結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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今回のお話は、………どうして、こうなった?




“再会”

「………あれ?」

 

「戻ってきた、けど……屋上じゃ、ない?」

 

樹海化が解けると、友奈と美森の二人は見知らぬ場所にいた。辺りに人影はない。端末も電波が通じない。

 

「あそこ、大橋がある……」

 

「本当だ。……だいぶ遠くまで来ちゃったね」

 

どうして二人だけ、離れた場所に出てしまったのか、友奈達には分からない。

 

 

「やっと、来てくれた。会いたかったよ、わっしー」

 

その時、見知らぬ少女の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……⁉︎……あ、れ?」

 

「風……?どうしたの?」

 

「……いや、なんでもない」

 

不自然に開いた窓から下を覗いた風は、夏凜の訝しむ声にそう答えた。

 

———一瞬、覗き込んだ地面に夥しい量の真っ赤な血が広がっているように見えたが、再度見てもそこにあるのはなんの変哲もない地面。

 

(疲れてるの、かしらね?)

 

「……玲奈さんもいないなんて……どこに行ったんでしょう?」

 

樹の疑問に答えられる者は、ここにはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東郷さんの、知り合い?」

 

「……いいえ。初対面だわ」

 

目の前の二人のやり取りを聞いて、少女は寂しげに笑った。

 

「………わっしーっていうのはね、私の大事なお友達なんだ。いつもその子のことを考えていてね。つい、口に出ちゃうんだよ」

 

友奈と美森を呼び出したという少女は、とても痛々しい格好をしていた。

頭から顔にかけて包帯が巻かれ、手術衣のようなものを身につけている。裾から覗いた腕にも包帯が巻かれ、ベッドに横たわっていた。まるでそこだけ、病院から空間を切り取ってそのまま持ってきたかのような状態。

 

「あなたが戦っているのをずっと感じてた。やっと呼び出しに成功したよ〜」

 

やや、間延びした口調。

———もし、以前から彼女を知っている者がいたら、驚いたことだろう。その少女の声のトーンは以前よりも低く、口調も落ち着いて大人びていたのだから。それだけで、彼女がどんな修羅場を潜り抜けたのかを想像すらしていたかもしれない。

 

「……ずっと呼んでいた、んですか…?」

 

「うん。……その祠」

 

少女が指し示すのは、鳥居に『神樹』と刻まれた祠。友奈達の通う讃州中学の屋上にもあるものだ。

 

「……バーテックスとの戦いの後なら、それを使って呼べると思って」

 

「……え?」

 

「……バーテックスを、ご存知なんですか?」

 

———友奈はおろか、美森でさえも気がついてはいなかった。「戦っているのを感じてた」と言った時点で、関係者であることは自明であるのに。驚きから抜け出せていなかったために、そこまで頭が回っていなかった。

 

 

「うん。一応、あなたの先輩ってことになるのかな。私はね、乃木園子っていうんだよ」

 

「の、ぎ……⁉︎」

 

友奈はその名字に更なる衝撃を受けた。

 

「……東郷、美森です」

 

美森が名乗り返した後に、友奈はようやく自己紹介をしていなかったことに気づく。

 

 

「讃州中学2年の結城友奈です。………先輩って……まさか」

 

「うん。私も、勇者として2年前まで戦ってたんだ。3人のお友達と一緒に、えいえいおーってね」

 

「……じゃあ、バーテックスが先輩を……そんな身体にしたんですか?」

 

友奈の脳裏に、高嶋友奈として生きていた頃の記憶が蘇る。

球子と杏を殺した蠍型のバーテックス。倒しても倒しても次々と襲来する星屑たち。進化体と戦い、傷だらけになっていく友達。

 

「ああ、敵じゃないよ。私、これでもそこそこ強かったんだから」

 

しかし、少女———乃木園子はそれを否定する。

 

「…えっと……ああ、そうだそうだ。友奈ちゃんは満開……したんだよね?」

 

「……え?」

 

