俺のデッキの末端価格は840円   作:MrM3

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第14話

 

あの後、大徳寺先生に走らされること15分。

やっとの思いで俺達はオシリスレッド寮に到着し、大徳寺先生の魔の手から解放された。

その瞬間、俺とレイは両膝に両手を置き肩で息するはめとなった……流石に大人である大徳寺先生のペースに合わせて走った俺とレイはヘロヘロである。

一方、俺達を疲れさせた原因でもある大徳寺先生はケロっとしている……理不尽だ。

 

「今寮の子は皆食堂に居るのにゃ。

食堂で君達二人を寮の皆に紹介するから、僕の後に続いて入ってほしいにゃ」

 

そう言って、大徳寺先生はスタスタと食堂と思わしき扉に近づいて行く。

俺達のこの状況を見て、何事も無かったかのように振舞う大徳寺先生のスルースキルは中々のものだろう。

 

「はぁ、はぁ……行くぞ、惺」

 

「はぁ、はぁ……今日は疲れてばっかだわ」

 

このまま休む訳にもいかず、大徳寺先生の元へ歩いていく。

船旅で疲れて、今度は走って疲れて……今夜は熟睡確定だな。

 

―――ガラガラ。

 

「は~い、皆居るかにゃ~?

今日はこのオシリスレッド寮に、編入生が二人来てるんだにゃ~」

 

食堂に入った大徳寺先生は手を叩きながら喋り、生徒達の注目を集めていた。

そして今度は、その注目が大徳寺先生の後ろにいる俺達へと移った。

自分達と歳が5才近く離れた人達の視線が、一斉に向けられた事に一瞬たじろぎながらも、

俺達は一歩前へと進む。

 

「編入生はこの二人なんだにゃ。

赤い帽子を被ってるのが坂本惺君で、黒い帽子を被ってるのが早乙女レイ君だにゃ。

まだこの島に来たばかりの子達だから、皆仲良くしてあげてほしいのにゃ」

 

「「よろしくお願いします」」

 

ペコリ、と軽く頭を下げる。もちろんレイもだ。

挨拶がちょっと堅いような気がするが……まぁ、無礼よりは何倍もマシだろう。

現に、食堂に居る人達から『よろしくなッ』と笑顔で迎えられ、中にはいきなり大声で『フレェー、フレェー』と応援する生徒まで居る。

まぁ、何はともあれ第一印象としてはまずまずと言ったところだろう。

 

「何を十代君は応援してるんだにゃ?」

 

「えへへ。編入生が緊張してるようだから、その緊張を解そうと思ったんだよ。

ほら? この2人凄い汗掻いてるし、少し息も荒くなってるからさ」

 

そう言って俺達に駆け寄って来たのは、茶髪で後ろ髪が跳ねている青年だ。

大徳寺先生が『十代君』と言っていたので、この人の名前は十代という名前なのだろう。

十代さんは俺達の汗などを見て緊張している思っているらしいが、それは勘違いというものだ。

 

「この汗や息切れは、主に大徳寺先生のせいですよ。

ついさっきまで、学園からこの寮まで走らされたんですから」

 

俺の返答に、『にゃはは……』と大徳寺先生は誤魔化し始めている……反省する気はないようだ。

そんな大徳寺先生に向かって、レイと共にジト目の視線を向けている最中。いきなり十代さんが俺の背中をバシバシと軽く叩き始めた。

あまりに唐突な出来事に目を白黒させていると、叩いた張本人である十代さんが笑いながら俺の首に腕を回してきた。

 

「な~に言葉を堅くしてるんだよ、俺達は仲間なんだからもっとラフに行こうぜ!

俺の名前は遊城十代だ、よろしくな! 惺!」

 

「あ、あぁ……よ、よろしくな、十代」

 

苦笑いをしながら、十代さんの要望通りラフな対応してみる。

自分より5歳も年上の人を呼び捨てにするのはどうかと思うが、今の俺達はこの人達の同年代としてこの場に居るのだ。なら、十代さんの言うようにラフな対応が適切と言えるだろう。

そして、十代さんは俺の対応に満足したのだろうか? 

