俺のデッキの末端価格は840円   作:MrM3

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読み方について念の為、書いておきます。

(トラップ)カードと読みます。
わなカードとは読まないので注意してください。







第7話

 

今俺の前には、デュエルディスクを構えたレイが立っている。

俺がデュエルモンスターズを始める原因……いや、切欠を作った人物だ。……今考えてみれば、デュエルモンスターズをやる切欠が『ゲイになるのを回避するため』なんて馬鹿なヤツは全国のデュエリストを探しても俺だけだろう。

でも、そんな馬鹿げた理由だろうと俺がデュエルモンスターズをやる切欠には変わりない。下手したら、生半可な気持ちで始める人達よりも遥かに気高い理由なのかもしれんな……人生を賭けてるってベクトルの意味で。

 

「俺の先攻、ドロー!」

 

(手札)          (ドロー)

 

おとり人形          ワイトメア             

魔法除去

はさみ撃ち

ワイト夫人

終末の騎士

 

俺はドローしたカードと自分の手札を見て顔を顰める。

墓地肥やしが終末の騎士1枚しかないからだ。遊戯さんとデュエルした時のように、魔道雑貨商人からの墓地肥やしが出来たら心強いのだが……まぁ、贅沢は言っていられまい。

 

「俺はワイト夫人を守備表示で召喚」

 

それに、墓地に落す手段がなにも効果カードによる肥やしだけではない。時間と手間が掛かるのが難点だが、こうやって守備表示で壁として立てておけば確実にワイト系のカードを墓地に肥やせる……まぁ、その考えに反してワイト夫人だけは墓地落としだけでなく、守備力2200という強力な壁モンスターとして機能するんだがな。

 

「え!? いきなり守備力2200!?」

 

対面しているレイが驚いた表情をしている。

どうやらデュエル経験のあるレイでも、いきなりの守備力2200の召喚は驚くようだ。

俺個人的には、優雅に御茶しているワイト夫人の守備力が何でこんなに高いのかが謎だが。

 

「どーだ、スゲーだろ?

調べた限りじゃあ、下級モンスターでここまでの守備力を持ったモンスターは中々いないぜ?」

 

「た、確かにそうだけど……。

でも、そのカードを倒す方法はいくらでもボクのデッキには入ってる!

その壁モンスターをあまり過信し過ぎてると痛い目みるよ!」

 

レイは驚いた顔から好戦的な表情へと変る。

どうやら此方のモンスターのステータスを見てやる気が上がったようだ。

 

「まっ、お手並み拝見ってところだな。

校内ナンバーワンの実力がどれ位なのか見せてみろよ、レイ。

俺はこのままターンエンド」

 

「ふん、言われなくてもそうするよ……って言いたい所だけど今は動けない。

ボクは見習い魔術師を守備表示で召喚! 

このカードは召喚・特殊召喚・反転召喚に成功した時、魔力カウンターを乗せることが可能なモンスターに魔力カウンターを乗せる……でも、今ボクのフィールドに魔力カウンターを乗せることが出来るモンスターはいないから、この効果は不発で終る。

ボクはこのままターンエンド!」

 

レイは金髪の少年魔術師をフィールドに守備表示で召喚し、魔力カウンターを乗せる効果を不発させただけでターンを終了した。『そのカードを倒す方法はいくらでもボクのデッキには入ってる!』って言ったわりには消極的だな……モンスタースペックも攻撃力400守備力800と低スペックだし。

でもまぁ、仮にも校内で一番強いレイが採用しているカードだ。油断はできん。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

(ドロー)

カオス・ネクロマンサー

 

「レイが守りに入るなら俺は攻めさせてもらうぞ。

俺は終末の騎士を召喚し、効果発動!

終末の騎士は召喚時にデッキ内の闇属性モンスターを一体墓地へ送ることが出来る。

俺はこのカード効果によってデッキ内のワイトを墓地へ送る」

 

終末の騎士の効果によりワイトが1枚墓地へ送られた。

小さい一歩だが、この一歩が後々に大きな実を結ぶ事を祈ろう。

 

「……ワイトを墓地に…。

ワイト夫人を召喚した時からまさかとは思ってたけど……惺のデッキって…」

 

終末の騎士の効果処理を見ていたレイが、確信を得た目で此方を見てくる。

流石にワイト夫人に加えてワイトまで採用していることがバレれば分かるか。

 

「……ワイトデッキだよね」

 

