結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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まず、はじめに。
この作品は、(現段階では)ハッピーエンドで終わる予定です。つまり、玲奈は幸せになって終了。


サブタイトルから分かる、高奈ちゃん回(大嘘)




“タカシマユウナ”

———玲奈は加速した。速く、疾くと。

 

『無茶をしない』という風との口約束は既に破っている。七人御先は非常に強力な精霊であるが、その分肉体に対する負担も大きい。一閃七斬が一瞬だけ分身を繰り出すのは、実のところ分身を長時間出しておけないからであった。今の玲奈は、分身を出しておくのは10秒が限界。わずか1秒で長時間全力疾走を休まず行ったように息切れし、6秒で嘔吐、10秒で失神する。真夜中、こっそりと変身した際に砂浜で試した結果だった。

言わずもがな、一閃七斬もそれなりに疲労の溜まる技だ。だから、『無茶をするな』と言うのであれば、ここで玲奈は休むべきだ———今が非常時でなければ、だが。

 

(………友奈っ!)

 

皆の元へ近づくにつれ、戦場の様子が見えてきた。遠くからでも視認できた巨大な敵は、まるで複数のバーテックスが合体したかのような姿をしている。……否、『ような』ではなく実際に融合しているのだろう。なぜこのような事態になっているのかは玲奈には分からないが、仲間の危機であるという認識はあった。

 

「東郷っ⁉︎」

 

走る玲奈が最初に見つけたのは、後方に控えていた美森だ。精霊の守りが無事に働いた為か、見た限りでは致命傷となる傷は負っていない。

 

「…う……玲奈、ちゃん?」

 

(……よし生きてる‼︎)

 

生存を確認するや否や、いっそ清々しいほどに美森を置き去りにして、皆がいるであろう敵の元へ向かった。

 

既に玲奈の視界には、宙に浮きながらゆっくりと神樹の方へ移動してきている敵の姿がはっきりと見えている。しかし彼女の優先順位は、『世界』などよりも妹の方が上。

 

「……く、ううぅ……」

 

(友奈っ⁉︎)

 

痛みに耐える最愛の妹の声を聞き取り、玲奈がそちらを向こうとし。

 

———視界の端に、立ち上がる風と、彼女に向かう巨大な水球が映った。

 

 

(………⁉︎)

 

玲奈の思考が加速する。友奈と風、どちらを選ぶかの葛藤。数年前の玲奈ならば迷わなかった選択。しかし、現在の彼女は迷った。

 

(……友奈、ごめんなさい!無事でいて‼︎)

 

………しかし、迷いは一瞬。結局風を見捨てる事が出来ない自分に気付いた玲奈は、友奈が致命傷を負っていない可能性に賭けた。精霊の守りがその計算に入っていた事は否めない。しかし、それでも友奈ではなく別の誰かを選んだという事実は、おそらく友奈が聞けば大いに喜ぶであろう成長だった。

 

「風先輩っ!」

 

「がっ⁉︎」

 

風で加速したままタックル。だが、これで玲奈の目的は果たせた。

 

 

「……いたた、玲奈、いきなり何を………」

 

風の抗議が、途中で止まる。

彼女が見たのは、自分を庇って巨大な水球に囚われた後輩の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———何やってるのかしら、私。

 

呼吸はできない。剣を振り回してもビクともしない。風を操る気力もない。まさしく絶体絶命。

でも私は、不思議と恐怖を感じていなかった。

 

(妹を守って死ぬんじゃなかったの、あなた?)

 

彼女の声が脳裏に響く。

 

———それが理想だったけど、これも悪くない。風先輩が死んだりしたら、友奈が悲しむから。

 

(……そう…)

 

 

 

『違うでしょ?そうじゃないよね?』

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

———気がつくと、私は樹海にいた。私の体を包み込んでいた水球も、敵の姿もどこにもない。ここに存在するのは、私を含めて3人。

 

「……だ、誰?それにここは———」

 

「………中二病のあなたが喜びそうな場所よ。言うなればここは、あなたの精神世界」

 

答えたのは、私の正面に立つ二人の内の一人。その声から、答えたのは『彼女』であると分かった。……昔は私を苛んでいた幻聴。そして今はもう一つの人格ともいうべき彼女。しかし、その姿は———

