十代さんとのデュエルが終了し、矢ヵ城先生の授業は終わった。
本来なら、今日は矢ヵ城先生の授業が終れば帰れる時間割なのだが、生憎と今日は全校集会がある。その為、全校生徒は全員集会する予定となっている。
集まる場所は、このデュエルアカデミアにおいて一番大きな教室である101教室だ。
この教室は座席も多く、教卓の後ろには巨大スクリーンも完備されている。
その座席と教卓の間には、全校生徒が集まっても問題ないほどのスペースが用意され、俺達1年勢はその場所に既に並び終えている。2・3年生については先生が呼びに行ったので、もうすぐ来るとの事らしいが……それでもやはり数分は掛かりそうだ。
『おい、アイツ十代に勝ったヤツだよな?』 『所詮、オシリスレッドだろ?』
『あの赤い帽子を被ったヤツだろ?』 『編入生はオシリスレッドからなんだって』
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2・3年生を呼びに行って、この教室には先生が不在だ。
今なら会話をしても怒られる事はないし。こういった場での待ち時間は、退屈しのぎに周囲の人と会話したい気持ちも理解できる……しかしだ。
「何故俺が会話のネタにされているんだ……?」
目立たないように過ごすつもりが、あのデュエルの一件で目立ってしまった。
これは予想外だ。俺自身、大勢の前でデュエルをしたら少しは目立つだろうと考えていたが、こんなにも目立ってしまうのは予想外過ぎだ。
「そりゃー、あんな凄いデュエルだったんだぜ?
負けたのは悔しいかったけどさ……それでも、サイコーに楽しいデュエルだったんだ。
あれを見て、皆惺とデュエルしたがってるんだって!」
「いや、確かに楽しかったけど……。
何か……デュエルしたがってるというより、十代に勝った事が原因じゃないか?」
隣でケラケラと笑っている十代さんにツッコミを入れておく。
このツッコミに対し、近くに居た翔さんと隼人さんは『うんうん』と頷いている。
どうやら、この2人は俺の意見に賛同らしい。
「アニキは自分の知名度を少しは認識しとくべきッス」
「翔の言う通りなんだなぁ。
十代は良くも悪くも1年の中じゃあ、5本指に入るぐらいの有名人だぁ。
デュエルの腕もそうだけど、十代とクロノス先生のやり取りを知らない人はいないぐらいなんだなぁ」
「え? オレってそんなに有名人だったのか!?
ん~こいつは参ったぜ……急にサインとか求めれたらどうすれば良いんだ…。
まだ自分のサインとか書いたことないのに―――」
「いや、アニキの考えてる有名人と僕達が考えてる有名人は別ものッス。
アニキはもっとこう……何かが起こったときによく関わってるとか、よく事件に巻き込まれてるって感じッスよ」
翔さんのツッコミに、隼人さんは頷き。十代さんは『ん?』と首を傾げている。
会話を聞く限り、この人達の間で認識の違いが起きたのだろう。
雰囲気的に翔さんの認識が正しいようだが……まぁ、その事は一旦置いておくとして。
俺がこの会話を聞いていて気になったのは、隼人さんの話だ。
十代さんのデュエルの腕が良いから有名人になったのは頷けるが、クロノス先生とのやり取りが有名って何だ?
あの先生はオシリシレッドをアンチしてる人だ。そんな人とオシリスレッド生である十代さんとに、接点があるとは考え難いんだが……?
「なぁ。十代とクロノス先生のやり取りって何なんだ?
クロノス先生って、オシリスレッドの生徒に良い印象を持ってない人だろ。
そんな人と十代のやり取りが、何で有名になるんだ?」
「あぁ、それはな惺…………えぇ~っと……。
う~んっと…………何で有名なんだ?」
答えてくれるのだろう、と十代さんの言葉を待っていたのだが……逆に質問が返って来た。
その対応に、俺の体は"ガクッ"と傾き。翔さんや隼人さんにいたっては、その場でズッコケてしまった。なんというボケ力であろうか……。
唯一十代さんのボケに反応しなかったのは、俺の後ろに並んでいるレイぐらいなもんだ。
何やら、顎に手を置いてぶつぶつと呟いているので、何か考え事の真っ最中なのだろう。
考え事の邪魔をすると迷惑になるから、レイの事はそっとしておくとしよう……。
「もうッ! わからないんだったら言わないで下さいよ、アニキ!」
「悪りぃ、悪りぃ。
それで、どうしてオレとクロノス先生のやり取りが有名なんだ?」
「ほら、クロノス先生にとってアニキは目の仇じゃないッスか。
目の仇にする理由は多分、アニキの入学試験のデュエルをした時に負けた逆恨みなんじゃないかって僕は思うんッスけど……。
その目の仇にされてるアニキとクロノス先生が授業中に話し出すと、クロノス先生があれこれ言い始めるじゃないッスか?