「さぁーて、どうだろうなー」

 

「はぁ~。

誤魔化すつもりなら棒読みで言ったダメでしょ惺……。

さらに言えば、惺のデッキがワイトデッキじゃないなら、終末の騎士の効果でワイトを墓地に送る意味が全くないよ」

 

そう言ってレイは呆れた目で此方を見てくる。

どうやら、レイはワイトデッキの基本の動きについても知っているようだな。ワイト系のカードを墓地へ送って行くという、基本の動きを……。

となると、俺のデッキのエースモンスターの事も当然知っているのだろう……優才だな。

 

「校内ナンバーワンを語るだけあって、知識面で優れてるのな」

 

「ん~その認識はちょっと間違ってるよ、惺?

ボクは知識面だけじゃなくて、実力面も校内ナンバーワンだということを忘れないでよね」

 

「へいへい……。

まぁ、とりあえず俺のターンを進めるぞ?

俺は終末の騎士の効果処理後にバトルフェイズに移行し、バトル!

終末の騎士で見習い魔術師を攻撃!」

 

見習い魔術師

守:800

終末の騎士

攻:1400

 

見習い魔術師は終末の騎士の攻撃によって縦に一閃され、消滅した。

だが、見習い魔術師が持っていた杖が未だにフィールド上に残っている……どうやら、何かしらの効果を持っているようだ。

 

「この瞬間、見習い魔術師の2つ目の効果が発動!

見習い魔術師が戦闘によって破壊された時、自分のデッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を自分フィールド上にセットする事ができる!

ボクはこの効果によって、デッキから執念深き老魔術師をセットするよ!」

 

むぅ……モンスターが増えたか…。

レイのフィールドをガラ空きにできるかと思ったが、そうそう甘くないようだ。

 

「俺はリバースカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

 

「ボクのターン、ドロー!

ふふ……惺、ボクも攻めさせてもらうよ!

ボクはセット状態の執念深き老魔術師を反転召喚する!」

 

『クゥ……アァァァ……』

 

セット状態で存在していたレイのモンスターが、低いうめき声と共に姿を現した。

その姿は赤い魔道着に身を包んだ老婆……そして、その老婆の顔はB級映画に出てくるゾンビそのものだ。はっきり言って怖い…。

 

「執念深き老魔術師が反転召喚した事により、リバース効果発動!

このカードは相手フィールド上のモンスター1体を選択して破壊できる!

ボクが選ぶのは、ワイト夫人!」

 

『キィエェェェイィィ!!!』

 

……これが執念深き老魔術師の効果発動によるエフェクトなのだろうか?

もはや断末魔の叫びにしか聞こえない。

そんな執念深き老魔術師の奇声を聞いたワイト夫人は、苦しみながら絶命してしまった。

執念深き老魔術師……なんとも恐ろしいモンスターだ。目を合わせないようにしよう。

 

「さらにボクは手札から、強制転移を発動!

このカードが発動した時、お互いのプレイヤーは自分のモンスターを一体選択し、

そのモンスターのコントロールをお互いに入れ替える!

ボクが選択するのは……執念き老魔術師!」

 

おい、バカやめろレイ! そんな怖いモンスターを俺に押し付ようとするなッ!

もう目を合わせないって決めてたんだぞ? そんなモンスターが俺のフィールドにいたら、俺の中の何かが爆発するだろうがッ!

……だが、これもルール上仕方がない事。さっさと強制転移の効果処理を終えて、早急にそのモンスターをレイに破壊してもらおう。

 

「俺は終末の騎士を選択する」

 

「ふふ、じゃあおいで、終末の騎士」

 

終末の騎士はレイの元へと旅立ってしまった。

自分のモンスターが相手のカードによってコントロールを奪われるのは、あまり良い気分がしない。寝取られた感が半端ないからだ……と言っても、俺自身強制転移を採用してるから、この行為を悪く言えない立場なんだよなぁ…。

 

『…………』

 

そして終末の騎士がいた場所に、入れ替わりでヤツがやって来た。

コントロール変更に際し、執念深き老魔術師が俺の方を見てくる。遠めで見る時とは違い、近場で見えてしまうが故に相手の顔の皺などがはっきり分かってしまう。もう怖いから、早く相手プレイヤーであるレイの方を向いてほしいものだ。

 

『…………』

 

おい、頼むからもうこっちを見るな!

