俺のデッキの末端価格は840円   作:MrM3

22 / 23
2話更新。
1/2


第22話

 

オベリスクブルー寮に向かう途中、顔色の優れないレイを発見し。何があったのかを、オシリスレッド寮に帰るまでの間に聞いた。

・丸藤亮の部屋に忍び込んだ事。

・十代さんに現場を見られた事。

・そして、十代さんに自分の悲鳴を聞かれた事。

大きく分けてこの3つだが……どれも聞いて耳が痛くなる話だった。

告白のシチュエーションのヒントを探す為に部屋忍び込み。その現場を十代さんに見られ、その十代さんにビックリして悲鳴をあげてしまったと、レイは自白したのである。

 

『はぁ……』と、内心ため息ばかりついてしまう。

部屋に忍び込んだのを見られたなら、かなりの問題になる。

何故なら、レイがやった行為は不法侵入……立派な犯罪だ。

更に、その現場を見ていた十代に悲鳴を聞かれた。レイが女の子だとバレた可能性が高い。

 

「…………詰んだ」

 

「…………」

 

2人しかいない6号室。

故に、俺の声はいつもより張り詰めて聞こえていたのかもしれない。

今やレイは、借りてきた猫状態だ。

俯いていて、今どんな表情をしているかなど分からない。流石に反省しているようだ。

 

―――コン、コン……

 

葬式みたいな静けさの6号室に、ドアをノックする人物がやって来た。

このタイミングで俺達の下に来る人など決まっている。

失礼が無いよう、俺は丁重にドアを開けた。

 

「……惺。お前とレイに聞きたいことがある」

 

「……あぁ。取り合えず中に入ってくれ―――十代」

 

ドアを開けた先にいたのは、今回の当事者。

最も会いたくなくて、最も会わなければならない人物だった。

 

 

カーペットの上に、胡坐を搔いて座る十代さん。

そして、それと対面する形で、俺とレイは正座している。

 

「まどろっこしいのは嫌いだから、正直に教えて欲しい。

レイは……女の子なのか?」

 

「……あぁ、そうだ」

 

もはや隠しても意味は無い。

誤魔化したところで、レイに対する疑惑は常に付いてしまう。

ならいっそのこと、正体を言ってしまった方が良いと俺は考えた。

それに、俺の言葉を聞いて十代さんは『やっぱり』という表情をしている。

確信を持ってこの場に居る人間に、嘘を吐いてもしょうがない。

 

「なら、どうしてレイがオシリスレッドなんかに居るんだよ。

女の子なら、オベリスクブルーの女子寮に入れたはずだろ?

何で男の格好までして……。

それに、さっきカイザーの部屋に忍び込んだのは何でなんだ?」

 

「それは―――」

 

と、十代さんの質問に答えようとした時だ。

隣に居るレイの手が、顔の前に現れた。

視線をレイの方へと向けると、そこには帽子と髪留めを外し、髪を下ろしたレイの姿があった。もう男装する必要はないと考えての事だろう。

 

「いいよ、惺。

そのことについては、ボクが話すから……。

まず、亮様の部屋に忍び込んだことについて、十代に謝りたい……ごめんなさい」

 

「いや、謝まんなくてもいいって!

オレは別に気にしてないからさ……。

それよりも、何でカイザーの部屋に忍び込んだかの理由を言ってほしいんだ。

カイザーのデッキを手に取ったり……その……トラン―――」

 

「あ、あれは事故! 事故なの!

ボクだって、掴んだ物があ、あれだとは思わなかったのッ!」

 

十代さんの言葉を掻き消すほどの声を発し、レイは慌て始めた。

顔も赤くなり、表情には余裕がない。むしろ焦っている。

一体何を掴んだら、このような反応をするのだろうか? という疑問が浮かぶが……まずは、その声の音量をどうにかしてほしいものだ。

 

「レイ、少し声の音量下げろ。

ここの壁薄いから、大きい声出すと隣に聞こえてしまうぞ」

 

「うぅ……わ、分かった。

十代、ボクが亮様の部屋に入った理由だけど……ボクは、亮様の好きなシチュエーションが知りたかったんだ。

海と森だったらどっちが好きなのか、朝と夜だったらどっちが好きなのか。

そういった情報が欲しかったんだ……ボクの思いが、少しでも亮様に届くように」

 

レイは真剣な眼差しで、部屋に忍び込んだ理由を説明している。

そして、遠まわしに丸藤亮へ告白する、という趣旨を込めて説明しているのだが……十代さんは『うん?』と首を傾げていた。どうやら、理解できなかったようだ。

これはもっとストレートに言わなければ、十代さんに理解してもらえないだろう。

 

