俺のデッキの末端価格は840円   作:MrM3

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第2話

今の時間は12時32分。お昼の給食も終り、お昼休みの時間帯である。

小学校の昼休みといえば外でサッカーやキックベース、体育館においてはバスケなど色々と遊びだす年頃だ。しかし、この学校においてはそういった運動よりもカードゲームをする人口の方が比較的に多い。現にこの5-3組においてもカードゲームをしている人口は8割強だ。

 

「坂本、勝負しようぜ」

「あ、俺もやるやる」

「僕もやるよ」

「俺も参加するぞぉー」

 

俺の机に4人の生徒がやってくる。

一般的な黒髪のヤツもいれば、赤髪、茶髪などもいる。昼休みの俺の机には大抵この4人が遊びにやってくる、なのでいつもコイツ等と時間を潰ことが多い。

因みにレイは、女友達の机でデュエルをしている。

 

「そんじゃあ、始めるぞ? 皆」

 

俺の掛け声で皆は一斉に自分の手札を確認して、これからの戦略を練っていく。

どうやって他の4人を蹴落とし、一人勝ちするかの道筋を立てているのだ。

だが、その考えとは裏腹に4人は手札を見て顔を顰める……あまり良くない手札のようだ。

そんな4人にお構い無しと言わんばかりに、俺は自分の手札からカードを切る。

 

「スペ3、4、5、6、7、革命。返せる? 返せないよね?

じゃあ、8流し2回と11三枚出しで上がりだ」

 

勝負は一瞬にして決した……まさに瞬殺である。

 

「「「「おい、なんだそりゃあぁ!」」」」

 

俺の上がり宣言と同時に、皆が一斉にその場から立ち上がる。

先ほどまでの難しい顔はどこへやら。

 

「大富豪ワンキルだ」

「いや、初手でそんな都合よく揃わないよ」

「てか、昨日も初手で揃えたよな? イカサマか?」

「いや、違うって。さっきちゃんとシャッフルしたろ?

今日も運が良かったからだっての……いや、今日は最悪だったなぁ」

 

4人が疑わしい目をこちらに向けてくる中、俺は机の中に入れている漢字プリント計12枚を取り出す。1~4限目の間に3枚はなとか終ったが、まだ先は長い。

それを見た4人は、今度は哀れんだ視線を送ってくる……少しは同情してくれるようだ。

 

「いや、今は漢字プリント(コイツ)の存在は忘れよう。

中村先生のあの外道な行為は今に始まったことじゃあ~ないしな!

折角の遊びなんだ、こんなモノ家に帰ったら幾らでもやる時間はあるさ」

 

そう言って俺は漢字プリントを机の中の奥底に追いやる。

あんなものを見てたら憂鬱になって、楽しいものも楽しくなくなる。

そう思った俺は漢字プリントの存在を頭から消去し、大富豪を楽しむ事にするのだった。

 

 

 

 

学校も終り、今は下校時刻。

うちの学校は生徒の安全を考えて集団登校を強制しているが、下校時は集団下校を強制することはない。なぜなら低学年と高学年の時間割が違うからだ。

高学年になると6時間目まで授業が毎回のようにあるのだが、低学年は大体4時間目や5時間目で帰ることが多い。

早く家に帰れる低学年を時々羨ましく思ってしまうが……まぁ、駄々を捏ねてもしょうがないだろう。

 

「なぁ、レイ。漢字のプリント手伝ってくれ」

 

今は家に向かって帰宅中……レイも一緒だ。

学校が終るのが同じ時間なのと帰る方角が一緒というのが理由で、俺達は一緒に下校することが多いのだ。

 

「いやだよ。あれは惺に対してだされたものでしょ?

ボクや他の子だって、中村先生から宿題出されたの知ってるよね?」

 

「いや、だってお前の出された宿題って漢字プリント1枚じゃん。

俺もう5枚も片付けてるんだぜ? それなのに残りは後7枚……絶対理不尽だろ」

 

あの中村先生は一回PTAに訴えられるべきだと俺はつくづく思う。

だって、宿題のプリント持ってくるの忘れたぐらいで6倍の量のプリントを普通渡すか?

そして、その事に抗議したら今度は倍プッシュって……そんなんだからまだ独身なんだよ、まったく。

 

「その理不尽を招いたのは、惺が寝坊したのが原因でしょ?

