昼休憩も終り、俺とレイは筆記試験の時と同様に着席している。
時計の針は13時半を指し。最後の試験である実技試験が始まる時刻となった。
その時刻となった時、会議室に入出して来たのは
その人は編入試験の試験官として、デュエルアカデミアから来た教員らしい。
余談だが、その人を見たとき『何で試験官は全員グラサンを掛けてるんだ?』と思ってしまった。これが趣味なのか、それとも海馬コーポレーションの指導の下なのかは不明だが、
もし後者なら、海馬コーポレーションの考えはよく分からんの一言である。
「それではこれから実技試験の説明をする。
この実技試験は、呼ばれた受験生が私と別室でデュエルをする事となっている。
尚、呼ばれなかった受験生はこの部屋で待機して待っていてくれ。
前の受験者のデュエルが終了次第、私が次の受験者を呼びに戻ってくる」
別室でデュエル……。
まぁ、それが当たり前か。この部屋でやったら後半の受験生に色々と情報を与えてしまう。
デッキ内容がバレれば対策されるし、もし仮にデッキを変えたとしても試験官の戦法やクセみたいなものが見抜かれれば、試験に影響しかねない。
「それではこれから実技試験を始める。
この実技試験は編入試験の合否を大きく左右するものだ、しっかり頑張れよ」
「「はい!」」
「うむ、良い返事だ。
それでは受験番号1番、早乙女レイ」
「はい!」
元気の良い声を発し、レイは椅子から立ち上がる。
最初にレイが呼ばれたということは、俺はお留守番という事だな。
「まずは君から実技試験を受けてもらう。
私の後に付いて来てくれ」
「はい!」
試験官が会議室のドアへと向かう途中、その後ろを付いて行くレイが此方に視線を送ってくる。その目はこう語っていた『勝ってくる!』と……。
そんなレイに掛ける言葉はただ一つだろう、と口だけを動かしてエールを送る。
『勝て来い』と。声に出さずに口だけを動かしたから、レイに届いたかは分からない。
だが、会議室を出るレイの口元が少しだけ吊り上っているのが見えた気がした……。
■
腕を組んで座って待つ。
この体勢をして早15分が経過しようとしている……。
外から俺の事を見たら『落着いているなぁ』と思われるかもしれないが、それは違う。
内心ではレイの事と自分の事で頭が一杯なのだ……。
レイは自信有りそうにしてたが、どのような結果になるかは最後まで分らない。
レイを信じて待ってはいるが……やはり不安というのは拭いきれない。
そして、その不安よりも大きい存在はプレッシャーだ。
『この実技試験で下手をすれば落ちる』というプレッシャーが重く圧し掛かってくる。
こういった時には、今まで自分が積み重ねてきた経験が自分を支えてくれるものなのだが、
俺はレイとは違い、まだデュエルモンスターズを始めて2週間ぐらいしか経っていない。
その為、どうしてもこのプレッシャーがなかなか拭えない……くぅ、レイに『勝って来い』と伝えたクセにこのザマではカッコ悪すぎだ。
―――ゴツン
自分の頭を机にぶつけ、気合を入れ直す。
こんなヘタレな姿をレイに見られたら殴られる。それに、よくよく考えてみろ俺。
筆記試験の3教科は鉛筆でコロコロと転がして解答したんだぞ?
受かる為に3教科を捨てたとはいえ、あんな行為を平然とやってたんだ。
そんなヤツがいまさらプレッシャーを抱えてどうするというのだ。
そんなものは抱える前にポイ捨てだ、ポ・イ・す・て!