何で自分のフィールド上でモンスターと対面しなければならんのだ! 

もう、強制転移の効果処理は終ったんだよ! さっさと体をレイの方へ向けろ!

 

「あれ? 何で執念深き老魔術師が惺の方を向いてるの?

今のコントロラーって惺だよね?」

 

「そんな事知らん! バグか何かだろ、絶対!

だから早くこのモンスターの破壊を推奨する! てか、俺を助けろ! 後でジュース奢るから!」

 

「え!? ホント!? ラッキー!

じゃあ、後でブルーIスカッシュ買ってよ!」

 

レイがもの凄い笑顔でジュースを指定してくる。

ブルーIスカッシュ……これは自動販売機に売ってるある極々普通の炭酸飲料だ。ただ値段が驚きの850円、ぼったくりなんじゃないかと疑う値段だ。ここまで値段が高い理由は、缶に付いているシールを貼って応募すると、強力なレアカードが当たるキャンペーンをやってるからだ。俺自身は興味ないが、どうやらレイはこのキャンペーンに挑戦してるようだな…。

で、だからこそ、俺にブルーIスカッシュを買えと……まぁ、この老婆にずっと見られるよりはマシだから良いけど。

 

「分かった! 許す!

後でブルーIスカッシュを買ってやる! だから早くなんとかしろ!」

 

「ふふふ、了解!

ボクは手札から、恋する乙女を召喚してバトルフェイズに入るよ!

終末の騎士で執念深き老魔術師を攻撃!」

 

レイの指示を聞きいた終末の騎士が背を向けている執念深き老魔術師へと駆ける。

そして、己の攻撃範囲に入ったその背中を手に持っている剣で切り刻む。

 

『アァァァァァァ!!!』

 

執念深き老魔術師は滅んだ。

やっと解放された安心感から、安堵のため息がでる。

だがそれと同時に老婆の死に様を間近で見たせいか、気持ち悪さが込み上げてくる。

……正直、後一歩で別のリバースを発動しそうだ。

 

終末の騎士

攻:1400

執念深き老魔術師

攻:450

惺4000-950=3050

 

「続けて、恋する乙女で惺に攻撃! ”一途な思い”!」

 

『うふふ』

 

先ほどの老婆とは対極に位置しているモンスターが、此方に向かって女の子走りしている。

そのモンスターは黄色のフリフリとしたドレスを着ていて、とても乙女チックだ。

可愛いモンスターというのは認めよう。

しかしな? 今そんなフリフリとした着物と動きをされたら俺が酔ってしまう……ぅぷ。

ここで俺は片目を閉じ、右手で口元に手を添えて口ずさむ。

 

「……気持ち悪い」

 

『…………』

 

あれ? 何でだ?

恋する乙女が急に走るのをやめて止まったぞ? 距離にしたら丁度俺から2メートルの位置で。しかも笑顔まで消えて……またバグか何か?

どうやら、このデュエルディスクは欠陥品のようだな。デュエルが終ったら修理に出すよう、レイに言っとこう。

 

「あれ? 今度は攻撃が止まっちゃった?」

 

「あぁ、そうみたいだな……」

 

これ、マジでどうしよう…。

このデュエルって、俺の人生賭けた大事な一戦なのに……最終的にはデュエルディスクの故障による引き分けってオチじゃないよな? そんなの俺認めないぞ! 

 

「あ、惺。

恋する乙女が動いたよ」

 

「よし! これでデュエルを続行できるな」

 

どうやら、俺の熱意が届いたようだ。

今、恋する乙女は動いている。先ほどみたいに女の子走りする訳でもなく、ただ歩いてるだけだが……それでも動いてる。

恋する乙女が歩いているのはデュエルディスクの調子が悪くのが原因だろうな。

 

『………………』

 

しかし……デュエルディスクの不調とはいえ、目の前にいる恋する乙女の真顔はなかなかに怖いな。執念深き老魔術師とは別のベクトルの怖さだ。

と、思考してるうちに恋する乙女が攻撃の構えをし始めた。その動きは右手を大きく後ろへ引くというシンプルなものだ。手が開いた状態であることを考慮すると、ビンタが来ると予想できる。一体どこが攻撃名”一途な思い”なのか激しくツッコミたいといころだな。

 

―――ビュン

 

迫りくる平手、だがプレイヤーである俺にこの攻撃を避ける権利はない。

てか、避けるまでもない。恋する乙女の攻撃力はたったの400ポイントだ。ダメージの体感レベルが弱に設定されている以上、痛くも痒くも無いにきま――――

 

―――バシィィーンンッ!!!

