惺と十代がデュエルを開始して数ターンが経過した頃のことである。
十代がスパークマンやワイルドマンで、惺の壁モンスターを倒していく姿を見て、丸藤翔と前田隼人は十代が有利だと評価していた。
「やっぱりアニキは強いッスねぇ…」
観客席でデュエルを観戦している丸藤翔が、そう呟いた。
呟いたのは故意とかではなく、単にそう思った事がポロリと漏れたのだ。
常に十代のデュエルを近くで見ていた彼にとって、十代は目標であり尊敬する人物なのだ。
「そうなんだなぁ。
十代はクロノス先生やオベリスクブルーの生徒にもデュエルで勝つぐらいの実力だから、
惺が防戦一方になるのは仕方がない事なんだなぁ……」
丸藤翔の次に、今度は前田隼人が呟いた。
彼は丸藤翔ほどではないが、十代のデュエルに強さや魅力を感じた人物の一人だ。
前田隼人は一度留年を経験し、デュエルに対する興味を失いかけていたのだが、同じオシリスレッドである十代がデュエルで勝つ姿や楽しむ姿を見て、自分が失いかけていたものを見失わずに済んだのだ。
「…………」
この観客席には彼等2人以外にも、もう1人のオシリスレッドが座っている。
その名前は早乙女レイ。惺少年の幼馴染である。
彼女はデュエルを観戦している最中に聞こえてきた、彼等の呟きには特に反応していなかった。反応しなかったのは、そういう意図があったとかではなく、単に彼女は考え事の真っ最中なのだ。
『亮様に告白するにあたって必要なものはなんだろう?
やっぱり……シチュエーションかな? ロマンチックな方がボクとしても良い。
そうなると、亮様の好きなロマンチックな場面はなんだろう? 海とかなぁ?
う~ん……亮様のそういうところは、未だにボクの手元には情報がない。
やっぱり当初の予定通り、一回亮様の部屋に忍び込んでみよっかなぁ…。
そうすれば、亮様の好きなシチュエーションとかがわかると思うんだけど…。
でも、そういう事したら惺が止めに入りそうなんだよねぇ……何か、ボクを見張ってる感があるし。何よりボクの乙女の勘が、忍び込むのなら惺を連れて行かない方が良いって予見してる。
だから、連れて行かない方が吉な気がする……よし、とりあえず惺は置いていく方向で考えてみよう。
そう考えると、どうやって惺の目を盗んで単独行動にでるかだけど―――』
早乙女レイの頭の中では、『どうやって、惺を振り切りつつ亮様の部屋に入るか』という課題で頭が忙しいのだ。
考えてる内容が、警察を振り切って、家宅侵入する泥棒が如くなのは問題だが……。
「ねぇ、レイ?
レイはアニキと惺君、どっちが勝つと……って、あれ? おーい、レイったら!」
「わっ!? い、いきなり何するんだよ!」
「な、何って……ただ肩を揺らしただけじゃないッスか?
それより、アニキと惺君のどちらが勝つと思うか、聞いたんッス」
いきなり自分の肩を揺らしてきた……もとい、乙女の肩に断りもなく触ってきた丸藤翔との距離を反射的に空け、彼を非難するが……話を聞き流した自分にも責任があると感じ、自分が座っていた席に座り直した。
そして、丸藤翔の質問に対する答えを考る……ことはせず、即答した。
「勝つのは惺だよ。
ボクに勝ったんだから、惺が勝つさ」
早乙女レイは十代の実力を知らない。故に比べ合いなど出来ない。
しかし、やはり自分に勝った幼馴染が負けるのは良い気分はしないのものだ。
だからこそ、早乙女レイは惺が勝つと思っている。
だが、その回答に丸藤翔と前田隼人は首を傾げた。
それも仕方ないことだろう、この2人は十代が有利と評価していたのだ。それと正反対の回答が出れば色々と疑問に思ってしまう。
「えっと……でも、最初からアニキが押してるよ?」
「そうなんだなぁ。
惺は逆に、壁モンスターで十代の攻撃を凌いでる最中だぞ?」
客観的に見た場合、2人の意見は完全に的外れという訳ではない。
現に、この会場にいる多くのデュエリスト達は『十代が有利』という意見だ。
「いや、まだ始まって3ターンしか経ってない。
今の状況じゃ、どっちが有利か不利なんて決めれない」
「そ、そうなんッスか?」
「そういうものさ。
それに、惺のデッキは後半になればなるほど強くなる。
壁モンスターに時間を掛けていたら、あっという間に逆転される」
早乙女レイ自身、あのデッキとデュエルしたからこそ分かる。
墓地が肥えた時の爆発的な火力は、目を見張るものがあった。
あの時のような火力が出れば、今の十代のモンスターなどひとたまりもないと言える。
「え、えっと……レイ?
