あのお祝い会から1週間後。
制服も無事届き、デュエルアカデミア行きの船で移動したのが10時頃だ。
その船旅中は『何でデュエルアカデミアをわざわざ南の島に創立したんだよ』と俺は終始不満だった。理由は単に移動時間が長いのが原因だ。
7時間だぞ? 到着までに7時間も掛かる島に学校を創立する意味が本当に解からん。
普通に島とかじゃなくて、本島に建てれば交通面が飛躍的に改善されるのに……。
まぁ、もう目的の島に到着しているからいいが……。
島に到着した後は、まず業者の人に寮への荷物の運搬を依頼をした。
依頼した理由は単純で、小学生の俺達に何キロもある荷物を運べ、と言われても体力的に無理な話だからだ。
なので事前に、デュエルアカデミアに業者の人を港に来させるように頼んでいたのだ。
その御かげで運ぶ荷物も無く、楽にデュエルアカデミアを目指すことが出来たのである。
そして今現在、俺とレイはデュエルアカデミアの学園内を探索をしている。
何故俺とレイが校内を探索中かと言うと、送付された資料に『オシリスレッド寮の寮長である大徳寺が、編入生の案内担当になります』と書いてあり、今はその大徳寺という教員に会いに行く為、職員室を目指しているのである。
幸い、レイが持っていた校内案内のパンフレットに職員室の位置が書いてあるので、道に迷うこと無く校内を進んでいるが…………この状況がおかしいと感じるのは俺だけか?
「なぁ、レイ。
普通、編入生が来る場合ってさ? 建物の入り口で案内してくれる人がいると思うんだ。
ここまで船旅で疲れてるんだから、なお更案内人である大徳寺って先生が待ってるべきと俺は思う」
隣で歩いているレイ(男装Ver)についつい愚痴を言ってしまう。
そんな俺の愚痴に、レイは疲れた表情で『うん』と頷いた。
やはり同じ境遇にいるレイも、俺と同じ事を思っていたらしい。
「惺の言ってる事はもっともだと思う。
常識的に考えて、学校の構造を把握できていない編入生に、いきなり職員室に向かわせる手間は掛けさせないはずだ。
それなのにこの待遇……ここの教員の人は、一体どんな教育を受けてきたんだか」
「教育って……俺よりも辛口な愚痴だな。
まぁ、俺もレイの言ってる事には賛同するけど」
と、二人で愚痴を言いながら校内を進んでいく。
その間、赤い制服、黄色い制服、青い制服の人と何名かすれ違うが、ここまで校舎を歩いてすれ違った人数は20人にも満たない。これほど人数が少ない理由は恐らく、大半の人は授業が終ったから寮に帰ったのだろ。俺でも授業が終ったら迷わす帰るからなぁ。
「あ、惺。
この部屋が職員室らしいぞ」
レイが立ち止まり、それに応じて俺も同様に部屋の前で止まる。
一部が透明なガラスで造られた扉のガラス越しに部屋を覗くと、部屋の中には数名の教員がいた……どうやらここで間違いないようだ。
職員室に入る前に、レイとお互いの服装に乱れがないかどうかをチェックし合う。
お互い帽子はちゃんと被ってるし、着ているオシリスレッドの服装に特に変なところは無い。これなら特に問題無いだろうとお互い頷いて、俺は職員室のドアに手を伸ばす。
「職員室に何か用なノ~ネ」
が、伸ばされた手がドアに触れる前に、不意に後ろから聞こえた声に反応し、振り返る。
するとそこには、生気の無い紫色の唇、そして白骨寸前なほどに肉付きの無い顔をした何かが俺達を見下ろしていた。
「キ、キャ―――」
叫び声をあげそうになったレイの口を反射的に手で塞ぎ、黙らせる。
俺もビビッたほどだ。レイが叫びたくなる気持ちも分かるが、今素の声で叫んだら全てが終わる。その為、口を少々強めに抑えて声が出ないようにしているが……許せよレイ。
「う~ン? 今女の子の声が聞こえた気がする~ノ?」
そう言って、目の前の何かは首を傾げている。
……よくよく見てみれば、この人が着ている服は教員用の服だ。
ということは、この人はこの学校の教員ということか……一瞬お化けかないかと勘違いしてしまったじゃないか。
「き、気のせいですよ……」
「そうなノ~ネ? 空耳かシ~ラ?」
この教員の喋り方を聞いて『どういう喋り方してんだよ』と思いながらも、苦笑いしてこの場を誤魔化す。
この教員も空耳かと疑い始めているので、一応誤魔化せたことだろう。
―――パン、パン!