 

恋する乙女

攻:400

3050→2650

 

「……………あ、あれ?」

 

恋する乙女が攻撃した左頬にそっと触れてみる。

そこはヒリヒリと肌が焼けるような痛みが迸っている。

何コレ? え? 痛いんだけど? スゲー痛いんだけど!?

遊戯さんのバスターブレダーのダイレクトアタックより、遥かに痛いんだけど!!

 

「(こ、恋する乙女攻撃ってビ、ビンタだっけ?)……ま、まぁいいわ。

ボクはリバースカードを二枚セットしてターンエンド!」

 

レイが何事も無かったかのようにターンを進めている。

薄情なヤツめ……。

さっきの恋する乙女の攻撃は明らかに異常なダメージだった。

もしかしたら体感ダメージが壊れて、体感小から大に変更されたのかもしれん……。

全ての異常がレイのフィールドではなく、俺のフィールドで起こっている事を考えると、壊れているデュエルディスクは俺の方のヤツに違いない。

レイに体感ダメージの事を伝えるとデュエル中止にしかねんし……ここは黙っておくか。

 

「イッ……俺のターン、ドロー!」

 

(手札)         (手札)

おとり人形        カードガンナー               

魔法除去

ワイトメア

カオス・ネクロマンサー

 

フィールド

モンスター  :0

リバースカード:はさみ撃ち

 

カードガンナーで攻めるか……この手札ならそれが一番最善なはずだ。

と、その前に。

あのリバースカードを減らさないと、遊戯さんの時みたいに爆殺するかもしれないからな。

コレを発動しておこう。

 

「俺は手札から、おとり人形を発動!

このカードは相手のリバースカードを1枚めくり、それが罠カードなら強制発動させる。

因みに発動タイミングが正しくない罠カードな場合、その効果を無効にし、破壊する。

俺が選ぶのは……右のリバースカードだ」

 

手元に現れた藁人形を、レイのリバースカードへ投擲。

セットされていたカードは『ディメンション・ウォール』という罠カードだ。

 

「くぅ……ディメンション・ウォールは相手モンスターの攻撃宣言時に発動する罠カード」

 

「なら、そのカードは破壊される。

そしておとり人形の2つ目の効果が発動!

このカードは発動後、墓地に行かずデッキに戻る」

 

これでレイのリバースカードを一枚葬った。残りは1枚だが、残念ながらそれを破壊できるカードは今俺の手札にはない。

 

レイ

モンスター  :恋する乙女

        終末の騎士

リバースカード:一枚

 

 

「俺は手札から、カード・ガンナーを召喚!

そしてカード・ガンナーの効果を発動させる!

デッキトップからカードを3枚落とし、攻撃力を落としたカードの枚数×500アップさせる」

 

落ちたカードは強制転移、ものまね幻想師、ネクロガードナーの3枚。

カード・ガンナー

攻:400 → 1900

 

カード・ガンナーの攻撃力の上昇は自分のターンしかもたない。

レイのターンに攻撃力が400に戻ることを考えた場合……やはり、終末の騎士を攻撃するのが一番有効だな。

 

「俺はこのままバトルフェイズに入る!

俺はカード・ガンナーで終末の騎士に攻撃!」

 

カード・ガンナーは両腕に供えられた砲弾を終末の騎士にロックし、放った。

さらば終末の騎士……アーメン。

 

「そうはいかないよ! 永続罠、ディフェンス・メイデン発動!

このカードはボクのフィールド上に恋する乙女が表側表示で存在する場合、相手モンスターが恋する乙女以外のモンスターを攻撃する時、その攻撃対象を自分フィールド上に存在する恋する乙女1体に移し替える事ができる!」

 

『あぅ、きゃぁー!』

終末の騎士に向けて放った砲弾を、恋する乙女はその身を盾にして守った。

まだ黒煙は晴れない為状況は分からないが、恐らく恋する乙女は爆死しただろう。

自分の身を犠牲にするなんて……くぅ、男だねぇ、アンタ!

