俺のデッキの末端価格は840円   作:MrM3

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第10話

 

 

編入の件から2週間後。月日が流れるのは早いものだ。

今俺がいるのはデュエルアカデミの編入試験会場……。

まぁ、試験会場と言っても、ここは海馬コーポレーション2階にある会議室なんだがな。

海馬コーポレーションは日本を代表する大手企業。そんなところの会議室が何故受験会場なのかというと、編入先のデュエルアカデミアの運営をしているのがこの会社なのだ。

その海馬コ-ポレーションがこの童実野町にある事。そして、受験生が同じく童実野町に住んでいる俺とレイの2人だけという事を考慮した結果、受験会場がここになったのだろう。

 

「……無駄に広いな」

 

暇で口からポロリと本音が出てしまった。

この受験会場は広い。どれ位広いかと言うと、俺の学校の教室8個分に相当する。

そんな空間の中に受験用の白い長机が2つとオフィスチェアが2つだけなのである。

この空間に座っているだけというのは、どうも落着かないなぁ……。

 

「おい、惺。

試験まで後10分しかないんぞ? 少しは落着けよ」

 

「…………」

 

隣……と言っても、5メートルほどの距離間があるのだが。

帽子を深く被り、青い学ランを着た少年が此方を注意してくる。

お前誰だよ、と言いたくなるソイツの名前は早乙女レイ(男装Ver)である。

男装している理由は知っての通り、男子として受験しにきたので当然のこと。

因みに俺も青い学ラン姿である。この学ランは愛子さんからの支給品だが、一体どうやって入手したんだろうな? サイズもピッタリだし……まぁ、深く考えるのはやめとこう。

今はレイの言うとおり、落着く事に専念するべきだ。

 

「レイ、何か面白いネタをやってくれ。

そうすれば俺の心は平常心を保てる……『笑-緊張感=平常心』の理論だ」

 

「そんな理論聞いた事ない」

 

「当たり前だ、俺が今作ったんだから。

これで俺も偉人として教科書に載るかもしれない……という訳で笑をくれ」

 

「はいはい、自分で教科書に落書きしてろよ。

後、笑いだっけ? 『布団が吹っ飛んだ』はい終り」

 

……何とも投げやりなネタだな。

まぁ、さっきの会話で幾分か緊張は解れたが……完全には解けんな。

一番の理由は、国語、数学、英語の3教科に力を注いでこなかったからだ。

何故今回俺がこの3教科に力を注がなかったかというと、この試験の配点比率にある。

デュエルモンスターズの実技が55%、デュエルモンスターズの筆記が25%、3教科が20%、

という比率なのだ。しかも筆記テストは全てマークシートによる記入となれば、3教科は山勘で何とかするしかないだろう、と結論付けたのだ。

……そもそも小5の俺に高校生レベルの3教科が解ける訳無いし。

だから俺は3教科を捨て、デュエルモンスターズの知識を固めて来た。筆記だと配点比率が5%高いし、覚えた知識は実技試験で活かせる可能性があるからだ。

だからこの2週間はデュエルモンスターズの事を必死に勉強したし、この受験の過去問も幾つか解いてきた。

そして、その勉強を通してある事が分ってしまった。

それはデュエルキングという称号の意味だ。その称号が一番強いデュエリストに送られるものだと知った時は、驚いて飲んでいたお茶を吹いてしまった……遊戯さん凄すぎだ。

……と、遊戯さんの事を賞賛してこの話が終れば良いのだがそうもいかない。運悪く、お茶を吹いた先にレイが居て『何すんのよッ!!』と言ってボコボコにされ、死ぬかと思った事をここに補足しておく。

 

―――ガチャ…。

試験時間3分前になった所で『失礼します』といって男が入ってきた。

黒スーツ、グラサンを身に纏ったちょび髭の男性は、スタスタと此方に歩いて来る。

 

「今回筆記試験の監督をする事になりました、磯野と申します。

これよりこの試験の注意事項をご説明させていただきます、よく聴いておいて下さい」

 

筆記試験の監督者である磯野さんが、俺とレイを見据えながら注意事項を説明しくる。

といっても、その注意事項は極々当たり前のものばかりだ。

・不正行為はしない

・机の上には所定の物しか置けない

・途中退室した場合、その科目が終るまで入出できない

大雑把に挙げれば、大体このような内容となっている。破る気は無いから、どうでもいいが。

 

「……時間になりました。

これより問題用紙を配布後、筆記試験を開始いたします」

 

自分の腕時計に目を通した後、磯野さんはそう言いながら問題を配布しだす。

配布後。自分の机の上に置かれた問題用紙を見て、『いよいよか……』と肩と手首の骨をコキコキと鳴らして気合を入れる。

筆記用具は、六面に数字が書かれた鉛筆3本とサイコロ状の消しゴム2つ……準備は万全。

そして、今日の正座占いは1位だった。運命さえも今日は俺の味方であると言えよう。

 

さぁ、掛かって来いッ!

