ようやくあの子が登場!
『結城玲奈の端末はほかの勇者と同じものです。不具合については本人の精神状態によるものと思われます』
———最初の返信は、素っ気ないこの一文だけだった。
風は、『そんなはずない』と思った。同じものなら、彼女の物には何らかの不具合が起きているはずだと。勇者の端末の不具合は、文字通り命に関わる。故に速やかに端末の検査をするよう、風は大赦にメールを送った。
それに対する返信は、次の通り。
『バーテックスの襲来は不定期になりつつあります。時間の掛かる端末の精密検査は、かえって危険であると思われます』
要するに、端末のない状態で敵が来たら変身できないから危ない、という事だ。なるほど、理に適っている。
———しかし風の胸の内には、微かに、だが確かに大赦に対する不信感が芽生えていた。
「はい、玲奈ちゃん。あーん」
「あ、あーん」
「はーい、失礼しまーす!」
「ゆ、友奈⁉︎」
「お背中流しますよーっ!」
「おやすみ、玲奈ちゃん。一緒に寝よ?」
「……う、うん」
「おはよ、玲奈ちゃん。今日もいい朝だねっ!」
「……にゃー♡」
バーテックス三体との戦いから、およそ一ヶ月後。
「えっと、玲奈?大丈夫?」
「あはは、大丈夫ですよ〜……♡」
風の問いにそう答える玲奈だが、明らかに様子がおかしい。なんというか、ポヤポヤと浮ついている。いつもと明らかに違う口調と声音。普段なら、絶対に「あはは」なんて笑わない。
「ぐぬぬぬぬ………」
それを見て嫉妬の炎を密かに燃やすのは、他の誰でもない東郷美森である。美森は、玲奈がこうなった理由を知っていた。
(友奈ちゃんとお風呂。友奈ちゃんと就寝。なんて羨ましいっ!)
前回の戦い以来、友奈が何かと玲奈の面倒を見ているからだ。美森は想像する。玲奈と友奈が仲睦まじく背中を流し合い、身体中隅々まで余すところなく洗いっこし、同じ湯船に浸かる光景を。同じベッドで抱きしめ合いながら「おやすみ」の挨拶をし、共に眠る姿を。
「……えっと、東郷?何かあったの?」
「なんでもありません!」
風が冷や汗を流しながら問うが、美森は頑なに心の内を押し隠す。……しかし燃え滾る嫉妬の炎は全く隠せていない。
———余談ではあるが、玲奈も友奈も、風呂や就寝を一緒にしている事など誰にも話していない。それでも美森が知っているのは、やはり『東郷美森だから』と言うほかないだろう。
久しぶりに、バーテックスが襲来した。数は一。前回に比べて圧倒的に難易度は低い。
———そんな中、変身していない勇者が二人。友奈と玲奈である。
「良い、玲奈ちゃん。絶対に変身しちゃダメだからね?」
「……分かってるわ」
玲奈は前回のこともあり留守番。友奈が戦うと玲奈も変身しかねないため、友奈も留守番だ。
「よし、行くわよ!勇者部ファイトーっ!」
「おーっ!」
風の掛け声に樹が応じる。美森は後ろで構え、いつでも敵を撃ち抜けるよう備えていた。
———その直後、唐突に敵が爆発。
「東郷先輩?」
「違う、私じゃないわ」
その後も、日本刀のような剣が次々と飛来し、敵に直撃。それを放ったのは、髪をツインテールに結い、赤い装束を纏った同年代の少女。
「ちょろい!」
見知らぬ少女は恐れを知らず。その勢いのまま、自らの武器を投擲し、そして。
「封印開始!」
武器の刀を媒介として、封印の儀を成した。
「まさかあの子、一人でやる気⁉︎」
風も樹も、そして美森も手出しが出来ない。見知らぬ少女が自分達よりも手際良く敵を封印せしめた事に対する驚きはあるが、それ以上に『下手に突っ込んで少女の邪魔をしてしまう恐れ』が彼女達の足を止めていた。
やがて敵バーテックスから御霊が吐き出される。『あとはそれを破壊するだけ』と言うところで以前と同様、御霊が最後の抵抗をした。
「なにこれ、ガス?」
御霊から吐き出されたのは漆黒の霧。周囲が覆われ、敵も御霊も見えなくなる。
「そんな目眩しっ!気配で見えてんのよっ!」
しかし少女は一切怯まず、敵に突貫した。
なお、精霊のバリアが働いていることから、この霧はほぼ確実に『命に関わるであろう毒霧』なのだが、精霊の守りによって一切問題にはならなかった。変身をしなくて済むように十分な距離を取っていた友奈と玲奈の二人も同様。見知らぬ少女は一切の容赦なく、敵の御霊を破壊。「殲・滅」と格好良くポーズを決めて戦闘を終了した。
———戦闘はあっさりと終了した。
これで、残り7体。私達は何もせず、敵の数だけが減少したことになる。
私はその事に、安堵を感じた。そして、見知らぬ少女にも少しだけ感謝を。もしもあの敵が強くて、戦闘が長引いていたら。きっと友奈も、戦わざるを得なくなっていたかもしれないから。
だが、そんな感謝はすぐに消えることになる。
「全く、揃いも揃って。ぼけっとした顔してるのね」
その場に集まった私達に向けて少女が言ったのは、嘲りの言葉。しかし表情を見ると、貶めているのではなく呆れているような感じだった。
「……えっと、誰?」
戸惑いで動けない私達の代わりに勇気を出して訊いたのはもちろん友奈。そう、まずは彼女が誰なのかを知らないと———
「黙りなさい、ちんちくりん」
————————あ゛?
