結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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………いつ見ても友奈ちゃんの変身バンクは良い。視聴者にウインクするんだぜ。


困難

「……引き受けるわ。その代わり、条件がある」

 

そこには、異様な光景が広がっていた。手術衣を着た少女の前で、いい歳をした大人が土下座をしているのだ。まるで、神を崇めるかのごとく。

 

手術衣の少女は大人達に気後れした様子も見せず、条件を提示した。

 

一つ、高嶋友奈を勇者として扱い、勇者の資格剥奪を撤回すること。

一つ、高嶋友奈の魂と同化しつつある精霊『酒呑童子』を引き剥がす方法を模索し、成功した暁には彼女を無罪とし、釈放すること。

一つ、今後勇者が残す書物や写真といった記録には一切手を加えず、後世まで継承していくこと。

一つ、高嶋友奈の功績を世間に公表し、彼女の名誉挽回を図ること。

 

大人達———大社の人間は恭しく頭を下げ、これらの条件を承諾。この日、郡千景は世界を守るため、神樹に呑まれて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………今の、何?)

 

午前12時を20分ほど過ぎた真夜中。玲奈は唐突に目を覚ました。別に悪夢に魘されて、というわけではない。事実、何か異変が起こればたとえ熟睡していても目を覚ます(逆に、異常がなければなぜか揺すっても起きない)であろう最愛の妹は、彼女を抱き枕にしたまま眠っている。だが、悪夢ではなくとも不穏な夢を見たのは事実だった。

 

印象に残るのは、自身を前にして恭しく平伏す大人達の姿。その装いから、おそらくは大赦の人間ではないかと玲奈は推測する。

今までも何度か、不審な夢を見たことはあった。だがそれは悪夢ばかり。大抵の場合友奈が飛び起き、玲奈が寝付けるまで赤子にするようにあやしてくれた。

しかし今のは、夢というにはあまりにも明瞭で、悪夢というには恐怖が欠けていた。確かに着物を着て仮面で顔を隠した大人達が自分に向かってひれ伏しているのは不気味だが、それでもバットや鉄パイプでリンチされる悪夢よりは比べ物にならないくらいマシな夢だと彼女は思う。

 

大人達がひれ伏す病室から場面は一転し、夢の中の景色は樹海へと移り変わる。夢の中で玲奈は神樹の方へ歩いていき、そして———そこから何があったのかが思い出せない。夢ゆえに朧げで、記憶が長続きしないのだ。いずれ今玲奈が覚えている夢の内容も、朝には忘れていることだろう。

 

玲奈は二度寝した。———その日に極大の困難が待ち受けているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、これ全部来てるんじゃないの?」

 

樹海化が起こり、勇者部一同を待ち受けていたのは7体のバーテックス。今まで討伐された数は5体であるため、必然的に残り全ての敵が襲来している事になる。敵はまだ壁の外側。『神樹様の加護が届かない壁の外に出てはならない』という教えがある以上、バーテックスが壁の内側に侵入してくるまで待つしかない。先手を打って攻撃を仕掛けることはできないのだ。

 

「敵さん、壁ギリギリのところから攻めてくるみたいっ」

 

先に変身し、敵の様子を偵察していた風が報告する。彼女の意識は、樹海化が起こるなり敵の方向———壁の外側を神妙な顔で見つめていた玲奈へと向いた。

 

 

「……ねえ、玲奈。本当に大丈夫?暴走したりしない?」

 

「大丈夫です(多分)。(苦戦しなければ)無茶はしませんから」

 

 

不安になるフレーズは口に出さず、玲奈は風を宥めた。

 

襲来して来ている敵の数が数だけに、心配しつつも誰も玲奈の変身を止めない。……油断していては、誰かの命が危険に晒されると認識しているが故に。

 

勇者になる()()は既に掴んでいる。半ば洗脳に近い自己暗示で「自分はダメだ」と思い込むことにより、玲奈は勇者化の目処を立てていた。

 

———想起する。

思い出すのは、結城家に引き取られた直後のこと。情けなく涙目になりながら、友奈の腰にしがみついて新たな両親を睨みつけていた時のことを。

 

敵だと思っていた。大人は見境なく、友奈の両親でさえも。……病院に連れて行ってくれたのも、温かい食事を用意してくれたのも彼らだというのに———。

 

(……があああぁぁぁっ!)

 

過去の己の醜態に身を焦がし、内心で悶えながらスマホをタップ。黒歴史の想起により精神状態が負へと傾き、玲奈は目論見通り勇者の姿に変身した。

 

———なお、過去の玲奈の反抗は友奈の両親に「怖がりな子猫が必死に威嚇しているみたいで可愛い」と評され、全く気に病まれていなかったことを玲奈本人は知る由もない。

 

玲奈に続き、勇者部全員が変身する。勇者部全員で円陣を組んだ時、「勝ったらなんでも奢ってあげるから、絶対に死ぬんじゃないわよ」と勇者部部長から有難いお言葉(死亡フラグ)をもらい、玲奈は不安になった。

 

———最終決戦、開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の戦闘では、玲奈にかかる負担をなるべく軽減するため、そして夏凜という優秀な前衛がメンバーに加わったこともあって、玲奈は後方から戦場全域を観察、必要に応じて対応する役目を任せられていた。

