昼休みも終り、ここはデュエル演習場。
演習場はドーム状になっており、中央には大きなデュエルフィールドが設置され、そのデュエルフィールドを囲うように沢山の観客席が備えられている。
そんなデュエル演習場には、矢ヵ城先生の授業を受けていた一年生、総勢23名の生徒が観客席に座ってデュエルを観戦している。
因みにオベリスクブルーの試合はもう終り。今はラーイエローの試合だ。
デュエルフィールドにいるのは、ラーイエローの三沢さんと堂本さんの2人だ。
この2人とは当然面識はないが……遠目で見た限り、三沢さんは極々普通の印象だった。
しかし、対戦相手の堂本さんは違った。あの人は印象どころの騒ぎではなかったのだ。
「これで終りだ、堂本!
俺はトロイホースを召喚し、ダイレクトアタックだッ!」
「いや~ん!!
貴方の熱い思いが私のハートに届くわぁ~!!」
このデュエル演習場に、堂本さんの悪夢のような声が響き渡る。
その響く声は恐怖のオカマボイス。そう、堂本さんはゲイ属性の持ち主なのである。
ゲイ……もしかしたら、俺もなっていたかもしれない恐怖の象徴だ。
もし、あのレイとのデュエルで敗北していたら、そう考えると震えが止まらない。
「おい、大丈夫か惺!?
こんなに体を震わせて……風邪、まだ治ってないのか?」
近くに居た十代さんが心配してくれてる。
周りにいる翔さんや隼人さんも心配そうな表情をしている……ありがとう3人とも。
だが、心配しないでほしい。俺がこうなっているのは、隣で『アレはちょっとなぁ……』
と、堂本さんを評価してる幼馴染が原因だから。
「大丈夫だ、3人とも。
風邪なんてもう治ってるから、心配しないでくれ。
この震えは、あったかもしれない自分の運命に恐怖しただけだから……」
「ん……?
惺君の言ってること、さっぱり意味が分からないッス」
意味が分からなくて良いんですよ、翔さん。
でもレイ、お前は首を傾げるな。全面的にお前のせいなんだから。
『ラーイエローの試合は三沢の勝ちだ。
次の試合はオシリスレッド。デュエルする生徒はデュエル場に降りてきなさい』
マイクを使い、反響して聞こえてくるのは矢ヵ城先生の声だ。
次はオシリスレッドの試合、出場するのは俺と十代さんと決められている。
『よっしゃ! 待ってました!』と、はしゃぎながら立ち上がる十代さんの後に続き、自分も立ち上がる。
まだ少し体の震えが止まらないが……『俺はそっち系じゃない!』と、心に何度も唱える。
その甲斐あってか、体の震えは徐々に消えていく。これが自己暗示の力というやつだろう。
「さぁ! 行こうぜ、惺!」
「あぁ、行くか」
震えが止まった足で、階段を降りて行く十代さんを追う。
向かう場所は当然、このデュエル演習場の中央にあるデュエルフィールドだ。
十代さんの後を追い。
デュエルフィールドに着いた後は、お互いに一定の距離を取って相対し合う。
お互いのデュエルディスクは既に起動し、いつでもデュエルが始めれる状態だ。
「準備は良いか? 2人共」
「先生、準備なんてとっくに終ってるって。
それより、早くデュエルを始めさせてくれよ」
審判役である先生が、準備できているかの有無を確認している。
俺は頷いて答え、十代さんは待ちきれないのかデュエルの開始を催促している。
その表情は期待と興奮が混じった、デュエルをしたくて仕方ないといった表情だ。
これでは期待しないでくれ、なんて言えない。
それどころか、此方のやる気を知らず知らずの内に引き上げられる。面白い人だ。
「それでは、これよりオシリスレッドの試合を始める!」
「「デュエル!」」
さて、デュエルが開始したわけだが、残念な事に今回は後攻スタートとなっている。
今回が初めての後攻となるのだが……果たしてどうなるのやら。
「オレの先攻、ドロー!
オレは手札から、E・HEROスパークマンを召喚!
