俺のデッキの末端価格は840円   作:MrM3

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第8話

 

俺とレイのデュエルは俺の勝利で終った。

これはつまり、亮様ファンクラブの副会長への就任の取り消し及び盗撮された動画の削除

が決定したということだ。

それに伴い、レイが目を覚ました時に此方の要求を全て呑んでもらった。

副会長の件と盗撮の件、そして漢字プリントを手伝ってもらうことの計3つだ。

レイは前者の2つは納得していたが、後者の要求には渋い顔をしていた。

『何でボクが…』と、最後の要求については否定的だった。

だが、理由を言って納得させた。その理由は『そもそも明日が例の漢字プリントの提出期限なのに、無理矢理デュエルを吹っかけ、宿題の進行を妨げたのは事実』この言葉にレイは言葉を詰まらせ、納得したのだ。

 

そして、俺とレイが今居るのはレイの部屋だ。

二階にあるレイの部屋は、窓付きのシンプルな部屋にベットやテーブルが配置されている。ここまでだったら俺の部屋とそうたいして変らないが、レイとて女の子。しっかりと部屋には可愛らしいぬいぐるみが置かれてる。

これだけなら普通の女の子の部屋なのだが……そこはやはりレイというべきなのだろう。

壁には丸藤亮のポスターが多数貼られている。もはや、壁が丸藤亮と化すほどに……。

人の趣味をどうこう言う気は無いので、口には出さなかったが『せめて数枚に収めろよ』とは思った。が、言ってもレイがうるさくなるだけだから、放置が安定だろう。

 

そもそも何で俺達がレイの部屋に今居るかだが、理由はレイが言った言葉にある。

レイ曰く『今日お母さんが、惺に話しが有るから夕飯を一緒に食べようだって』との事。

夕飯をゴチになる事を考慮した結果、レイの部屋で漢字プリントをやる事にしたのだ。

 

そんな訳で、俺とレイは晩御飯まで漢字プリントを消化中……。

二人とも、向き合う形でテーブルに座って問題を解いてゆく。

俺は右手にシャーペンを持ってカキカキと。

レイは右手にシャーペン、左手にブルーIスカッシュを持ってサラサラ、ゴクゴクと。

 

「おい、レイ。

頼むから、ブルーIスカッシュを飲みながらプリントをやらないでくれ。

プリントに零れたらどうするだよ……それに、後もう少しで夕飯だろ?

炭酸飲料なんか飲んだら、夕飯入らなくなるぞ?」

 

「ん? 別に零さないし、夕飯もちゃんと食べるから大丈夫だよ。

だから問題ない。むしろ問題なのは惺の解答スピードじゃない?」

 

そう言ってレイは、自分の仕上げたプリントと俺の仕上げたプリントを比較している。

レイの仕上げた枚数は4枚。対して俺はまだ2枚しか終っていない。

この結果だけを見れば、俺の解答スピードが遅いと言われても仕方ないのかもしれない。

……けどな? この漢字プリントを消化を始めてまだ20分しか経っていない。今は学校の授業中じゃないから、以前授業中にプリントを仕上げた時よりも速く解答したつもりだ。

なのに、ジュースを飲みながらプリントをやってるレイの方が速いのはなぜか?

その答えは単に早乙女レイの頭が良いからなのだ……超が付くほどに。

確か、前期の学力テストでレイは1位だった気がする……5教科だけなら計489点だ。

とどのつまり、俺とレイでは頭の回転速度が違うのだ。

 

「これでも俺は本気だしてるっての。

俺はレイみたいに非凡じゃないんだよ、一般的な小学生5年舐めんなしッ」

 

「いや、惺も十分に非凡でしょ?

デュエルモンスターズを昨日まで知らなかった惺が、ボクに勝ったんだよ?