 

 

 

「それではこれで、午前の筆記テストを終了いたします。

午後の実技試験は1時間後の13時半となりますので、それまでに此処に居て下さい」

 

『では』と言って、磯野さんは出て行った。

その瞬間、俺は机にだらーんと倒れ込む……疲れた。

3教科は何にも分らないまま鉛筆をコロコロ転がして解答したから、疲労しなかったが。

デュエルモンスターズの筆記試験に関しては真面目に受けたせいも有り、疲れた。

もう油断してたら寝そうだ……。

 

「おい、コラ。

ボクよりも頭使ってないんだから、寝るな」

 

頭にチョップされている感覚がする。

痛みがあんまりない事を察すると、レイ自身お疲れなのだろう。

それもそうか、コイツは俺と違って筆記試験を全て真面目に受けてたんだもんな……。

そんな状態のレイが座らずに立ってるのだ、せめて俺も体を起こすか。

 

「たっく、やっと起きたか。

ほら、弁当一緒に食べるわよ……じゃなかった、食べるぞ!」

 

試験監督が居ないんだから言い直さなくてもいいだろ、と思いながらレイの方を見ると。

その手にはピンク色の弁当箱と水筒が握られていた。

レイの椅子が既にここに在る事を考えると、どうやらこの席で食べるらしいな。

なら、俺も弁当を取り出そっと……。

 

「な、何かその弁当箱大きくないか?」

 

鞄から取り出した弁当を見て、レイは若干引いている。

だが、俺からすればこの弁当はそこまで大きくはない。市販されている一段型の弁当箱だ。

……補足として、大人分が入る容量という事を付け加えるが。

 

「腹が減ってはデュエルは出来ぬ」

 

「それを言うなら、デュエルじゃなくて戦だろ?

ハァ~それより弁当食べようぜ。は、腹が減ったからよ」

 

レイは『腹』と言った辺りで帽子を深く被り直す……照れ隠しというヤツだ。

そして今度はその行為を誤魔化すかのように、イソイソと弁当を食べる準備をし始めた。

言って恥ずかしいなら、言わなきゃ良いのに……。

 

「そんなんじゃ、休憩時間なのに精神が疲れるぞ?

今試験官は居ないんだ、もう少し楽にしとけって……俺よりも疲れてるんだから」

 

「ぐぅ……わ、わかったよ」

 

珍しい事に素直になるレイ。

本人もその口調が疲れると思っているのだろう。だからこんなにも素直なのだろうな。

そう考えながら、俺は弁当箱を開ける……中身は肉をメインにしたスタミナ弁当だ。

ご飯、鳥の唐揚げ、一口豚カツ、一口ハンバーグ、ウインナー、ナポリタン。

うむ、肉の三種の神器があるこの弁当を作った俺は流石だと言えよう。

 

「あッ、またこんなお弁当作って……うちのお母さんに怒られるよ」

 

「世の中バレなければ問題無い」

 

「残念。ボクがばらす予定だからバレるよ」

 

むぅ……薄情なヤツめ。

 

「口止め料はこのウインナー1本で良いか?」

 

「それプラス鳥の唐揚げと一口ハンバーグね」

 

ぐぬぬ……コイツめ。

二個ずつしか入れていない物を2つも指名しやがって……。

だが、ここでレイの口を封じてをおかないと後で愛子さんが怖そうだ。

こんな肉ばっかで、野菜がほぼ皆無な弁当を食べた事がバレれば説教は間違いない。

そう考えると、ここはレイに供物を捧げるべきか。

 

「ほら、持ってけ泥棒」

 

「えへへ、悪いね惺。

代わりにピーマンと人参の野菜炒めをあげるよ」

 

「おい、それはお前の嫌いな物だろ。

完全に押し付けじゃねーか」

 

「違う違う、これは惺の体を気遣ってやってるの。

野菜がお弁当に一切無い惺の為に恵んでるの、言わば優しさだよ」

 

何が優しさだよ……てか、もう『いただきます』と言って食ってるし。

ハァ……俺もふて腐れてないで食べるか。休憩時間は有限だし。

 

「いただきます」

 

それに、午後はこの編入試験の合否を握っている実技試験。

『腹が減っては(デュエル)はできない』とまでは言わないが、デュエル中にお腹が減って集中力が乱れれば危うい。なので、今の内にエネルギー補給は確りしないとな。

 

 

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