「わーって咲いて、わーって強くなるやつ」

 

「え、あ、…はい。しました」

 

「……私もしました」

 

———友奈は、嫌な予感がした。

 

 

かつて千景に教えられたことが蘇る。

 

『………満開は、代償として体の機能の一部を喪失する。そしてそれは、二度と元に戻ることはない』

 

 

(……まさ、か)

 

友奈はこのことを誰にも話していなかった。

それにはまず玲奈の中にいる千景のことを話さなくてはならなくなるし、何より———既に失ってしまったものが戻らないと分かったら、風が戦いに巻き込んだことを気に病むかもしれないと考えたからだ。

 

 

「実は、満開の後に『散華』っていう隠された機能があるんだよ」

 

「さん、げ…?華が散る、の散華?」

 

友奈の悩みを知る事もなく、園子の話は進む。

 

 

「うん。———満開の後、身体のどこかが不自由になったはずだよ」

 

「……え?」

 

「………」

 

友奈は、もう知っていた事実。美森は知らないながらも、薄々と嫌な予感は感じていた。

 

「花1つ咲けば、1つ散る。2つ咲けば2つ散る。……神の力を振るう代償として、身体の一部を供物として神樹様に捧げる。それが、勇者システム」

 

「……じゃあ、その身体は、代償で……?」

 

「うん」

 

 

友奈と美森は絶句する。

 

———この世界は300年前から、少女達の犠牲によって辛うじて成り立っていた。

 

「いつの時代でも、神に見初められて大いなる力を振るえるのは無垢な少女だけ。その代わり、勇者は決して死ぬことはないんだよ」

 

「……決して、死なない………」

 

美森はそれを、プラスと捉えることができない。それはまるで、『死を以ってしても勇者の役目からは逃れられない』という呪いのようにも聞こえる。

 

「大人は神の力を身体に宿せないからね。……仕方がないんだよ」

 

友奈の耳に、諦観の混じった園子の声がいつまでも残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、すまなかった………」

 

「…………ええと」

 

玲奈は、困惑のあまり立ち尽くしていた。目の前には、まるでお手本のように綺麗な姿勢で土下座する少女。

場所は、大赦本部のとある部屋。室内だというのに鳥居のようなものがあり、その奥には祠のようなものまである。そしてその鳥居の前で、少女は土下座をしていた。

 

 

———樹海化が解けた後。

ぼんやりしている間にいつのまにか下校していた玲奈は、道路で突然何者かに攫われた。驚くべき事に、相手は同年代の少女。しかもあろうことか、玲奈に一切抵抗させずお姫様抱っこ。歩いている途中で気が付いたら抱き抱えられたまま猛スピードで運ばれている玲奈としては、『落とされたらどうなるのか』と気が気でなかった。

そして抱えられたまま大赦本部に入り、今の部屋に運ばれた後、誘拐犯の少女は唐突に土下座。訳が分からなかった。

 

 

(はい、そこまで。私に代わってちょうだい)

 

———唐突に脳裏に響く、郡千景の声。

 

一瞬で玲奈の意識は眠りにつき、もう1つの人格が浮上する。

 

「………2年前から、相変わらずのようね。乃木さん」

 

「…それも、すまない」

 

「それで、今回は何の用件かしら?」

 

千景の声は思いのほか冷たい。千景は目の前の少女を知っていた。

 

———その名を、乃木若葉。初代勇者のリーダーであり、闇を抱えたまま悠久の時を生きる者。

 

 

「警告だ。……もっとも、私なんかに注意されたところで、ありがたくなんてないだろうが」

 

「……卑屈さが深刻になっているわね。300年前の乃木さんは一体どこに行ってしまったの?」

 

「…………すまない」

 

「……それで、警告って?」

 

嫌味に突っかかってくれない事に寂しさを感じつつ、千景は話を進めた。

 

 

「……このままだと、お前は消えるぞ」

 

「そうね」

 

「………分かっているなら、どうして……」

 

「………どうしようもないもの」

 

