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オベリスクブルー寮に向かう途中、顔色の優れないレイを発見し。何があったのかを、オシリスレッド寮に帰るまでの間に聞いた。
・丸藤亮の部屋に忍び込んだ事。
・十代さんに現場を見られた事。
・そして、十代さんに自分の悲鳴を聞かれた事。
大きく分けてこの3つだが……どれも聞いて耳が痛くなる話だった。
告白のシチュエーションのヒントを探す為に部屋忍び込み。その現場を十代さんに見られ、その十代さんにビックリして悲鳴をあげてしまったと、レイは自白したのである。
『はぁ……』と、内心ため息ばかりついてしまう。
部屋に忍び込んだのを見られたなら、かなりの問題になる。
何故なら、レイがやった行為は不法侵入……立派な犯罪だ。
更に、その現場を見ていた十代に悲鳴を聞かれた。レイが女の子だとバレた可能性が高い。
「…………詰んだ」
「…………」
2人しかいない6号室。
故に、俺の声はいつもより張り詰めて聞こえていたのかもしれない。
今やレイは、借りてきた猫状態だ。
俯いていて、今どんな表情をしているかなど分からない。流石に反省しているようだ。
―――コン、コン……
葬式みたいな静けさの6号室に、ドアをノックする人物がやって来た。
このタイミングで俺達の下に来る人など決まっている。
失礼が無いよう、俺は丁重にドアを開けた。
「……惺。お前とレイに聞きたいことがある」
「……あぁ。取り合えず中に入ってくれ―――十代」
ドアを開けた先にいたのは、今回の当事者。
最も会いたくなくて、最も会わなければならない人物だった。
■
カーペットの上に、胡坐を搔いて座る十代さん。
そして、それと対面する形で、俺とレイは正座している。
「まどろっこしいのは嫌いだから、正直に教えて欲しい。
レイは……女の子なのか?」
「……あぁ、そうだ」
もはや隠しても意味は無い。
誤魔化したところで、レイに対する疑惑は常に付いてしまう。
ならいっそのこと、正体を言ってしまった方が良いと俺は考えた。
それに、俺の言葉を聞いて十代さんは『やっぱり』という表情をしている。
確信を持ってこの場に居る人間に、嘘を吐いてもしょうがない。
「なら、どうしてレイがオシリスレッドなんかに居るんだよ。
女の子なら、オベリスクブルーの女子寮に入れたはずだろ?
何で男の格好までして……。
それに、さっきカイザーの部屋に忍び込んだのは何でなんだ?」
「それは―――」
と、十代さんの質問に答えようとした時だ。
隣に居るレイの手が、顔の前に現れた。
視線をレイの方へと向けると、そこには帽子と髪留めを外し、髪を下ろしたレイの姿があった。もう男装する必要はないと考えての事だろう。
「いいよ、惺。
そのことについては、ボクが話すから……。
まず、亮様の部屋に忍び込んだことについて、十代に謝りたい……ごめんなさい」
「いや、謝まんなくてもいいって!
オレは別に気にしてないからさ……。
それよりも、何でカイザーの部屋に忍び込んだかの理由を言ってほしいんだ。
カイザーのデッキを手に取ったり……その……トラン―――」
「あ、あれは事故! 事故なの!
ボクだって、掴んだ物があ、あれだとは思わなかったのッ!」
十代さんの言葉を掻き消すほどの声を発し、レイは慌て始めた。
顔も赤くなり、表情には余裕がない。むしろ焦っている。
一体何を掴んだら、このような反応をするのだろうか? という疑問が浮かぶが……まずは、その声の音量をどうにかしてほしいものだ。
「レイ、少し声の音量下げろ。
ここの壁薄いから、大きい声出すと隣に聞こえてしまうぞ」
「うぅ……わ、分かった。
十代、ボクが亮様の部屋に入った理由だけど……ボクは、亮様の好きなシチュエーションが知りたかったんだ。
海と森だったらどっちが好きなのか、朝と夜だったらどっちが好きなのか。
そういった情報が欲しかったんだ……ボクの思いが、少しでも亮様に届くように」
レイは真剣な眼差しで、部屋に忍び込んだ理由を説明している。
そして、遠まわしに丸藤亮へ告白する、という趣旨を込めて説明しているのだが……十代さんは『うん?』と首を傾げていた。どうやら、理解できなかったようだ。
これはもっとストレートに言わなければ、十代さんに理解してもらえないだろう。
「十代。簡単に言うと、レイは丸藤亮に告白するつもりなんだ。
その告白の場所を何処にしようか迷って、丸藤亮の好きな場所が知りたかったって訳」
「告白って、え? カイザーにか!?」
レイがやろうとしてる事を知った十代さんは驚いてる。
十代さんにとって、この展開は予想外だったようだ。
「うん……ボクは亮様に告白するつもりだよ。
その為に、ボクはこの学園に編入して来たんだ」
「そうだったのか……。
でも、カイザーに告白するのが目的なら、なお更女子寮に行けば良いんじゃないか?
