結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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注意。
今回は胸糞!以上。


末路

———凍りついた雰囲気の中、アラームが鳴る。

それは、樹海化の予告。玲奈以外の勇者システムに搭載された機能。

 

 

「……こんな時に限って来る、か」

 

「これが最後でしょ。殲滅してやるわ!」

 

風の呟きは、夏凜の声に遮られて他のメンバーには聞こえなかった。

樹海化で辺りが見えなくなっていく中、友奈だけが玲奈の横顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、もう分かったでしょ。ぐんちゃんに比べて、自分がどれだけ恵まれているのか』

 

「…………」

 

『その気になったら、いつでも使ってね。新しく増えた、三体目の精霊を』

 

「………」

 

『待ってるよ、玲奈ちゃん。あなたが自分から、ぐんちゃんに身体を明け渡すその時を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玲奈の意識が現実に復帰すると、そこは樹海だった。

 

(やるべきことは、一つ)

 

玲奈の目的は、いつも一つ。友奈の幸福のみ。ならばこそ、その幸せを遠ざけかねない戦闘は早く終わらせるに限る。

 

 

「……見つけた」

 

端末のレーダー機能を使うまでもなく、以前よりも上がった視力で敵を発見。神樹に向かって走るのは、以前倒したはずの双子型。……そのことから、本来は二体一組のバーテックスであると推測した。

 

見敵必殺。彼女は周囲の状況を見ないまま駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、なんの躊躇もなし⁉︎」

 

勇者部のメンバーが変身を終え、敵をレーダーで探そうとした時には、既に玲奈は走り出していた。

てっきり満開の後遺症で戦いを躊躇うとばかりに思っていた他の面々は、その時点で出遅れている。レーダーで美森は、玲奈と敵の残党が急速に距離を縮めていることに気がついた。

 

「……速い。なんて速度…!」

 

「…って、悠長にしてる場合じゃないわよ!早く追いかけないとっ」

 

勇者部のメンバーが駆け出した時には、玲奈はバーテックスを蹴り飛ばしていた。

 

———というか、ボコボコにしていた。

 

 

「りゃああああッ‼︎」

 

 

以前戦った時よりも、玲奈の筋力や敏捷性は向上している。一々暴風で捕らえる必要もない。単純な速力と筋力のみで、玲奈はバーテックスを圧倒する。

脚を蹴り飛ばして転ばせる。倒れている間に滅多斬りにし、再生しようとする度に殴って傷を陥没させ、回復を妨害した。

 

(やっぱり、封印しないとダメ、か)

 

満開状態での攻撃によって御霊を露出できたことから、弱らせれば封印しなくても倒せると玲奈は考えたのだが、現実はそう甘くはなかった。

 

———玲奈は思い出す。夏凜が一人でバーテックスを封印し、駆逐した時のことを。

 

(夏凜ちゃんができるなら、私にもできるはず……)

 

あの時夏凜は、複数の剣を媒介にして封印の儀を行なっていた。ぶっつけ本番になるが、複数の精霊で敵を取り囲むことで同じことを出来るのではないかと玲奈は考える。

 

三体目の精霊を表に出すことは郡千景に止められている。しかし、そうも言っていられない。勇者部の皆が来るのは時間の問題。友奈がここに辿り着く前に、なんとしても終わらせなければならないのだ。

 

……そして封印すべく精霊達を出そうとしたところで。

 

 

「えいやぁー!」

 

「⁉︎」

 

可愛い掛け声と共に、何本ものワイヤーが玲奈に絡みつき、拘束した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むーー⁉︎むーー‼︎」

 

「いいわよ樹!このまま縛っときなさい!」

 

「……って、言われても……!玲奈さん、力強すぎ……」

 

 

玲奈をワイヤーで拘束したのは樹。手足や胴体どころか、口さえも猿轡のように塞いでいるため彼女は呼吸しかできない。じたばたと暴れながら呻き声を上げる玲奈に罪悪感を覚えながらも、「私がやらなくちゃ」と風は自分を奮い立たせた。

 

今までの戦闘で、もっとも無茶をしてきたのは玲奈だ。そして満開の後は後遺症。もしも玲奈が戦闘でこれ以上無理をするようであれば、樹に拘束させてでも彼女を止め、自分が始末をつけると風は決めていた。

 

「ごめん、玲奈ちゃん。少しじっとしてて」

 

目線で友奈に救援を求めた玲奈だが、あっさりと断られた。……友奈は玲奈に無茶を絶対にさせたくないため、当然の返答だった。

 

「いくわよ、みんな。封印開始!」

 

封印の儀が為され、バーテックスから御霊が露出する。………ただし、無数に。

 

「何、この数ー⁉︎」

 

「むー‼︎んー‼︎」

 

「この量の御霊を破壊するなら、自分が最適だ」という意味を込めて呻く玲奈だが、残念ながら無視された。

 

 

「下がってなさい!後は私がやるから!」

 

剣を構える風。「満開ゲージを溜めるのは危険かもしれない」と考え、最後の後始末は自分でつけると決めている彼女に迷いはない。この量を一つずつ破壊するのは現実的ではない。多少樹海に被害を出そうとも、確実に全てを葬れるだけの一撃を繰り出すべく、彼女は力を溜める。

 

「トドメは私に任せてもらうわよ!」

 

しかしここで待ったの声。

 

「夏凜⁉︎やめなさい!部長命令よ!」

 

「ふふん。私は元々助っ人としてここにいるの。最後くらい、任せておきなさい!」

 

そう宣う夏凜だが、その表情は誰がどう見ても強がっているようにしか見えない。それでも危険かもしれない後始末の負担を背負おうとするのは、「自分が役に立っていないかもしれない」という危機感故か。

