結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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今回、独自設定マシマシです。


高奈ちゃんに、一体何があったんだ……。


ホシトハナ

「……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい………」

 

頭を抱え、玲奈は震えながら謝罪する。それは妹に対してであり、勇者部の皆に対してだった。

自分の心を偽っていた不誠実。あろうことか仲間を利己的に利用した醜悪さ。その醜態全てが、玲奈を自己嫌悪へと叩き込む。

 

『謝っても意味はないよ?勇者部の皆はこのことを知らないし。黙っていれば、きっとこれからも気づかない』

 

高嶋友奈はどこまでも冷淡に、そして嘲笑をその顔に貼り付けながら告げる。……その謝罪は、無意味で無価値なものなのだと。

 

『謝罪って、自分がしたことに対して反省して、相手に誠意を見せて、そして自分の行いを改めるものだよね?でも、玲奈ちゃんはそれができない。なら、その謝罪に意味はないよ。自己満足にすらならないんだから』

 

玲奈が折れてなお、高嶋友奈は容赦しない。まだまだ暴き足りないのだと、愛しい妹に似た姿を持つ悪魔は責め立てる。玲奈を徹底的に否定する。

 

『戦う時、玲奈ちゃんは敵に対して期待すると同時に、殺意を持っていた。……そして、喜んでたんだ。勇者部の皆を傷つけたっていう事実があるから、自分の攻撃性を躊躇なく引き出せるって。ただ敵を切り裂いて、蹂躙して、鬱憤を晴らす動機ができる。……悍ましいね。勇者部の皆を、自殺の口実だけじゃなくて、暴れる理由にも利用———』

 

 

「………やめてよっ⁉︎」

 

玲奈の精神は限界を迎え、本音を曝け出す。———高嶋友奈の狙い通りに。

 

「……どうしてそんな事を言うの⁉︎友奈の声で罵倒しないでよ⁉︎友奈の顔でそんな目をしないでよ‼︎私を否定しないでよっ‼︎」

 

一度言葉にしてしまうと、もう止まらない。

 

「気づきたくなかった‼︎今まで通りなら、私はこれからもずっと幸せを感じたままでいられたのにっ‼︎今までと同じなら、こんなに苦しくならなかったのにっ‼︎」

 

———転落していく。今までの日常、その中に隠された昏い思いが、輝かしかったはずの日常を空虚なものへと反転させていく。

 

 

「どうしてくれるの⁉︎もう前には戻れないっ!これからどんな顔して皆に会えばいいのよっ!」

 

 

『なら、会わなければ良いんじゃないかな?』

 

「…………」

 

それは、あまりにも簡単な答え。

 

『できるよ?玲奈ちゃんが死んだりなんかしたら皆が悲しむ。でも玲奈ちゃんは皆の前に出たくない。……ならさ、体は生かしたまま、魂だけを殺しちゃえば良いんだよ』

 

「……何を、言って………」

 

『簡単だよ?ぐんちゃんが代わりにあなたの体を乗っ取っちゃえば良いんだから。あなたは皆を悲しませる事なく消滅して、苦しみから逃れられる。ぐんちゃんは昔は手に入れられなかった優しい日常を手に入れて幸せになれる。良い事尽くめじゃないかな?』

 

———それは、とても魅力的な提案に思えた。非の打ち所がない。

 

今の玲奈は、皆に会うのが怖い。これまでのように日常を過ごせる自信もない。

 

(………もう、いいかな?)

 

玲奈は誘惑に負けていた。———彼女の言う事が事実なら、後の事を考える必要もない。どうせ今までの日常も欺瞞だったのだ。中身が別物になったところで、何の不都合があるのだろう、と。

 

玲奈は気づかない。これは、高嶋友奈の罠だと言うことに。鞭で徹底的に叩いた後、飴をちらつかせる、悪魔のマッチポンプ。普段なら容易く気付きそうなそれも、心が折れて思考力が低下しているせいで気付けない。

 

『決まり、だね!』

 

そう朗らかに笑う少女は、玲奈にはこの時だけ妹と同じように見えた。

 

『大丈夫。すぐ終わるよ。今はあなたの精神がドン底だから、ぐんちゃんとの繋がりも出来やすいはず。安心して、きっと頭を砕き割るくらいのダメージで、簡単に逝けるはずだからっ!』

 

残酷な事をさらりと言いつつ、高嶋友奈は拳を構えた。……奇しくもその体勢は、友奈のものとそっくりそのままで。

 

