結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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まずは、大変重要な事なので注意事項を。

今回の話を読まなくとも、本編を楽しむのに不都合はありません。故に、予め警告しておきます。今回のお話は、大変エゲツない。私がビビりなだけかもしれませんが、書いた本人も泣きそうになり、ストレスで逆流性食道炎のような症状が出ました。おそらく、ぐんちゃんを愛する人は特にダメージが大きいと思われる。

それでも読むという強者、作中の高嶋友奈(闇落ち)に何があったのかを知りたい方のみお通りください。
しかしとんでもなく胸糞なので、読む際には、お覚悟を。

なお、私が自己判断で『やべえな』と思ったお話の前には(忘れなければ)必ず警告を出します。




裏の記憶 《罪と罰の円環》

————地獄を、見た。

 

 

 

 

『淫乱女』

 

『汚らわしい』

 

『くせーんだよ』

 

『クズ親から生まれたクズ』

 

1人の少女に向けて、子供達が集団となって石をぶつける。周りの大人はそれを止めない。むしろ、石をぶつけられる少女を嘲笑っているかのようだった。

子供達はクスクス笑いながら、石や泥をぶつける。少女の服や髪は、砂や泥で汚れていた。

 

 

(………なに、これ……?)

 

その悪意に満ちた光景に、高嶋友奈は絶句するしかない。

 

(……なんで、ぐんちゃんがこんな目に…………?)

 

 

石をぶつけられる少女は、よく知る彼女の友達だった。

郡千景。友奈が知る姿よりもずっと幼いが、間違いない。ランドセルを背負った彼女は、蹲りながら必死に痛みに耐えている。

助けたいが、身体が動かない。否、身体がない。目を塞ぐこともできない。まるで脳に直接映像を送り込まれているかのような感覚。

 

 

 

 

 

 

———場面が変わる。

 

 

『……なんだ、千景?また面倒事を持ってきたのか』

 

石をぶつけられ、怪我をした千景を見た父親の反応がこれだった。ロクに心配もせず、心底嫌そうな表情をする父親。『こんな父親がいて良いのか』と友奈は戦慄した。

母親の不倫を咎め、責める父親。いつも自分勝手で家庭を顧みず、自分に負担ばかり掛けてきた父親を責める母親。その会話の内容から、千景が———郡家が村中から嫌われているのは母親の不倫が原因であることと、その不倫の原因を作ったのが父親の普段の行いである事を友奈は知った。

母親と父親は四六時中喧嘩ばかりで、怪我をした千景の手当てもしない。彼女は『自分という邪魔者』を押し付け合う両親の怒声を聴きながら、汚れた衣服を手洗いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

———場面が変わる。

 

 

千景が登校すると、靴箱に鳩の死体が押し込まれていた。靴箱を開けて悲鳴を上げた彼女を、児童・教師問わず嘲笑した。

階段を登れば遊びと称して突き落とされ、突き落とした本人は何の処罰もない。怪我をした千景は救急車で運ばれたが、心配してくれる人はいなかった。

ある日には複数人の女子に囲まれて服を脱がされ、焼却炉で燃やされた。替えの体操服を常備しているはずの保健室に行っても貸してもらえない。仕方がないので半裸で下校した。『服どうしたのぉ?』と悪意のある嘲笑を受けながら、惨めな思いで帰宅した。

 

教師に助けを求めても、『先生に面倒をかけないで』と冷たくあしらうだけだった。

 

(……嫌だよ…こんなの……苦しい……)

 

 

友奈が見ている映像は、千景の過ごしてきた過去を第三者から見たような、千景本人も映る客観的な映像だ。なのに、映像と音声だけでなく、その場にいる千景の痛みや感情さえも友奈に流れ込んで来る。

 

傷つけられる身体の痛み。虐げられる心の痛み。嘲笑される惨めさ。尊厳を踏み躙られる屈辱。———友奈は初めて、これほどまでの人間の悪意と悲劇を体感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

———場面が、変わる。

 

 

 

 

『ぎゃああぁぁぁぁッ⁉︎』

 

悪ふざけで、髪と一緒に耳をざっくりと切られた。流血し、傷口からぱっくりと割れている。……下手をすれば一生耳に深い切り込みが入ったまま、少なくとも永久に消えない傷跡が残るのは確かな怪我。……それをやった本人は、罪悪感などまるで感じていないようだった。

集団による暴行を受ける。日常茶飯事のそれも、日に日にエスカレートしていく。千景の綺麗な肌に、二度と消えない傷跡が残った。

 

……その村には、どこにも千景の味方はいない。実の両親さえ、彼女の力になろうとはしなかった。

 

 

(………もう、やめてよ……)

 

これが実際に千景の身に起きたことだと、友奈は確信していた。……普段は髪に隠れて見えない耳の一部に、傷跡がある事に気が付いていたからだ。

友奈は信じられなかった。小学生の少女1人に対する、周りの人間の悪意が。

一体千景が何をやったというのか。何もしていないのに村中から壮絶ないじめを受け、心は摩耗し、少女の肌に二度と消えない傷をつけられる。これほど残酷な所業ができる人間が存在するなど、友奈は信じたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