「十代。簡単に言うと、レイは丸藤亮に告白するつもりなんだ。

その告白の場所を何処にしようか迷って、丸藤亮の好きな場所が知りたかったって訳」

 

「告白って、え? カイザーにか!?」

 

レイがやろうとしてる事を知った十代さんは驚いてる。

十代さんにとって、この展開は予想外だったようだ。

 

「うん……ボクは亮様に告白するつもりだよ。

その為に、ボクはこの学園に編入して来たんだ」

 

「そうだったのか……。

でも、カイザーに告白するのが目的なら、なお更女子寮に行けば良いんじゃないか?

だってほら、此処よりも生活はしやすいはずだろ?」

 

うむ。十代さんの言わんとしてる事は理解できる。

私生活の場面、特に風呂については、女の子だと苦労することが多いだろう。

何故レイがこの寮に居るのか、十代さんは疑問に思っているに違いない。

 

「女子寮に入れるなら、そうしたかったけど……それはダメなんだ。

男の子として編入しないと、書類審査が通らない……。

だからボクは、男装してここに編入して来た。

小学生であるボクが、この学園に編入するにはこの方法しかなかったんだ」

 

「えぇ!? レイ、お前小学せ―――」

 

十代さんが驚きのあまり叫びそうだったので、手で口を塞いでおいた。

『レイが小学生だった』なんて、叫ばれたら大事だ。

十代さんにレイの秘密をバラしたからといって、広めて良い訳ではない。

レイの秘密が教員の耳に届けば、間違いなく退学となってしまうのだから……。

 

「十代、大きい声はNGだって。

ここの寮生達に聞かれたらどうするんだっ」

 

「わ、悪りぃ―――って、ちょっと待て。

レイが小学生ってことは……」

 

口から手を放し、もう大丈夫だろうと、元の位置に座り直した時だ。

十代さんは此方をまじまじと見て、動揺し始めた……一体どうしたのだろうか?

 

「前にも言ったけど、惺はボクの幼馴染だよ?

ボクと同じ、惺は小学5年生なんだ」

 

「さ、惺が小学5年……。

しょ、小学生に……負けちまったのか……オレは」

 

レイから告げられた言葉を聞き、十代さんは両手を付いて項垂れてしまった……。

恐らく、高校生が小学生に負けてしまったという劣等感から、落ち込んでるのだろう。

十代さんの気持を察すれば、落ち込むのは仕方ないのかもしれないが……似合わないな。

十代さんはもっとこう、明るい方が似合ってる。落ち込んでる姿など似合わない。

 

「十代……いや、十代さん。

貴方のデュエルは楽しかったです。そして何より強かった……。

だから、そんなに落ち込むことなんてないですよ」

 

「……惺…」

 

十代さんは俺の言葉に反応し、顔を上げた。

その顔は優れたものとは言えない、でもさっきよりはマシなものになった。

 

「そうだよ、十代。

惺に負けたのが悔しいのは、痛い程解かるよ?

でも、十代はまだマシな方だから大丈夫。うん、ボクの方がもっと悔しかったから」

 

隣から十代さんを励ましてるのかどうか、怪しい発言をしてるのはレイだ。

何だよ、『ボクの方がもっと悔しかった』って。もっと普通に励ませよ。

でも……まぁ、十代さんが笑い始めたから良いか……苦笑いだけど。

 

「はは……そういえば、レイも惺に負けてるんだっけ?」

 

「そうだよ。

ボクなんて、昨日今日でデュエルを覚えてきた惺に負けたんだもん。

それに比べて、十代はまだマシな方だよ……だって―――」

 

「―――デュエルをやり始めて、一ヶ月経った惺に負けたんだもん。

ボクよりも、気持的には楽なはずだよ」

 

笑顔で言い放ったレイの言葉が、この部屋に妙に響き渡った。

いや、実際にはそこまで大きな声を出した訳ではないのだが、反響した錯覚を覚えるぐらいの事をレイは言ったのだ。

部屋はシ~ンと静まり返り、誰一人として言葉を発さない。

否、発せないと言った方が正しいのだろう。

十代さんは驚いて何も言えず、俺はレイに対して『え? お前ソレをここで言うの?』と、

唖然として声が出ない。

レイはレイで、予想した結果と違うのか、戸惑って何も言えないようだ。

 

「さ、さとる……それ、ホントなのか?