『勇者パーン……』

 

高嶋友奈が拳を振り上げ、

 

 

「もうやめて、高嶋さん」

 

 

———それを、この場に舞い戻った『彼女』が止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ぐんちゃん、どうして止めるの?』

 

心底不思議そうに尋ねる高嶋友奈に、『彼女』は諭すように言う。

 

「……私がそれを、望んでないからよ。私は高嶋さんに、そんな事をして欲しくない。例え残滓が変質した、もはや別物と言ってもいい怨霊だとしても」

 

『分からない。……分からないよ、ぐんちゃん。私はただ、私を助けてくれたぐんちゃんのために……』

 

「本物の高嶋さんは、こんな事をしない」

 

『…………』

 

「私の知る高嶋さんは、友達のためであっても誰かを犠牲になんてしない。ずっとみんなの為を思って、行動していた。私はそんな高嶋さんに救われていたの」

 

 

『彼女』は万感の思いを込めて、高嶋友奈に伝えた。……しかし、届かない。

 

 

『……やっぱり分からないや。ごめんね。私には、……少なくとも今の私には、ぐんちゃん以外の事なんてどうでもいいんだ』

 

「そう。……なら、なおさらやめるべきよ。高嶋さんは、結城友奈をあまりにも侮り過ぎている」

 

『……どういうこと?』

 

「仮にこの子を消して、私が成り代わったとしても………気づくわ、絶対に。数日の時間は要するだろうけど、この子の妹はきっと気づく。私はこの子に取って代わった事を責められるのはごめんよ」

 

高嶋友奈の行動原理は、『彼女』を幸せにする事だ。———人格を歪められ、悪に堕ちて尚、仲間を想う心は変わらなかった。玲奈を追い詰め、消そうとするのは単に玲奈を仲間と認めていないからに過ぎない。今の高嶋友奈にとっての仲間は『彼女』ただ一人。しかしその彼女は、今の高嶋友奈の行動を否定すると言う。

 

『………分かった。でも待ってて。きっと私が、ぐんちゃんを解放する。どんなことをしても』

 

その声に込められているのは、並々ならぬ覚悟。亡霊と成り果て、人に忌み嫌われる存在となった自分を肯定してくれた少女に対する、親愛と献身の発露だった。

その後、驚くほどあっさりと高嶋友奈は姿を消す。その場に残るのは、必然的に同じ容姿を持つ少女二人。

 

 

「………さて。いつまで呆けているの?」

 

「…………」

 

「重症ね……」

 

「……なんかもう……疲れた……」

 

———心の傷を塞いでいた瘡蓋を剥がされ、露出した傷口を抉りながら塩を塗られたかと思えば、その痛みを消す救済を目の前に提示され。

———かと思えば、その救済も手の届かない場所に置かれてしまった。

 

玲奈の身に起きたのは、例えるならばそんなことだ。

精神は普段から感じていたストレスを自覚して磨耗し、急速に変化する状況によってすり減る。治りかけていた傷は悪化し、心は弱くなっていく。

 

「………恨むなら、私を恨みなさい。今のあなたがこんなに苦しいのは、元はといえば私のせいなのだから」

 

『彼女』は、玲奈の過去の境遇を知っている。

実の親に心も体も傷つけられ、弱った所を結城友奈に救われた。……だからこそ、分かるのだ。本来ならば、その精神の歪み、心の弱さはとうに克服していなくてはおかしいことが。

人と接する時に密かに感じていた恐怖。いつ危険な目に遭うか分からないという妄想じみた警戒は、全て瘴気によるものだと『彼女』は分かっていた。

 

「…………」

 

「想像以上に、堪えているのね。………仕方がないわ」

 

かつて、『彼女』が高嶋友奈にしてもらったように。そして、結城友奈が結城玲奈にしたように。

『彼女』———郡千景は、壊れかけの少女をそっと抱きしめた。

 

謝罪も反省も、意味のないことだ。ただ、千景には玲奈に恩がある。それは瘴気から救ってもらった恩であり、もう一度高嶋友奈と出会えたことに対する恩だ。

 

「別に、今までの生活が間違いだったわけではないわ。………辛いのを我慢していたことは、誇らしいことのはずよ。それに、本当の自分に気付いたからといって、あなたが感じていた幸福が否定されるわけじゃない」

 

