今日は平塚先生の最後の授業になる、奉仕部の面々はアラサーだのなんだのとからかってはいたが、生徒にはかなり人気があり、泣きつく生徒も少なくなかった。
材木座はあることを思い立ち職員室へ向かい平塚先生を探す、先生はもう最後だからと自分の席でたばこをガンガン吸っているようだった。灰皿がたばこで山盛りになっていてそこだけ煙幕が張っているかのようだった。
「おお、材木座じゃないか、どうした?」
先生は相変わらずの調子のようだ。
「先生はここを辞められたらどうされるおつもりです?」
「こう見えても蓄えはあるからな、全国ラーメンめぐりでもしようかと思っている、全国回っていればそのうち比企谷と雪ノ下に会えるかもしれんしな」
先生は遠い目をして言う
「あと比企谷にあったらまず顔面を思いっきりぶん殴ってやる、もう教師で無いわけだから遠慮することは無い、あいつめ、更生の為に奉仕部に入れたのに雪ノ下を誑し込みやがって」
と鼻息を荒くして指を鳴らし始める、八幡よ、よく今まで五体満足でいられたな。
「ま、あの二人ならどこでもやっていけそうだしあまり心配はしていないんだがな」
そう言うと平塚先生はにっこりと笑う。
こんないい先生に気に入られてあの二人は幸せもんだなと材木座は軽い嫉妬心を覚える。
「ところで先生はかなりのラーメン通とお聞きしてるのですが耳寄りなお話がありまして」
「ほう、どんな内容かな?」
「実は親戚の工場に若い夫婦が入りまして、その奥さんが作るラーメンが絶品なんだそうです」
「ほほう、興味深いな」
「んで近くラーメン屋も立ち上げたいと思ってるそうですが何しろ味がわかるのが周りにあまりいなくてラーメンに詳しい人にアドバイスが欲しいとか」
「なるほど、それで私が試食してアドバイスをすればいいわけだな!」
「その通りです、どうでしょうか?全国めぐる前に一度行ってみていただけないでしょうか?場所は北海道なのですが…」
先生はどうせ暇になるんだし北海道は札幌ラーメンがあるしということで二つ返事でOKを出してくれた。
「ではこちらが場所になります。」
材木座はそういい、例の工場の住所が書いてある紙を渡す。
「連絡もしておきますので。では先生、今までどうもありがとうございました。お元気で」
「ああ、最後にいい情報をありがとう、材木座も元気でな」
職員室を後にしたあと雪ノ下へメールする材木座
「職を失った独身アラサーがそのうちそちらへ向かう、詳しいことは本人へ聞いてくれ、あと八幡は殴られる覚悟しとけと伝えてくれ」
数日後、材木座一家の夕食時義輝の父がまた情報を持ってきた。
「義輝、叔父さんの兄弟の工場だが、今度はまたすごい人が入ったそうだ」
「どのようなお人なのであろうか?」
「なんでも長髪のとうが立ってそうな美人でな、来るなり「うまいラーメンを食わせてくれると聞いてきたのだが」とか言っていてな、何のことやらわからずにいると前に入社してた元ご令嬢が出てきて先生!といって抱き着いたそうだ」
「ほほう、それでそれで?」
「んで男の方も出てきたんだが男を見るなりものすごい速さで顔面を殴り飛ばしてな、そのままマウント取ったかと思うと今度は泣きながら男を殴ってたそうだ」
「なかなか凄惨な光景であるな」
「どうも先に入ってた男女の恩師だったらしい、詳しい理由は言わなかったが教師を続けられなくなったのでラーメンを食うついでに二人に会いに来たんだとか」
「んでその人はどうなったのだ?」
「雇ったそうだ、先に入った二人のおかげで工場の生産性がアップしたとかで金回りが良くなってるからそろそろ人を増やしたいとおもっていたそうだからちょうどよかったんだと、細い女性なんだが力があるからと現場で働くことになったらしい」
「それはよかった」
表面上はそう言ったが実はあまり良くないのではと考えていた
平塚先生がいない今由比ヶ浜殿が一人ぼっちになってしまったではないだろうか?
