結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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今回はインパクトなしの筆休め回。




「……あれ?」

 

 

玲奈が目を覚まし、退院した日の翌朝。玲奈に起こされた後、着替えている間に、友奈は自分の机に折り畳まれた一枚のメモ用紙が置かれているのに気がついた。

 

……寝る前にはなかったはずのもの。つまり、昨晩の内に誰かが置いたという事だ。

 

期待に胸を膨らませつつ、友奈はメモ用紙を広げる。……そこに、書かれていたのは。

 

 

「……ぐんちゃん…」

 

歓喜に涙を零しながら、友奈は万感の思いを込めて彼女のあだ名を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そして、さらに数日後。

 

———戦いが終わり、いつもの日常がやって来た。しかし。

 

「夏凜ちゃん、今日も来ないねー」

 

「……そうね」

 

最後の戦いが終わってから、三好夏凜は勇者部にやって来ない。東郷美森は未だに入院中。このメンバーでできることもなく、ダラダラと時間が過ぎていく。

気温が上がる。しかし、勇者部の雰囲気は暗く、実際よりも気温は低く感じられるほどだった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……え、えっと。東郷さん、早く退院できるといいね!」

 

「……そうね」

 

 

原因ははっきりしている。———言うまでもなく、玲奈だ。

最後の戦い以降、彼女は元気がない。精神面は以前よりもむしろ安定しているかのように感じられるが、『暗い雰囲気』が安定して出ているだけであり、この現状は決して喜ばしいものではなかった。

 

いつもならば、彼女の異常は友奈が察知している。必要に応じて励まし、抱き締め、時には甘やかし、あらゆる手段を以って玲奈の状態を聞き出し、把握する。彼女は気遣いと観察のプロだった。

 

ところが、今回ばかりは違った。どんな手段を用いても、優しく語り掛けても抱き締めても、一緒に入浴しても同衾しても変化がない。何も話さない。頑なに、自分の異常を教えてくれない。これは今までなかった、非常事態だった。

 

友奈が察知できないということは、つまり他のメンバーにも分からないということで。

結果、特に問題が起きていないのに気まずい雰囲気が蔓延している。

 

その一方で、玲奈はその雰囲気にすら気付かない。気付く余裕がない。自身の内面が著しく変化しているのに、以前と同じように振る舞おうとしているが故に気が回らない。友奈に心配を掛けているという意識さえなかった。

 

 

「……(本当に、どうしちゃったのよあの子)」

 

「………(分からないんです。何も話してくれなくて)」

 

 

風と友奈のヒソヒソ話にも、気付いた様子すらない。そもそも、周りの様子が見えているのかすら怪しい。

 

友奈以外のメンバーは、玲奈の異常に気付きつつも、迂闊に手を出せない。結城玲奈は接し方を間違えれば爆発する。昔ほどではないものの、どこに地雷があるか分からないトラウマの塊。それが結城玲奈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……全く、いつまでウジウジしているの?)

 

———話す勇気が出ないのだもの。

 

玲奈は怯えていた。

最終決戦の際、友奈に『話したいことがある』と告げた彼女だったが、未だに何も話せていないのだ。

 

———もし、私が皆を自殺の口実にしようとしていたなんて言ったら。

———もしかしたら、嫌われるかもしれない。

 

絶対にない、と友奈ならば言うだろう。自殺の口実にしていることも否定してくれるかもしれない。しかし、友奈と同じ容姿をした『高嶋友奈』に悪意をぶつけられ、心をへし折られた玲奈は、友奈にどう接していいのか分からなくなっていた。

玲奈だって分かっている。あれが、愛しい妹とは別人であることくらい。しかし、その認識を揺らがせるほどに、彼女に与えられたダメージは大きかった。

 

———罵られるのが、怖い。

———軽蔑される事が恐ろしい。

 

———嫌われるだけなら、まだいい。

———でも、高い確率で()()()()

 

それは、玲奈には決して許容できないことだ。泣かせてしまうくらいだったら、このまま距離を置いた方が良い———。

 

 

(無理ね。……あなた、心を閉ざして距離を置こうとしていても、依存度だけは上がっているわよ)

 

 

確かに、入浴しても同衾しても、玲奈は頑なに友奈に何も打ち明けず、ずっと距離を取ろうとしていた。……表面的には。しかし内心は友奈に触れられる度に興奮状態に陥り、心拍は急上昇。思春期真っ盛りの男子中学生のような有様だ。

 

また、嗅覚を失った玲奈は、妹の下着や衣服を漁り、匂いを堪能する奇行に及ぶことはなくなった。……しかし、残念ながらそれ以外の奇行が新たに発現している。

 

(まさか、洗濯前の下着を盗んで、それを身につけて寝始めるなんて……それも、カモフラージュのために同じデザインの下着を買ってまで)

 

洗濯前に、こっそり友奈の下着を抜き取り、買っておいた下着とすり替え、部屋に持ち帰る。そして就寝前にその下着に着替えてから眠る。それが最近の玲奈の奇行だった。

毎日やっているわけではないが、衛生上、非常によろしくない。それは分かっていても、やめられない止まらない。千景は呆れ果て、もう叱る気にもならなかった。

 

