結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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……お気に入り登録者の欄に愛読してるゆゆゆ二次の作者がいてびっくり。やったぜ!



今回は日常回。


三好夏凜の誕生会

東郷美森は悩んでいた。———すなわち、『玲奈が夜中に部屋を出て行った件』を、友奈に話すべきか否か、と。

しかしそれには多大なリスクが伴う。なにせ、それを話すなら『なぜ自分がそのことを知っているのか』から話さなくてはならない。真実を口にしてしまえば、自分の罪過を友奈に知られてしまうことになる。

 

———嫌われてしまうかもしれない。

 

その僅かな可能性————高い確率で友奈は許してくれる————が、美森の行動を封じてしまう。

自分に対する言い訳は幾らでも浮かんでくる。

 

——この話をすれば、玲奈が隠したがっている秘密を公に晒してしまう。そうすれば、彼女の意志が無駄になる。

——もし玲奈がこっそり変身している事がバレれば、彼女と勇者部の絆に亀裂を生むかもしれない。

——そもそも、話してみんなが説得したところで、玲奈が変身をやめるとは思えない。

 

だが、このまま玲奈の行動を静観していいものかと問われると、それも違う。美森にとっても、彼女は大切な友達なのだ。無茶はして欲しくないし、それを見逃すなど言語道断。

 

———結局悩んだ挙句、誰にも話すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い」

 

日曜日。子供達のレクリエーションの手伝いの依頼の当日、三好夏凜は集合時刻になっても来なかった。

連絡も取れない。友奈が電話したら一度は切られ、二度目以降は電源が切れている旨のメッセージが流れるのみ。

 

「……夏凜ちゃん、どうしたのかな?」

 

「……もしかして、体調不良で動けないとか……」

 

「あの子、サプリメントとかで健康気にしてるくせに、食事は適当に済ませてるみたいだし……。栄養失調で倒れてたりして……」

 

一同に不安が広がる。自宅まで呼びに行こうにも、その時間がない。子供達が待っているのだ。

 

「……仕方ないわね、予定変更!夏凜の件は依頼が終わった後で!」

 

 

 

 

 

 

「………というわけで、来たわ。はいこれ」

 

「……なんか既視感あるんだけど⁉︎」

 

昼。午後になって十数分が経ったところで、夏凜の部屋に玲奈が訪れた。彼女の手には、レジ袋に入った大量の野菜と肉類。

 

「……どうしたの?鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてるけど」

 

「そりゃ驚くわよ!何しに来たわけ⁉︎」

 

その問いに、玲奈はきょとんと首を傾げ、

 

「決まっているでしょう?昼食を作りに来たのよ。味見はよろしく」

 

そう宣った。

 

 

 

 

 

 

玲奈に頼まれた通りに彼女が料理している姿を監視したり(夏凜は何の意味があるのか分からなかった)、頼まれた通りに味見をしたり(夏凜は『自分でやればいいのに』と思った)しながら、1時間弱で料理が完成。特に会話が弾むこともなく、静かな昼食が進む。

 

メニューはやはりソウルフードであるうどん。野菜をふんだんに入れた健康志向のうどんだ。出汁の香りが食欲を増進し、コシのある麺が口の中で弾む。……以前よりも食事に楽しみを見出せなくなっている玲奈が未だに好きな、数少ない食べ物がうどんだ。

 

「それで?結局、なんであんたはここにいるのよ」

 

そして昼食後、夏凜は玲奈に疑問を投げかけた。本来ならば、この時間は子供達のレクリエーションのはず。他の勇者部のメンバーがいないということは、予定よりも早く終わった、というわけでもないのだろう。

その疑問に、玲奈は遠い目をして諦めたように微笑んだ。

 

「……子供って、残酷よね」

 

「…?」

 

「無邪気な顔をして、人の秘密を暴こうとするのよ。『お姉ちゃん、その腕なに?』『もしかして、封じられた禁断の左腕?』『呪われてるの?見せて見せて』って……」

 