実は惺君って、デュエルが強いんッスか?」
「惺は強いよ。
この学校の基準でいえば、惺の実力はラーイエロー以上らしい。
以上だから、ひょっとしたらオベリスクブルーぐらいあるかもよ?」
お互いに実力が不明な為、早乙女レイは昨日クロノス先生が言っていた事をそのまま伝えた。この方が、元から学園にいた2人により解かり易いだろうと思っての事だ。
その結果、丸藤翔と前田隼人は大きく驚くはめになった。目をお互い大きく見開き、開いた口が塞がらないといった状況だ。
「オ、オベリスクブルー……」
「と、とんでもない話なんだなぁ……」
2人は今、衝撃の事実を聞いて驚きと悲壮感がどんどんと募っていった。
それもそうだろう、この2人はお世辞にもデュエルが強いとは言えない。
もし強いのであれば、今の寮よりも格上の寮に住んでいるのだ。それが現状では最低ランクのオシリスレッドととなれば、言うまでもなくデュエルは弱い方に分類される。
それが今2人の置かれている状況なのだ。その状況下で、昨日編入してきたばかりの男子が型破りな実力を持っているとなれば、悲壮感もでてくるというものだ。
「で、でもアニキだって!」
「そ、そうなんだな!
十代は万条目や明日香さん達、オベリスクブルーの生徒に勝ってる。
実力は十代だって、オベリスクブルー級の実力はあるんだな!」
……しかし、そんな悲壮感を吹き飛ばす存在がこの2人には居る。
それは遊城十代。自分達にデュエルを通して色々な事を教えてくれた人物だ。
彼もまた、元祖オシリスレッドの型破りとも言える人物なのだ。
そんな彼に2人は希望を乗せ、早乙女レイに少なからずの対抗意識を燃やしていた。
……そして、2人の声は以外にも大きかったのか、ある人物を呼ぶこととなった。
「私がどうかしたの?」
3人が座っている観客席に来たのは、
このデュエルアカデミアにおいて、デュエルクィーンと呼ばれるほどの実力者である。
「あっ、明日香さん!
丁度良い所に来てくれったッス!」
「な、何? どうしたの?」
やけに勢いのある丸藤翔に困惑しながらも、彼女は話を聞いていく。
曰く、『アニキと惺君のどちらが勝つか』『アニキは強いッスよね?』など色々だ。
「レイは惺君が勝つって言ってるけど……。
明日香さんはどっちが勝つと思うッスか? ……アニキですよね!?」
「わ、わかったから一旦落着いて。
まずはそこの子と自己紹介させてちょうだい、話はそれからよ」
そう言いながら、早乙女レイの元へ歩み、両者は対面した。
この際、向きあった2人は目の前に居る人物の第一印象をこう位置づけた。
早乙女レイは『……大きい(胸が)』と天上院明日香を評価し。
天上院明日香は『……小さい(背が)』と早乙女レイを評価した。
「天上院明日香よ。
これからよろしくね?」
「此方こそよろしく。
ボクの名前は早乙女レイだ」
軽く両者握手を交わしたところで、天上院明日香は『さて』と呟いて、デュエルをしている2人を見ながら戦況を考える。
メタモルポッドの効果を発動したにも関わらず、攻めずにそのまま防御に徹する少年は、手札事故が起きていると考えられなくもない。しかし、今彼は十代に『ライフを削ってみろ』と挑発をしているのだ。余裕が少なからずあるに違いない。
だが、それは十代も同じだ。十代のヒーロー達は融合することでその真価を発揮する。
融合を使っていない状態でこの状況なら、十代に軍配が上がると評価し始める。
「まだデュエルは始まったばかり、だからどちらが勝つかなんてまだ分からないわ。
でも……融合を使っていない十代に、あの子がこのまま押されるようなら、十代が勝つでしょうね」
彼女の言葉に、丸藤翔と前田隼人は嬉しさのあまりハイタッチをし。
一方の早乙女レイは、面白くなさそうに彼女の言葉を聞いていた。
それもそうだろう、この場における意見の相対比率は1:3となってしまったのだ。
これでは、自分の考えが間違っていると否定されてる気分にもなる。
「……惺は押されてるわけじゃない。
あれは単に、惺のデッキが直に動けないから仕方ないことなんだ。
でもその代わり、動きだした惺のデッキは強い。これはボクが保証する。