 

 

「むー‼︎んー‼︎んー‼︎」

 

 

———風は、致命的なまでに選択を誤った。

 

 

玲奈が呻き声を上げているのを、風は『勇者部のことを案じ、自分が無茶をするため』と誤解した。今の呻き声は、『どちらでも良いから、早く御霊を破壊しろ』という、玲奈の最後通告であったというのに。

玲奈にとって、友奈以外のことはどうでもいい。この場合、たとえ縛られたままであったとしても、友奈以外の誰かが御霊を壊してくれさえすれば、それで良かったというのに。

 

玲奈を拘束する。この選択が、最大の誤りだった。

 

 

「勇者、キーック‼︎」

 

「あ………」

 

風の口から、呆然とした声が漏れた。

友奈が上空から炎を纏った蹴りを繰り出す。着撃と同時に爆炎が広がり、地面に散らばっていた無数の御霊全てを灰塵に変えた。

 

 

———手遅れ、だった。

 

玲奈は友奈をよく分かっている。故に誰が御霊を破壊するかで揉めた時、止める間もなく自らが行動することは想定できていた。

故に玲奈は、誰よりも早く敵バーテックスを仕留めようと躍起になっていたのだ。勇者部の面々に追いつかれた時点で、友奈が御霊を破壊する役割を果たしてしまう可能性が劇的に上がってしまうが故に。

………その努力も、全て無駄になってしまったが。

 

「うん。これで戦いは終わり!大勝利だね!」

 

明るく振る舞う友奈に、夏凜が詰め寄った。

 

「ちょっと友奈!何を勝手、…に……」

 

しかしその声は掠れて消える。彼女の視線の先には、友奈の手甲。桜を模した、満開ゲージ。それが、5分の3まで溜まっていた。

 

———その場の皆は、声が出ない。たった一度の攻撃で、3つ。計算上では、先程と同じ攻撃をもう一度すれば満開できてしまう。

 

その場の雰囲気が深刻になったのを敏感に察知して、友奈は努めて明るく振る舞う。

 

「あはは、ごめん。新しい精霊の力を試したくて、つい先走っちゃいました。反省してます」

 

「友奈……」

 

 

友奈が皆を気遣ってそんな態度を取っているのは、この場の誰の目にも明らか。本当は自分だって怖かったはずなのに、彼女は率先して自分の身を危険に晒したのだ。

 

———ふと、風の背筋に『ゾクッ』と悪寒が走った。あるいはそれは、———殺気。

 

「ッ⁉︎」

 

まるで壊れかけのブリキの人形のように、ギギギ、と風が玲奈の方を振り向いた。美森が友奈を案じる言葉を投げかけている、その一方で。

玲奈が暗い瞳で、風を睨みつけていた。

 

「…………」

 

……拘束は既に解かれている。

しかし、玲奈は動かない。何も言葉を発しない。ただ、その冷え切った視線が、風を射貫いている。彼女の目に浮かんでいるのは、底なしの失望。それはまるで、『道具が説明書に書いてある通りの性能を発揮しなかった時のような落胆』にも似ていて。

 

ここで、ようやく風は自分が間違えたことを実感した。———彼女は玲奈の逆鱗に触れるばかりか、地雷を踏み抜いてしまったのだ。

 

「…………」

 

風も、何も言えない。今更になって後悔が押し寄せる。

戦いが始まった時、玲奈が誰よりも早く行動を始めたのは、以前の時のような暴走なのだとばかり思っていた。……少し考えれば、以前の暴走時に比べてずっと落ち着いているのはすぐに分かったはずなのに。そして、彼女の行動が友奈の為であることは明らか。

 

………結果的に、風は玲奈の『友奈を守る行動』を邪魔したのだ。

 

樹海化が解ける。玲奈は最後まで、何も言わない。ただ、その氷のような瞳には、以前感じられた絆は微塵も残ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海化が解けると、そこはいつもの学校の屋上。

 

「……ようやく、終わったか」

 

感慨深く風が呟くが、それは虚勢だった。……あろうことか、玲奈を怒らせたのだ。今後の悩みが1つ増え、彼女の胃がキリキリ痛む。

 

「お疲れ様でしたー」

 

「それを言うのはまだ早いわよ、樹。友奈、今日うちに泊まりなさい。そこでみっちりとお説教を———」

 

そこで、夏凜はふと気づいた。

 

「……友奈?」

 

「あれ?玲奈さんはともかくとして……友奈さんと東郷先輩の二人も、いない?」

 

戦闘後は、玲奈以外のメンバーはいつもこの屋上に転送されるが、辺りを見渡してもこの場にいるのは夏凜、風、樹の3人のみ。

 

「……二人も、玲奈と同じように元の場所に戻されたのかしら?」

 

「かもね。……じゃあなんで、私達だけがここにいるのかって話だけど」

 

メンバーが欠けていても、比較的落ち着いているのは玲奈という前例があるからだ。何をするにしてもまずは部室に戻ってから。彼女達3人は取り乱すことなく、勇者部の部室に引き返した。

 

 

———部室には、誰もいなかった。玲奈でさえも。

 

そして、樹海化の前までは締め切っていた筈の窓が、不自然に開いていた。




書いた本人が言うのもどうかと思うが。

風先輩は何も悪くない。……こんなギスギスした勇者部、見たくねえ……。


玲奈が樹ちゃんではなく風先輩を睨んでいた理由は、単純に「風先輩の指示で樹ちゃんが拘束した」ことを察していたからです。


次回、ついに色々な真実が明らかになる(予定)。
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