まぁ、惺がボクと一緒に『亮様デュエルハイライト』を見たいっていうなら考えるけど?」

 

「……ゴメン、やっぱいいわ。

宿題は一人でやらんと意味無いしな」

 

こちらを見て言ったレイの条件は、俺に耐えれないものだった。

レイのさきほど言った『亮様デュエルハイライト』は題名通り丸藤亮……通称カイザーと呼ばれている人物のデュエルシーンが見れるレイ特製のDVDだ。

小学生であるレイが何故、動画編集出来たかは分からないが、本人曰く『恋する乙女に不可能はない!』だそうだ。

因みにあのDVDを一回だけ観た事があるが……まぁ、もう二度と観たくはないなと思える代物ものだった。

あのDVDは、デュエルの内容よりも丸藤亮の姿や顔が重点的に動画として120分間も流れる……。丸藤亮の事を好きなレイなら兎も角、ゲイ属性を持ち合わせていない俺にとってあのDVDは拷問以外の何ものでもない。

 

「遠慮とかしなくてもいいよ?

惺だってもう一度『亮様デュエルハイライト』観たいでしょ?

亮様が華麗に勝つ姿や凛とした姿が観れるんだよ……はぁ~もう、サイコーじゃない!

それに観終わった後はちゃんと惺の宿題に協力するし、惺にとって一石二鳥でしょ?」

 

レイは丸藤亮の事になるとテンションがハイになり、目がキラキラと輝く時がある。

まさに今の状態だ……俺はこの状態のことを『恋乙(こいおつ)モード』と銘々しているのだが、このモードに入るとレイはかなり自己中化する。

あっちは悪気が有ってやってるわけじゃないので、暴力を振るってくるより厄介なモードだ。正直このモード中はレイには関りたくない。

 

「……いや。まぁ……その…俺デュエルのルール知らないし、結構です」

 

「だったら丁度いいじゃない!

亮様のデュエルを観てれば惺もデュエルのルールをお覚えれるし、デュエリストにだってなれる! あッ! だったら一石三鳥だよ! ふふふ、良かったね! 惺!」

 

レイは無邪気に笑う、それはそれは嬉しそうに……。

恋乙モードの恐ろしいところは、この無邪気な笑みにある。

無邪気な笑みなだけに、断るのに相当な勇気と精神力が要るのだ。

迷惑を掛けているのはあっちのはずなのに、罪悪感は此方に積もっていくこの状況……ストレスの急上昇が半端ない。

 

「あ、あはは……ハァ……。

ん? そう言えばレイ、どうして俺と一緒に観るんだ?

こういうのって一人で観た方が良いんじゃないか?……うん、絶対そうだ!」

 

「う~ん、確かにそうなんだけど……もう、20回以上一人で観ちゃったし。

今は亮様の素晴らしさを一人でも多くの人に知って貰おうかなぁ~って思ってるんだ」

 

「へ~具体的には?」

 

「さっき思いついたのは、亮様ファンクラブを設立してボクが会長で惺が副会長になるっていうのを思いついたんだけど……惺って亮様の事あまり詳しく知らないでしょ?

だから今回は『亮様デュエルハイライト』に加えて、ボクが亮様の素晴らしさを解説してあげるよ。そしたらきっと、惺も亮様のファンになってると思うんだ!」

 

……何…だと? DVDを観る+解説=丸藤亮のファンになる?

ヤバイ……レイのヤツ俺を洗脳する気だ。

だって普通に考えて、男があんなDVDとレイの解説程度でファンになるなんて有り得ない。レイに人を洗脳するほどの力があるとは到底思えないが『恋する乙女に不可能はない!』と言って、動画編集したぐらいだ。洗脳も出来そうで怖い。

気が付いた時には、亮様大好きなゲイ野郎になってる可能性は否定できない……。

……よっし、全力で断ろう! 主に俺の性癖の為に。

 

「レイ、俺が丸藤亮のファンになるなんて有り得ない。

だから俺を丸藤亮で染めようとするな。後ファンクラブも勘弁してくれ」

 

「えぇー!? 何でそうなるのよ惺!

認めないよ! 折角頭の中でファンクラブでやる事を色々考え付いたんだから!」

 

「お前、中村先生並に横暴だな! 

そんな人権無視な考えが通るわけないだろうがァ! 却下だ! 却下!」

 

レイの横暴な発言に俺は待ったを掛ける。

ここで強く言っておかないと、レイは何をしだすか分かったもんじゃない。

コイツの行動力は3年間一緒に居た俺でも予想できない程に恐ろしいものなのだから。

 

「……分かったよ。

惺がそこまで言うのなら……分かった」

 

「そうか……分かって―――」

 

「明日のこの時間にデュエルで決着をつけるよ!