慣れない励まし。しかし郡千景は、気恥ずかしさを堪えながらも玲奈を肯定する。それが今、少女に必要なものであると分かっているが故に。………あるいは、瘴気に蝕まれていた時期、幻聴という形で彼女を罵った事を無意識に後悔しているのかもしれない。

 

「……でも、私は…。友達を、妹を利用して………もう、皆と顔を合わせるなんて」

 

「………高嶋さんはあんな風に言ったけど、私はそうは思わないわ。あの時、風先輩が敵が作った水球に囚われるまで、時間があまりにも足りなかった。風を作り出す、という思考をする時間も、風を生み出すのに気力を集中させる時間もなかったはずよ。あなたの判断は、正しかった。……それに、あなたが暴走するのだって、怒りに身を任せて、でしょう?自殺を考えたこと、本当にあるのかしら?」

 

「……分からない。私にはもう、自分の何が本当の気持ちなのか、分からない……」

 

妹を愛し、仲間を大切に思う気持ちに嘘と偽りはなかったはずだ。……しかし、玲奈は高嶋友奈の言い分を真っ向から否定することができなかった。

 

「それも、仕方のないことだわ。……人の気持ちなんて、0と1みたいに明確化されているわけではないもの。自分の気持ちを完全に理解できている人間なんて、そんなにいないわ。だから、大切なのは芯を作ること。………あなたの芯は、言うまでもないわよね?」

 

「…………っ」

 

 

「………あなたの心は、同年代に比べて幼いわ。だから、まずは一つだけ、守り通すことを決めましょう。他のことは、そこから発展させていけばいい」

 

「………そう、ね。なら、そうする」

 

あまりにも単純な、依存性が垣間見える答え。

———きっと、今の玲奈ならば洗脳は容易だった。心を折られ、指針を見失い、思考力もない今の彼女ならば、郡千景のコントロールを容易く受け入れたことだろう。

 

しかし、郡千景は、今の玲奈を辛うじて持ち堪えさせる程度の干渉に留めた。後のことは、彼女を想う妹や仲間たちの役割であると自覚しているが故に。

 

そのためにも、今の局面を乗り越えなければならない。

 

 

「これからのあなたの事より、まずは現状の打破が先よ。———幸い、あなた生来の集中力が異常に高いお陰で、あなたの精神世界………この樹海に流れる時間のスピードは現実よりも圧倒的に速い。おそらく、現実世界では2秒も経っていないはずよ」

 

精神世界の時間流は、その人物の思考速度に依存する。極度の困難に晒された人間の思考が加速することで普段以上の能力を発揮できたり、剣の達人の思考の加速によって超スピードの剣戟を視認できるようになるのと同じ。

 

「………そうだっ。私、すっかりバーテックスの事を忘れて……」

 

精神が若干といえど回復した為か、玲奈は現実の問題をようやく認識する。

 

(……あの巨大なバーテックスを倒すには、一体どうすれば……。そもそも、今私を包んでいる水球は⁉︎)

 

「問題ないわ。多分、バーテックス討伐は無事に達成される。……あなたが覚悟さえすれば、おそらく誰も死ぬことはない」

 

「教えて。……どうすれば良いの?」

 

その問いに対し、郡千景は答えなかった。……その必要がないのだと判断して。

 

 

玲奈の意識は、現実へと浮上した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実に戻った玲奈が直面したのは、呼吸困難の苦しみでも、身動きが取れない不自由さでもなかった。

 

(……身体が、軽い…?それに、こんな状況なのに……力が湧いてくる。……この知識は?)

 

自分の中に、自分のものではない知識が入ってきていた。その知識から、『彼女』の名が郡千景である事を知る。

敵を倒すために自分が何をすべきか、どうすれば良いのかが分かる。苦境に立たされているとは思えない程の全能感。その知識に倣って、彼女は自らの肉体に命じた。………より強い、敵を倒す為の力を、と。

 

(代償として、()()()()()()。さあ、存分に暴れなさい)

 

 

郡千景のその声が、玲奈の脳裏に響くと同時に。

 

玲奈を包んでいた、敵の水球が爆発した。

 

 

大赦が仕掛けた勇者システムの機能(リミッター)が限定的に解除され、少女は更なる力を得る。

———花よ、咲き誇れ。その想いのままに。

 

 

 

 




転生だけだと、一体いつから錯覚していた?

日常に戻ったら、玲奈の友奈依存度が………?

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