何せ、敵は七体もいるのだ。全員が一箇所に集中してしまうと、不測の事態に陥るリスクが高くなる。敵の様子と、味方の状態を観察する人間は、後方支援を行う東郷以外にも必要であるという風の結論に全員が賛成した。

 

最初に壁の内側に侵入してきたのは牡羊型。難なく封印に成功し、友奈と美森のコンビネーションで御霊を破壊した。

 

———その時。

 

 

「……離脱した敵を見つけたわ。速やかに仕留める」

 

「…え?」

 

武装であるライフルのスコープに映る友奈の姿を(こっそりと)堪能していた東郷にそう告げ、玲奈は駆け出した。

 

友奈達が大型のバーテックスに注意を引きつけられている間にも、玲奈は全体を俯瞰していた。美森とは違う角度から戦場を見ていたお陰で、単身で神樹に向かおうとしていた敵に即座に気が付けたのだ。敵は『双子型』。身体は小さく、大型の敵に気を取られていると確かに見逃しそうな個体であった。しかも、

 

(……速い。早めに気付いていないと、危なかったかも)

 

その速力が非常に高く、すばしっこかった。彼女が駆け出した時には既に玲奈の横を通り過ぎ、神樹に向かっていた小さな敵。大きく迂回して回り込んだのだろう。……だが、それでも単純なスピードならば風のアシストを最大限に受けた玲奈の方が上。ジェット噴射の要領で自分を吹き飛ばしつつ、玲奈は『双子型』に迫り。

 

「風牙ッ‼︎」

 

お気に入りの技の威力が十分に発揮される距離まで近づいたところで、必殺の一撃を繰り出した。風牙は風を纏わせた剣による刺突。故にその攻撃の本体は紛れもなく剣そのものであるが、刺突の際に放たれた余波も非常に高い攻撃力を誇る。今回は敵を剣の間合いに収めるのが難しい為、余波による攻撃を見舞った。

 

「……クッ⁉︎」

 

しかし、敵もさるもの。風牙の余波をひらりと躱し、走行を再開。このままでは神樹に辿り着かれてしまう可能性を危惧し、()()()()()()

 

「風よ、荒れ狂えっ!」

 

吹き荒れる豪風。周囲に嵐を巻き起こすことで敵の行動を阻害すると同時に、自身の近辺のみを無風状態にする事でアドバンテージを得る。デメリットは、この場から離れた勇者部全員とコミュニケーションが取れなくなってしまう事。何を叫ぼうと、何が起きようと暴風に全て掻き消されてしまう。………状況の対応に遅れない為にも、ごく短時間で決着をつけるしかない。

 

風の流れで双子型の動きが鈍ったものの、攻撃を仕掛けるには不十分であると玲奈は判断。故に、今まで使っていなかった精霊の力を行使することを決意した。

 

「力を貸しなさい、七人御先。————一閃七斬」

 

剣の一閃。しかしそれは一撃に非ず。一度の攻撃で、7度の斬撃が双子型バーテックスに振るわれた。

七人御先———七人ミサキは、事故などで死亡した7人の亡霊の集合体であるとされる。七人ミサキに出会った人間は高熱を出してやがて死亡し、七人ミサキの内の一体が成仏すると同時に死亡した人間が新たな七人ミサキとして迎えられる、という言い伝えがある。その話を聞いた時、玲奈はこの精霊を心底忌避した。ビジュアルからして気に入らなかったのもあり、誰かこの精霊を交換してはくれないだろうかと思ったほどだ。

しかし、亡霊———怪談としての七人ミサキはともかく、精霊としての七人御先は非常に強力だ。その能力は、同一存在の分裂。七人御先を構成する一体一体が同一存在と見做されるためか、精霊としての能力は『使用者を七体に分裂させる』というものとして発現した。今使用した『一閃七斬』はその応用。剣を振るうゼロコンマ1秒未満の刹那の時だけ分身を作り出し、全方位から敵を斬殺する。人間の認識能力の及ばない刹那の間のみ存在する分身であるが故に、まるで玲奈が一度のスイングで7度の分裂する斬撃を繰り出したかのように錯覚する必殺技。———回避は不可能。

案の定、敵は攻撃を躱せず、体中を切り刻まれた。斬撃の威力が非常に高かったからか、はたまた敵のサイズが小さかったからか。バーテックスは封印なしで小さな御霊を吐き出し、玲奈は即座にそれを切り捨てた。

 

 

 

 

 

戦闘終了後、吹き荒れる嵐を止め、私は周囲を見渡した。双子型に掛けた時間は5分足らず。その5分未満の間に、随分と皆から離れてしまった。後ろを向いても戦闘の様子はよく見えな———

 

「………は?」

 

何か、見てはならないものを見た気がした。勇者に変身している間に向上しているはずの聴力は皆とバーテックスとの戦闘の音を拾わない。そして、向上した視力は見覚えのない巨大な敵を認識して。

 

嫌な予感に突き動かされ、私は皆の元へと駆け出した。

 

 

 

 




中二心の命ずるままに書いた。後悔はしていない。
七人ミサキの情報は、完全にネット任せ。妖怪とかはあまり詳しくないのである。

………双子型がここで倒されたということは、つまり。
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