この戦いは公式の記録に残るものではない。
これはPT(パノプティコン)より発せられた正規のボランティアではなく、戦いで刑期が減ることはない。むしろ、PTから許可なく出たことが「安全保障局」に知られてしまえば、莫大な刑期が加算される。
これは秘密裏に行われる、とても個人的な活動である。故に組織からの支援はなく、安全の保障もない。普段行われるボランティア以上に危険なものと場合によっては考えられるかもしれない。携行する火器の燃料、弾薬、目的地までの移動コストも全て各々が出し合って賄われている。
彼らの今回の目的はシヴィリアンの救出。
彼女は昨日の午後4:00より行われた‘シ5-9:市民奪還作戦’にて救出されるはずのシヴィリアンであったが、作戦遂行中に現れた敵の援軍が決定打となり、PTの部隊は敗走。
救出対象を鳥籠から連れ出すことが一度すら実現されなかった。
安全保障局は作戦中の部隊のロストを恐れ、午後5:42に部隊の撤退を命令。奪われたシヴィリアンはPTからロストしたとみなされ、以降安全保障局はこの件から手を引くことを決定した。
しかしその作戦の裏で、彼女の救出は別に計画されていた。上記の作戦は安全保障局に届けられた救出願いによって立脚されたPTによる公的な作戦であるが、この作戦は彼女の夫にあたる人物が個人に依頼したことで立脚されたものである。
放置市街区域で形を成しているビル。その一つのある一室。10分後に作戦を控える彼らの姿からその日は記録を開始しました。
咎人NO.1220725(以降、ジェイコブ)は愛用するカッツェに念入りなチェックを重ねながら、咎人NO.1227(以降、ジョアン)へ一方的に言葉を投げかけています。ジェイコブより年齢の低いジョアンは彼女の言葉を辟易しながらも聞いているようでしたが、ムラサメの手入れの明らかな妨害行為となっていました。この光景はかつて記録した7月より続くものですが、この様子ではまだ終わることがないのでしょう。
「......ねぇ聞いてるぅ?カッツェから発射される弾丸は秒速400mで相手に直進して敵を貫くんだけどぉ、これって咎人の携行する個人携行火器の中でもトップクラスの速さなわけよぉ。そんな弾丸を一分間に800発も叩き込んじゃうんだからぁ、もうっ最強なのよぉぉ!!持ち運びもしやすいしぃ、あたしのこのかわいい鞄にもすっぽりおさまっちゃうわけなのぉ、それに......」
ジェイコブは黄色く染まった長い髪を今日はツインテールに纏めていました。両手の爪には装飾された長めの爪が見て取れます。
ネイルを施した指であっても彼女は手際よく作業を進め、やがて一番に準備を終えてしまうと、今度は彼の元へやってきました。その時普段は僅かな動きしか見せないジョアンの表情が微かに柔らかくなったのを私は見逃しません。
「ねぇリーダーぁ?私が作ったカッツェ、どうかなぁ?うまくできてるかなぁ?」
「うん。すごい。よくここまで連射性能と威力を上げられたね」
「えへへぇぇ......そうでしょぉ~~~~」
彼はにこにこしながらそう言います。
確かにあのカッツェの威力と連射性能は他にはないグレードです。しかし私はあのカッツェには全属性を大幅にダウンさせ、近接兵器の攻撃力を全くないものにしてしまうという性能が隠れていることを知っています。彼はかつて雷属性の大剣装備を愛用していましたが、今年の誕生日がそれを大きく変えてしまいました。
今の彼は遠距離支援に徹しています。
「ほんとにどうしてこんなに偏ってしまうんだ」
「パーツの分解には最適よぉ???」
しかし作戦効率は大きく下がってしまいました。
彼の役割を補うためにこの日連れてこられたのは、ジョアンと咎人NO:1401130(以降、アンドレ)です。二人は彼らの組織の中でもトップクラスの小剣使いと大剣使いであり、特にアンドレは現在のPTでも最も刑期の少ない模範囚です。彼の頭上にある刑期は30万。しかしこの数字を下回ることはここ3年間ありません。この数字を留めているのか定期的に違反行為を行って刑期を延ばしています。
「リーダー、ジェイコブ、そろそろ予定時刻を迎えるだろう。おしゃべりはその辺にしてくれ」
「ねぇあなたもカッツ」
「お前のカッツェは役に立たん。なんだあれはどうして連射速度アップしかついてないんだ。どうして一度装備するとバグが起こるんだ」
「カッツェの良さをわかってほしくてぇ......」
「どうして登録していた大剣までカッツェに姿を変えるんだ!!おかげで俺は装備を作り直しだ!」
「プッ......」
