結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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お待たせ、しました……。ヴォエッ………(瀕死)


今回、ヤバイ。……本編を読むのに不都合はない、のかどうか分からない。


こういう話書いてるとどこまでOKなのかが分からなくなってきます(感覚麻痺)


黒い記憶

———樹海化が解け、勇者部の部室に戻った玲奈が感じたのは、途轍もない嫌悪感だった。

 

(………最低)

 

あろうことか、敬うべき先輩である風を睨みつけてしまった。それも、恐らくは考えられ得る中でも最悪な考えに基づいて。

 

(………私、先輩のことさえも道具みたいにしか思ってなかったの?)

 

その事実が、ただただ悍ましい。そしてもっとも恐ろしいのが、何度考えても『友奈の姉として相応しくないから』という理由しか出てこないことだった。

 

———それでは、いけない。

 

そもそも、行動原理や思考における価値基準を友奈に絞ってしまっているその時点で、()()()()()()()()()

友奈を通じてしか感情を動かせない時点で、()()()()()()()()()

友奈に相応しいか否かを考えている時点で、()()()()()()()()()

 

あらゆる思考の結果が、()()()()()()()()()という結論に収束する。玲奈は思考そのものが面倒になった。

 

だが、勝手に思考は空回りし始め、エラーを蓄積する。できないと分かっていながらも、友奈に相応しい自分になりたいという欲求に抗えないが故に、()()()()()()()()()と考える自分を修正するための解決策を判断材料がないままに模索してしまう。……それすらも面倒だと考えながら。

 

———そこで目に入るのは、部室の締め切られた窓。

 

「………」

 

………ここで、『敢えて友奈の姉として相応しくない行動を取ると、どうなるのだろう』とぼんやりと考える。

友奈に相応しくなるべく行動すると友奈に相応しい姿から遠ざかる。ならば、その逆のことをすれば?

 

 

「……………………」

 

 

 

 

カラカラと窓を開け、まるでプールに飛び込むような気軽さで、

 

 

「えいっ」

 

 

玲奈は頭から真っ逆さまに外へ落下した。

 

 

 

 

 

 

 

(…………………あれ?)

 

 

思考が加速し、体感時間が遅くなる。しかしそれでも、地面が目の前に迫るスピードは途轍もなく速い。

 

(…………なんで私、飛び降———)

 

地面に接触する直前に正気を取り戻すが、手遅れ。

 

———普通の勇者ならば、平気だった。端末が手元になかろうと、バッテリーが切れていようとも、精霊は勇者の命を守る。

 

しかし玲奈にその守りはない。故に、結果は必然。

 

『ゴシャ』という鈍い音を立て、彼女は頭から地面に激突。痛みを感じる間もなく、結城玲奈は絶命した。

 

 

シン、と。辺りが静まり返る。

部活動で外に出ていた生徒も、部活動の顧問も。部活動に励む男子を見ながら恋愛話に花を咲かせていた女子生徒達も、誰もかもが。

そして、一拍の後。

 

 

「きゃあああああっ⁉︎」

 

「女の子が落ちたぞ⁉︎」

 

「だ、だれか救急車‼︎」

 

「警察っ。警察呼んで⁉︎」

 

「……嘘っ。結城さん⁉︎」

 

 

大パニックが起こった。

大赦によるモラルの教育が行き届いているため、西暦時代のような『どんな酷いものであろうと珍しいものはすぐに撮影してネットに広める』ような野次馬精神の愚か者はいない。しかし、このような事態に慣れず、混乱しているのも事実。この場合の適切な対応が分からず、騒ぎは大きくなった。

 

近くを通りかかった生徒や教師が、騒ぎを聞きつけてその場に駆け寄る。そしてその惨状を見た誰かが、「ひっ…」とか細い悲鳴を上げた。

夥しい量の血液と脳漿が流れ出し、血溜まりを作っている。首はあらぬ方向に折れ、全体重の衝撃を受けた頭蓋は割れていた。

 

 

 

 

———そして、その事象の全てが消去される。

 

 

 

「……あれ?なんで俺、こんなところに?」

 

「練習中じゃ、なかったっけ?」

 

「というか、なんでみんな集まってるの?避難訓練?」

 

 