(……いや、今日に限って言えばそれあんたが悪いでしょうよ)

 

夏凜は玲奈の左腕に目をやりながら、内心で溜息を吐いた。

これが普段の医療用の包帯ならばまだ分かる。きっと子供達も『怪我をしている』と認識し、気を遣って触れることはなかっただろう。しかし今日身につけているものは髑髏のような柄のついた、ダサい(おそらく子供達から見ればカッコいい)帯状の布であり、そもそも包帯ですらなかった。

 

「包帯が無いことを思い出したのが今朝。……昨日、どうして私は買い足しておかなかったのかしら」

 

(……いや、なくなる前に買いなさいよ)

 

「……そういうわけで。要するに、逃げて来たの。ついでに今日無断でサボったあなたの様子を見に来たわ。家にいてくれて助かった」

 

一瞬、夏凜が気まずそうな表情を浮かべた。玲奈はその様子から、夏凜が僅かでも後ろめたさを感じていることを看破する。

 

「……そりゃあね。この前のニュース見たでしょ。家から出るにしても、普段訓練とか素振りとかしてる砂浜が泥沼に変わってるから、家でトレーニングしてたのよ」

 

「(ギクッ)」

 

「全く、一体何があったのよ」と呟く夏凜に対し、今度は玲奈が後ろめたさを感じる番だった。

もちろん、砂浜に関するニュースは玲奈も見ている。砂浜が跡形も無く消滅し、水辺と陸の境界が崩れ、泥の沼地と化した浜辺を。———明らかにこの前、自分の所業によって起こったものだと玲奈は自覚していた。

ニュースでは「砂浜に不発弾などの危険物が埋められていたのではないか」と推測され、警察も動いていると報道されていた。———恐ろしくて、とても自首する事などできない。

 

「……その、悪かったわよ」

 

「……え?」

 

内心で冷や汗をかいていたところに、夏凜の突然の謝罪。

 

「だから、……今日勝手に休んだこと」

 

「……別にいいわ。私も逃げ出してきたし」

 

それ以降、会話が途切れる。

結局のところ、夏凜も後悔していた。集合場所を勘違いしたのは自分で、せっかく掛けてくれた電話を反射的に切ってしまったのも自分。一瞬だけ掛け直そうと思うも、結局「自分が何のために勇者部に来たのか」を言い訳にしてサボってしまった。

別に、その心構えが間違っていると夏凜は思っていない。勇者部に来たのはお役目のためで、そのお役目を果たすためにやるべき努力を怠ってはならない。しかし、約束を破ってしまったのはそれとはまた別の話だ。

 

どちらも、話題を切り出さない。夏凜は友人(玲奈をそう呼んで良いのか微妙な関係性ではあるが)との会話がそもそも不慣れだし、玲奈は玲奈で積極的に会話を始める方ではない。彼女は基本的に、友奈の話に付き合うのが好きなのだ。

 

そこで、この状況で双方がどう動くかは完全に本人たちの性質が現れた結果だ。夏凜は勝手に勇者部の活動を休んでしまった後ろめたさ故にこの沈黙が耐え難い。逆に、玲奈は自分の後ろめたさを既に忘れている。この沈黙も、対して苦に思っていないのだ。故に先に話題を切り出したのは夏凜だった。

 

「……ねえ」

 

「なに?」

 

「……その、ええと…」

 

問うべきか、問わぬべきか。夏凜は一瞬悩み、意を決して尋ねた。

 

 

 

「……『高嶋さん』って人に、心当たりはある?」

 

「ないわ。どうして?」

 

即答。夏凜は自覚していないが、この問いによって、大赦が懸念していた可能性はほぼ潰えた。

 

「……いえ、なんでもないのよ。ただ、大赦にそう訊くよう言われたってだけ」

 

「………そう」

 

 

再びの沈黙。非常に気まずい。

夏凜としては、玲奈にすぐに帰って欲しいのだが、なぜか追い出すことができない。他の勇者部メンバーならば「帰りなさいよ!」と一言言える自信があるが、なぜか玲奈相手になると言えないのだ。それに、頼んでいないとはいえ昼食を作ってくれた恩もある。無下にはできなかった。