 

レイ

4000 → 2500

恋する乙女

攻:400

カード・ガンナー

攻:1900

 

『…………』

黒煙が晴れ、フィールドの状況が鮮明に映し出される。

するとそこには、綺麗だったドレスをボロボロな状態にされた少女が一人。

妙に体がプルプルと震えている事から、恋する乙女はかなりお怒りの御様子。

ふっ、カード・ガンナー……お前、死んだな。

 

「恋する乙女はフィールド上で表側攻撃表示で存在する限り、戦闘では破壊されない!

さらに、このカードに攻撃したモンスターに乙女カウンターを一つ乗せる!」

 

恋する乙女がカード・ガンナーにウインクをして、乙女カウンターを乗せている。

おぉ、どうやら彼女は心がかなり寛大なようだ。爆殺しようとした本人に笑顔でウインクをするなんて俺にはできん。俺が恋する乙女の立場なら、相手を殴り飛ばしてるところだ。

 

『…………』

 

カード・ガンナーがさっきの事を許してもらえたのは喜ばしいことだ……だがな?

何で、恋する乙女は俺を睨んでるんだ?

まさかとは思うが、子供の責任は親が取るようにモンスターの罪はプレイヤーである俺に責任が有ると?……あながち間違っても無いが、一番悪いのはお前を盾に誘導したレイが悪いと思うんだが……まぁ、いっか。所詮バーチャルだし。

 

「俺はこのままターンを終了する」

 

「ボクのターン、ドロー!(キューピッド・キスは引けないか……でも)

ボクは手札から装備魔法、ハッピー・マリッジを発動!

そしてハッピー・マリッジを恋する乙女に装備させる!」

 

恋する乙女はボロボロのドレスから、純白のウエディングドレスへと変る。

着ている服がまともな物に変ったのが嬉しいのだろうか? 恋する乙女は嬉しそうに笑う。

どうやら今頃のソリットヴィジョンには、感情表現が色々と備わっているようだ。

 

「ハッピー・マリッジは相手のモンスターが、自分フィールド上に表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

そして、装備モンスターの攻撃力はそのモンスターの攻撃力分アップする!

この効果によって終末の騎士の攻撃力分、恋する乙女の攻撃力がアップ!」

 

恋する乙女

攻:400 → 1800

 

「さらにボクは手札から、異次元の女戦士を召喚!

ふふふ……これでボクのモンスターの攻撃が全て通れば、ボクが勝つ!

ボクは異次元の女戦士で、カード・ガンナーに攻撃するよ!」

 

異次元の女戦士

攻:1500

カード・ガンナー

攻:400

惺 2650 → 1550

 

「念には念を!

ボクはこの瞬間、異次元の女戦士の効果を発動!

このカードと戦闘を行ったモンスターとこのカードをゲームから除外させる!

これでカード・ガンナーのドロー効果は使えないよ!」

 

「くぅ……」

 

レイのヤツ……容赦ねーな。

この局面での一枚ドローはかなり重要だ。それを潰しに掛かるとは……。

 

「ふふふッ! これでボクの勝ちだよ惺!

恋する乙女で惺にダイレクトアタック! ”一途な思い”!」

 

『うふふ……』

恋する乙女が此方に向かって、ゆっくりと歩いてくる。顔は笑っていながらも、胸の辺りで両手をポキポキと鳴らしながら迫ってくる姿は、まさに怒った時のレイそのもの。カードは持ち主に似るというやつなのだろうか?

そう考えると、あのビンタの威力にも納得だ。あの威力は男にも勝る。

そして、自分の身を盾にするその男気……なるほど。

つまり恋する乙女とは仮の名前で、真名は……

 

「……恋する(おとめ)

 

『…………』

あ、やべ。

もの凄い形相でこっちに向かって走ってきた……どうやら俺の推理は外れたようだな。

と、そんな馬鹿げたことを考えながら、俺はデュエルディスクのセメタリースイッチのボタンを連打する。

 

「俺は墓地のネクロガードナーの効果を発動!

墓地のこのカードをゲームから除外することによって、この攻撃を無効にする」

 

恋する乙女の攻撃は、俺と恋する乙女との間に出てきたネクローガードナーによって阻まれた。まさに間一髪である。

因みにネクロガードナーはグーパンもらって砕け散った。あの攻撃が俺を捉えていたら、俺の命は無かったかもしれない……ありがとなネクロ・ガードナー、お前の事は忘れない。

 

『…………チィ』

おい、このソリットヴィジョン舌打ちしながら帰っていったぞ。

最近のソリットヴィジョンってどんだけハイテクなんだ。持ち主の性格に似すぎてる。

 

「(あ、あれ? 恋する乙女の攻撃方法って、殴るだったけ?)……ま、まぁいいわ。

恋する乙女の攻撃は防がれたけど、まだボクには終末の騎士の攻撃が残ってる!