『結城玲奈の自殺はなかった』と、世界が語る。それに伴い、人々の記憶も、玲奈の遺体も、流れた血さえも消滅する。そこに残るのは、どうして自分がここにいるのかを理解できない生徒と教師達のみ。

 

 

そして。

 

「……?いつの間に……?」

 

遺体の消失と同時に、玲奈が校門の前に現れた。『玲奈の死を誤魔化す』ために、彼女は『下校するために勇者部の部室から歩いてここまでやって来た』ということになった。部室に置いてあったままのはずの鞄も、靴箱の中の靴も身につけている。

 

彼女は自分が自殺した事も忘れて、そのまま帰路につく。

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、外が騒がしいわね」

 

風は不自然に開いた窓から外を覗き見て、そして。

 

 

「……⁉︎……あ、れ?」

 

「風……?どうしたの?」

 

「……いや、なんでもない」

 

窓から下を覗いた風は、夏凜の訝しむ声にそう答えた。

 

———一瞬、覗き込んだ地面に夥しい量の真っ赤な血が広がっているように見えたが、再度見てもそこにあるのはなんの変哲もない地面。

 

(疲れてるの、かしらね?)

 

「……玲奈さんもいないなんて……どこに行ったんでしょう?」

 

樹の疑問に答えられる者は、ここにはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

およそ300年前。乃木若葉が不老不死になって2年ほどが過ぎたある日のことだ。

 

「…………なんだ、これは?」

 

暇つぶしにネットサーフィンをしていた若葉が見つけたのは、とあるサイト。

 

———時折若葉は、勇者の仲間の名を検索して写真や動画を見ることがある。もう既にいない仲間達の姿や声を記憶に刻み込み、少しでも孤独を紛らわそうという弱者の行動。ひなたが側にいない時はいつもそうして無理矢理精神の安定を保っていた。

 

———だが、今回に限っては、逆効果だった。

 

検索したキーワードは、『郡千景』。高嶋友奈を救うために自ら世界の礎となり、何も告げないまま失われた少女。

……そして、見つけたサイトの記事のタイトルは、

 

『【悲報】勇者の郡千景さん、いじめられっ子だった』。

 

「…………」

 

タイトルからして、まとめサイトの記事だろう。こういうサイトは、時折内容と異なるタイトルをつけられることがある。インパクトで興味を持たせ、少しでも閲覧数を稼ごうという魂胆の記事は多い。だから、このサイトもどうせデマか何かなのだろうと、そう思っていた。

 

………その内容を見るまでは。

 

 

 

 

 

 

『いや、やめてお願い……お願いしますやめてぇ!』

 

『げぅっ⁉︎…許して……許して、下さい……』

 

『痛っ、ごめんなさ、ああああぁッ⁉︎』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ふざけるなぁ‼︎」

 

ガシャンと音を立て、ノートパソコンが壁にぶつかって破損する。いつもの暇つぶしは、今日に限って若葉から冷静さを奪っていた。

投稿されていたのは、十を超える画像や動画。その全てが、幼い千景を虐める様子を映したものだった。

 

投稿されている動画や写真に対する人々のコメントは様々だが、その多くが投稿者に対する批判ばかりだ。

 

 

 

『これ、昔ニュースになったやつだろ。なんで今更上げるんだよ』

 

『命懸けで世界を守ってくれた子に、この仕打ちとか。お前本当に人間かよ』

 

『これ、すぐに見つかって大赦に消されるやつだ』

 

『いくらなんでも不謹慎だろ』

 

『死ね』

 

『正直興奮した』

 

『虐められてた子も命張ってるのに、働きもしないおまえらときたら……』

 

『イッチ頭おかしすぎワロタ』

 

『いじめっ子達特定しようぜ。殺してやる』

 

 

 

 

 

若葉は投稿されているその全てを見た。———正直見たくはなかったが、何も知らない自分が許せず、心を痛めながら動画を再生した。

 

 

 

 

ある動画では、千景は服を剥ぎ取られていた。

ある動画では、千景は集団に暴行を受けていた。

ある動画では、根性焼きと称して点火した煙草を押し付けられていた。

 

 

そして千景の悲鳴のバックで聞こえるのは、千景を虐めている者達の笑い声。

 

他にも、裸に落書きをされている写真や、お漏らしの様子を写した写真、服を着たままプールで溺れている写真などもあった。

 

 

 

 

「……何も、知らなかった………」

 