一日だよ? たった一日でボクに勝つなんて、非凡としか言いようがないよ」

 

レイはそう言って、呆れた表情を向けてくる。

顔を向けるているにも関わらず、手を休を休めないでプリントを消化しているレイの姿に若干引きつつも、俺はレイの言葉に疑問を抱く。『一体何言ってんだコイツ』といった考えが湧いてくるのだ。

確かにデュエルで勝利したのは事実だ。しかし、それで俺が非凡認定されるのはおかしい。

俺は単におじいさんが教えてくれた事と、遊戯さんから教わったアドバイスを参考にした程度だ。これらの事を考慮すると、非凡認定されるべきなのはおじいさんと遊戯さんの2人だと思う。

 

「いや、俺は非凡じゃないって。

俺がデュエルに勝てたのは、俺にデュエルモンスターズを教えた人達の御かげだ。

あの人達がいなかったら、俺はデッキするらまともに組めなかっただろうしな」

 

デッキが俺に応えてくれた事も大きいが、やっぱり大前提としてあの二人の存在はデカイ。

もしあの二人と会わなかったら、と思うと冷や汗が出てくるほどだ。

 

「でも、その人達から教えてもらった事を吸収して、自分のものにしたのは惺でしょ?

普通の人なら絶対に勝てなかったと思うよ? たった一日でボクに勝つなんてね」

 

「んん……そういうものなのか?」

 

「そういうものだよ。

それに、そうでないと惺に負けたボクの立場はどうなるのさ?

惺に非凡な才能が有ったんだって、そう思わないとボクはやってられないの」

 

レイは喋った後に、ブルーIスカッシュをゴクゴクと飲み干す。

レイの行動は大人でいったら、自棄酒と同じような行為なのだろう。『飲まないとやってられない』みたいな感じだな。

でもまぁ、レイの気持ちは分らなくもないかな? 俺だって得意分野のゲームで初心者に負ければ、自棄になるかもしれない。

そう考えたら、レイの言ってるように相手は非凡だったんだ、って思った方が気が楽か……。

 

「だから、惺!

これからデュエルで負けたりしないでよ! 負けたボクの立場がなくなるんだからね!」

 

「……お前、それは俺を応援してるのか?

聞こえ方次第では、『ボクの為に勝て』って聞こえなくもないんだが?」

 

「ん? 惺、男の子は女の子の為に頑張る生き物なんだよ?」

 

なるほど、つまりレイの為に勝てと……コイツ、ぶれないなぁ。

少し気落ちしてるのかと思って心配したが、そんな心配は一切要らなかったようだ。

 

『二人共~。

ご飯が出来たから降りて来なさ~い』

 

下の階から、此方を呼んでいる声が聞こえてくる。

聞き覚えのあるその声の主は、早乙女愛子。レイの母親である。

愛子さんには俺の親が不在の間、色々とお世話になってる。週に何回かは食事に誘ってもらってるし。此方の家の掃除とかも時々やってもらっている。そして、その中でも一番お世話になってる事は保護者が絡む学校行事だ。

参観日、保護者会、家庭訪問、PTA行事などを親代わりとしてやってもらっている。

本人は『気にしなくて良いわよ』と笑っていたが……いつかは恩を返したいものだ。

 

「は~い。惺も連れて今行くぅ~」

 

レイは手に持ったシャーペンを手放し、立ち上がる。

その際、レイがやっていたプリントをチラッと見てみると、5枚目が半分近く解答してあった。よくあんな風に会話しながら問題を解けるものだなぁ、と関心しながら俺も立ち上がり、1階にある食堂を目指すのだった。

 

 

 

レイと一緒にダイニングへ行ってみると、ダイニングテーブルには料理が既に並んであった。ミートスパゲティー、ハンバーグ、コーンスープ、野菜サラダ。今日は洋風のようだ。

 

「さぁさぁ、二人共。早く席に着いてちょうだい」

 

