俺のデッキの末端価格は840円   作:MrM3

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第21話

「…………はっ!」

 

俺の意識が覚醒した。

ぼやける視界でキョロキョロと周りを見渡して、自分の状況を把握してみる。

だが残念な事に、俺の視界には白色という情報しか入ってこない……何でだ?

 

「おっ、気が付いたみたいなんだなぁ」

 

頭上に聞こえてきた声に反応し、見上げてみる。

するとそこには、此方を見下ろしてる隼人さんの横顔があった。

……成る程。一面真っ白に見えた視界は、隼人さんの背中の制服の色だったのか。

そして、何で俺が隼人さんの背中を見れたかというと、おんぶされていたからか。

 

「ありがとう、隼人。

もう大丈夫だから、降ろしてくれ」

 

「わかったんだなぁ」

 

隼人さんに降ろしてもらい、辺り一帯を見てみる。

どうやら此処は、デュエルアカミアの校門のようだ。

校門に数名の学生が行き来してることを察すると、もう全校集会は終わったのだろう。

 

「それにしても、惺はよく立って寝れたんだなぁ」

 

「……ん? 寝てた?」

 

立って寝た? 俺が?

そんな記憶は無いが……でも、知らない間に全校集会が終わってる。

本当に俺は立って寝るなどという荒業をやってのけたのだろうか?

 

「そうだぞぉ? 惺は全校集会の間ずっと寝てたんだなぁ。

結構凄い特技だと思うけど、あんまりやらない方がいいぞぉ?

おれと十代が見てたけど、寝てる惺の体をレイが支えてあげてたんだなぁ。

2人とも体格が一緒だから、レイの負担は少なくなかったはずだぁ。

それをレイが頑張ってずっと支えてあげてたから、後でレイにお礼言っとけよ?」

 

「……レイが…」

 

隼人さんの話を聞く限り、俺はレイに感謝しなければならないのだろう。

しかし、しかしだ。何故か、レイに感謝しなくても良いような気がする……。

例えるなら、1-1の答えが0になるように。レイが俺の体を支えていた事を1とすると、それを打ち消す-1があったような気がする……。

気のせいか、首元がヒリヒリと痛むし。制服の襟がしわくちゃになってる。

絶対なにかあったと思うんだが……………………うん?

 

あれ? なんか思い出してきたぞ?

レイに襟を引っ張られて、俺は意識を失ったんじゃないか?

……だよな、うん。間違いない。

そうでないと首の痛み、そして襟のしわくちゃになった理由が説明できない。

 

あの野郎……。そうだとしたら、1に対して-3を付けてもいい位の話ではないか。

今回の事に文句を言って。その後、アイツの目の前で好物のベルギーサンダーを食ってやる。欲しいと言ってもあげず、目の前で食い尽くしてやる。

よし、そうと決まれば早速……って、ちょっと待てよ。

そう言えば、レイは何処だ? 後、十代さんも何処に行ったんだ?

 

「隼人、レイ達は何処だ?」

 

「レイなら、おれに惺を任せてどっか行っちゃたぞ?

十代はレイの様子が気になって、後を追っていったようだけど……」

 

レイが1人でどこかに行った?

この学園でアイツが単独行動する理由なんて限られぞ?

トイレ? いやいや。もしそんな理由だったのなら、十代さんは今頃一緒に居るはずだ。

他に考えられる事と言えば…………丸藤亮関係か?

でもこんな時間に人目を盗んで、丸藤亮に会うなんて無理だ。

そうなると……まさかとは思うが、本当に部屋に侵入しに行った……か?

 

「ごめん、隼人。

俺、ちょっとレイを探してくる」

 

「あっ、おい」

 

優しいそうな隼人さんのことだ。

俺がレイの事を探しだすと言ったら、協力すると言いはじめるかもしれない。

だが、今回はその優しさは不要だ。これはレイが男装をしているという事実を知ってる者でないと任せれない。レイが下手を打ってる最中に出くわしたら、アウトだからだ。

故に今回は隼人さんを置いて、俺は駆け足で急がなければならない。

隼人さんには申し訳ないが……去らば!

 

 

惺少年がオベリスクブルー男子寮を目指し始めた頃。

彼の予想通り、早乙女レイは丸藤亮の部屋に侵入していたのである。

侵入方法がベランダに接していた木を登り、侵入するという原始的なものだったが……侵入できてしまったものはしょうがない。オベリスクブルー寮のセキュリティーが甘かっただけのことだ。

 

「これが亮様の部屋……これが亮様の香り…」

 

早乙女レイは何を思ったのだろうか?