デュエル始めて……まだ、一ヶ月しか経ってないって……」

 

この沈黙を破ったのは十代さんだ。

元に戻りかけていた表情は動揺で染まり、瞳は揺れ動いてる。

俺の返答次第では、十代さんはまた落ち込み始めるかもしれない……ここは、嘘を吐いてでも誤魔化すべきだ。その方が十代さんに無用なショックを与えずに済む。

 

「それは、ちが―――」

 

「だ、大丈夫だよ十代! ボクは1日だったから、ね?

一ヶ月と1日じゃあ、全然違うから! だから元気だしなよ!」

 

俺の声は、焦ったレイの声に掻き消された。

レイは必死にフォローしてるつもりなのだろうが……それは逆効果だ。

そのフォローがより信憑性を高めてしまい、十代さんはまた落ち込むことになってしまったのだから。

 

 

 

部屋の中央で、俺は仁王立ちしてある人物を見下ろしている。

見下ろしてる対象は、正座中のレイである。

何故このような事態になったかなど、説明するまでもあるまい。

折角持ち直した十代さんを、悪気が無かったにしろ、また落ち込ませたのはコイツなのだ。

しかも、十代さんは前より悪化してしまった。部屋の隅で体育座りし、ブツブツと独り言を呟いているのだ。

これなら、レイを叱るには十分過ぎる理由だろう。

 

「……俺、最近お前の頭が良いのか、悪いのか、分からなくなってきたぞ。

普通さぁ、分かるよね? あの場面で、俺がまだデュエルモンスターズを始めて日が浅いことをバラすとどうなるか、分かるよね?」

 

「うぅ……で、でも、ボクだって十代を励まそうと……」

 

「はっ、寝言は寝て言いやがれ。

そのセリフを、今の十代さんに面と向かって言えるのか?」

 

チラリと、十代さんの様子を見てみる。

うむ。十代さんの周りだけ、ドンヨリとした空気が漂っていて近づき難い。

 

「あいぼぉ……おれ……小学生に負けちまったよぉ……。

しかも……デュエル始めて一ヶ月の……小学生に負けちまった……」

 

周りの空気もそうだが、誰かに語りかけるように独り言を言ってるのが、何より怖い。

近づいたら、何か呪われそうだ。

 

「で、面と向かって言えるの?

『ボクは十代を励まそうとした』って、言えますか?」

 

「うぅ……い、言えません……」

 

レイは俯きながら、そう答えた。

どうやら、自分に非があることを少なからず認めたらしい。

 

「十代さんをあの状態にしたことを、少しは反省しろよ?

そして何より、全校集会で俺を気絶させたことを反省しろ」

 

折角なので、全校集会の時のことを言っておく。

問題が色々と起きたが、それはそれこれはこれだ。

 

「気絶って……あれは惺が勝手に寝たんでしょ?

全校集会が終わるまでの間、惺を支えるの大変だったんだから!」

 

「お前、自分の胸に手を当ててよ~く考えてみろ。

丸藤亮を見て、背後から首絞めてきたヤツは一体どこのどいつだよ。

俺、本気で死を覚悟したんだぞ! 見ろ、この首筋!」

 

首元の衣類を指で引っ張り、首の状態をレイに見せ付ける。

少し前に鏡で一度確認したが、俺の首には締め付けられた跡が残っていたのを覚えている。

鏡で確認した時と変ってないなら、未だに俺の首は一部が赤くなってるはずだ。

 

「……か、蚊に刺されて搔いたんでしょ?

ダ、ダメだよ惺。蚊に刺されたからって、搔き毟っちゃ……」

 

レイは露骨に目を逸らし、この締め付けた跡は自分が付けたものじゃないと言い始めた。

ほほぉ、この期に及んでまだ自分の非を認めないとは……。

謝れば許してやろうと思っていたが……やっぱり止めた。予定通り、レイの目の前でベルギーサンダーを食い尽くしてやる。ついでだから、他のお菓子も食い尽くしてやる。

 

自分の成すべき事が決まった俺は、机の上に積んである荷物の中からバックを取り出し、

全部で6個あるベルギーサンダーの内1つ取り出す。

そして、包み紙を早々と外し、露となったチョコを……レイの目の前で食べた。

 

―――ザク、ザク、ザク……

 

「ああ! ず、ずるい……。

ボクにもベルギーサンダー頂戴」

 

レイは此方に手の平を差し出してきた。

どうやら、本人はコレが貰えるものだと思っているらしい……そうかそうか。

 

「はい」

 

俺はレイの手の平にモノを置いてあげた。

それはベルギーサンダー……の包み紙。とどのつまりゴミだ。

 

「ちょ、ちょっと!