ボクが勝ったら惺を亮様ファンクラブの副会長にする! 絶対にしてみせるから!」

 

レイは闘志に燃えた瞳を向け、そして言いたいことを言って走り去っていった……。

 

「あ、お、おい!」

 

レイが逃走するのを阻止しようと手を伸ばしたが届かず、今は無情にも宙に浮いている。今の俺は傍から観たら、女に逃げられた男に見えるのだろうか?……いや、そんなことはどうでもいい。問題なのはレイの発言だ、レイは『明日のこの時間にデュエルで決着をつける』と宣言していた。

多分レイの言ったデュエルってのは、デュエルモンスターズの事を指しているのだろう。レイがデュエルリストだという事を考えれば、この位は容易に想像がつく……つまりだ。

 

「俺……レイとデュエルする展開になってんの?

ルールも知らず、デュエルモンスターズのカードを1枚も持っていない俺がか?」

 

バカだろ……アイツ……こんなの無効もいいところだ。

この状況を西部劇で例えた場合『3数えたらお互いに打ち合うぞ』的なので、一方が銃を持っていないのと一緒だ。勝負にならん。

こんな無効じみたものに時間を割くより、帰ってさっさと宿題を終らせた方が賢い。

 

―――ピピッ!

「ん? メール……レイからだ。

えぇ何々『デュエルから逃げれば、中村先生にある事無い事言いふらす』」

 

……あの野郎、先手打って来やがった。

メールの内容は俺を脅す、脅迫メールそのもの。間違いなく、デュエルから逃げれないようにする算段なのだろう。まったく、退路を先に潰してくるとはやってくれる。

しかし……残念だったなレイ。この内容の脅迫メールでは脅しにはならないんだよ。

何故ならレイが中村先生にある事無い事言いふらすのなら、俺も同じ事をすればいいのだ。

流石のレイも、あの中村先生を敵にまわしたくはないはずだ。

 

「『それなら、俺もお前のある事無い事を言いふらす』……送信っと」

 

――ピピッ!

「速すぎだろ……返信速すぎだろ。送信から4秒しか経ってねーよ。

えぇ何々『だったらコレ、バラすよ?』……ムービー撮影? 何が映ってんだ?」

 

『中村先生のあの外道な行為は今に始まったことじゃあ~ないしな!』

 

再生したムービーには大富豪をやっているグループの一人が、とんでもない暴言を吐いてる姿が映されていた。その顔といい、発言といい間違いなく自分自身である。

この動画はレイ本人が俺に気づかれないように盗撮したものに違いない。逆に、レイ以外にこんなことするヤツは居ない。居てたまるか。

とりあえず、レイが盗撮した事は後々文句をいうとして……ヤバイな。

こんなものを中村先生が見たらどういう反応をするだろうか? 

 

『坂本君? 先生はビックリしてるんですよ?

ふふふ~外道ですか、まさか坂本君が先生の事をそんな風に思ってるなんてショックです。

なので先生は坂本君に大サービスとして! 他の子の15倍の宿題をあげます―――毎日』

 

あぁ……凄い良い笑顔で、とんでもないセリフを言ってくるのが想像できてしまった。

自分で想像しただけで、心無しか足が震えてくる……ホントにこんな事態になったら、俺は泣くぞ、絶対に。

 

「『分かった、逃げないからそのムービーを消せ』……送信」

 

――ピピッ!

『明日、惺がデュエルでボクに勝ったら消すよ。

学校内で一番強い、ボクに勝てればだけどね(笑)』

 

「…………」

 

レイは俺がデュエルモンスターズの未経験者である事を知った上で、このムービーの削除条件をデュエルの賞品とした。

そこから導き出されるレイの思考は唯一つだ。

レイはムービーを消さずに俺の弱みを握り続ける気に違いない。あのムービーさえあれば、俺はレイの頼みを聞かざるをえない……まったく、恐ろしい事に頭が良く回るヤツだ。

ファンクラブの副会長、そしてこのムービー……負けられない理由が増えた。

もう、こうなれば勝負から降りることは出来ない。降りれば今後の学校生活、そして俺の今後の人生は悪夢じみたものになるだろう……。

 

「……取り合えず、カードを購入するか」

 

レイとデュエルす為には、まずカードを揃えないと話にならない。

ルールは家のパソコンで検索すれば大体の事は把握できるが、カードに関してはお店が閉店したら購入出来なくなる。

ただ懸念として財布の中身が840円しかないのだが……大丈夫なのだろうか?

いや、きっとなんとかなるはずだ! そうさ、諦めなければきっとレイにだって勝てる!

 

方向性が決まった俺は走る、カードショップへ―――

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