部屋の中央で深呼吸を数回し、満足そうに微笑んでいた。

 

「えっと……どこかなぁ?」

 

そして、今回侵入した最大の目的を果たそうと辺りを物色し始める。

ベットの近くにある引き出しを手始めに探り、あるものを手に取った……。

 

「亮様のデッキ……」

 

丸藤亮が愛用しているデッキ。

それは早乙女レイにとって、とても魅力的なモノだ。

なにせ、丸藤亮はデュエリストであるが故に、デッキに信念と愛着を持っている男だ。

とどのつまり。このデッキは、丸藤亮の思いが詰まったお宝とも言えるモノなのだ。

頬に当てて、少しでも丸藤亮の思いや存在を嚙み締めたい衝動に駆られる……が、早乙女レイはそれをしない。

何故なら、デュエリストにとってデッキとは命にも等しい存在なのだ。

その大切なデッキを自分の欲で汚してしまうのは、丸藤亮への侮辱になると彼女は思い、自制したのだ。

 

「ボクの目的は、亮様が好きなシチュエーションのヒントを探すこと。

亮様の思いが詰まったデッキは名残惜しいけど……ん?」

 

デッキを元の場所に戻そうとした時、ベットと引き出しの間に何か布のような物が落ちているのを早乙女レイは発見した。

『なんだろう?』と興味本意にそれを手に取った、まさにその瞬間である。

 

「何してんだ、レイッ!

そんなことしてたら、ノースのスパイと勘違いされるぞ!」

 

自分が侵入したベランダから誰かが入ってきたのである。

レイに引き続き侵入して来たのは、早乙女レイを追って来た十代だ。

ベランダでレイの一連の行動を密かに見ていた十代は、彼女が今度行われるデュエルアカデミアノース校との交流試合の代表に選ばれる有力候補生、丸藤亮のデッキを調べに来た

"スパイ"というレッテルを貼られかねないこの状況を止めに来たのだ。

 

「そんなんじゃない!

ボクはそんな事、絶対にしないッ!」

 

早乙女レイは十代の突然の登場に焦ったが、彼の言葉を聞いて怒りを覚えた。

なぜ自分がそんな事をしなければならないのだと、ふざけるな! という意味を込めて立ち上がり、十代を睨み付けた。

 

「だって、レイが今左手に持ってるのはカイザーのデッキだろ!

そして右手には……えっ、な、何でそんな物もってるんだよ!?」

 

十代の左手に対する異常な反応を見て、早乙女レイも自分自身の右手を見てみる。

彼女の手には布が握られていた。そう、青色の布だ。

その形状は、ズボンの裾を大幅に縮小させた形となった物のだ。

世間ではその布をこう呼ぶ……トランクスと。

 

「キャッー!?」

 

早乙女レイは恥ずかしさのあまり叫び、左手に持っていたデッキをベットの上に投げ、さらに右手に持っていたトランクスを十代に投げつけ、逃げるようにベランダから逃走した。

 

「えっ、今の声……あっ、おい!」

 

投げつけれたトランクスが顔に見事命中し、視界を奪われた十代は早乙女レイを逃がしてしまった。

急いで後を追おうと、視界を遮っていた物を掴んで放そうとした、その時である。

騒ぎを聞きつけた丸藤亮と、近くに居た3人組が部屋に入ってきてしまった……。

 

「ッ、お前はオシリスレッドのッ!」

「カイザーさんの部屋で何してやがる!」

「……あっ、おい、デッキがあんなところに!

しかもそれだけじゃない、今アイツが手に持ってるのは……ト、トランクスだッ!!」

 

「「何ッー!?」」

 

「…………」

 

この部屋の状況と十代が今手に持つ物を総合的に考えると、かなりマズイものになる。

デッキのことはノース校のスパイとも取れるし。今手に持っているトランクスについては、どう弁解しても誤解を解くのは難しい。

3人組みは十代を確信犯として、黒と判断。

丸藤亮は……流石にこの状況が予想外だったのか、親指と人差し指を目尻に当てて、十代が黒か白かを考え中だ。

 

「お、おじゃましましたぁー!」

 

この状況のマズさを悟った十代は、逃走を試みようとベランダに乗り出す―――しかし。

 

「逃がすかッ!」

「ノースのスパイめッ!」

「この変態野郎ッ!」

 

「「「職員室に突き出してやるッ!」」」

 

十代を逃がすまいと、3人組は十代の制服を掴む。

そして職員室へ向かうべく、十代を引きずってドアの方へ進んでいく。

 

「違うんだよ……誤解なんだってばぁ……。

お前等、少しはオレの話を聞いてくれよぉ……」

 

「ふんっ、勝手に人の部屋に忍び込んで!」

「カイザーさんのデッキを調べただけでなく!」

「トランクスまで盗むような変態を――」

 

「「「信用できるかッ!!」」」

 