 

「私、これからトレーニングするから。何かあったら呼びなさい」

 

辛うじて夏凜はそれだけ言って、別室にすたすた歩いて行った。……そして、その場にいた玲奈は。

 

「……ミッションスタート」

 

まるでこの時を待っていたと言わんばかりに生き生きし始める。部屋に置いてある家具や小物の有無、カーテンの色などを観察し、得た情報を勇者部のSNS『naruko』に送信。

 

「コンプリート」

 

これで、夏凜のバースデーパーティーの準備において、玲奈の任務は完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別室でのトレーニングを終えた夏凜が居間に戻ると、玲奈が食卓で寝息を立てていた。

 

「ああ、そういえば薬で眠くなるって言ってたっけ」

 

眠っている姿は本当にただの少女のもの。こうして見ると、ますます大赦が彼女を危険視する理由が夏凜には分からない。勇者部で過ごした短い時間ではあるが、夏凜は玲奈の人柄をおおよそは把握している。友奈が絡むと突拍子もないことをしかねないものの、比較的落ち着いた———あるいは内向的なやや大人しい少女という印象だ。

 

———もっとも、本人はそれを否定するだろうが。

 

大赦に玲奈の経過をメールにて報告するとともに、玲奈を危険視する必要はない旨を最後の文に付け加える。 その後、押入れから持ってきた毛布を玲奈に掛け、夏凜は居間でトレーニングを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「夏凜(ちゃん)(さん)、誕生日おめでとう!」」」」」

 

「ほへっ⁉︎」

 

そして、夕方。無事に依頼をこなした勇者部一行は、夏凜の部屋に突撃した。そして夏凜が玄関を開けるなりほぼ強引に部屋に押し入り、部屋中を飾り付ける。呆気に取られた夏凜は、さらに勇者部全員からの祝いの言葉で変な声を上げた。

 

「わ、私の誕生日……?でも、どうして……」

 

「友奈が見つけたのよ。入部届けに書いてあったあなたの生年月日」

 

問いに答えるのは、今の今までぐっすり眠っていた玲奈。勇者部が来た時のインターホンの音で彼女はようやく目を覚ました。……食卓で突っ伏した状態での睡眠だったが、昼から今まで一度も起きずに熟睡していたのだ。

 

「部屋の飾り付けは玲奈さんの案なんですよ。『部屋の内装は見ておくから、飾りを買ってきて』って」

 

部屋の広さ、小物や家具。そしてカーテンの色。その部屋の内装によって、購入するものは異なってくる。無駄に凝り性の玲奈は、オーソドックスなただの飾りだけでは満足できなかったのだ。家具や小物などが多く、散らかっている場合はそもそも飾り付けそのものができないため、たとえ飾り付けの道具を購入しても無駄になってしまう。その点で言えば、玲奈の仕事は経済面で最重要だった。

 

壁や天井には殺風景な夏凜の部屋を豪華にすべく掛けられた旗や風船の装飾。風船はバルーンパペット用のものであり、『HAPPY BIRTHDAY KARIN』の文字を象る。

食卓には勇者部のメンバーが買ってきた様々なジュースや菓子類。その中央にはケーキ屋から買ってきたであろうバースデーパーティーが置かれている。

 

 

「ばか。ぼけなす。あほぉ……」

 

「……いや、あほって……」

 

夏凜は感極まり、顔をを真っ赤にしながら俯いた。

 

「……誕生日会なんてやったことないから、どうすれば良いか分からないのよ……」

 

 

この日。

夏凜は奇しくも、お役目のために存在するはずの勇者部のメンバーと共に、初めての誕生日会を行った。その夜の思い出は、いつまでも色褪せることなく夏凜の胸に残り続ける。

 

 




夏凜ちゃんが時系列を考えると非常に素直になっている気がする件について。
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