そして、リバースカードを一枚セットしてターンエンドだ」
E・HEROスパークマン
攻:1600
守:1400
十代さんが召喚したのは、青色と黄色の武装をした人型のモンスターだ。
名前にHEROと付いているので、正義の味方をモチーフにしたモンスターなのだろう。
まだ戦隊モノに興味がある子供なら、こういたったモンスターを見ればさぞ興奮するに違いない。子供なら誰しも、正義の味方には憧れるものだ……うん、憧れるものなんだ。
とどのつまり、何が言いたいかと言うとだなぁ……
「カッコイィッー!!」
俺の興奮ボルテージは既に最高潮に達しているのだ。
見ろ、あのモンスターを! めちゃくちゃカッコイイじゃないか!
毎週日曜にやる戦隊モノを欠かさず見てる俺にとって、あのモンスターは痺れる、憧れる!
今の俺の目はキラキラと輝いていることだろう。
「お、わかってくれるか! 惺!
やっぱり、ヒーローはカッコイイよなッ!」
「えぇ、まったくですよ!(あ、違った)
あぁ、まったくだ! 良いモンスターを入れてるじゃないか、十代!」
いかん、いかん……。
ついつい素の方の言葉使いが出てしまった。危ない危ない……。
テンションが上がった今の俺なら、自分からボロを出しかねないので、深呼吸をして冷めないこの胸の高鳴りを落着ける。
それに先生も『早くデュエルを続行しろ』と言ってきている。なお更気を落ち着けなくては……。
「オレのターンは終了だ。
惺もどんなモンスターを召喚するか見せてくれよ!」
「あ~。そうしてやりたいのは山々だが、そうもいかないと思う。
俺のターン、ドロー」
真っ向から十代さんの要望に応えてやりたいが、そうもいかない。
何故なら、手札とドローしたカードに攻撃表示で出せるモンスターがいないのだ。
手札 ドロー
ワイト スケープゴート
ワイトキング
メタモルポッド
終末の騎士
魔法除去
エースカードであるワイトキングが初手からあるが……墓地にワイトがいない今、召喚したとしても攻撃力は0だ。意味がないし、自殺行為にも程がある。
ここはおとなしく、メタモルポットのセットが安定にきまっている。
問題は、魔法除去を十代さんのあのリバースカードに撃つか、撃たないかだが……。
「俺はモンスターをセット。
さらに伏せカードを2枚セットして、ターンエンドだ」
十代さんのデッキ内容が不明のまま撃っても損しか生まない。
なんたって、魔法除去は魔法カードしか破壊できないカードだ。魔法か罠かも判らない、
あのリバースカードに撃つのは少々博打が過ぎる。
いざとなったら、その博打をするかもしれないが……それはまだ早いというものだ。
「なんだよ……そこは熱くバトルだろ?」
「いや、残念ながら無理だ。
俺のデッキはエンジンが掛かるのが遅いんだ、我慢してくれ」
不満そうな十代さんを宥める。
俺のデッキは墓地にモンスターが肥えないと、色々と始まらない。
必然的にスロースタートになってしまうのは、しょうがないというものだ。
「オレのターン、ドロー。
なら、そのエンジンが掛かるまでの間。こっちは色々と攻めさせてもらうぜ?
オレは手札から速攻魔法、サイクロンを発動! 左のリバースカードを破壊だ」
十代さんの手元から現れた嵐が、俺の伏ていたカードを破壊した。
破壊されたのは魔法除去……狙いがいいな。もし速攻魔法であるスケープゴートを狙ってきたなら、チェーン発動したのに。
「さらに、手札からE・HEROワイルドマンを召喚!
そして、バトル! ワイルドマンで、惺の守備モンスターに攻撃!」
E・HEROワイルド
攻:1500
守:1600
新に召喚されたムキムキの筋肉を持つ野生児ヒーロが、守備モンスターであるメタモルポッドに攻撃を仕掛けてくる。
守備力が600しかないメタモルポッドは当然破壊されるが……こいつはリバースした時こそ真価を発揮するモンスターだ。
たとえ破壊さても、効果さえ発動できれば問題ない。
「メタモルポッドが裏から表になった。
この瞬間、メタモルポッドのリバース効果発動!