十代の言葉に聞く耳を持たない3人組は、ヅルヅルと十代の体を引いて行く。

ここまでの経過を見てる者なら、十代は悪くないと評価するのだが……何せタイミングが悪かった。もはやこの3人組みから見た十代の信用はゼロに近い。聞く耳を持たないのは当然と言えるだろう。

このまま誤解されたまま職員室に連行されれば、十代を待つのは退学という未来しかない。

 

「……お前達、十代を放してやれ。

そいつは何もしていないはずだ、此処に入ったのも何かの間違いだろう」

 

3人組を止めたのは、今回の被害者である丸藤亮だ。

十代と交流のある丸藤亮からしたら、十代がスパイ活動をするとは思えなかった。

更に言えば、自分の部屋から聞こえてきた悲鳴は女の子のものだった。十代にそんな声が出せるとは到底思えないし、悲鳴をあげる意味がない。

故に丸藤亮は、この部屋に十代の他に誰かが居たと推測し、彼等へ静止を掛けたのだ。

 

「カイザーさん! コイツを見逃すんですか!?」

「明らかに黒じゃないですか!?」

「それに、コイツが握っていた物を見てたでしょ!?」

 

「「「トランクスですよ!? トランクスッ!!」」」

 

「だから違うんだよ! 

トランクスを握ってたのは、深事情があるんだ!

その理由は言えないけど……でも、オレは好きでやった訳じゃない!!」

 

有罪という意見と、無罪を主張する十代。

丸藤亮自身、トランクスの件についてはかなり不可思議でならない。何故十代が自分のトランクスを握っていたのかなど、深くは考えたくない。

深く考えてしまうと……十代にそっち系の趣味があったのではないか? という考えが浮上してしまうのだ。

 

しかし、ここまで必死に違うと言い張る十代を見れば、何かの間違いなのだと思えてくる。

それに元々、十代にそんな性癖はなかった。デュエルが恋人という人種だったはずだ……そう、自分と同じ人種だったはずなのだ。

 

「トランクスについては、きっと深い事情があったのだろう。

だから、その事に深く詮索を入れる必要はない。十代を放してやれ」

 

「……カイザーさんがそこまで言うなら…」

「……しょうがないか…」

「……けっ、カイザーさんに感謝しろよ」

 

3人は渋々といった形で、十代を解放した。

被害者であり、自分達よりも立場が上の丸藤亮が『放せ』と言うからには、十代を解放せざるをえない。

 

「ハァ……助かったぁ…。

サンキュー、カイザー。御かげで助かったぜ!」

 

「いや、礼には及ばん。

それよりも、早く自分の寮に帰った方が良い。

オシリスレッドであるお前が、この寮にあまり長く滞在していると少々面倒な事になる」

 

オベリスクブルーの人間はプライドが高い人間が大勢いる。

彼等にとって自分達の寮にラーイエローやオシリスレッドなど、格下の生徒が居る事を良く思わない人が多い。むしろ不快感を抱いてしまうのだ。

そんな環境下で、オシリスレッドである十代が長く滞在しているとどうなるか?

当然、難癖を付けられたり。何かしらの問題も起きる可能性もある。

故に、丸藤亮は十代の安全を考え、早く帰らせようとしているのだ。

 

「そっか……それもそうだな。

それじゃーまたな! カイザー!」

 

「あぁ、気を付けてな」

 

侵入したベランダからではなく、ドアから十代は出て行った。

そして、それに続く形で3人の男子もこの部屋から出て行った。

部屋に1人となった丸藤亮はベットに腰を掛け、先ほどまでの事を整理し始める。

自分のデッキが出ていた事、十代がトランクスを握っていた事。

そして―――あの女の子の悲鳴だ。

 

この3つの出来事の中で一番疑問に思うのは、やはり女の子の悲鳴に関してだ。

あの叫び声は、高校生が発するような声ではなかった。もっと幼い感じの声だったはずだ。

声の質からいって、中学生……いや、小学生ぐらいの声かもしれない。

小学生……そして、性別が女性…。

 

「…………まさか」

 

丸藤亮の脳裏に、この条件を満たす人物が思い浮かんだ。

しかし、その人物は今小学5年生。この島に居るはずがない……が、最近2人の編入生がこの学園に来たという話を、丸藤亮は聞いた事がある。

だが、所詮は聞いただけで、その編入生2人の姿を一度も見たことがない。今頭に思い浮かんだ人物と、その編入生を結び付けるのは時期尚早だ。

 

「……明日香に聞いてみるか」

 

今の丸藤亮には情報が足りない。

編入生徒と同じ学年の彼女なら、なにかしらの情報を持っていると丸藤亮は考えたのだ。

もし、彼女から有力な情報が得られればぞれで良いし。もしダメなら自分で調べに行けばいいだけのことだ。

そう考えた丸藤亮は早速、天上院明日香にメールを打つのだった。

 

 

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