台所の流し台にいる愛子さんが、此方をニコニコと微笑みながらそう言ってくる。

愛子さんの顔はレイに似ている。いや、レイが愛子さんに似たというべきなのだろう。

髪の毛もロングの青色といった点を考えると、レイは愛子さん遺伝子を強く受け継いでいるといえる。

 

「はいはい、うちのお母さんをそんな風にジロジロ見ないの」

 

「イタッ! ちょ、耳を引っ張るな!」

 

レイはテーブルの方へと進んでゆく……俺の左耳を掴みながら。

優しい性格の愛子さんとは正反対に、レイはなかなかに過激だ。

レイの父親である早乙女純司さんも優しい性格であることを考えると、このレイの性格は突然変異と言わざるを得ないだろう。

ハァー、まったく……突然変異ならせめてもっとマシな性格になってほしいものだ。

 

「…………」

 

「おい、ちょっと待てレイ!?

何で無言で引っ張る力を強めるんだよ! ちょ、マジ放せって!」

 

俺が訴えてもレイは耳を放すこと無く、むしろ引っ張る力を強め一歩二歩と進んでいく。

そして、そのレイの動きに比例して俺の耳が痛む……くぅ、やはりコイツの性格は過激だ。

もう少しお淑やかな性格にでもなりやがれ!

 

「あらあら、まぁまぁ……ふふふ。

やっぱりレイと惺君は仲がいいわね」

 

「ちょっと、愛子さん!? 此方としては助けて欲しいんですけど!?

耳がこのまま引っ張られ続けたら、RPGのエルフみたいに耳が尖がっちゃいます、

変形しちゃいますって!」

 

レイの行動を抑制できるのは、この場において愛子さんしかいない。

だがしかし、愛子さんは俺とレイを見て微笑ましく笑うだけ……うぅ、耳が痛い。

 

「まったく……これに懲りたら、ボクの悪口は言わないこと」

 

レイはそう言いながらテーブ近くで立ち止まり、俺の耳を解放した。

俺は痛む耳を擦りながら、レイの言葉に異議を唱える。

 

「いや待て、俺はレイの悪口なんて言ってないだろ!?」

 

「いいや、言ったね。

内心でボクの性格を非難してました」

 

……何この子怖い。

 

「……人の心が読めるのなら探偵か刑事になれよ」

 

「残念。ボクはまだ就活する年齢じゃないの。

それに、惺が解かりやす過ぎるんだけだって」

 

「え? 俺って解かりやすいの?」

 

「さぁ? どうだろうねぇ?」

 

レイはそう言いながら、テーブルの椅子に座る。

レイの白々しい言葉を聞いて、追求しようと思ったが……やめた。

追求しても、どうせはぐらかされるだけだし。それにいつの間にか愛子さんも椅子に座っている。この状況は、俺が座らなければ食事ができないよ、的な雰囲気が漂っている。

ここは空気を読んで座るのがベストだろう。

 

「ふふふ、それじゃ、食事にしましょ」

 

愛子さんの言葉を聞き、俺とレイは手を合わせる。

日本人なら食事前に一度はやった事のあるであろう、極々当たり前の行為だ。

 

「「いただきます」」

 

「はい、召し上がれ」

 

食事前の挨拶を終えた後、俺はフォークに手を延ばし。ミートスパゲティーをクルクルと巻いていく。ミートソースと麺が絡みやってとっても美味しそうだ、と思った時である。

俺はある事を思い出した。

そもそも今日俺が今ここで来た理由は、愛子さんが俺に話しが有るんじゃなかったけ? という事を思い出したのだ。

でもまぁ、それは食事の後でも大丈夫だろ。よっぽど急ぎなら直に話してるだろうし。

それに今は、この目の前にある食事を堪能することが最優先だろう。

そう考え、俺はスパゲティーを巻いたフォークを口に運ぶ。

 

……美味い。

 

やはり今は食事を堪能することが最優先だと、俺は強く認識するのだった。

 

 

 

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