今回の話は本編ですが……………すまない。裏の記憶ほどではないにしろ、刺激がちょっぴりあるかもしれない。
温泉。それは人類にとっての至宝。多くの人間はその魅力に抗えず、嫌う者などほとんどいないだろう。
———ただ一人、結城玲奈を除いては。
「…………」
玲奈は葛藤する。以前の彼女ならば、迷わなかった。迷わずに『一人で風呂に入る』ことを選んだだろう。しかし彼女は(ある意味で)成長している。今の彼女には、温泉に皆と共に入る選択肢を選びとり得る理由があった。
(友奈の裸が、見たい……‼︎)
成長したのは妹への想い。それは今まで彼女が気にしていた腕の火傷を人に見せることを許容させるほどだった。
共に入浴は何度もしている。しかしそれは、自宅の浴室での話だ。温泉、しかも露天風呂で友奈の裸を観察する機会などそうはない。
玲奈は妄想する。普段の浴室とは違い、湯気で見えそうで見えなくなっている友奈の裸を。雫のついた肌と露天風呂から見える夜空のコントラストを。
(〜〜〜〜〜‼︎)
血圧と体温が急上昇。普段ならばそれで終わりだが、生憎と今は合宿の夕飯時。当然、そこには他の勇者部メンバーもいるわけで。
「玲奈、大丈夫……じゃないわね。熱?」
まずは風が玲奈の異常に気づき。
「本当ね。顔赤いわよ。寝たほうがいいんじゃない?」
夏凜が風の言葉に同意し。
「玲奈さん、大丈夫ですか?」
勇者部の中で最も関わりの薄い樹にまで心配される。
「……え、いや、あの……大丈夫だから…」
ようやく現実に復帰し、苦し紛れに言うも意味はない。まさか『友奈で妄想してました』などと正直に告げるわけにもいかないのだ。
「本当に大丈夫?玲奈ちゃん、いつもやせ我慢してそうだから……」
時既に遅し。東郷美森の最後の一押しによって、玲奈に対する勇者部の認識は『熱を出した急患』に変わった。
「お布団敷いたよ。玲奈ちゃんは少しだけ休んでいて」
風が
「………まさか、意図せず一人で入浴する羽目になるとは…」
結局、皆が寝静まった後に入浴を始める玲奈。今まで気にしていた火傷を見られないのは良いが、楽しみが減ってしまったことに玲奈は落胆している。
(…そもそも、こんな時間に入浴できるなんて………掃除とか、いつしてるのかしら?)
現在は夜中の一時。他の宿ならば、立ち入り禁止にされている時間だ。夜中に風呂に入れるのはありがたいが、あまりにも都合が良い気がする。まるで、玲奈が皆と違う時間に入浴することを想定していたかのように。
脱衣所から入ってきた玲奈は、訝しみながら洗い場へと移動する。たとえ一人でも、湯船に浸かるのは身体を洗ってから。そのマナーを守るくらいには玲奈は律儀だった。
シャンプーを手に取り、泡立てる。そしてそのまま、頭を洗おうとしたところで、
「洗いに来たよー!」
「ッ⁉︎」
結城友奈が、風呂場に突入した。
(……寝ているのはちゃんと確認したのに⁉︎)
玲奈は戦慄した。彼女は、友奈の睡眠に関しては非常に鋭い。本当に眠っているか、それとも寝たフリをしているのかはその時の呼吸と寝顔で完全に判別できる自信さえある。故に、友奈と入浴できることなど全く期待していなかった。
———玲奈は知らないことだが、今の友奈は結城友奈であると同時に高嶋友奈である。『世間に追い詰められた郡千景のために』完全に眠りながらも周囲の状況を認識する仮眠法を身につけていた今の彼女にとって、玲奈が部屋を出たタイミングで目を覚まし、後を追うくらいは朝飯前のことだった。
「玲奈ちゃん、放っておくと適当に済ませちゃいそうだから。私が徹底的に洗うね」
「あ、はい、……お願いします……」
(うひゃあおおおおおおぉぉぉぉ⁉︎)
外面を取り繕いつつ、内面では興奮のあまり訳の分からない絶叫を上げる玲奈。目の前には湯気で隠れつつ、隠しきれていない友奈の肢体。興奮度合いは妄想の時の比ではなく、上空には雲のない星空。この時点で彼女が必死に鼻血を堪えていたのは言うまでもない。
その後、シャンプー済ませ、いざ身体を洗おうという段階で。
「……友奈、流石に身体の方は自分であら……」
振り返った玲奈の視界に、シャワーの水滴がついた友奈の裸体が目に入った。
「……玲奈ちゃん?……玲奈ちゃーん⁉︎」
友奈の身体のありとあらゆる所についた水滴は露天風呂の照明や星空の光で照らされ、キラキラと輝いている。……その刺激は、水着の時とはまた違ったもので。
(……ここが、私のユートピア……)
玲奈は鼻血を噴いて意識を手放した。………なお、興奮し過ぎたあまりに数秒だけ心肺停止状態に陥ったのだが、運良く友奈に気づかれることはなかった。
『ウザい』
『ネクラ』