 

———とはいえ、以前ほど千景は忌避感を感じない。

 

その要因として大きいのが、数日前の出来事。渡されたメモに記述されたメッセージだった。

既にその返事は出してある。約束の日時は、明日の午前一時。すなわち、今夜だ。

 

これは、決して玲奈にバレてはならないことだ。知られたくないのではなく、知られてはならない。今は、まだ。

 

(……本当に、面倒くさい娘ね)

 

接するだけでも細心の注意を払わなければならない割れ物。これでは深く付き合える人間などかなり限られてしまうだろう。むしろ彼女に正面から向かい合い、今までケアできていた友奈が特殊なのだ。彼女がいなければ、玲奈は今も人と触れ合えず、孤独に苛まれる生活を送っていた筈だ。

その意味において、玲奈が友奈と出会えたのはまさしく運命と言って良い奇跡だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方。自宅で、風は大赦からのメールを開封した。

 

『満開が勇者の身体に与える影響については、現在調査中です。検査で異常は見当たらないため、変調は一時的なものと思われます』

 

風は端末を握りしめる。素っ気ない返信。それはまるで、『余計な事を書いて何かを悟られまい』としているかのようだった。

 

(……本当に、治るんでしょうね)

 

大赦に対する不信感は募っていく。あのメンバーのうち、満開したのは友奈と美森、そして玲奈。前者の2人は『左耳の聴力の喪失』『味覚麻痺』という異常が出ていることがはっきりとしている。玲奈については不明。彼女の場合は、何か具合が悪いがために今の状態になっているのか、それとも今の状態が満開による異常なのかが分からない。

 

(……もしも治らなかったら、私は…)

 

 

———何をしてしまうか分からない。

勝手に勇者の都合に巻き込んでおいて、結局自分は何もできなかった。今までの戦いで大きな成果を挙げたのは玲奈で、最後の戦いで満開したのは玲奈、友奈、美森の3人。しかもそのうち2人は後遺症と思われる症状が出ている。……自分は、健康そのものなのに。

 

罪悪感が風を苛み、『どうして自分は前に出られなかったのか』という後悔が生まれる。

初めての戦いでは玲奈が最初に変身し、友奈と玲奈の連携で敵を倒した。その後も、もっとも戦果を挙げたのは玲奈だ。

———それに対して、自分は、何もできていない。

 

 

 

 

そしてその頃、東郷美森も焦っていた。

 

(まさか、大赦に端末を回収されるとは………不覚!)

 

現在、勇者部のメンバーが使っている端末は、大赦から新たに支給されたものだ。以前まで使っていた勇者システムを搭載した端末は、戦いの後に回収されている。

 

(……これじゃ友奈ちゃん達の状態が、確認できないっ!)

 

東郷美森は勇者システムを搭載していた端末を改造していた。玲奈の部屋に盗聴器を仕掛け、インターネット経由で端末に音声が送信されるようにしていたのだ。

玲奈の部屋に仕掛けた理由はただ一つ。友奈の部屋ならば、確実に玲奈に気付かれるからだ。彼女ならば少し小物の位置が変わったくらいの変化でも、友奈の部屋ならばすぐに気付く。それに対し、比較的自分の事に頓着しない彼女ならば、自室の変化にも気づかないだろうと踏んでいた。事実彼女は最後まで気付く事なく、玲奈の部屋で行われていた会話から夜中の玲奈の独り言に至るまで、美森は友奈と玲奈の2人の行動を把握できていた。

 

 

———友奈が玲奈と同衾していた事に怒らなかったのも、夜中に2人の間で交わされた会話を聞いていたから。

 

———一緒に入浴したり、共に眠るようになった事を把握していたのも、玲奈がこっそり夜中に変身しているのを把握していたのも全て同じ理由。

 

(端末が回収さえされなければ、こんなに焦ることもないのに……)

 

 

美森は心配していた。

最近、玲奈が独り言を呟くようになったのを美森は把握している。しかも、ただの独り言ではなく、まるで誰かと会話しているかのような呟き。美森は、玲奈が幻覚でも見ているのではないかと疑っていた。

 

そんな時に先の最終決戦が起こり、美森と友奈、そして玲奈は満開。美森と友奈は体の一部に機能の欠損が生じているため、玲奈にもなんらかの悪影響が出ているのではないかと彼女は思っている。幻覚と会話していたともなれば、なおさら不安だった。

 

 

勇者部のメンバーは、それぞれが仲間を想い、悩んでいる。

しかし、勇者部五箇条『悩んだら相談』を実践している者は、いなかった。

 




他のメンバーは玲奈に気を遣い過ぎて踏み込めず、玲奈本人は自分の事で手一杯。

そして他者と心理的な距離があるが故に、玲奈の自己評価と他者からの玲奈に対する危うい印象が一致せず、すれ違い続ける。……何より、玲奈が自分の事を何一つ分かっていないというのが問題。
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