バカが事実で否定できない…。」
職業体験の当日俺は制服で肉の大島の本社に来ていた。
「君が息子の店で働いている九条君だね。いつも息子から話は聞いているよ。高校生でありながら大学生組や他のアルバイトの子達よりも仕事ができる子だと。」
「すでに知っていると思うが私の会社は私の曾祖父の代から続いている会社で店舗運営や畜産、市場への卸売に力を入れているが最近は酪農関係にも手を出そうとしていて近々大島食品グループと変えることも視野に入れている。紹介が遅れたが私は肉の大島社長の大島孝仁だ。今日一日よろしく頼むよ。君に体験してもらうのは午前は事務と電話営業、午後は既存顧客へのルート営業だ。期待しているよ。」
「はい!」
そして俺は午前はデータ入力や電話営業などを行った。入力はまずまずで電話営業は3件アポを取ることに成功した。業務を教えてくれた武田さんからは、
「九条君凄いじゃないか。初めてなのに電話営業で顧客獲得につながるかもしれない結果を残せるなんて。この件は社長に伝えておくよ。」
「ありがとうございます。」
午後は社員の人の運転する車で既存顧客にルート営業を行うところを見学した。トーク力の大切さを改めて痛感させられた午後だった。
「戻りました。」
「九条君お疲れ様。さっき担当してもらった武田さんから話は聞いたよ。すごい成果を出したじゃないか。もし君が良ければなんだが聖櫻卒業後、または大学卒業後にうちの会社に来てくれないかと思ってね。どうだろうか?」
「お言葉はうれしいですがまだ先のことはわからないのとこの場で簡単に返事をするのは簡単ですが長くても大学を卒業するまでいろいろ考える時間が欲しいのでお待ちいただけないでしょうか。」
「そうかそうか。君は本当にしっかりした学生さんだ。ますます君が気に入った。私はいつでも待っている。卒業後でも大学中退でも卒業後でもいつでも歓迎するよ。」
「はい!ありがとうございます!」
こうして俺の職業体験は終わりを告げた。仕事を評価してもらえたことは素直にうれしかった。そんな7月半ばの出来事であった。
職業体験実習がもしも高校の頃にあったら今の筆者なら脚本家やシナリオライターを選んだかもと思います。