不意に叩かれた手首の方を見る……レイが涙目になりながら此方を睨んでいた。
何で涙目になっているんだ? と思いながらレイの顔を見てみると、俺の手は上手いぐわいにレイの口だけでなく、鼻も塞いでいた。
これでは呼吸が上手く出来ないという事実に気付き、俺は慌てて塞いでいる手を離した。
「ケホッ……ハァハァ……惺、お前ボクを殺すきかッ」
「……いや、悪かったって」
此方に襲い掛かりそうなレイを『どーどー』と両手を前に出して静止を促す。
今回の事は不可抗力だし。それに俺がレイの叫び声を瞬時に止めなかったら、どうなっていたかなんて火を見るより明らかだ。
その事を理解しているのか、レイは渋々その怒りを静めた。
「もう、声の事はどうでもいいノ~ネ。
それよりも、貴方達は何で職員室の前に居るのデス~カ?」
「えっと……俺達、この学校に編入して来た者でして…。
その関係で、オシリスレッド寮の寮長である大徳寺先生に会いに来たんですが……」
「にょにょ。それでは貴方達二人~が、今回の編入生という訳です~ネ」
グーとパーでポン、と音を鳴らして納得の表情を浮かべる教員。
一応、編入生が今日来るという事は事前に伝わっていたようだな。
『事前に知ってたんなら、何で大徳寺先生を行かせなかったんだ』とこの教員に文句の1つでも言ってやりたいところだが、ここは我慢するべきなのだろ。それが大人の対応というものだ。
「今回編入した、坂本惺と」
「早乙女レイです」
文句を口にせず、此方から先に自己紹介して頭を下げる俺達は、既に大人の対応をマスターしていると言えよう。
「さっす~が、編入試験を合格しただけあって、礼儀を心得ているノ~ネ。
貴方達~ノ、爪の垢をあのドロップアウト・ボ~イに煎じて飲ませてやりたいデス~ノ」
編入試験と礼儀がどう関係しているかは知らんが……そのドロップアウト・ボーイって何だよ。多分、人の名称なんだろうけどさぁ。
で、この教員はそのドロップアウト・ボーイの事を思い出したのか、いきなりワナワナと指を動かし始めている。
何かあったのだろうか? そのドロップアウトした人と。
「おとと、今はドロップアウト・ボーイの事はどうでもいいノ~ネ。
私は実技担当最高責任者のクロノス・デ・メディチで~す、覚えておきなさ~い」
「…………」
俺はこのクロノスという教員が言った言葉に、思わず耳を疑ってしまった。
この人は今『実技担当最高責任者』という、いかにも地位がありそうな名前を言ったのだ。
凄い失礼な言い方をするが、人は見かけには寄らないとはこの事だと思う。
レイにいたってはクロノス先生に『ホントに実技担当最高責任者か?』と疑いの目を向けている。
うん、俺の感覚は間違っていないようだ。
―――ガララ……。
「あにゃ? 廊下が騒がしいと思ったらクロノス先生と……君達が編入生かにゃ?」
背後の職員室のドアが開かれ、黒い長髪の人が出て来た。
眼鏡を掛け、カッターシャツ姿の男性教員は、俺達を見て『編入生か?』と聞いてきた。
先ほどのクロノス先生と違い、最初っから編入生かどうかを聞いてくるという事は、この人が大徳寺先生なのだろうか?