「うっし!」
バン、と両手で机を叩いて立ち上がる。
その行為には大して意味は無いが、強いて言うなれば意気込みのようなものだ。
『絶対勝つ』という意気込みなのだ。
―――ガチャ
そんな俺の意気込みが届いたのか、会議室のドアが開かれた。
入ってくるのは試験官の人とレイだ。
「受験番号1番はこの部屋で待機。
そして受験番号2番、坂本惺」
「はい!」
「これから実技試験の会場に向かう。
私に付いて来なさい」
移動し始めた試験官の後を追おうと歩き出す、反対にレイは会議室の中へ向かって歩く。
そして、レイとすれ違った時だ。小声が聞こえてきた……『惺も勝ってきなさい』と。
『も』と言ったという事は、レイが勝ったという事を意味している。
その事実に安堵しながら、俺はレイに言い返す『当然』だと。
■
試験官の後を追って来た先は、先ほどまで居た会議室の3つ隣にある部屋だ。
その部屋は先ほどまで居た会議室と比べると、横に狭くなり、縦に長くなっている。
この部屋の広さと高さがあれば、デュエルするには十分だ。それ以外で特に変った特徴はない。
あるとすれば部屋の隅にある机の上に、デュエルディスクが2個置いてあるぐらいだ。
「受験番号2番。
あそこに置いてあるデュエルディスクを装着し、準備が出来たら声を掛けなさい。
声を掛けた後はそのまま実技試験を開始し、デュエルを執り行う」
「はい! 分かりました」
部屋の中央付近に立っている試験管の指示を受け、デュエルディスクの元へと歩む。
置いてるデュエルディスクの形状は、遊戯さんやレイとのデュエルで使用した物と違う。
以前使用していたのは所々角がある印象だったが、俺が今手にしているデュエルディスクは角ではなく丸みがかている印象を受ける。
『バージョンアップしたものなのか?』と思いながら腕にそれを装着する。
カードの発動ボタンの配置を確認し、自分のデッキをセットしながら部屋の中央へと移動する。そして、腕を組んで待っている試験官5メートル手前で止まり、準備完了。
「準備終わりました」
「よし、それではこれから実技試験を行う。
この実技試験では、先攻か後攻を受験者が選べるようになっている。
君はどちらがいいかね?」
先攻か後攻か選べるのか……。
それなら、有り難く有利な先攻を貰おう。
「先攻でお願いします」
「わかった。
それでは君の先攻でデュエルを開始する」
ポワァン、という音がデュエルディスクからする。
そして各部位に光が灯り、ライフポイント4000というデジタル数字が浮かびあがる。
これでデュエル開始前の準備は全て終った……後はこのデュエルで勝つのみ!
「「デュエル!」」
「俺の先攻ドロー!」
手札 ドロー
ワイトキング おとり人形
ワイト夫人
ものまね幻想師
反転世界
強制転移
魔道雑貨商人もなければ、終末の騎士やカードガンナーも無い。
墓地落としが乏しい手札だが……これはこれでなかなか面白い手札だ。
いつものような墓地肥やしではなく、他の戦術も取れそうな手札をしている。
さらに次以降のドローで墓地肥やしのカードが来れば、ワイトキングが光る可能性がある。
総合的に見て悪くない手札だ。
「俺はワイト夫人を守備表示で召喚します。
そして、カードを一枚伏せてターンエンドです」
ワイト夫人
守:2200
「私のターン、ドロー。
私は手札から
このカードは攻撃力が高い代わりに、守備表示なった場合破壊される効果や毎ターン攻撃可能な場合攻撃しなければならないという制約がある……が、攻撃は最大の防御という言葉がある。
私は手札から装備魔法、デーモンの斧を装備、攻撃力を1000ポイントアップさせる」
バーサークゴリラ
攻:2000 → 3000
赤く燃え上がっているゴリラの手に、デーモンの斧が握られる。
見た目に劇的な変化は無いが、攻撃力は1000ポイントアップし3000となっている。
これではワイト夫人が場に残る可能性は無いに等しいな……。
「そしてバトル。
バーサークゴリラで、ワイト夫人へ攻撃!」
バーサークゴリラはワイト夫人目掛け跳躍し、手に持つ斧でワイト夫人を両断した。
成る程。確かに攻撃力3000のモンスターを守備にするメリットはそうそう無いし、毎ターン攻撃も当然する事となる……つまり、バーサークゴリラの制約は無いも同然。まさに、攻撃は最大の防御という訳だ。
バーサークゴリラ
攻:3000
ワイト夫人
守:2200
「そして私は、カードを一枚セットしてターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー」
ドローしたカードは下剋上の首飾り。
残念ながら手札に通常モンスターのいない今、このカードに期待はできない。
しかし、あのバーサークゴリラを倒すぐらいだったら問題は無い。
なぜなら、あのカードを攻略する策は既に持っているからだ。
「俺は手札からおとり人形を発動します。
このカードは相手のリバースカードを捲り、そのカードが罠カードなら強制発動させます。
また、その罠カードが発動タイミングが正しくない場合はそのカードを破壊します」
手に出現したわら人形を試験官のリバースカード目掛け投擲。
罠カードならあのリバースカードを強制発動か破壊できる。
どちらにしても不安要素であるあのリバースカードを処理できる可能性は高い。
しかし、逆にあのリバースカードが魔法だった場合は何も起きない。
此方としては罠カードであって欲しいが……果たしてどっちなのやら。
「ふっ……おとり人形とは懐かしいカードを使ってくれる。
だが残念ながら、そのカードには不確定要素が多いのが難点だ……このようにな」
試験官のカードが捲られ、その正体が明らかとなる。
捲られた際に見えたカードの色は緑色……残念なことに魔法カードのようだ。
「私のリバースカードは速攻魔法”我が身を盾に”だ。
罠カードでない以上、このカードはセットされた状態に戻る」
我が身を盾に……この2週間勉強した際、目を通したカードだ。
確か、自分のライフを1500ポイント払って自分のモンスターへの効果破壊を無効にする
カードだったはず。つまり、俺が効果破壊の対象をあのゴリラにすれば、その効果は無効にされ破壊されるということだ。
我が身を盾にを伏せた理由は高い攻撃力を維持したバーサークゴリラを効果破壊から守る為。
ならば此方は効果破壊を使わなければいい……てか、俺のデッキに入ってる効果破壊のカードってはさみ撃ちだけだし。なお更あの速攻魔法は放置しても問題無いな。
「リバースカードの正体が解かっただけでも十分。
おとり人形は発動した後墓地に行かず、デッキに戻ります。
そして俺はここで伏せていた罠カードを発動、反転世界!