ゴミじゃなくて、中身の方が欲しいのッ」

 

再度、レイは此方に手の平を差し出してきた。

―――ザク、ザク、ザク

―――ザク、ザク、ザク

 

「ちょっと! 無視して食べないでよッ」

 

レイの我慢が限界に達し、レイは俺のカバンを取ろうと手を伸ばしてきた。

唐突に出してきたその魔の手は、いつもの俺では対処できず、奪われて終わっただろう。

だが……甘いなレイ。お前が実力行使で手に入れようとする事ぐらい、想定済みだ。

予測の出来る行動に出遅れるほど、俺はバカじゃない。

 

―――パンッ

 

「なッ!?」

 

レイの魔の手を払いのけてやった。

払いのけられるのが予想外だったのか、レイの顔は驚いている。

だが、その驚いた表情を直にやめ、レイは此方に好戦的な表情をしてくる。

恐らく、今度は本気でこのカバンを奪いに来るのだろう……。

俺とレイの戦闘比は2:5ぐらいだ。本気を出されればこのカバンを守る事は不可能。

だが、不可能だからと言って諦めることはない。

人間の一番の武器は筋力じゃない、(ココ)だよ(ココ)

 

「そこまでだ、レイ。

人の物を奪ったらダメだって、愛子さんに教わったろ?

このカバンを本気で奪い取ろうって言うのなら、愛子さんにチクルぞ?」

 

「ぐぅ……ひ、卑怯だよ!

ここでお母さんの名前を出すのは卑怯だよ、惺!」

 

レイは非難してくるが……此方を襲うことしない。否、出来ないのだ。

俺がもし、この事を愛子さんにチクった場合、レイを待つ運命は絶望しかない。

『おやつ、一ヶ月無し』、『5日間、3食嫌いな物しか出さない』……これらは昔、レイが調子に乗って愛子さんを怒らせた時の罰だ。

そう……レイが俺のカバンを奪い取れば、レイを待つのは愛子さんの怒りなのだ。

そして、怒りの先にあるのは罰という名の地獄なのだ。故にレイはこのカバンを奪えないでいる。

 

「卑怯? お前、編入試験の時にこの手口で俺のおかず取ったろ?

それに、俺は愛子さんの教えを守ってるだけだ……『悪い子はおやつ抜き』

この言葉と、お前の今日行った行動をよ~く照らし合わせてみろ……良い子だったか?」

 

「うぅ……うぅ……」

 

レイは膝を折り、その場に力なく座った……。

どうやら、何も言い返せないらしいな。まぁ、当然だけど。

 

「…………ボクが……悪かったよ」

 

―――ザク、ザク、ザク

 

「ッ、ボクが悪かったです」

 

―――ザク、ザク、ザク

 

「ボクが悪かったです! ごめんなさい!」

 

ベルギーサンダーの残量が、残り1つとなったところでレイが折れた。

座りながら頭を下げ、謝るその姿は土下座に近いものがある。

チョコにそこまでするか? という疑問を抱かなくもないが、やはりレイとて女の子。

甘いもの、それも自分が好きなものとなれば、体を張るものなのだろう。

 

「ほら、最後の1個」

 

本当なら全部食べてやるつもりだったが……謝ったので許してやるか。

あまりやり過ぎると、後々倍返しが来るかもしれない。何事も引き際が重要だ。

 

「え? い、いいの?」

 

「いらないんだっ―――」

 

俺の手元からベルギーサンダーが消えた。

比喩表現とかではなく、本当に俺の手元から消えた……まぁ、犯人が誰かなんて想像するまでもないが。

 

「はむ、はむ……」

 

レイは既に食べ始め、幸せそうに微笑んでる。

食べるペースがいつもより早いように見えるのは、ご愛嬌というものだろう。

 

「…………美味そうだなぁ」

 

部屋の隅の方から聞こえた声に反応し、視線を向ける。

するとそこには、涎を垂らしながら此方を見ている十代さんの姿が目に映った。

あれほど落ち込んでいたのに、お菓子を見て反応するとは……もはや、流石としか言いようがないな。

 

「十代さんも食べますか?

チョコは無いですけど……スナック系ならまだありますよ」

 

「い、良いのか!? サンキュー、惺!」

 

十代さんは此方に駆け寄り、カバンから取り出したポテトチップスを食べ始めた。

『ウメー!!』と言って食べ進めるその顔は笑顔だ。少し前までの表情は一体どこに行ったのやら……でもまぁ、この方が十代さんらしくて良いか。

そう思いながら、俺もポテトチップスを食べるのだった―――

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。