今度はレイの方を向き、レイと自己紹介している。

俺と違い、レイは最初からラフに対応できている。その事が嬉しかったのか、十代さんがレイの首に手を回そうとするが……レイは十代さんの手を掴み、強制的に握手へと変更させた。

……成る程。首に手を回せれたくなかったら、あのようにして回避すればいいのか。

今後の人生で使う時があったら、レイがさっきやった技を使わせてもらおう。

 

「あにゃ? 今日余分に用意されていたおかずが無いにゃ。

誰か、ここに置いてあった二人分のおかずを知らないかにゃ?」

 

食堂の台所付近で、大徳寺先生が困り果てている。

どうやら、二人分のおかずが見当たらないらしいが……あれ? ちょっと待て。

二人分のおかず? それって……

 

「うん? 二人分のおかず……あッ!? 

先生! まさかあれって、惺とレイの分だったのか!?」

 

「ちょ、ちょっと、アニキ! やっぱりアレ、食べたらダメなヤツだったじゃないッスか!」

 

「ど、どうするんだな……」

 

隣に立っている十代さんがいきなり慌て始めた。

そして、それに反応するかのように水色の眼鏡を掛けた人も慌てだし。コアラ顔の大きい体格の人は、オロオロとし始めた。

……あぁ、なんかオチが見えてきたわ。

 

「あにゃ……もしかして十代君達、惺君とレイ君の分食べちゃったのにゃ?」

 

「ご、ごめん! 二人共!」

 

「僕達が食べちゃったっス!」

 

「ご、ごめんなさいなんだな……」

 

俺とレイの目の前で頭を下げ始める三人……やはり犯人はこの三人だったようだ。

右から、十代さん、水色さん、コアラさんの順で頭を下げてる訳だが……まぁ、今回はしょうがないと思う。

食堂に入った時に大徳寺先生が『今日は編入生が来てるんだにゃ』と言った時の皆の反応は、かなりソワソワしてた。多分だが、俺達が今日来るのを事前に知らせてなかったのだろう。

そうなると十代さん達だけでなく、寮長である大徳寺先生にも責任が行くのだが……まぁ、食べ物位でそんな大げさにするつもりは無いので、今回は許すべきだろう。

大人の対応をマスターしている俺達は、食べ物の1つや2つでグダグタ言わないのだ。

『そうだよな、レイ?』と、同意を求めるように視線をレイの方へと移す。

そこで俺の目に映ったのは、ボクシングの構えをしたレイの姿だった……て、おい!?

 

「(待て待て、お前その構えから何をするつもりだ!)」

 

急いでレイと十代さん間に入り、レイの拳を手で抑えながら小声で止めに入る。

何がどうしてこうなったかは知らないが、あの構えから繰り出されるのはパンチに違いない。

そんなモノを十代さん達にぶつければ、暴力問題に発展するぞ!

 

「(離して、惺。

あれを見てよ? 今日ボク達が食べるおかずはエビフライだったんだよ?

惺知ってるよね? ボクの好きな食べ物トップ3にエビフライが入ってる事……)」

 

レイの視線を追うと、タルタルソースが掛かったエビフライが皿に盛られていた。

うん、確かに美味そうだ。船でお昼ご飯を食べて以来、何も食べていない俺達にはより一層美味しそうに見えるな。

俺自身腹が減っているから、レイも減っているのだろう。でも、だからと言って暴力はよくない。そんなものでこの問題は解決できない。

 

「(お前が言いたい事はよく分かる。

だが今は我慢しろ、な? 余った材料があったら俺が何か作ってやる。

それにお前の好きなベルギーサンダーを後であげるから、十代さん達を許してやれ)」

 

「(…………)」

 

俺の説得が成功したのか、レイは渋々といった形で拳を下げた。

……ふぅ。どうやら大人しくなったようである、流石はベルギーサンダーだな。

因みにベルギーサンダーとは、ハードビスケットをチョコレートでコーティングしたお菓子だ。40円と安価にも関わらず、ザクザクとしたビスケットの食感と口解けのよいベルギーチョコが楽しめるとあって、子供だけでなく大人にも人気のお菓子なのである。

 

「えっと……本当にごめんな、二人共」

 

「あ、いやいや、別に問題ないぜ! 十代!