このカードの効果により、発動時にフィールド場で存在している全てのモンスターの攻撃力と守備力を入れ替えます」
バーサークゴリラ
攻:1000
守:3000
「更に俺は手札から、ものまね幻想師を攻撃表示で召喚!
このモンスターは相手モンスター1体の元々の攻撃力と守備力を得えます」
ものまね幻想師
攻:2000
守:1000
「そしてバトルフェイズに入り、バトル! ものまね幻想師でバーサークゴリラを攻撃!」
矢ヵ城 4000-1000 → 3000
バーサークゴリラ
攻:1000
ものまね幻想師
攻:2000
これで攻撃力3000のバーサークゴリラを破壊し、さらに相手のライフにダメージを与えて先制できた。これで若干ではあるが有利に立ったと言えるだろう。
これを皮切りにドンドン攻めて行きたいものだ、と思いながら相手の表情を見てみる。
グラサンのせいで目元は分らないが、口元は若干吊り上っているのが見えた。
その様子に『何か狙っているのか?』と警戒して身構える。
「ほぅ……反転世界で攻撃力と守備力を入れ替え、デーモンの斧の効果を無力化し。
ものまね幻想師で変化した相手モンスターの元々の攻撃力と守備力をコピーして撃破。
今まで色々な受験生を見てきたが、こんな風に突破して来たのは君が初めてだよ」
試験官そう言って目に掛けているグラサンを取り外した。
その行為にどのような意味が込められているかは分らない。ただ1つ分る事と言えば、グラサンを外した試験官の目がキリッとしていてカッコイイとい事だけだ。
試験官の行動についつい警戒が解け、『この人グラサン無しの方が良いだろ』という考えが湧き上がって来る。
その考えを『いかん、いかん』と頭を振って集中力を戻す。今そんな思考は邪魔にしかならない。
「えっと……そうなんですか?」
「あぁ。それに君が使っていたカードを使う受験生はなかなかいないんだよ。
君が使った”おとり人形”というカードは特にそうだった……懐かしいな。
そのカードは私がデュエルモンスターズをやり始めた頃に使っていたカードなんだよ」
「使っていた? 過去形で話すって事は、今は入れていないんですか?」
試験官の言葉を聞いて思わず疑問をぶつけてしまったが……聞くまでも無い事だよなコレ。
会話の流れからして、入れてないっぽいしい。
それに試験官が思い出に老けるように、天井を見て『あぁ、今はいれていない』て呟いたし。
「教員という立場上、簡単にデュエルで負ける事はできなくなってね。
私は効率・汎用性のあるカードをデッキに入れいくようになっていったんだ。
前使っていたカードより強いカードをデッキに入れて戦力を上げ。
そして、劣化したカードは次々にデッキから抜いてデッキの回転率を上げる。
こんな事を繰り返す内に、私のデッキから思い出のあるカードはいなくなっていったんだよ……おっと、すまない。
ついつい試験とは関係ない事を話してしまった、許してくれ」
試験官はサングラスを掛け直し『さぁ、デュエル再開だ』と言って、デュエルディスクを構え直す。
それを見て俺も構え直すが……試験官の言ってた事は理解は出来ても、納得は出来ないな。
確かに勝ち負けは重要だが、『自分の使いたいカードを使う』というのも重要だと俺は思う。
限度はあるが、それでも使いたいカードを使って勝利すれば面白いではないか。楽しいではないか、とデュエル経験が浅い俺からしたらこういう意見だ。
ここら辺の見解が違うのは、やはり試験官と俺のデュエル歴に差があるからなのかなぁ。
「俺はこのままターンエンドです」
「私のターン、ドロー。
本音を言えば君のようなデュエルリストとは、今使ってる試験用デッキではなく。
本来の私のデッキを使ってみたいんだが……仕方あるまい。
その代わりと言ってはなんだが、このデッキの切札を見せてやろう!」
俺みたいなデュエリストって何なのさ? と問いたい所だが我慢だな、うん。
「私は手札から魔法カード、デュアルサモンを発動。
このカードの効果により、私はこのターン中に通常召喚が2回おこなえる。
そして私は手札から、レベル7の可変機獣ガンナードラゴンを召喚する」
出現したのは、キャタピなどを身に纏った赤い機械のドラゴン。
あれ? 確かレベル7のモンスターって生贄が2体必要じゃないっけ?