だってほら、此処よりも生活はしやすいはずだろ?」
うむ。十代さんの言わんとしてる事は理解できる。
私生活の場面、特に風呂については、女の子だと苦労することが多いだろう。
何故レイがこの寮に居るのか、十代さんは疑問に思っているに違いない。
「女子寮に入れるなら、そうしたかったけど……それはダメなんだ。
男の子として編入しないと、書類審査が通らない……。
だからボクは、男装してここに編入して来た。
小学生であるボクが、この学園に編入するにはこの方法しかなかったんだ」
「えぇ!? レイ、お前小学せ―――」
十代さんが驚きのあまり叫びそうだったので、手で口を塞いでおいた。
『レイが小学生だった』なんて、叫ばれたら大事だ。
十代さんにレイの秘密をバラしたからといって、広めて良い訳ではない。
レイの秘密が教員の耳に届けば、間違いなく退学となってしまうのだから……。
「十代、大きい声はNGだって。
ここの寮生達に聞かれたらどうするんだっ」
「わ、悪りぃ―――って、ちょっと待て。
レイが小学生ってことは……」
口から手を放し、もう大丈夫だろうと、元の位置に座り直した時だ。
十代さんは此方をまじまじと見て、動揺し始めた……一体どうしたのだろうか?
「前にも言ったけど、惺はボクの幼馴染だよ?
ボクと同じ、惺は小学5年生なんだ」
「さ、惺が小学5年……。
しょ、小学生に……負けちまったのか……オレは」
レイから告げられた言葉を聞き、十代さんは両手を付いて項垂れてしまった……。
恐らく、高校生が小学生に負けてしまったという劣等感から、落ち込んでるのだろう。
十代さんの気持を察すれば、落ち込むのは仕方ないのかもしれないが……似合わないな。
十代さんはもっとこう、明るい方が似合ってる。落ち込んでる姿など似合わない。
「十代……いや、十代さん。
貴方のデュエルは楽しかったです。そして何より強かった……。
だから、そんなに落ち込むことなんてないですよ」
「……惺…」
十代さんは俺の言葉に反応し、顔を上げた。
その顔は優れたものとは言えない、でもさっきよりはマシなものになった。
「そうだよ、十代。
惺に負けたのが悔しいのは、痛い程解かるよ?
でも、十代はまだマシな方だから大丈夫。うん、ボクの方がもっと悔しかったから」
隣から十代さんを励ましてるのかどうか、怪しい発言をしてるのはレイだ。
何だよ、『ボクの方がもっと悔しかった』って。もっと普通に励ませよ。
でも……まぁ、十代さんが笑い始めたから良いか……苦笑いだけど。
「はは……そういえば、レイも惺に負けてるんだっけ?」
「そうだよ。
ボクなんて、昨日今日でデュエルを覚えてきた惺に負けたんだもん。
それに比べて、十代はまだマシな方だよ……だって―――」
「―――デュエルをやり始めて、一ヶ月経った惺に負けたんだもん。
ボクよりも、気持的には楽なはずだよ」
笑顔で言い放ったレイの言葉が、この部屋に妙に響き渡った。
いや、実際にはそこまで大きな声を出した訳ではないのだが、反響した錯覚を覚えるぐらいの事をレイは言ったのだ。
部屋はシ~ンと静まり返り、誰一人として言葉を発さない。
否、発せないと言った方が正しいのだろう。
十代さんは驚いて何も言えず、俺はレイに対して『え? お前ソレをここで言うの?』と、
唖然として声が出ない。
レイはレイで、予想した結果と違うのか、戸惑って何も言えないようだ。
「さ、さとる……それ、ホントなのか?