———場面が、変わる。

 

 

 

 

『私たち、友達だよね?恨んでないよね?』

 

『あなたはこの村の誇りよ』

 

媚びた目で、村人は千景を見る。帰ってきた千景を、村人たちは歓迎していた。

友奈はその光景を、気持ち悪いと思った。歓迎する村人達は、皆千景を疎み、蔑み、虐めていた者達だ。謝罪すらもせずに、立場が変わった途端態度をころっと変えられる彼らの神経が、友奈には理解できなかった。

 

その歪さに、映像の中の千景は気づかない。

 

『……私は、価値のある存在ですか?』

 

『もちろん。だってあなたは勇者様だもの』

 

その言葉に、千景は虚ろな笑みを浮かべた。

 

(……ぐんちゃん………)

 

本当の愛を知らず、表面的な賞賛に喜びを感じる千景を見て、友奈は胸が苦しくなった。

ここは、怒るべき所だ。決して、喜んでいい場面ではない。それに気付かないほどに、千景の心の傷は深いものだった。そして何より、『自分の価値は勇者であること』だけだと本人が思い込んでいる事が、友奈にとって悲しい事だった。

 

 

 

 

 

 

 

———場面が、変わる。

 

 

 

 

 

『何……これ……?』

 

『毎日毎日、うちの家に投げ込まれていくんだ!』

 

父親が投げつけ、床に散らばった数十枚の紙には、無数の罵詈雑言が書かれていた。勇者を罵倒する暴言。以前から疎まれていた郡家への罵声。郡千景を無価値と貶める言葉。

 

『千景、お前のせいだぞ!勇者のくせに負けるから!人を守れないから!クズが!』

 

———その言葉に、友奈は生まれて初めて、人間に対する憎悪を覚えた。

 

だって、千景はずっと頑張ってきた。命を懸けて、必死に勇気を振り絞って。その姿は、ずっと友奈が側で見てきた。それに比べてこの父親はなんだ?幼い頃から親として当たり前の責任を放棄し、娘の窮地も救おうとせず、自分に都合の悪い事は全て他者に責任転嫁する。そもそもこの映像を見る限り、千景がこんな目に遭っているのは全てこの両親のせいなのに。

 

(……ふざけるな。無価値なのはお前だ)

 

心の中で、友奈は彼女らしさのかけらも無い汚い罵声を浴びせる。

千景は決してクズでも無価値でもない。この父親はクズで、価値はゼロどころかマイナスだ。

 

そして、映像の中の千景は———そして友奈は、無数の罵詈雑言の中から決してあってはならない言葉を見つける。

 

 

「土居と伊予島は無能。税金返せ。勇者なんて無価値!」

 

 

(…………⁉︎)

 

『…………何、それ』

 

友奈はあまりの驚愕に何も考えられず、映像の中の千景は村人に対する憎悪を深めた。

その後、友奈は送り込まれて来る映像をほとんど記憶できなかった。人々の為に戦い、命を落とした友達に対する罵声にあまりにも大きなショックを受け、思考がほとんど停止していたのだ。

友奈が理解できたのは、怒りと殺意、そして精霊の瘴気に支配され、村人を襲った千景を若葉が止めたこと。そして冷静になった千景を取り囲む村人達が彼女を睨みつけていたことだけだった。

 

 

 

 

 

 

———場面が、変わる。

 

 

 

 

 

『私が……あなたの立場に、成り代わる……!』

 

『お前が……お前さえいなければ………‼︎』

 

『どう、して……⁉︎変身ができない……勇者に、なれない………‼︎』

 

『千景、私の側を離れるな!』

 

『どうして……?どうして、私を………守るの………?』

 

『決まっている!仲間だからだ!』

 

樹海で暴走し、若葉に襲いかかった千景から、神樹は容赦なく勇者の力を取り上げた。バーテックスが殺到し、絶対絶命となった千景を守ったのは、襲われていた当人である若葉。

 

(……若葉ちゃん………)

 

友奈は、嬉しかった。本気で襲いかかっても尚、千景を仲間として認めてくれている若葉が。……否、もともとそういう人間だったと友奈は思い直す。

———しかし、このままハッピーエンドでは終わらなかった。

 

《私も、乃木さんのように……!》

 

その強い意志が友奈に流れ込むと同時に、映像の中の千景は若葉を庇ってバーテックスに喰らいつかれた。

 

(………ぐあ……ぐ、ぐん、ちゃ……)

 

千景の感じる痛みが友奈にも流れ込む。気の遠くなるような激痛の後、徐々に感覚が消失していった。

 

 

 

 

 

———場面が、変わる。

 

 

 

『……乃木さん……私は……あなたのことが嫌いよ……』

 

『でも、嫌いなのと同じくらい……あなたに憧れて……あなたのことが、好きだったわ……』

 

 

(ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ⁉︎)

 

心の中で、友奈は絶叫した。

幼い頃から虐げられ、勇者になってようやく仲間ができたと思ったら、村人に嫌悪され、最後まで報われないまま亡くなった。この事実を友奈は認められない。……もっと自分にできることはなかったのか、友奈は無力感に苛まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———場面が、変わる。