その口調は、覚悟ではなく諦めを感じさせるものだった。

 

「……私は、お前に幸せになってほしい。だから…」

 

「……だから?」

 

「私と、来てくれないか?」

 

———それは、千景にとって、言って欲しくない事だった。

 

「……それは、この子(玲奈)を消すという事?」

 

「そうだ」

 

「ふざけないで」

 

———以前の若葉なら、こんな事を言わなかった。

 

郡千景は今の若葉に落胆している。失望している、と言っても良い。彼女の知る乃木若葉は、いつも堂々としていて、人を守るために奔走する人物だった。決して今のような、卑屈で目的のためならば手段を選ばない人間ではなかったはずなのに。

 

 

「……ふざけてなど、いない」

 

……その答えよりも、若葉が()()()()()()()()気圧されている事実に、千景は腹を立てた。

 

「『何事にも報いを』。その家訓に則るなら、たとえ事を済ませたとしても、それ相応の報いを受けなければならないわよ」

 

「そんな家訓が、一体何の役に立つんだ?」

 

「………え?」

 

———たとえ昔と変わっていたとしても、『そこ』だけは変わっていないと、千景は期待していたのかもしれない。彼女は、若葉が「それでも構わない」と答えるのだと思っていた。

 

———昔に口うるさく言っていた家訓を否定するなど、思ってもみなかった。

 

 

「『何事にも報いを』?それで私は、一体何を守れたんだ?」

 

「……乃木、さん」

 

 

———孤独は人を弱くする。

 

勇者の皆がいなくなり、最後の拠り所であったひなたも寿命で他界した後、乃木若葉は1人になった。大赦職員の世代交代が進み、勇者として戦っていた頃の乃木若葉を知る者がいなくなった後に残るのは、まるで自分だけ時代に取り残されたかのような孤独と心細さ。子が死に、孫も死に………いつしか周囲には、若葉を神格化して崇拝するか、化け物を見るかのように避ける者達だけが残った。それは大赦も、子孫さえも変わらない。

 

 

「お前の言っていた通りだったよ、千景。復讐のために戦っても、意味などない。仲間が蘇るわけでもないからな」

 

「………」

 

「だから、私は……なんとしてでもお前を生かす。もう二度と、間違えてなるものか……っ‼︎」

 

 

 

———300年前。

 

高校2年生に上がった頃、若葉は知らない間に不老不死になっていることが判明した。成長は高校生の年齢で停止し、決して老いることなく、自殺でさえも死ぬことができない。世界を守る守護者に縋る身勝手な人間達の願いに神樹が応えた結果、乃木若葉は人々の希望として永久に生き続けなければならなくなった。

 

それは福音ではなく、ただの呪い。友が死のうと1人になろうと、彼女は死ねない。人々を守るべく戦いたくとも、神樹が許さなければ勇者の力を発揮することもできない。彼女はさながら、勇者の標本。

 

ひなたが亡くなり、気が遠くなるほどの長い時間の中で彼女が願ったのは、新たな拠り所。そしてその拠り所は、かつての仲間によく似た姿で、失われたはずの魂を宿して目の前にいる。

 

「……2年前、お前の姿を見た時………運命だと思った。何かと私の行動を制限する神樹が、珍しく私の願いを叶えてくれたと思ったよ」

 

 

———身体どころか、精神さえも成長しないまま。

 

狂気すらも感じさせる瞳で、若葉は千景を欲していた。

 




書いているうちに最初想定していたシーンと少し違うのはよくあること、だけれども。
まさか若葉さんがこんなことになるなんて思ってなかった。

確かに、バッドエンドを迎えたまま不老不死になって300年生き続けている設定は当初からあった。でもまさか、実際に書いたら若葉さんまで性格が歪んでしまうとは思ってもいなかった。


怒られる。若葉ちゃんガチ勢とか若葉ちゃんファンクラブとか、怒ったら『あらあらうふふ』と怖い笑顔を浮かべそうな子とかに追いかけ回される……!
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