デュエル始めて……まだ、一ヶ月しか経ってないって……」
この沈黙を破ったのは十代さんだ。
元に戻りかけていた表情は動揺で染まり、瞳は揺れ動いてる。
俺の返答次第では、十代さんはまた落ち込み始めるかもしれない……ここは、嘘を吐いてでも誤魔化すべきだ。その方が十代さんに無用なショックを与えずに済む。
「それは、ちが―――」
「だ、大丈夫だよ十代! ボクは1日だったから、ね?
一ヶ月と1日じゃあ、全然違うから! だから元気だしなよ!」
俺の声は、焦ったレイの声に掻き消された。
レイは必死にフォローしてるつもりなのだろうが……それは逆効果だ。
そのフォローがより信憑性を高めてしまい、十代さんはまた落ち込むことになってしまったのだから。
■
部屋の中央で、俺は仁王立ちしてある人物を見下ろしている。
見下ろしてる対象は、正座中のレイである。
何故このような事態になったかなど、説明するまでもあるまい。
折角持ち直した十代さんを、悪気が無かったにしろ、また落ち込ませたのはコイツなのだ。
しかも、十代さんは前より悪化してしまった。部屋の隅で体育座りし、ブツブツと独り言を呟いているのだ。
これなら、レイを叱るには十分過ぎる理由だろう。
「……俺、最近お前の頭が良いのか、悪いのか、分からなくなってきたぞ。
普通さぁ、分かるよね? あの場面で、俺がまだデュエルモンスターズを始めて日が浅いことをバラすとどうなるか、分かるよね?」
「うぅ……で、でも、ボクだって十代を励まそうと……」
「はっ、寝言は寝て言いやがれ。
そのセリフを、今の十代さんに面と向かって言えるのか?」
チラリと、十代さんの様子を見てみる。
うむ。十代さんの周りだけ、ドンヨリとした空気が漂っていて近づき難い。
「あいぼぉ……おれ……小学生に負けちまったよぉ……。
しかも……デュエル始めて一ヶ月の……小学生に負けちまった……」
周りの空気もそうだが、誰かに語りかけるように独り言を言ってるのが、何より怖い。
近づいたら、何か呪われそうだ。
「で、面と向かって言えるの?
『ボクは十代を励まそうとした』って、言えますか?」
「うぅ……い、言えません……」
レイは俯きながら、そう答えた。
どうやら、自分に非があることを少なからず認めたらしい。
「十代さんをあの状態にしたことを、少しは反省しろよ?
そして何より、全校集会で俺を気絶させたことを反省しろ」
折角なので、全校集会の時のことを言っておく。
問題が色々と起きたが、それはそれこれはこれだ。
「気絶って……あれは惺が勝手に寝たんでしょ?
全校集会が終わるまでの間、惺を支えるの大変だったんだから!」
「お前、自分の胸に手を当ててよ~く考えてみろ。
丸藤亮を見て、背後から首絞めてきたヤツは一体どこのどいつだよ。
俺、本気で死を覚悟したんだぞ! 見ろ、この首筋!」
首元の衣類を指で引っ張り、首の状態をレイに見せ付ける。
少し前に鏡で一度確認したが、俺の首には締め付けられた跡が残っていたのを覚えている。
鏡で確認した時と変ってないなら、未だに俺の首は一部が赤くなってるはずだ。
「……か、蚊に刺されて搔いたんでしょ?
ダ、ダメだよ惺。蚊に刺されたからって、搔き毟っちゃ……」
レイは露骨に目を逸らし、この締め付けた跡は自分が付けたものじゃないと言い始めた。
ほほぉ、この期に及んでまだ自分の非を認めないとは……。
謝れば許してやろうと思っていたが……やっぱり止めた。予定通り、レイの目の前でベルギーサンダーを食い尽くしてやる。ついでだから、他のお菓子も食い尽くしてやる。
自分の成すべき事が決まった俺は、机の上に積んである荷物の中からバックを取り出し、
全部で6個あるベルギーサンダーの内1つ取り出す。
そして、包み紙を早々と外し、露となったチョコを……レイの目の前で食べた。
―――ザク、ザク、ザク……
「ああ! ず、ずるい……。
ボクにもベルギーサンダー頂戴」
レイは此方に手の平を差し出してきた。
どうやら、本人はコレが貰えるものだと思っているらしい……そうかそうか。
「はい」
俺はレイの手の平にモノを置いてあげた。
それはベルギーサンダー……の包み紙。とどのつまりゴミだ。
「ちょ、ちょっと!