その晩雪ノ下へどうしたらよいかの相談のメールを送った。
次の日の放課後。比企谷と雪ノ下の計画を由比ヶ浜へ伝えるため材木座は奉仕部の部室に来ていた。
部室には由比ヶ浜が以前雪ノ下が座っていたところに一人で座り本を読んでいた。
「あー失礼する」
ぱっと顔を上げる由比ヶ浜
「なんだ中二かぁ、ラノベはもう読まないよ、あたしは今ぶんがくしょうせつっての読むのに忙しいんだからね!」
そう彼女は言い本の表紙を見せる
「銀河鉄道の夜か、いいチョイスであるな」
女子相手に自然と声が出ることに自分でも驚いている、雪ノ下の姉と対峙したからだろうか、女子が大した脅威に思えなくなってるのかもしれない
「へっへーそうでしょ、ママに勧められたんだ、これなら結衣でも読めるでしょって」
あーそういうことか、つかその本は小学生でも普通に読むレベルなのだが、思わず苦笑してしまう。
「ちょっと何笑ってんの?あたしが本を読むのってそんなにおかしい?優美子にも笑われたし」
とだいぶご立腹のようだ、
「いやそうではないのだが…」
とここで今日来た目的を思い出す。
「実は由比ヶ浜殿ご相談が、」
ここまで言いかけたときに部室の扉がガラッと空き
「ひゃっはろー」
聞き覚えのある声が後ろからする、この声は雪ノ下姉だ
「あれー?由比ヶ浜ちゃん今日は一人じゃないんだー」
「ヒッキーとゆきのんから連絡なんてきてないよ、帰ってくれませんか?」
冷たくあしらおうとする由比ヶ浜だが
「んもーつれないなー」
としつこく食い下がる雪ノ下姉
あの二人にとって由比ヶ浜は大切な友人である、故に雪ノ下姉も連絡があるだろうと思ってこうやって来るのかもしれない
「ところでそこの人は?なんか見覚えあるね?」
「この間あなたとあなたの母上がいらしているときに顔を合わせたものです」
「あーあの時の、あの時はごめんねー気が立っててさー」
という雪ノ下姉は口では謝罪してるが目が全く笑ってない、何なんだろうこの人
「っていうかさー二人とも仲よさそうに話してたじゃん、なーにー?付き合ってんの?」
いったいこの人は何なんだろうか、とここで材木座は雪ノ下から言われた計画を思い出す。
「ねーねー由比ヶ浜ちゃんそこんとこどうなのー?」
見ていて激しく不快になる問い詰め方だ、材木座はだんだんイラついてくる
「中二とはそんなん「そうだ、我と由比ヶ浜殿は付き合ってる!」」
もうやぶれかぶれだ、材木座は高らかに宣言する
雪ノ下姉は目を丸くして言う
「はぁ~?本気で~?由比ヶ浜ちゃんってこんなのが趣味だったんだ~?」
由比ヶ浜は今の状況がつかめずオロオロしている
「由比ヶ浜殿が一人辛そうにしていたのでな、我が色々相手しているうちに付き合うことになったのだ」
「へ~傷心の女の子に優しくして付け入ったんだ~、由比ヶ浜ちゃんってこんなデブが趣味だったんだね~気持ち悪~い」
いいぞうまい具合に勘違いしてくれたようだ、しかしこの人超怖い
「わ、我のことは構わないが由比ヶ浜殿のことを悪く言うのはやめていただきたいでしゅ…」
雪ノ下姉の気迫に押されてどんどん気持ちがしぼんでいくのがわかる
「もしかしてさ~雪乃ちゃんの部屋に有った気持ちの悪い自作の小説って君が書いたの~?前あった時関係者みたいなこと言ってたよね~」
まさか、今回の引き金になったラノベのことだろうか?
だとしたらまずいかも、材木座の背筋に冷たい物が流れる、
「そ、そうだが」
だんだん雪ノ下姉の顔が恐ろしいものになっていく
「あんな気持ち悪いもの二度と雪乃ちゃんに見せないでね、漢字に無茶苦茶なルビが振ってあったり、女の子が無駄に脱いでいたり、今回の事件と関係あるかと思って我慢して最後まで読んだけど人生の時間を無駄にしたって感想しかないわ」
あーそっちの方か、つか捨てずに取っていてくれたのか、律儀なものだ
「あとさー傷心のところをちょっと優しくされたからと言ってこんな妄想ばかりたくましい男になびくなんて由比ヶ浜ちゃんは比企谷君に対する思いもその程度だったんだ、これって裏切りだよね」
由比ヶ浜はもう泣きそうな顔をしている
「そ、その辺で勘弁してくれぬか、も、もう我々にかかわらないでいただきたいのでしゅが…」
材木座はなんとか声を振り絞って言った。
「もういいよ、由比ヶ浜ちゃんがこんな下らない人だと思わなかった、もう二度と話しかけないでね、もちろん君もね」
そう雪ノ下姉は宣言し部室から出て行った。
「ふー怖かった」
材木座は倒れるように椅子に座る
「中二どういうこと?説明してくれるよね?」
由比ヶ浜は困惑した表情で材木座を見る
「その前に雪ノ下の姉上が聞き耳たててたりしてないか確認してくれぬか?我は疲れてもう立てぬ」
由比ヶ浜は部室から確認の為出ていく、しばらくした後戻ってきて
「うん、もう外に出たみたい、窓から見えたよ」
「では話そう、雪ノ下殿の計画を」