お互いのプレイヤーは手札を全て墓地に捨て。新に5枚カードをドローする」
「げっ、いきなり手札交換かよ」
十代さん、文句言わないでください。
そっちもカードを5枚もドローできるんだから、良いでしょ。
こっちはこっちの戦術というもがあるんです。我慢してください。
そして、お互いにメタモルポッドの効果処理を終え、手札はお互いに5枚づつ。
まだバトルフェィズ中なので、十代さんのスパークマンは攻撃が可能だ。
「行くぜ、惺!
スパークマンでダイレクトアタック! "スパーク・シュート!"」
スパークマンは手から放電が発生させ、その放電を真直ぐ此方に飛ばしてくる。
ヒーローは弱いものイジメしないと言うんだが……まぁ、今の俺は十代さんの敵だ。
攻撃されても文句は言えない……なら、スパークマンから見た俺は悪役という訳か…。
「まっ、悪役ってのも嫌いじゃないんだけどね。
速攻魔法、スケープゴートを発動! 来い、四体の羊トークン」
守備表示で現れたのは、4体のカラフルな羊達だ。
シュチュエーション的に、俺がか弱い羊を人質にしてる悪党に見えなくもない。
真のヒーローなら、この羊達を破壊せずに俺だけを倒すのだが……まぁ無理な話だな。
「なら、スパークマンで羊トークンに攻撃!」
俺に来るはずだった放電は、向きを変えて青色の羊へと着弾した。
か弱い守備力0の羊トークンでは、攻撃力1600のスパークマンの攻撃に抗えるはずもなく。
バチバチという効果音を立てながら、羊トークンは爆散した。
「オレはこのままターンエンドだ」
「なら俺のターン、ドロー」
手札 ドロー
魔道雑貨商人 魔法除去
ワイト夫人
ネクロ・ガードナー
ワン・フォーワン
エンジェル・リフト
メタモルポッドで手札を総入れ替えして、手札のワイト達の墓地肥やしを狙う。
単純でありながら、手札にあるワイト達を一気に落せる戦術だ。
これで墓地のワイト系のカードは2枚……攻めれないこともないが、心もとない数だ。
ここは更なる、墓地肥やしを狙うべきだな。
「俺はモンスターをセット。
更にカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
「またモンスターをセットかよぉ……」
「だから、スロースタートなんだって。
その内スゲーのが出てくるから、安心してくれ」
そう、その内攻撃力が高いモンスターが出てくる。
そうなれば、十代さんのモンスターを倒し。一気に形成を逆転できる。
言わば今は準備期間なのだ。
「スゲーのかぁ……へへっ。
じゃあ、そのスゲーのが出てくるのを楽しみにしてるぜ?」
「おう、任せとけって。
それまでの間、俺のライフを好きなだけ削れば良いさ……削れればの話だけど」
十代さんのやる気を上げるようと、『やれるもんならやってみろ』という意味を込めて、十代さんに向かって指をクイクイとさせて挑発する。
十代さんのフィールドにはモンスターが2体。
対して、俺のフィールドには羊トークン3体と守備モンスターが1体もいるのだ。
この状況下で、俺がライフポイントを大幅に減らす事など考え難い。
考え難いのだが……挑発を聞いて、楽しげに笑っている十代さんを見ていると不安になる。
まさかとは思うが、此方のモンスターを全滅させる策でもあるのか?
「オレのターン、ドロー。
それじゃ……お言葉に甘えさせてもらうぜ、惺?
オレは手札から魔法カード、融合を発動!
フィールド場のE・HEROワイルドマンと手札のE・HEROエッジマンを融合!