 

「わ、私?」

 

暗赤色の衣装と、同色の大鎌を持った少女は私と瓜二つの姿をしていた。顔も全体的なスタイルも鏡で見る私そのもの。

 

「……姿だけじゃないわ。多分声も全く同じ。もっとも、自分の声なんて自分で聞いて分かるものでもないけど」

 

それならば、私も納得できた。よくフィクションの作品である『もう一人の自分』というやつだろう。しかし、もう一人の方は。

 

「……友奈?」

 

そう、妹と同じ姿をしていたのだ。

 

『……友奈、ではあるかも。でも、あなたの義妹じゃないよ』

 

私の呟きに対して、友奈の姿をした何者かはそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の名前は高嶋友奈。……もっとも、高嶋友奈本人に比べたら性格も価値観もだいぶ歪んじゃってるかもしれないけど』

 

友奈の姿をした何者か————高嶋友奈は自嘲気味に語る。

 

「……高嶋さん、それはあなたのせいじゃ……」

 

玲奈の姿をした『彼女』は、痛ましい表情で高嶋友奈を見つめる。しかし、玲奈の混乱は増すばかりだった。

 

 

「………結局、誰なの?」

 

 

『私達が誰か、なんてどうでもいいよ。何をするにもまず、あなたの思い込みを解かないと』

 

 

「……思い込み…?」

 

 

『そう。……自己洗脳って言ってもいいかも』

 

 

「高嶋さん、それはっ⁉︎」

 

 

『ごめんね、ぐんちゃん。……今は私の力の方が強まってるから、抵抗はできないよ?』

 

 

台詞の後半はまるで別人のように冷たく放たれ、玲奈の姿をした『彼女』はこの場から消失した。

 

その場に残るのは、玲奈と高嶋のみ。

 

 

『もう一度確認するよ。……違うよね?そうじゃないでしょ?』

 

「な、何を言って……」

 

『じゃあ、分かりやすく言ってあげるね』

 

 

くすくすと、高嶋友奈は笑う。仄暗く、悪意を滲ませたその声音で。……玲奈は、確かに彼女が『結城友奈』とは明らかに異なる存在であることを実感した。

 

『玲奈ちゃんが風先輩を優先したのは、先輩を助けたかったから、だけじゃないでしょ?それだけなら、多少無理をしてでも突風で吹き飛ばすくらいのことはできたんだから』

 

 

 

そう、わざわざ突き飛ばす必要もない。遠くから疾風で吹き飛ばせば良いだけだ。………それを指摘した高嶋友奈の言葉が、玲奈の心を蝕む。まるで、傷口に塩水を浸透させるかのように痛みを広げていく。

 

『玲奈ちゃんがあんな助け方をしたのは……』

 

 

「やめて……」

 

 

「意味が分からない」と思いつつも高嶋友奈の言葉を遮ろうとしたのは、玲奈自身無意識のうちに彼女の発言の続きを予想できていたからなのか。それとも、後戻りできなくなってしまう予感がしたからなのか。いずれにせよ、悪意を持った友奈の姿をした何者かは、構わず続けた。

 

 

 

 

 

 

 

『……単に、早く死にたかったからなんでしょ?』

 

 

 

「やめてっ‼︎私はそんなこと思ってないっ!」

 

 

 

広い樹海に、玲奈の悲鳴がこだまする。それに構わず、変質した高嶋友奈は彼女の傷口を広げていく———。

 

『言ったよね、自己洗脳だって。玲奈ちゃんはさ、結局思い込んでるだけなんだよ。「自分は友奈に救われて、こんなに良くしてもらってる。だから幸せなんだ」って』

 

「嘘じゃないっ!私は本当に心からそう思ってっ……」

 

 

玲奈から余裕がなくなっていく。……自分自身さえも欺いていた仮面にヒビが入り、そこから極大の闇が顔を出す。

 

『確かに、玲奈ちゃんが心から妹や友達のことを大切に思っているのは事実かもしれない。……でも、そのプラスを打ち消して余りあるほど、ずっと辛い思いをしてるでしょ?』

 

 

暴いていく。……他の誰にも、そして恐らくは自分自身にも気付かせなかった心の壁の内側を、高嶋友奈が中から壁を壊すように詳らかにしていく。

 