「だいたい、なんで樹海化してるのに変身してないのよ。本当に危機感がないのね」
「えっと、ごめんなさい…?」
「全く、こんな奴らが神樹様に選ばれた勇者だなんて……」
これが、私達と少女『三好夏凜』の出会いだった。
当然ながら、私の彼女に対する第一印象は最悪だったことをここに明記しておく。
「大赦から派遣されてきた三好夏凜よ。私が来たからにはもう安心ね!完全勝利よ!」
勇者部に彼女がやってきたのは、その翌日のことだった。話によると、友奈と同じクラスになったらしい。
———羨ましい、と思わなくはない。
だが、それ以上に心配なのが友奈。友奈は優しいから、このいけすかない
「どうして、最初から来てくれなかったんですか?」
私の思考を他所に、東郷が純粋な疑問をぶつける。意外なことに、東郷はあの『ちんちくりん』発言を全く気にしていないらしい。
「私も本当は最初から出撃したかったんだけどね。大赦は、二重三重に万全を期しているの」
———曰く、彼女の勇者システムは対バーテックス用に最適化されており、彼女自身も長年戦闘訓練を受けているらしい。私たち素人とは、根幹からして違うそうだ。
「大船に乗ったつもりでいなさい!」
なら、もうあなただけで良いんじゃないかしら?私の天使な友奈の代わりに頑張ってほしい。超過労だろうけど、仕方がない。友奈を『ちんちくりん』呼ばわりした罪はきちんと償ってもらわないと。
———しかし、その一方で、『この少女は悪い人間じゃない』と思い始めている自分もいた。
初めて出会った時の『ちんちくりん』発言による悪感情を抜きにすれば、この少女に対する印象はそう悪くない事に気付いた。尊大な、プライドの高そうな態度も、この少女の不器用さを表しているだけで。
もっとも、それで許す訳ではないけれど。
「む……何よ?」
こちらの視線に気づいたのか、ちんちくりんが話しかけてきた。
「別に、なんでもないですよ。ちんちくりん」
「ちん……⁉︎」
昨日の意趣返し。私は結構根に持つタイプなの。
「うわぁ……。かなり怒ってるわね、あの子。同い年によそよそしく敬語使ってるわ…」
「お姉ちゃん、聞こえちゃうよ?」
大丈夫よ樹ちゃん。聞こえてるから。
「ま、まあいいわ。……あんたが、あの結城玲奈ね?」
「……ええ」
『あの』、とは何だろうか。
「あんた、大赦から要注意人物認定されてるわよ」
「え?」
「「「「……えっ?」」」」
「なんでも、『何をしでかすか分からない』とかで。私の役目の一つが、あんた達の監視なのよ。特にあんた」
………謎、だった。
私は今まで生きてきて、自分からトラブルを起こしたことは(おそらく)ない。何をしでかすか分からない、なんて言われる筋合いはないはず。
ならば、樹海化での戦闘を見られていた?———あり得る。勇者の端末に何らかの仕掛けで戦闘の記録が保存されているならば、端末経由で自動的にデータを転送するよう細工しておけば良いだけの話。端末が配布されたものである以上、その方が自然だ。多分、樹海での私の暴走を見て『要注意』認定されたのだろう。
「まあ、私がいる以上、勝手な真似は許さないけど……ってギャーッ⁉︎」
話の途中で突然ちんちくりんが絶叫。彼女の視線の先を見ると、鎧を着た彼女の精霊が牛鬼に齧られていた。
「何てことすんのよ⁉︎」
『外道メ』
「外道じゃないよ、牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊さんなんだよね」
可愛い。友奈可愛い。———癒される。
「全く、精霊の躾くらいしときなさいよっ!これだからトーシロは……」
「精霊はみんな牛鬼に齧られるから、外に出しておけないんです」
「ならこいつをしまっておきなさいよ!」
「…どういうわけか、勝手に出て来ちゃうんだよね、この子」
「何でよ⁉︎あんたのシステム壊れてんじゃないの⁉︎」
ツッコミが激しい。なるほど、完成型ツッコミ。
このままでは不利と悟ったのか、友奈は話を強引に逸らした。
「そ、そういえばその子、喋るんだねっ⁉︎」
「え、ええ!そうよ!完成型勇者である私に相応しい、あんた達とは違う特別な精霊よ!」
簡単に友奈に乗せられるちんちくりん。なるほど、ちょろい。友奈に勝てるわけがないわね。
「……でも玲奈ちゃんには8体いるよ?」
「は?」
「厳密には、2体だけどね」
友奈の言葉を、私は速やかに訂正した。
ユウナニウムで主人公を骨抜きにしていくスタイル。
投稿していない間にもお気に入り登録してくれた方、ありがとうございます!
前話までで置いておいた伏線……回収できた、かな?
………ゆゆゆで『王様ゲーム』のパロディを思いついたが、救いがなさ過ぎるし読む側も書く側も辛いだけなのでやめておいた。なにより需要がない。