『親がアレじゃロクな大人にならないわよ』
———私じゃない。
『燃やそう』
『服どうしたのぉ?』
『いんらん』
———私じゃない。
『うっとうしい髪』
『ハサミ』
『あ、失敗』
『血!』
———私じゃない。
『階段』
『落ちちゃった』
『救急車』
『逃げろ』
『先生に面倒かけないで』
———私じゃ、ない。
『お掃除』
『バケツ』
『ゴシゴシ』
『びしょ濡れ』
『あはは』
———違う。
『お漏らし!』
『こんな歳で』
『くさい』
『撮っちゃえ』
『拡散』
———私じゃ、
『売女』
『脱がそう』
『油性マジック』
『お絵かき』
———私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃじゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない…
『飼い犬ごっこ』
『首輪』
『お散歩』
『しつけ』
『阿婆擦れ女』
『ゲームやめろ』
『不良』
『根性焼き』
———凄惨な記憶が、彼女の精神を苛む。
人の悪意。身体の痛み。心の傷。それは物理的なプロセスを踏まずに玲奈の心にダイレクトにダメージを与え、人格の境界を歪ませる。
至る所で陰口を言われた。
取り囲まれて服を脱がされ、焼却炉で燃やされた。
髪と共に耳を切られた。
遊びと称して階段から突き落とされた。
清掃の時間に雑巾を洗って汚れた水を掛けられ、トイレ用洗剤を付けたデッキブラシで擦られた。
宿泊学習の時に付きまとわれ、常に拘束されてトイレに行けず、我慢できずに泣きながらその場で漏らした。写真を撮られてネットに上げられた。
服を剥ぎ取られ、身体中のありとあらゆる所に油性ペンで落書きをされた。落ちるまで一週間以上かかった。
首輪とリードを付けられ、下着姿で校舎中を引き摺り回された。首が締まり、呼吸困難になりながら汚い床の埃を被った。
中学生の不良に感化された問題児の集団に絡まれ、『根性焼き』と称して無理やり火のついたタバコを肌に押し付けられた。肌が深く焼け、
記憶に対する認識が曖昧になり、火傷の記憶は玲奈本人のトラウマと同調して——
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!?!??!⁉︎!⁉︎」
「よーしよしよし……。いい子だよ〜いい子いい子」
友奈は震える玲奈を抱き締めながら、彼女の背中をさすった。玲奈は何も言わない。起きているのか眠っているのかも分からない。嗚咽を漏らし、涙を流し、時には叫び、暴れる。外見を無視するならば、その光景は夜泣きする赤子とあやす母親そのままだった。
やがて玲奈の身体から突然力が抜け、くたりと友奈にもたれかかる。友奈は彼女を抱き抱え、布団に寝かせた。
「…それで、玲奈は?本当に大丈夫?」
「はい。もうぐっすり眠ってます」
現在、午前3時。しかしその時刻にも関わらず、勇者部の面々は目を覚ましていた。………というより、眠っていられなかった。
「………いつも、こんな感じなの?」
「ううん。……でも、小学生の時はよくあったかも」
「そう……」
おずおずと尋ねる夏凜の声には、少なくない動揺が混じっていた。
皆が起きたのは、およそ30分前。とてつもなく大きな玲奈の絶叫で、全員が目を覚ました。友奈以外は慣れていなかった為、心臓が止まりかけるほどの衝撃にパニックになりかけたものの、やけに落ち着いた———いっそ恐ろしいまでに冷静な———友奈が玲奈を宥めているのを見て、すぐに平静を取り戻す。
———この一件で、全員が実感していた。『これは、薬が必要になるわけだ』と。
「……ええと、友奈」
「はい」
「合宿から帰ったら、………一度カウンセラーに相談してみたら?」
「………はい」
———カウンセラーに、相談する。それ自体は別に、おかしなことではない。
だが、風が一瞬だけその提案を躊躇ったのは、大赦に対する不信感があるからだ。普通のカウンセラーならば、おそらく勇者システムの影響を受けている(と風は考えている)玲奈の精神状態を把握するのは不可能だろうし、大赦と関係を持つカウンセラーはそもそも信用ならないと風は思っていた。
一方で、友奈は友奈でカウンセラーに相談することはあまり乗り気ではない。郡千景から教えてもらったもう一人の高嶋友奈による悪影響を他者に話すことは出来ないし、もしそれが大赦に伝わった場合、高嶋友奈の亡霊を『郡千景の精神ごと』消される恐れもある。悩んでいてもむやみに相談出来ないのは、それが理由だった。
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