だからボクには惺が負けるとは思えないし、そんな結果が想像できない。
逆に皆がどうして十代の方を押すのかが、ボクには理解できない」
若干棘のある言葉を言う早乙女レイだが、彼女とてまだ小学5年生。心までは大人びてはいないのだ。
だから、自分の考えが間違っていると否定されてると感じれば、周りの意見に反発する。
早乙女レイにとって『どちらが勝つか』という事にさほど興味はなかったが、このような状況になってくると、彼女自身も丸藤翔や前田隼人と同様に対抗意識が出てしまうのだ。
「編入したばかりの貴方は知らないでしょうけど、十代は強いデュエリストなの。
中等部で主席だったオベリスクブルーの万条目君を倒し、私にもデュエルで勝った。
他にも色々なデュエリストとデュエルして勝ってきた十代を、皆信頼しているのよ」
「そうッス!」
「そうなんだな!」
天上院明日香は十代を面白デュエリストだと評価している。
そして、それと同時に自分に勝ったライバルだと思っている。
自分に勝ったデュエリストが負けるなど、彼女自身それを望まない。故に、早乙女レイと同様な気持ちが彼女にもあるのだ。
『自分に勝ったのだから、こんなところで負けるはずがない』という気持ちが。
「ふ~ん……でも、貴女も惺の事を知らないでしょ?
惺はボクに勝った、前の学校で1番強かったボクに勝ったんだ。
当時のボクと今のボクの実力はたいして変わらない、ラーイエローぐらいの実力だった。
それでも惺は勝った……それは惺がデュエルモンスターズを始めていつ頃だと思う?」
「そ、そんな事急に言われても分からないわよ。
デュエリストになろうとする人は皆、子供の頃からデュエルモンスターズに触れてる。
デュエルモンスターズを始めていつ頃貴方に勝ったかなんて、分かるわけ―――」
「……1日」
天上院明日香の言葉を聞いていて、回答しないと判断した早乙女レイは、人差し指を立ててながら答えを言い放った。
だが、その『1日』という単位の言葉が何を示しているかなど、天上院明日香も丸藤翔も前田隼人も分からなかった。ただその言葉に首を傾げるしかできなかったのだ。
「惺はたった1日でボクに勝ったんだ。
それまでの惺はデュエルモンスターズに興味がなかった。
当然ルールも知らないし、デッキも持っていないかった。
それなのに、惺は始めてたった1日でボクに勝ってしまったんだ」
「なっ!?」
「「えぇ!?」」
早乙女レイの説明を聞き、3人は仰天した。
それもそうだろう、ラーイエロークラスの人間はそれなりの実力はある。間違っても初心者に負けるほど弱くわない、むしろ勝って当然の話なのだ。
それなのに、そのラーイエローほどの実力を持っていた早乙女レイに、あの少年は勝ったと言っているのだ。しかも、それがデュエルモンスターズを始めて1日という短時間でやったとなれば、仰天してしまうのは当然といえるだろう。
「……まぁ、デッキの相性の問題もあったのかもしれない。
心のどこかで、惺が初心者だからって油断していたのかもしれない。
それでもボクは本気でデュエルをして、惺に負けたんだ……」
早乙女レイ自身、あの時のデュエルを振り返ると悔しい気持ちになる。
あの時の手札は悪くなかった。けして初心者の惺に負けるものではなかったのだ。
それなのに自分は惺に敗北してしまった……。
そのことが悔しくて、惺の宿題を手伝う際にジュースを自棄飲みしたことを未だに覚えているほどなのだ。思い出すと悔しくて、自然と少し顔を顰めてしまう。
そんな早乙女レイの表情を見て、3人はこの話が本当なのだと理解した。
そして理解した後、3人の目線の先は赤帽子を被った少年へと移動する。
「ラーイエロークラスに1日でなんて……」
「アニキ、大丈夫かなぁ……」
「ちょっと、不安になってきたんだなぁ……」
先ほどの話を聞いて、3人の中で十代が勝つという予想はグラつき始める。
十代は苦戦を強いられるのではないか、もしかしたら負けてしまうのではないか、という不安がよぎってしまうのだ。
そんな不安を抱きながら、彼等のデュエルを息を呑んで見守るのだった。