今更になって、合点がいった。初めて出会った時、彼女が極度に怯えていたことに。

千景は、人に触れられることに恐怖を覚えていたのだ。

 

 

 

 

「……………くそ」

 

———再び感じる無力感。

 

もっと、何かできなかったのか。

千景と距離を詰めるまで、長い時間がかかった。思えば、バーテックスが襲来してくるまで会話らしい会話もしていなかった気がする。漸く普通に話せるくらいに仲良くなっても、今はもう彼女はいない。

 

 

 

 

「………罰を、与えなければ」

 

何事にも報いを。この頃の若葉はまだ、その家訓を大切にしていた。

 

迷いはない。そして、罰を与えるべき者達を調査する必要すらない。なぜなら千景は神樹に取り込まれている。神樹との繋がりが強い今の若葉ならば、精霊の力を引き出すのと同じ要領で、報復すべき相手を『千景の記憶から神樹に取り込まれた情報』を元に知ることができる。

 

 

 

———イメージが流れ込んでくる。

 

一番多いのは手だった。千景を傷つけ、奪う魔手。彼女にとって他人の手とは、自らを脅かす厄災そのものだったのかもしれない。

次に浮かんでくるのは、千景を傷つける者達の顔。恐ろしいことに、千景から流れ込んでくる情報には、顔のイメージに比べて圧倒的に名前の情報が少ない。それはすなわち、名前も知らない多くの人間に虐められ続けていたことを示している。

 

 

 

「……これほど、なのか…」

 

体感にして三時間。現実時間で約5分。イメージを記憶に刻みつけた若葉は、報復すべき相手の人数に戦慄した。

 

———直接千景を傷つけた前科のある人数だけで100人以上。千景の私物や机に落書きをしたり、隠したりなどといった間接的なものを含めるとその数はさらに膨れ上がる。悪口や陰口によって千景の心を傷つけた者を含めると、千景を虐めた者の総数は500人を超えた。

 

クラス単位の虐め、学年単位の虐め、どころではない。学校ぐるみ、村ぐるみの虐めだ。当時小学生に過ぎなかった千景にとって、周りの世界全てが敵に映ったことだろう。

 

 

———しかし、まさか500人全員に報復するわけにもいかない。

 

 

人間は弱い生き物だ。だから、雰囲気に流されて、或いは仲間に逆らえずに虐めに加担した者もいたかもしれない。意外なことに、若葉にはまだ、そう考えられるくらいの理性は残っていた。故に、罰を与えるのは虐めの首謀者のみ。首謀者が少なければ、その首謀者に近い人間にも罰を与えようと考え直した。

 

 

再び、神樹とのリンクを通じ、情報を検索する。情報がどうしても千景主観になってしまうが、それは寧ろ好都合。千景に代わって罰を与える以上、千景が『虐めの首謀者である』と考えている人物に絞っても、何の問題もない。

 

情報の精査の結果、人数は42人まで絞り込めた。

 

 

 

「……名前が分かれば、楽だったのだがな」

 

しかし事実として、記憶に刻まれたのは顔のイメージのみ。だが、それで若葉が諦めるわけもない。

 

彼女は千景の故郷の村の全ての小中学校の卒業アルバム数年分を入手し、隅々まで精読して記憶の中のイメージと照合した。個人情報の管理にうるさい今のご時世だが、大社———もとい、大赦の権力を乱用すればどうにでもなる。

 

 

(……珍しく、神樹が邪魔をしないな)

 

或いは仲間の報復をするくらいの自由は認めてくれるのかもしれないと、若葉はその時は楽観的に考えていた。

 

 

顔のイメージと写真を一致させ、首謀者の名前を特定し、リストに書き出すという作業は二ヶ月かかった。朝から晩まで、ひなたの制止も聞かずに、ただひたすら。そして首謀者を書き出したリストを提出し、その人物達の住所を調べるよう若葉は大赦に命じた。しかし、

 

 

 

「なん……だと?」

 

 

 

大赦から送られてきた報告書に目を通した若葉は、唖然とした。

そのリストに載っている42人の首謀者は、その全員が既に虐殺されていたのだ。

 

———数年前、他ならぬ高嶋友奈の手によって。

 

 




尚、投稿された写真や動画はすぐに大赦によって削除され、投稿者は大赦の派遣した黒服の男達によってこわい場所に連れていかれました。
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