ゴミじゃなくて、中身の方が欲しいのッ」
再度、レイは此方に手の平を差し出してきた。
―――ザク、ザク、ザク
―――ザク、ザク、ザク
「ちょっと! 無視して食べないでよッ」
レイの我慢が限界に達し、レイは俺のカバンを取ろうと手を伸ばしてきた。
唐突に出してきたその魔の手は、いつもの俺では対処できず、奪われて終わっただろう。
だが……甘いなレイ。お前が実力行使で手に入れようとする事ぐらい、想定済みだ。
予測の出来る行動に出遅れるほど、俺はバカじゃない。
―――パンッ
「なッ!?」
レイの魔の手を払いのけてやった。
払いのけられるのが予想外だったのか、レイの顔は驚いている。
だが、その驚いた表情を直にやめ、レイは此方に好戦的な表情をしてくる。
恐らく、今度は本気でこのカバンを奪いに来るのだろう……。
俺とレイの戦闘比は2:5ぐらいだ。本気を出されればこのカバンを守る事は不可能。
だが、不可能だからと言って諦めることはない。
人間の一番の武器は筋力じゃない、
「そこまでだ、レイ。
人の物を奪ったらダメだって、愛子さんに教わったろ?
このカバンを本気で奪い取ろうって言うのなら、愛子さんにチクルぞ?」
「ぐぅ……ひ、卑怯だよ!
ここでお母さんの名前を出すのは卑怯だよ、惺!」
レイは非難してくるが……此方を襲うことしない。否、出来ないのだ。
俺がもし、この事を愛子さんにチクった場合、レイを待つ運命は絶望しかない。
『おやつ、一ヶ月無し』、『5日間、3食嫌いな物しか出さない』……これらは昔、レイが調子に乗って愛子さんを怒らせた時の罰だ。
そう……レイが俺のカバンを奪い取れば、レイを待つのは愛子さんの怒りなのだ。
そして、怒りの先にあるのは罰という名の地獄なのだ。故にレイはこのカバンを奪えないでいる。
「卑怯? お前、編入試験の時にこの手口で俺のおかず取ったろ?
それに、俺は愛子さんの教えを守ってるだけだ……『悪い子はおやつ抜き』
この言葉と、お前の今日行った行動をよ~く照らし合わせてみろ……良い子だったか?」
「うぅ……うぅ……」
レイは膝を折り、その場に力なく座った……。
どうやら、何も言い返せないらしいな。まぁ、当然だけど。
「…………ボクが……悪かったよ」
―――ザク、ザク、ザク
「ッ、ボクが悪かったです」
―――ザク、ザク、ザク
「ボクが悪かったです! ごめんなさい!」
ベルギーサンダーの残量が、残り1つとなったところでレイが折れた。
座りながら頭を下げ、謝るその姿は土下座に近いものがある。
チョコにそこまでするか? という疑問を抱かなくもないが、やはりレイとて女の子。
甘いもの、それも自分が好きなものとなれば、体を張るものなのだろう。
「ほら、最後の1個」
本当なら全部食べてやるつもりだったが……謝ったので許してやるか。
あまりやり過ぎると、後々倍返しが来るかもしれない。何事も引き際が重要だ。
「え? い、いいの?」
「いらないんだっ―――」
俺の手元からベルギーサンダーが消えた。
比喩表現とかではなく、本当に俺の手元から消えた……まぁ、犯人が誰かなんて想像するまでもないが。
「はむ、はむ……」
レイは既に食べ始め、幸せそうに微笑んでる。
食べるペースがいつもより早いように見えるのは、ご愛嬌というものだろう。
「…………美味そうだなぁ」
部屋の隅の方から聞こえた声に反応し、視線を向ける。
するとそこには、涎を垂らしながら此方を見ている十代さんの姿が目に映った。
あれほど落ち込んでいたのに、お菓子を見て反応するとは……もはや、流石としか言いようがないな。
「十代さんも食べますか?
チョコは無いですけど……スナック系ならまだありますよ」
「い、良いのか!? サンキュー、惺!」
十代さんは此方に駆け寄り、カバンから取り出したポテトチップスを食べ始めた。
『ウメー!!』と言って食べ進めるその顔は笑顔だ。少し前までの表情は一体どこに行ったのやら……でもまぁ、この方が十代さんらしくて良いか。
そう思いながら、俺もポテトチップスを食べるのだった―――