現れろ、E・HEROワイルドジャギーマンッ!」
E・HEROワイルドジャギーマン
攻:2600
守:2300
十代さんが呼び出したのは、先ほどのワイルドマンに金色の武装をしたモンスターだ。
魔法カード"融合"によって召喚される融合召喚……生で見たのは初めてだ。
その融合召喚によって出て来たのが、ワイルドジャギーマン。
攻撃力や守備力に関しては、ワイルドマンよりも高くなったようだが……それだけでは、俺のフィールド場のモンスターを全て破壊する事は不可能。頭数が足りないよ、十代さん。
「いくら攻撃力が上がっても、俺のモンスターの数には及ばない。
どうやら俺のライフを削るのは無理そうだな、十代」
「へへっ。ところが、そうじゃないんなだな~これが。
ワイルドジャギーマンは、相手モンスターに一度づつ攻撃する事が可能なモンスター。
これなら、惺のモンスターが何体いようと関係ないぜ!」
おい、マジか。
ヒーローのクセに、どんだけえげつない効果を持ってんだよ。
このままじゃ、俺のモンスターが全滅してしまうじゃないか……どうしよう。
「ワイルドジャギーマンで、羊トークン3体を攻撃!
さらに続けて、セットされた守備モンスターに攻撃だ!」
ワイルドジャギーマンは、背負っている大剣を抜いて切り刻む。
守備力が0のトークン達は一瞬で真っ二つになり。セットした魔道雑貨商人も斬られた。
たった1体で4体のモンスターを切り倒していく様は、まさに無双の一言だ。
「しかし、魔道雑貨商人のリバース効果発動!
デッキから魔法カードまたは罠カードを引くまでカードを引き、それを手札に加える。
その際引いたカードがモンスターカードだった場合、全て墓地に送る」
さて……何枚のモンスターが墓地に逝くのかな?
「1枚目、カード・ガンナー。
2枚目、ワイトメア。
3枚目、ワイト。
4枚目、終末の騎士。
5枚目、バスターランチャー。
5枚目のバスターランチャーを手札に加え、それ以外のカードは全て墓地に逝く」
これで俺の墓地に存在するモンスターの数は9枚。
そのうちワイト系のカードは4枚……これなら十分戦える。
「これで惺のモンスターは0だ。
スパークマンでダイレクトアタック! "スパークシュート!"」
スパークマンが先ほどと同様に、手からバチバチと音の鳴る放電を此方に飛ばしてくる。
このままではダイレクトアッタクが成立してしまうが……そうはいかないよ、十代さん。
もはや俺のデッキのエンジンはかかり始めているのだからッ!
「罠カード発動、エンジェル・リフト!
このカードの効果により、自分の墓地に存在するレベル2以下のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
さぁ、蘇れ! ワイトキングッ!」
小さな天使2人が発した光に導かれ、ワイトキングが地面から蘇生する。
そして、いつものように体を蒼黒いオーラで包み込み、力を増幅させていく。
ワイトキング
攻:3000
守:0
ワイトキングを蘇生した為、墓地のワイトの数が3枚に減ったが問題はない。
何せ、今のワイトキングの攻撃力を超えるモンスターなど、このフィールドに存在しないのだから。
「スッゲェ~! いきなり攻撃力3000のモンスターかよ!」
十代さんはようやく出て来た、俺の主力モンスターに興奮していた。
しかもその攻撃力が3000と、高火力なら当然なのかもしれない。
だが十代さん、攻撃途中に俺の場にモンスターが特殊召喚されたから、貴方のスパークマンは攻撃を続行するか否かで迷ってますよ?
手がバチバチと放電しっぱなしになってる事に気づいてあげて下さい。
「十代、このままだとスパークマンの手が焦げるぞ?
攻撃続行の有無を宣言してやれ、可哀想だ」
「へ? あ、ゴメンな! スパークマン!
俺は攻撃を中止して、リバースカードを一枚セット。
これでターンエンドだ」
スパークマンに謝り、駆け足で十代さんのターンは終了となった。
その際、スパークマンが此方に頭を下げたように見えたのは幻覚だと思う。
どうやら、昨日のお風呂の件で遅寝したから目が疲れているようだな。うん。
今日は早寝することを此処に誓っておくとしよう。