終末の騎士で、惺にダイレクトアッタク!」

 

終末の騎士が此方に向かって駆けて来る。

恋する乙女の攻撃力400でもそうとう痛かったのだ。身を引き締めねば……。そう思い、俺は終末の騎士が振るってくる剣に、無駄とは思いつつも腕をクロスさせて防御する。

 

終末の騎士

攻:1400

惺1550 → 150

 

……あれ? あんまり痛くない。

具体的にいうと、腕にシッペされた位の痛みしかない。

あそこで此方を睨んでいる、恋する乙女の時はかなり痛かったんだが……。

あれか? デュエルディスクの体感設定が戻ったのか?

それとも恋する乙女の存在自体がバグレベルだったのか?

……いや、普通に考えて前者の方だろうな。後者の方だったら恐ろしいの一言だ。

 

「何してるの? 惺?」

 

レイに声を掛けられ、自分の状態を思い出してみる。

意味も無く腕をクロスさせてる男の子……なるほど、恥ずい。

 

「いや、何でもない。気にしないでくれ」

 

「そう? ならいいけど。

ボクはリバースカードを一枚セットして、ターンエンド」

 

レイのターンが終り、俺のターンになる。

ここで改めて自分の状況を確認してみる。

 

レイ2500

モンスター:恋する乙女 攻1800

      終末の騎士 攻1400

魔法・罠 :ハッピー・マリッジ

     :伏せカード1枚

 

惺 150

モンスター:なし

魔法・罠 :はさみ撃ち

 

手札             墓地

魔法除去          ワイト

ワイトメア         ワイト夫人

カオス・ネクロマンサー   ものまね幻想師

 

……やべぇ、ドロー次第では負ける。

魔法除去でハッピー・マリッジを破壊して、攻撃力2900以上のモンスターで恋する乙女を攻撃するれば俺の勝ちだ。レイのリバースカードが無害だと想定しての話だが……。

そして最悪の想定としては、ドローしたカードがこの状況下で無意味なカードが来た場合だ。そんなことになれば、確実に次のターンに攻撃を食らって終わる。

 

「……冗談じゃねーぞ」

 

負けたらレイに何されるか分からないんだぞ?

一日たったら、違う自分に目覚めましたっていう状況が起こるんだぞ?

気が付いたら、ゲイ野郎になってるかもしれないんだぞ? 

 

……絶対勝つ!

心に気合を入れ、ドローする指に力を込める。

 

「ドロー!!」

 

引いたカードは闇の誘惑……まだ、可能性は残ってる。

 

「俺は手札から、闇の誘惑を発動!

このカードはデッキからカードを2枚引き、その後闇属性モンスター1体を手札から除外する。この時、手札に闇属性モンスターがいない場合、自分の手札を全て捨てる!」

 

俺は再度デッキトップに指を置く。

『お主がピンチになった時は、必ずこのデッキは応えてくれるぞぃ』……もし、おじいさんが言ってたようにデッキが俺に応えてくれるのなら、俺はそれを信じてドローするしかない。

 

「2枚ドロー!!」

 

ドローしたカードは俺のエースカード、ワイトキング。

……そして、ワイト夫人。

なるほど……おじいさんの言ってた事は本当だったな。

 

「俺は闇の誘惑の効果で、ワイトキングをゲームから除外する。

そして、ワイト夫人を守備表示で召喚!

さらに俺は手札から、ワイトメアの効果を発動させる!

ワイトメアは手札から墓地に捨てることにより、2つの効果の内1つを発動できる。

俺はその中の1つ、除外されているワイトキングを特殊召喚する効果を発動!

さぁ、出て来い! ワイトキング!」

 

『アァァ……』

フィールド内の地面から白骨の手や体が、”ゴゴゴ”という効果音と共に出現する。

出てきたのは、紫色のローブを纏った白骨の王……ワイトキング。

ワイトイングは召喚と同時にその身を蒼黒いオーラで包み込み、力を増幅させていく。

 

ワイトキング

攻:3000

 

「こ、攻撃力3000……。

くぅ……そのカードが出る前に勝負を着けたかったのに…」

 

レイがワイトキングを見て顔を顰める。

レイの表情と台詞を考慮すると、やはりワイトキングの存在を知っていたようだな。

 

「そう簡単に負けないっての。

さらに俺は手札から、魔法除去を発動する!