俺達は俺達で夕飯済ますからさ……な、レイ?」

 

「…………うん」

 

レイよ……もっとこう、テンションを上げてくれ。

お前がテンション低くしていると、十代さん達が負い目を感じ続けるだろうが。

 

「ア、アハハ! という訳で、レイも気にしてないから問題無し!

今後気お付けてくれれば、それで良いって!」

 

レイがテンションを低くしているので、代わりに俺がテンションを上げて場の空気を和ませる。さらに十代さんが俺にやったように、背中を軽く叩いて"気にしてない感"をアピールする事も忘れない。

 

「イテテ……サンキューな、二人共。

お詫びと言っちゃ何だが、今度メインのおかずを二人に譲るぜ!」

 

「ぼ、僕のもあげるッス!」

 

「お、おれもなんだな!」

 

先ほどの甲斐あってか、3人とも活気が戻り始めている。

これなら、この3人も負い目を感じる事なく解決したと言えるだろう。

 

そしてこの後、水色さんとコアラさんから自己紹介された。

水色さんの名前は丸藤翔。コアラさんの方は前田隼人という名前らしい。

中でも丸藤翔さんはあの丸藤亮の弟とのこと。この事実に俺は驚いたが、レイは知っていたらしい。なんでも、『亮様の事が好きなのであって、弟の方に興味は無い』とのこと。

まぁ、レイの意見はもっともであり。丸藤亮の事に興味があるのなら、その弟である丸藤翔にも興味を持てと言われても首を傾げてしまう。

やはりそこは、兄弟別々に個人として見る方が適切と言えるだろう。

 

で、その自己紹介も終り、今は炊飯器に残っていたご飯を使って焼きおにぎりを調理中。

何故焼きおにぎりなのかと言うと、冷蔵庫の中が壊滅的に何も無かったのが原因だ。

唯一あるものが醤油などの調味料となれば、料理が焼きおにぎりになるのは仕方ないだろう。

因みにこの焼きおにぎりはトースターで調理中である。個人的にフライパンの方で焼きたかったのだが、この寮のフライパンはフッ素加工が剥がれた故障物しかなかったのだ。

寮は見て分かるほどにボロく、そしてフライパンなどの備品すらもボロとは……このオシリスレッド寮、恐るべしである。

 

「惺~、まだ~?」

 

焼きおにぎりの焼き加減を見ていると、後ろからレイが駄々をこね始める。

調理するものが焼きおにぎりに決まった時『えぇー』と言っていた割りには、待ちきれないらしい。

レイをそうさせているのは空腹というのもあるだろうが、このトースターから漂ってくる醤油の香ばしい香りも原因の1つであろう。醤油が焼ける香りは良いものだ。

 

「……よし、もういいだろう」

 

出来上がった焼きおにぎりをアルミホイルに包んで、レイに渡す。

その後自分の分を手に取って、口に運ぶ……うむ。香ばしい醤油の味が口に広がり、外の方は少しカリっと中はふっくらとした食感を奏でる。

愛子さんには及ばないが、それでも美味である。

 

「はふ、はふ……」

 

レイも満足そうに顔を綻ばせて食べている事から、好評のようだ。

俺はその様子に満足しながら、自分の分を食べ進めていく。

久しぶりに食べる焼きおにぎりは、やはり良いものだ―――

 

 

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