「はい、俺達が編入生ですが……貴方が大徳寺先生ですか?」
「おぉ、やっぱり君達が編入生だったのにゃ。
僕がオシリスレッド寮の寮長、大徳寺だにゃ、よろしくにゃ」
そう言って、大徳寺先生は俺とレイの手を握ってブンブンと上下に動かし始める。
突然の行動に、俺もレイも呆気に取られるしかなかった。
今の大徳寺先生は、飼い猫が人とジャレつく姿とダブルものがあるな。
「あ、えっと……坂本惺です」
「お、同じく、早乙女レイです」
年上でこういうタイプの人とは絡んだ事がない……正直、接し方が分からない。
レイにいたっては若干引き気味だ。
「今回の編入生の案内役は大徳寺先生でしータネ。
編入生は規則でオシリスレッドに入寮する事になりますが、今貴方が管理しているオシリスレッドの生徒達と違い、編入生の子は優秀な子が多いデス~ノ。
そこの辺を考慮して、他のオシリスレッド生よりも丁重に扱ってほしいノ~ネ」
ポン、と背後に立ったクロノスが俺とレイの肩に手を置く。
俺はもうお化けと認識してないので特に何とも思わないが……レイは違った。
クロノス先生に手を置かれた瞬間、『ヒィッ』と小さい悲鳴をあげて背筋を反射的に伸ばした。
どうやら、レイにとってクロノス先生は苦手な分類に入るようだ。その原因が、クロノス先生との出会いがあんなだったのが原因なのか。はたまたクロノス先生の独特な顔にあるのかは不明だが……レイがクロノス先生の事を苦手としている事に違いはない。
今度工作の時間にクロノス先生のお面でも作って、レイを脅かすのも悪くないかもなぁ。
お面被って『ビックリしたノ~ネ?』って感じで……やった後、レイに殴られるだろうけど。
「この子達だけ特別扱いしては、寮の子と馴染めなくなっちゃいますにゃ。
だから僕はこの2人を特別視せず、他の寮生達と同じように接していくつもりなんだにゃ」
「ふん、所詮オシリスレッドの生徒と仲良くなっても無駄な事デス~ノ。
事実、この2人の実力はラーイエロー以上だと矢ヵ城先生が言ってたノ~ネ。
つ・ま・り、直にこの子達はラーイエローに昇格するのですから、なお更オシリスレッドの生徒と仲良くする必要はないノ~ネ」
矢ヵ城……? あぁ、俺達の編入試験のデュエル相手をした人か。
矢ヵ城先生が俺達の事をラーイエロー以上と評価してくれた事は嬉しいな。
この学園は”オシリスレッド<ラーイエロー<オベリスクブルー”というぐわいに階級が分けれている。その中で中堅に位置するラーイエロー以上の実力となれば中々のものだ。
後、あえてこの二人の会話に口を挟まないようにしているが……この二人、仲悪いのかな?
意見が対立して、口論してるっぽいぞ。
「皆仲良くすれば、それで良いと思うんですにゃ……ん?
あっ大変にゃ! 後10分で、寮の食事が始まってしまうにゃ!」
大徳寺先生は自分の腕時計を見て、何やら慌て出した。
『寮の食事』と言ったので、多分寮関係のことだなぁ、と思っていた時だ。
不意に大徳寺先生が俺達の手を引っ張って走り出した。
「急ぐんだにゃ、二人共」
「あ、あの、ちょっと!?」
「あ、危ないよ!?」
大徳寺先生が俺達の手を引っ張っている以上、俺達も必然的に走る事に……。
走り始めた時、後ろにたクロノス先生が何かを叫んでいたが、それを無視して走る。
俺はこの時、『船旅で疲れてるんだけど……』と心の中でため息を吐きながら、大徳寺先生に引かれて走るのだった―――