ディストピアにひっそり優しさを   作:ryu39

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第二話

ここまで仕上げられた報告書を私は香梨音に渡した。彼女は元咎人であるが、現在は刑期を終え、シヴィリアンとしてPTに貢献している。私のようなアクセサリを作成することが彼女の業務だ。

 

 私は安全保障局の管理の下、咎人NO.1225407、五十鈴(報告書の‘彼’)の監視を行っているが、その監視記録の一部をテキストにして彼女に渡している。これはプログラムにないことであり、彼女からの要求を私個人がPT貢献に役立つと判断し、行っていることである。彼女の要求する物の中にはこのような機密作戦についても含まれるため、デジタルには残さず処理の簡単なテキストで纏めているのだが、ほとんど全てが膨大なページ数に膨れ上がってしまう。彼女が何故貴重な時間を割いてまでこの膨大な文字群を読み、そして作業効率がぐっと上がるのか、私にはわからない。

 

 

 

 「ふ~ん、なるほどねぇ」

 

 

 

 当然だが、そこには五十鈴もいる。彼女の部屋に入ってきた時とは打って変わってシュンと縮こまり、普段に比べ心拍数は早く、発汗量、体温も高い数値を記録している。かつて彼とこの部屋を立ち去った直後に、彼が死にたいと呟いたことがここ最近の刑期加算の原因である。PTではそのような発言も違反行為である。

 

 

 

 「またずいぶんとクサいセリフを......はずかしぃ~」

 

 

 

 そう言うと香梨音は五十鈴と報告書を見比べるようにし、笑みを浮かべていた。

 

 既に五十鈴のあらゆる数値が過去のデータにないほど上昇している。

 

 

 

 「しかし香梨音、五十鈴の行動は彼らチームの指揮を高めるものとなっていました。チームの三人は落ち着きを取り戻し」

 

 

 

 「えぇ、これで?ますます胡散臭い......変な団体じゃないこれ、フラタニティ?」

 

 

 

 「あんなのと一緒にしないでよ!」

 

 

 

 「五十鈴、貴方がそのようなことを言っても香梨音に全く影響をもたらさない事が、これまでのこの『報告会』のデータより推測されます。19日前の報告会では、貴方の発言を受けた香梨音が過去の貴方の醜態を公開するに至りました。貴方がボランティアで」

 

 

 

 「だぁぁぁぁティアもそれ以上は」

 

 

 

 「ビビって漏らしちゃったのよね」

 

 

 

 「ぁぁぁああああああ」

 

 

 

 五十鈴は逃げるように飛び去り、すぐさま部屋の扉に手をかけようとする。

 

 私はすかさず、拘束具展開のコードを入力。彼は部屋を出ることが叶わず、仮想拘束具により体を拘束されて動けなくなった。胴と手、そして足首が拘束されたせいで彼は扉に顔を打ち付ける。

 

 

 

 「許可なく私から離れる事はPT法に反しています、刑期を400年加算します」

 

 

 

 「だぁぁぁぁ僕に自由はないのか!!」

 

 

 

 「あるわけないでしょ咎人なんだから」

 

 

 

 その言葉を聞くと五十鈴は一気に体の力を抜いてしまい、抵抗の気配なしと判断した拘束プログラムはその姿を再び隠した。頭上の刑期には先ほどより400年加算された623,045という数字が浮かんでいる。

 

 

 

 「で、この後の記録は」

 

 

 

 「事前に用意していた用紙が何者かに持ち出されてしまい、これ以上の書き込みはできませんでした」

 

  

 

 「あー!あんた紙とったでしょ!私の唯一の楽しみなのよ!!」

 

 

 

 「人の不幸を楽しむんじゃない!!」

 

 

 

 「只今の発言により、資源の持ち出しを認めたと認識し、刑期を250年加算します」

 

 

 

 「ぁぁぁああああああ」

 

 

 

 頭を激しく動かし、悶え暴れる五十鈴。監視下では初めての光景だ。

 

 

 

 「じゃ、続きは......あ、いいわ。あんたらも忙しいだろうしね。続きも紙に書いてまた頂戴」

 

 

 

 車椅子の香梨音はニコニコしながら車輪に手をまわし、放心状態の彼に近づく。グッと前屈みなって彼を覗き込んだ。

 

 

 

 「今度盗ったら委員会に報告するから、よろしくね」

 

 

 

 「それほんとにダメなやつ」

 

 

 

 笑って部屋を後にし、私と五十鈴だけとなった。

 

 

 

 「もう、殺して」

 

 

 

 「自殺することはPT法違反となります、さらに刑期が加算されますよ」

 

 

 