 

 

 

『千景さんの葬儀が、取りやめになりました』

 

『なぜだ⁉︎』

 

『千景さんを勇者として葬送することはできないと大社が判断したようです。葬儀はご実家で個人的に行ってほしい、と』

 

 

(……もう、やだよ)

 

なぜ、千景が亡くなった後の映像まで見せられなければならないのか。友奈には分からない。ただ、途轍もなく嫌な予感だけはした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———場面が、変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあ、なんで俺たちがこんなことしなくちゃなんねーんだ?』

 

『仕方ねーだろ。死体の処理にも金が掛かるんだと。あのクズ親は放置したまま逃げやがったし、誰も弔おうとしねえんだもん』

 

『大社にはキチンと埋葬しろって言われてたらしいけどよ。こんな粗大ゴミ埋めたがる奴なんているわけねーだろ』

 

『……めんどくせ。死んでからも迷惑かけるとか、ほんとゴミ一家だな』

 

 

 

 

 

 

 

3人の男が、()()1()()()()()()()()大きな袋を担いで、崖の上まで歩いていた。

 

(………何?一体何をするの?)

 

友奈の存在しない背筋に悪寒が走った。映像は続く。

 

 

 

 

『……こっからでいいかな?』

 

『いいんじゃね?ここからなら海に届くだろ』

 

 

 

 

 

 

(……嘘、嘘だよね………?)

 

 

 

 

 

男が持つ袋の周囲に、僅かに小蝿が飛んでいる事に友奈は気付いた。ないはずの心臓がバクバク動き、存在しない呼吸器官が暴走する。

 

男が袋を開けた。……彼は顔を顰めながら中を確認する。

 

 

 

『見た目は綺麗だが……駄目だな。虫湧いてんじゃん』

 

『早く済ませようぜ。こっちまで臭くなる』

 

『近寄った時点で手遅れだよ。俺たちしばらく死臭とかとれねーんじゃねえの?』

 

 

男の開けた袋の口から、長い黒髪が覗いた。

 

 

(………⁉︎)

 

それでもう、友奈は嫌な予感が的中してしまったことを悟った。

 

 

 

『うわっ、マジかよ。俺たち超損な役回りじゃん』

 

『……生前も死後も、ほんと迷惑しかかけねえな』

 

『全くだ。俺たちはゴミ処理業者じゃねえっての』

 

 

 

その台詞を最後に、男達は袋をぞんざいに崖から海へ投げ捨てた。……まるで、ゴミを放り捨てるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぶっ⁉︎ぜびゅっ……がひゅ……おえぇぇ……」

 

吐瀉物を喉に詰まらせながら、高嶋友奈は目を覚ました。黄色い吐瀉物が枕元を汚すが、そんなのはどうでも良かった。過度のストレスと恐怖で体が痙攣し、胃は消化していた食物を拒絶する。

そのまま1分以上吐き続け、胃の中が空になってようやく友奈は起き上がった。

 

立ち上がると同時に、現実を認識する。郡千景が一般人に集団で暴行され、入院してから3日が経っていた。

 

 

 

 

(……守らなきゃ…)

 

あんなものは、認められない。大切な友達があんな最期を迎え、死後も辱められ、価値を貶められるような事などあってはならない。……友奈は、先程見た夢が予知夢であると信じて疑っていなかった。

 

(ぐんちゃんを守らなきゃ。どうすればいい?考えなきゃ。守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ……)

 

 

彼女は気付かない。精神が既に限界を迎えていたが故に、先程まで見ていた悪夢が予知夢でもなんでもなく、『精霊の瘴気によって見せられた()()()()()』である事に気づくことができない。

 

 

連日の精霊の力を行使した戦闘によって彼女は疲弊していたが、その状態でも瘴気に負けないくらい精神が強かった。しかし、それでも仲間が悲劇に遭う場面を目にすると、途端に弱くなる傾向にある。……夢と現実の区別がつかなくなるくらいに。

 

 

「………そうだ。あいつらを皆殺しにすれば……」

 

高嶋友奈からは絶対に出ない発言。出てはいけない発言を、この少女は繰り返す。

 

「……そうすればぐんちゃんは勇者の力を失わない。ぐんちゃんを虐めた奴らを殺しちゃえば、きっとぐんちゃんはあんな目に遭わなくて済む……」

 

 

 

 

彼女の精神は既に破壊されていた。……故に、歯止めが効かない。精霊の瘴気が命ずるまま、高嶋友奈の残骸は動き出す。

 

———その日、勇者は死に、罪人が生まれた。

 

 




原作では、ぐんちゃんの遺体は実家に送られた後、行方不明になっている。……ちゃんと弔われていることを願う一方で、あの村の人間のどうしようもない醜悪さから、どうしても不安になってしまう。特に父親。




原作読み直したらぐんちゃんが幼少期に家出して高奈ちゃんに保護される作品とか、オリ主が村の人間全員を社会的に抹殺する作品を書きたくなってきた。
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