このやり取りも、このパーティでは常に記録されるものです。そして誰も気に留めてはいませんが、普段声を出さないジョアンが小さく噴き出したことは、搭載されている最新の高解像度カメラが捉えています。
丁度その時、私のソフトウェアと連携しているカメラが人口アブダクターの姿を発見、ここで私はいったん視界を彼らから離脱させました。
此処から1km離れた廃墟ビルからは全体が見渡せます。故にテキストで細部を紹介するには莫大な時間と容量を必要とするため、今回は大まかな様子をお伝えします。南西方向より他PT勢力の【輸送弐脚 乙】【砲撃弐脚 丙】らしき影を視認。アブダクターの肩や胴から複数人の敵勢力咎人、アクセサリも確認されました。当時確認された人数は見える限りで16人。走行速度と距離を考え、残り4分22秒が彼らに与えられた猶予です。
これらを含めるいくつかの情報を私は彼らに報告しました。
「ふ~ん、けっこう遅いのねぇ」
「敵の勢力もかなり大きいな......しかし当然か、彼女は私たちのPTでは主席研究員にあたるほどの人物だった」
「うん、かなり多いね。ティア、彼らは目の前の道を通るかな」
確認された人工アブダクターの大きさを考えれば、目の前の通りを通る以外に円滑な移動は望めませんでした。今回彼ら敵勢力は建物を壊して進むといったことはまず行いません。何故ならこの放置市街周辺には6の小型PTが存在し、彼らにシヴィリアンの移送が目撃されれば、この放置市街で七つの勢力による大規模な争奪戦が繰り広げられてしまいます。故にリスクを避け、夜間に慎重な行動を秘密裏に取っているのでしょう。
「ここいらの小型PTはどこも資源には目がない。見つかればとんでもなく大規模なものになるだろうな」
「だから、僕たちも目立った行動はできない。今回は普段のボランティアよりよっぽど難しいものだよ」
「リーダー弱気なのぉ?絶対セイコウよぉ!でないと私の我慢が報われないじゃないぃ~」
「あはは、そうだね!ジェイコブがサプレッサーつけてくれたもんね!」
「ほんとよぉ......ほんとはこんなの私と貴方のカッツェには似合わないんだからぁ」
この時、敵勢力がカメラの前を通り過ぎました。
「おい二人とも、もうおそらく三分を切ったぞ、いい加減......」
と言いかけたアンドレは途中でびくりと肩を動かし、視線を二人から自分の右下にさげました。いつのまにか立っていたジョアンに彼は大きな動揺を見せたようです。
「な、なんだジョアンか。もう準備はできたのか?もうすぐ作戦開始だぞ!」
誤魔化すように話しかけていますが、先ほどから上昇している心拍数が私には数値としてよくわかっていました。年齢の低いジョアンは平然と立っていましたが、やがてちらりと目だけをアンドレによこし、小さな声で
「......怖がり」
とつぶやいた事が確認できました。アンドレは暗闇に恐怖を感じていたようです。ジョアンの口元の動きを認識し、この言葉を聞いて初めて気丈なアンドレがこの作戦で常に心拍数が高かった理由が判明しました。
このことは作戦終了後に彼にお伝えしましたので、問題ありません。
「二人ともぉ、はやくしてねぇ?」
「な、なんだ!私は何も怖がってなどいないぞ!!」
「そんなこと言ってないよ、二人ともこっち来て」
彼の言葉にさらに心拍数を上昇させ、下を向いた小走りのアンドレと、後に続いてジョアンが彼と同じように座り込みます。
「ほら、ジェイコブも」
「姿勢を正して、でしょぉ?」
「そうそう。ほらティアも」
ここでは私も呼ばれました。監視対象の命令に従い、私も彼らの隣に座ります。
私と彼、三人の咎人で小さな円を作ります。
誰もが彼の口元に視線を集めていました。
「作戦は覚えてるよね」
「もちろんだ」
「武器の準備は」
「ばっちりよぉ」
「......」
「うん」
「じゃぁ行こう」
私たちは手をつなぎました。私を除く四人は目をつむっています。三人は彼の言葉を待っているように見えました。表情の乏しいジョアンでさえ、そう見えます。
「僕らのこの活動はデータには残らない」
「でも、この活動で二人の人間を幸せにできる」
「これは安全保障局にはできない、だけど僕たちならできる慈善事業。僕らのボランティアだ」
私の手に搭載された圧力感知パネルが両手とも同じタイミングで力の上昇を記録しました。三人それぞれのあらゆる数値が正常化し、これまで下がる気配などなかったアンドレの心拍数でさえ正常値に戻っています。
「誇りを胸に」
「「「私たちがこの世界の希望になる」」」
これ書くのに時間かかりすぎィィーーー!!!
たまげたなぁ......