 私は五十鈴の拘束を解除し、手を差し伸べる。起きあがった彼はうなだれながら部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 彼はその後、真っ直ぐガソリンへ向かった。。ずかずかと店内を進み、カウンターの一席を真っ先に占領し、塩ナトを頼む。報告会の後はいつもこの流れを辿る。ガソリンの店主が塩ナトを持ってくると大量のそれを飲み下し、五十鈴はカウンターに突っ伏してしまった。その隣を『誰か』が座った。この誰かの顔はおおきなノイズで隠されてしまい、誰なのかは全く分からなくなっている。音声も遮断され、何を話しているかもわからない。体格で見ればそれは男のようだ。男は何かを五十鈴に差し出すと、顔も挙げずにそれを受け取り、一言二言話すとその場を去っていった。やがて五十鈴は顔を上げると炭酸水を頼み、飲み干すと席を立った。

 

 席を立った五十鈴は私を見てこう言った。

 

 

 

「ティア、お仕事してくる」

 

 

 

 そして彼は口元に人差し指を立てた。

 

 途端に私は全ての認識が出来なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 エラーが解除されると、いつの間にか私は独房にいた。そこで五十鈴を再び認識できたため、再び監視を開始する。エラーが起こってからの私についての記録は一切なく、およそ二時間は監視の記録がない状態だった。

 

 

 

 「五十鈴、すみません。私のエラーにより現時刻より二時間の情報が全くありません。この二時間は何をされていたのですか?」

 

 

 

 私は五十鈴に尋ねると、五十鈴は笑いながら、君を修理に連れて言ってたよ、動かすの大変だった。と言った。

 

 

 

 「そうでしたか、ご迷惑をおかけしました。現時刻より引き続き監視を行います」

 

 

 

 私がそう告げると、彼は再びベッドに腰かけ、端末の操作を続けた。

 

 スキャンを開始し、彼のバイタルを計測する。数値には少々気になる点が見られた。普段彼から吐かれる数値との違い、この時の症状などを分析し、ケアが必要だと判断された。

 

 

 

 「五十鈴」

 

 

 

 私は名を呼び、彼の前に立つ。そして彼を寝かしつけ、布団をかけた。

 

 

 

 「え、何、どうしたのティア」

 

 

 

 「五十鈴、貴方のバイタルから"動揺"を検知しました。疲労も見られるため、今日はこのまま休息することを命じます」

 

 

 

 「いや、俺は大丈b」

 

 

 

 「命令に従わなければ刑期を増やします」

 

 

 

 「......はい、あと何で僕の胸をさすってるの」

 

 

 

 「より良い睡眠の為です、こうすることで寝つきがよくなるとアーカイブに記載されていました」

 

 

 

 「いや、あんまり落ち着かないっていうか」

 

 

 

 「刑期を加算します」

 

 

 

 「あぁぁぁわかったって!」

 

 

 

 五十鈴はそう言うと抵抗を見せなくなった。私は彼を監視しながら、落ち着いて眠れるよう彼の体をさすり続けた。最初は心拍の上昇なども見られたが、やがてそれらは落ち着き、むしろ睡眠への移行はアーカイブ通りとても早かった。わずかな時間で彼は眠りに達し、それを確認して私はドアの真横に再び立った。

 

 彼の監視を継続しながら、暗号化された通信へのコードを入力し、彼女に報告する。ワンコールと掛からず彼女は応答した。

 

 

 

 「ティアです。本日の五十鈴の監視に関してお伝えすることが有ります」

 

 

 

 「何?」

 

 

 

 「本日14:35よりガソリンにて五十鈴に接触者が現れました。ノイズ、ジャミングにより特定はできませんが、体格により男性だと判断します」

 

 

 

 「そう......男は何かした?」

 

 

 

 「五十鈴に何かを渡し、少し話をしてから席を離れました」

 

 

 

 「なるほどね、了解。ありがとね」

 

 

 

 香梨音はそう言うと通信を切断した。

 

 これも私が香梨音に命じられた業務の一つである。

 

 

 

 

 

 五十鈴に怪しい奴が来たら報告すること

 

  

 

 

 

 前回の報告会の後、香梨音が私に命じたことだった。

 

 私は他のアクセサリと違い、いくつかの機能が備え付けられている。それらは全て安全保障委員会からの管理を一時的に脱することのできる機能ばかりである。これは勿論非公式に取り付けられているものだ。

 

 香梨音は私を他とは違うものに仕上げた。

 

 私にはほかのアクセサリよりも優れた学習機能があり、管理者の束縛から逃れる力がある。

 

 それらは全て五十鈴を守るという最上級の命令を守るために機能している。

 