まぁ最終的にクロノス先生が墓穴を掘って、皆に笑われ事が多いだけど……。
そのやり取りが可笑しくて、一年生のあいだで有名なんッスよ」
クロノス先生に目の仇にされてるって……しかも、その理由がデュエルに負けたからってのは大人気ないと思うぞ、クロノス先生ぇ。
しかも自分から墓穴を掘って皆に笑われてるって……もはや狙ってやってるレベルではないか? もし仮に狙ってやってるのなら面白そうだ。
今度クロノス先生の授業があった時は、十代さんとの絡みい期待してみるとしよう。
「それにしても、惺はデュエルが強かったんだなぁ。
十代に勝ったデュエルリストって、この島だとカイザーぐらいしかいなかったんだぞぉ」
「隼人君の言う通りッスよ。
しかも、デュエルモンスターズを初めて直にレイに勝ったらしいじゃないッスか。
いきなり経験者に勝つとか、僕には無理ッス……一体どんな裏技を使って強くなったんッスか!? 僕に教えてほしいッス!」
そう言って、翔さんはぐいぐいと顔を近づけてくる。
はっきり言って俺と翔さんの身長はあまり変らない、同じぐらいだ。
そんな身長の者同士が顔を近づけるとだな……かなり危ないんだ。主に俺の唇が。
「近い、近いッ!
離れろッ、俺にそっち系の趣味はない!
欲求不満なら、そっち系専門である堂本さんのところに行って来いッ!」
何故翔さんが、俺とレイのデュエルを知っているのかを気にしてる場合ではない。
今は顔を近づけてくる翔さんを両手で押させつけるので手一杯だ。この両手の力を弱めれば最後、何かしらの間違いで、俺の唇が翔さんに奪われる可能性がある……。
冗談ではないッ、このままでは既成事実で本当に俺がそっち系の人物だと広まるじゃないか! 堂本さんの仲間入りではないか! なりたいのなら翔さん1人でなってください!
「あら~ん?
私を呼んだかしらぁ~、坊や達ぃ?」
後ろの方から、恐怖ボイスと共に此方に歩み寄ってくる足音が聞こえてくる。
セリフといい、話方といい、間違いなく堂本さんなのだろう。
俺にとって堂本さんは一種の毒に該当しなくもない、体が少し震え始めてるのがいい証拠だ。間違いなく拒絶反応が起きてる。
しかし、世の中には毒をもって毒を制すという言葉がある。毒も使い方次第では人に良い影響を与えることも出来るのだ。まさに今がその時なのである。
「あっ、堂本さん。
この水色の髪をした少年、翔君が堂本さんに興味があるそうです」
「はぁあ!? ちょっと惺君! 何言ってるんッスかァ!?」
俺の発言に翔さんは慌て始める。まぁそれも無理もない事だろう。
なんたって堂本さんが、手をワキワキと動かしながら近寄って来ているのだから。
「私に興味を持つなんてぇ、可愛い子ねぇ?
さぁ、こっちにいらっしゃい。遠慮はいらないわよぉ~」
「あ、あぁ……」
今や翔さんと堂本さんの周りに居た人は、この2人から距離を置いて関わらないようにしている。その結果生み出された円状のフィールドに、翔さんと堂本さんは対立している。
一見コロシアムみたいな状況だが、翔さんは堂本さんの独特な気迫に押されて後ずさりしている。恐らく、逃げ出したい気持ちに体が反応しているのだろう。
そんな翔さんの行動を見て、堂本さんは何を勘違いしたのだろうか?
『なるほどねぇん』と言って、翔さんとの距離をさらに縮めた……。
「貴方は追い駆けるよりもぉ、追われる方が好きなのなねぇん!