という疑問が浮かぶが、ソリットヴィジョンで普通に出て来たので不正ではない。
恐らく、何かしらの効果があるようだな。サイズも半分に縮小してるし。
可変機獣ガンナードラゴン
攻:2800 → 1400
守:2000 → 1000
「私はさらにガンナードラゴンを生贄に、偉大魔獣ガーゼットを召喚ッ!
このカードの攻撃力は、生贄にしたモンスターの元々の攻撃力を倍にした数値になる」
偉大魔獣ガーゼット
攻: ? → 5600
ブッゥ!? ヤバイ、あまりの攻撃力に吹いてしまった。
何だよ、いきなり攻撃力5600って……下手したらこのターンでワンキルされる!
それと何だ、このモンスター。デカイうえに腕組んで此方を見下してくるんだけど……威圧感が半端ない。
「ふっ、去年の編入生のほとんどがこのモンスターに敗北してる。心して掛かれよ?
バトルだ! ガーゼットでものまね幻想師を攻撃ッ!」
デカイ魔獣はものまね幻想師に拳を振り下ろし、ものまね幻想師を破壊した。
雷親父の比ではないその拳の余波は俺にも届き、ライフを大きく削り取る。
……幸い、これ以上の追撃は無いようだが危なかったの一言に尽きる。
偉大魔獣ガーゼット
攻:5600
ものまね幻想師
攻:2000
惺 4000-3600 → 400
「ガーゼットの攻撃力5600と高い、しかし破壊耐性が無いのが弱点だ。
だが、今私のセットしてあるカードは効果破壊を無効にできる我が身を盾にだ。
効果破壊できないこの状況で、どうやってガーゼットを突破するのか私に見せてみろ。
私はこのままターンを終了する」
試験官はそう言って、挑発的な笑みを浮かべているが……突破ねぇ?
確かに、攻撃力5600というモンスター+効果破壊防止のカードは脅威だ。
墓地肥やしが全く出来ていない今の俺に、あのガーゼットを破壊する手段は無い。
「俺のターン、ドロー」
引いたカードはワイト。
なかなかに良いタイミングで来たな、ワイトよ。
手札に来て早々大変申し訳ないが、勝利の為に使わせてもらうぞ。
「俺はワイトを攻撃表示で召喚します」
ワイト
攻:300
守:200
「ん? ワイトを攻撃表示?
ワイトをデッキに入れているのが気になるが……ホントに攻撃表示で良いのか?」
試験官が『何してんだコイツ』みたいな目で見ているが気にしない。
「えぇ、だってこうしないと勝負が付きません。
正直、今の俺の手札ではそのガーゼットを破壊するのは無理です。
なのでそのモンスターもらいますね、手札から強制転移発動!
このカードの効果により、相手モンスターと自分のモンスターのコントロールが入れ替わります」
さぁ、カモーン。偉大魔獣ガーゼットよ。
そして、ゴー。旅立てワイトよ。
「くぅ!? 破壊ではなく、コントロールを奪ってきたかッ!」
試験官の焦りの声が聞こえてくるが、もう遅い。
強制転移の効果処理は終り、既に俺のフィールドには攻撃力5600のガーゼットがいる。
対して、試験官のフィールドには攻撃力300のワイトが攻撃表示で堂々と立っている。
攻撃力の差は歴然だ。
「ゲームで言う所の『大きすぎる力は災いとなる』ってヤツですよ。
俺はこのままバトルフェィズに移行し、バトル! ガーゼットでワイトを攻撃ッ!」
ガーゼットという名の巨人が、先ほどと同様に拳を振り下ろす。
それを受けるのはワイト……肉質どうこう以前に骨のワイトでは一瞬で粉々になるオチ。
そして5300という、ワンキルできるほどの余波がプレヤーである試験官を襲う。
「くぅ、うぉぉぉ!?」
先ほど俺が受けた衝撃よりも強い衝撃に耐えかね、その場に尻餅を付く。
ダーメジの体感レベルが小とはいえ、流石にワンキルレベルの衝撃を受ければあのようになるんだろう。
と、今の試験官の状況を見て色々考えてしまうが……まぁ、取り合えずだ。
矢ヵ城 3000-5300 → -2300
ワイト
攻:300
偉大魔獣ガーゼット
攻:5600
Win 惺
俺も勝ったぞ、レイ。