 

『飲みたくない薬を飲んで無理やり精神を安定させて、なんでもないかのような顔をしてるくせに心のどこかではいつ誰に傷つけられるのかってビクビク怯えてるよね?』

 

「……そんなこと、ない……」

 

『学校でだって、人と接する時は身構えてるでしょ?勇者部の皆は別かもしれないけど、「いきなり殴りかかってくるかもしれない」なんてクラスメイトと話している最中に考えてるし、階段を歩いている時は「突き落とされるかもしれない」なんて思いながらずっと警戒して、それでいつも気疲れしてる』

 

「………それは、ただ私が被害妄想をしてるだけで……」

 

『そんな被害妄想をずっとしている時点で、異常だよね?』

 

「………」

 

『大好きだったうどんだって、2年前からは昔ほど好きじゃなくなってるでしょ。……当然だよね。味覚がなくなってるんだもん。今まで香りと食感で誤魔化しながら無理して皆と食事をしてたんでしょ?』

 

「………別に、それほど無理してたわけじゃ……」

 

『夏凜ちゃんの誕生日の時のレクリエーションだってそう。包帯を買い足して置かなかったの、わざとでしょ。包帯があるのに別の布をつけていけば妹に怪しまれるから。………腕に包帯を巻いて行って、大人にリストカットしているように思われたら嫌だもんね?実際にそう怪しまれたこともあったし』

 

「……く、う………」

 

とうとう言い訳めいた反論もできなくなった。

 

『ね、分かるでしょ。こんなに辛い思いをしていても誰にも打ち明けずに、ずっと我慢してる。それどころか自分自身さえも騙してるなんて、どう考えても幸せじゃないよね?』

 

「……辛い思いなら、他にもしてる人は……」

 

『うん。そうだね。でも、あなたが自殺したがるくらい不幸なのは変わらないでしょ?現に、「自然に死ねる可能性」の誘惑に負けて、後先考えずに先輩を助けたんだから。……あんな助け方が、本当に皆のためにならないくらい分かっていたはずだよね?』

 

「……………」

 

『これ以上可哀想な子みたいな扱いをされたくないから、惨めな思いをしたくないから隠してたんだよね。普通に自殺したんじゃ、成功しようと失敗しようと後で何を言われるか分からない。だから、敵に殺してもらえる可能性に賭けたんでしょ?……どちらにしても、仲間たちにとってみれば悲しいことに変わりはないのに』

 

その言葉で、玲奈は気づいた。———自分が今まで臆せず戦ってこられたのは、勇気があるからでもなんでもない。変身して暴走したのも、その記憶がなかったのも全て心の問題。ただ、今の恵まれた境遇にも関わらず、傲慢なことに心に深い傷を負っていて、その本性が剥き出しになった記憶を忘れたくて、封印した。……バーテックスに率先して突っ込んで行ったのも、ただ敵に()()していただけなのだと。

高嶋友奈は傷口を抉る。

 

『あんな助け方をして、玲奈ちゃんが死んだりなんかしたら。……きっと風先輩は一生立ち直れないよ?あの人、心はあまり強くないのに色々背負っちゃう人だから』

 

「……わたし、っ、べつにそんなつもりじゃ……」

 

玲奈の声に嗚咽が混じる。言葉ではそう言いつつも、もう自分の心は騙せない。………今回はたまたま、庇ったのが風だっただけ。でも、玲奈の本当の願望、本当に庇って死にたかったのは友奈で。

 

『あなたが大好きな結城友奈ちゃんも、とても悲しむね。………玲奈ちゃんは利己的なんだよ。自分の事しか考えてないから、自分が無茶して周囲がどう思うかなんて二の次。玲奈ちゃんは風先輩を、勇者部の皆を、そして妹を……自殺のための口実に利用したんだ』

 

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ……っ‼︎」

 

冷たく放たれた最後の一言は、玲奈の心を容赦なく叩き折った。

 




伏線の一部を回収したら、なんかこうなった。

味覚が無い、というのはもしかしたら読者の皆さんもお気づきだったかもしれない。……矛盾が出てたらごめんなさい。気づいたら修正するかも。
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