このカードの効果により、レイのハッピー・マリッジを破壊!」

 

『きゃーあぁぁ!』

魔法除去の緑色の煙が、純白のウエディングドレスを着た恋する乙女を包み込んでゆく。

煙に包まれていく恋する乙女は、悲鳴を上げながら煙に呑まれていった……。

 

恋する乙女

攻:1800 → 400

 

煙が晴れるとそこには、ボロボロのドレスを着た恋する乙女がいた。

どうやら、ハッピー・マリッジを破壊したら元の衣装に戻るようだ。

ウエディングドレスを破壊された恋する乙女は、此方を今まで以上に強く睨んでくる。

ソリットヴィジョンであるが故に、言葉を自由に喋れない彼女だが、今の心境を言葉にすれば『何してんだ! コラッ!!』と思ってるのかもしれないな。ウエディングドレスって、女の子が着てみたい服の上位にくるものだし……。

だが、ハッピー・マリッジを破壊しなければ勝利には近づけないのは事実。

恋する乙女には悪いが、俺は勝たなくてはならんのだ。だから容赦なく行くぞ!

 

「このターンで終らせる!

覚悟しろよ、レイ! と、恋する乙女!」

 

「うぅ……。

(ど、どうしよう! ボクの記憶が正しいとワイト夫人の効果ってアレだったよね…。

ということは、今ボクのセットしているマジック・シリンダーを発動しても意味がない!)」

 

「俺はバトルフェィズに移行し、バトル!

ワイトキングで、恋する乙女を攻撃ッ!!」

 

俺の攻撃宣言と共にワイトキングは恋する乙女へと駆ける。俺の勝利の為に。

 

「ち、違う! きっとボクの記憶違いなはず!

ボクはワイトキングの攻撃宣言時に罠発動! マジック・シリンダーッ!」

 

ワイトキングと恋する乙女の距離が後僅かになった瞬間。レイのヤケクソな声が成り響く。

そして、レイの発動させた赤紫色の筒二つは2体のモンスターの間に出現した。

 

『アァァッ!!』

 

だがしかし、その二つの筒をワイトキングは掴んで持ち上げる。

両手に自分と同じ位の筒を二つを持ち上げるその姿は、かなり男前だ。しかし、そんなワイトキングとは打って変わって、レイはガックシと肩を落す。レイの顔は、少なからず抱いた希望が無に帰ったような表情をしている。

 

「うぅ……や、やっぱり効かない…」

 

「? 何を考えてるかは知らないが、ワイト夫人がフィールド場で表になってる限り、自分フィールド場で表になっているワイト夫人以外のレベル3以下のアンデット族モンスターは戦闘では破壊されず、魔法・罠カードの効果も受けない!

レイが今発動した罠カードの効果は知らないが、その効果はワイトキングには効かない…。

よって、攻撃は続行される! 行け、ワイトキングッ!!」

 

攻撃を続行したワイトキングは両手に持った筒を豪快に振り回す。

レイの罠カードなのに何でそんな風に扱えるんだ? という疑問は出てくるが、そういう仕様なんだと自分で自己解釈する。

 

『キャアァーァッ!』

 

ワイトキングの攻撃に当たった恋する乙女は、悲鳴をあげながら後方へと吹き飛ぶ。

因みに恋する乙女が飛んだ方向には、相手プレイヤーであるレイがいる。

 

「え!? ちょ―――」

 

レイは焦りながら両手を前に出そうとするが、飛んで来た恋する乙女に押し負ける。

恋する乙女の体をその身で受止めたレイは、恋する乙女の勢いを殺しきれず、二人してその場に倒れる。そして、二人が倒れた衝撃が大きかったせいもあり、土煙がもくもくと舞い上がる。

 

レイ 2500 → -100

恋する乙女

攻:400

ワイトキング

攻:3000

 

何秒かが経過し、土煙が晴れる。

するとそこには、目を回した早乙女レイと恋する乙女の姿があった。

俺はその二人の状態とレイのライフポイントを見て、自分が勝ったことを認識する。

認識した後は自然と自分の右拳を空に力強く掲げ、そして、勝利の雄たけびを叫ぶ。

 

「勝ったぞぉーーッ!!」

 

Win 惺

 

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