だったらぁ、私が捕まえて……あ・げ・る」
「わ、ワァッ――!? 誰か助けてェー!!」
近寄ってくる堂本さんに恐怖した翔さんは逃走した……。
「あぁん、待ってぇ~、翔君~」
そして逃げ出した翔さんを追い駆けようと、堂本さんも走り出す……女の子走りで…。
うむ。この2人のセリフを目を瞑って聞くと、夕日のビーチを想像できなくもない。まぁ、そんな想像はしたくもないのだが……何となくイメージ出来てしまうのが恐いところだ。
「翔って足早かったんだな。
結構運動音痴なとこもあったんだけど……隠れて筋トレしてたのかな?」
「いいや。違うと思うぞ、十代。
多分あれは、翔が死に物狂いで走ってるからだと思うんだなぁ……」
友達であるはずの十代さんと隼人さんは、翔さんを助けることはせず、翔さんの走る速さを分析している。恐らくこの2人も堂本さんには関わりたくない人種なのだろう。
まぁ、今の翔さんの状況を見て、それでも尚堂本さんと関わり合いたいと思う人間など、
極一部の人しかいないはずだ。関わったら、関わったらで、今の翔さんのポディションに自分がなるかもしれないのだから……。
「ワァッー!?」
「うふふッんー!」
この教室内に2人の声が木霊する……が、その声はしばらくして聞こえなくなった。
その理由は簡単だ、2人がこの教室から出て行ったからである。
ほぉ。全校集会があるというのにさぼるとは、中々に太い神経を翔さんはお持ちのようだ。
まぁ、全校集会なんて、1人や2人居なくても先生に気づかれないから問題ないだろうけど。
そして、あの2人が出て行って1分後。入れ替わるように2・3年生が入室して来た。
その2・3年生を先導しているは先生……ではなく、この学園でカイザーの異名を持つ人物……そう、丸藤亮だ。
カイザーが先導して一歩また一歩と階段を降りるに連れ、俺は息が苦しくなっていく。
その理由は、丸藤亮から発せられるオーラとか威圧感とかではない、俺の後ろに居るレイが原因なのだ。
コイツはさっきから、興奮を抑えようと俺の襟を後ろからグイグイと引っ張ってくるのだ。
『やめろ』と言いたいが、苦しくて上手く発音出来ず……。
引っ張ってくる手を外そうと試みても、位置の関係で上手く力が出ない……。
もはやされるがままの状態なのだ。
「(さ、惺! ど、どうしよう!
本物の亮様だ! 夢にまで見た生の亮様だッ!)」
―――グググッ
レイよ……お前は俺を殺す気なのか?
何で引っ張る力を更に強めてくるんだよッ! ホントに息出来なくなるだろうがッ!
このままでは危険だと判断した俺は、レイを振り外そうと体を振り動かす―――はずだったのだが、動かない。ビクともしない……。
「(あぁ……今から握手しに行っても大丈夫かな?
でも、バレちゃったらマズイし……あぁ、もう! どうしよう! どうしよう!)」
―――グイッ、グイッ
更に首が絞まっていくに連れ、意識がどんどんと薄れていく。
だが、薄れ行く意識の中で俺はある事を思い出した。それは今着ている制服の構造に関することだ。
この学校の制服は第一ボタンを外せば、ほぼ羽織った状態になるのだ。
その事を思い出した俺は、急いで第一ボタンに手をかける。内心『よくボタン外れなかったなぁ』と、ボタンを縫い付けている糸の強度に関心しながら、俺はボタンを外すことに成功―――しなかった。
引っ張る力が強すぎて、上手く外せないッ!
クソッ! も、もう意識が……持たんぞ…。
「(でもやっぱり、ここは我慢だよねッ!
もし告白して亮様と両思いになれたら、握手なんて幾らでも出来るもん!
はぁ~。亮様と両思いかぁ……そうなったらボクは……キャッ~! どうしようッ!!)」
―――ググッ、ググッ、グィッ、グィッ!
……………。
「(……あれ? 何か急に重くなった?
惺? お~い、惺。惺ってば!……寝ちゃったのかな?
立ったまま寝るなんて、惺も器用な事するなぁ……)」
………………。