 何故香梨音がこのような機能を与えたのか、彼女が答えてくれることは無かったが必ず私に、すぐにわかるようになると言っていた。

 

 しかし同時に彼女はこの事を五十鈴に悟られないようにと何度も言った。この事が更に私の理解を苦しめる。何故悟られないようにすることをこんなにも重視しているのか、いくら考えても私にはわからなかった。

 

 学習能力を持った私は考え事、というものを行う癖がついてしまったが、最近はこの事ばかり考えている。この疑問にいつ答えが出るのか、わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 五十鈴が起床してすぐに彼への呼び出しが安全保障局より通達された。私はアクセサリとして同行していたが、保障局の部屋に入る直前に一時的に監視任務が解除され、彼のみが部屋へ連行された。

 

 途端にエラーとジャミングにより私は全てを認識できなくなる。私は本来のアクセサリ同様に待機命令に従いつつ、香梨音に与えられたコードを使用し、認識の回復を行い、部屋の音声の盗聴を開始した。

 

 まず聞こえてきたのは五十鈴ではない男の声だった。

 

 

 

_____イーヴァPTは知っているかね?

 

 

 

 我々ロクショウPTと長く友好関係にあるPT、と聞いています

 

 

 

 その通りだ、だが長く続いたその関係も終わろうとしている。

 

 

 

 イーヴァPTが他のPTと同盟を結び、我々に反旗を翻そうとしているとの情報を得た

 

 

 

 その情報は何処から

 

 

 

 我々が長きにわたって守り続けた情報網だ。この情報は信憑性があるものとみている。我々はこのPTがどのPTなのか、計画はどこまで進んでいるのか、それらについて詳しく調べ上げねばならない。だがここからの情報は

 

 

 

 全く見当がつかないと?

 

 

 

 残念ながらその通りだ。そこで君たちの出番といううわけだ。君たち12使徒にイーヴァPTの調査を頼みたい。内部に潜入し、確かな情報をここに持ってきてもらいたい。

 

 

 

 報酬は君たちの活動の更なる尊重だ、今以上に大きく動いてくれて構わない

 

 

 

 わかりました、お受けしましょう

 

 

 

 よろしい、では詳しい資料はいつもの部屋に送付する。アクセサリに関しても任せてくれればいい。健闘を祈っているよ

 

 

 

 はい、失礼します______

 

 

 

 盗聴を終え、昨日と同じく秘匿回線につなぐ。ワンコールとなく、香梨音は応答した。

 

 

 

 「ティアです、先ほど五十鈴が安全保障局に連行されました。極秘裏に仕事の依頼をしたようですが、私の監視を長期間離れる可能性があります。盗聴した音声を送りますので、此方を確認してください」

 

 

 

 香梨音は音声を聞いているのか、暫くは黙っていたがやがて口を開いた。

 

 

 

 「はぁ、そんなことまでするのかこのPTは。もうだめだなここ」

 

 

 

 香梨音は呆れたようにそうつぶやき、押し黙ってしまった。

 

 

 

 「香梨音、このままでは私の監視が続行できなくなります、何か行動を起こすことを提案します」

 

 

 

 「その通りよティア、流石私の最高傑作。この任務にも貴方が同伴できるよう何らかの対策を取らなければならないわね」

 

 

 

 「はい、では命令を」

 

 

 

 「......」

 

 

 

 そう言うと香梨音は考えるように唸ったが、やがて何も聞こえなくなり、沈黙が続いた。

 

 

 

 「香梨音?」

 

 

 

 私は返事を促すように名前を呼んだ、しかし香梨音はそれでもなかなか話そうとしなかった。

 

 長い沈黙の末、遂にこんなことを言い出した。

 

 

 

 「あんたに任せる」

 

 

 

 「......」

 

 

 

 「良い?これは命令よ、任務に同伴できるよう、貴方から彼に接触しなさい、必ず成功させるのよ」

 

 

 

 「香梨音、私にはそのような事への対処法はプログラムにありません、貴方が行動したほうがはるかに成功率が上がります」

 

 

 

 「うっさいわね!思いつかないって言ってるの!あんたには最高の学習機能が付いてんだから、プログラムもくそもないでしょ!とにかく成功させなさい!」

 

 

 

 「香梨音」

 

 

 

 「嫌!」

 

 

 

 そう言うと彼女は通信を切ってしまった。

 

 プログラムにないことは機械の私にはできない。しかし最上級の命令、五十鈴を守るという物がある限り、彼から長期間は慣れることはできない。この場合、当然だが命令の遂行が優先される。

 

 プログラムにないことへの対処、果たして機械の私にできるのだろうか。

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