………某作品で◯◯ちゃんと◯◯様が人がして良い死に方とは思えない無残な最期を遂げたショックで脳内がやばいことになってましたが、ようやく復活!この作品では二人を幸せにしなければ……!
「………それは、どうかと思うわ。乃木さん」
———若葉には、予想できていた。千景の反応が。
当然だろう。友奈はともかく、若葉はそれほど千景と親しいわけではない。……否、客観的に見れば勇者達は皆親しい間柄なのだが、それでもひなたほどではなかった。
だから、そんな自分に強く求められても気持ち悪いだけだろうと若葉は思っていたし、事実千景は困惑していた。
「……どうしても、来てはくれないのか?」
「ええ」
「……なら、仕方がないな」
———本音を言えば、若葉は千景には自分と同じになって欲しかった。
当然だ。奇跡が起きて再会できたというのに、時間が経てばまた別れることになってしまう。これ以上の孤独を、若葉は避けたかった。
しかし、無理強いしても千景を苦しめるだけなのも事実。彼女は自分の願望を押し殺し、次の望みを叶えることにした。
「今日はこれ以上、しつこく求めたりしない。その代わりと言ってはなんだが———」
若葉はパチン、と指を鳴らす。その直後、大量のゲームハードやゲームソフトが、台車に乗せられて運ばれてきた。
「久しぶりに、遊ばないか?」
———と、いうわけで。
千景と若葉は、ゲームで対戦することになった、のだが……。
「よし、これで64連勝だ!」
「……なんで?どうして、勝てないの……?」
千景はボロボロに負けていた。彼女にしては珍しいことに、一勝もできていない。ゲームにおいては無類の強さを誇ると自負している彼女は既に涙目である。
「…フッ。伊達に300年も生きてはいない、ということだ」
卑屈になった彼女にしては珍しいドヤ顔。プライドを傷つけられた千景は思わずぶん殴りたくなった。
なにせ若葉には有り余るほど時間があった。西暦時代から現在に至るまで、暇さえあればゲームをプレイし続けた。———無論、千景とゲームをする妄想をしながら。それはさながら、『いつか友達と対戦するかもしれないし、今のうちに鍛えておこう』とありもしない未来に想いを馳せることで自らを慰めるぼっちゲーマーの如き様相であり、それを知った大赦職員は代々陰で涙ぐんでいたりしたのだが、若葉本人は知る由もない。
他にも杏と語り合う妄想をしながら恋愛小説も嗜んだし、球子と楽しむ妄想をしながら山でサバイバルもした。友奈といつか語るために徒手空拳の格闘技も極めた。その結果、乃木若葉はあらゆる方面で高い能力を持ち、対人における近接戦闘に関しては痛々しい中学生が書いた黒歴史ノートに載ってそうなレベルにまで達しているが、もちろん若葉本人にその自覚はない。
………尚、天国にいるひなたに見せるための墓参りのお供え物として自分の写真集を作った結果、大赦の一部からは『カッコ可愛い尊敬すべき生ける伝説であるものの、その実態は悲しいナルシストぼっちゲーマー』というレッテルを貼られているが、案の定若葉は知らなかった。
その後も、若葉と千景はゲームに興じる。まるで300年前、丸亀城で過ごしていた時代に戻ったかのように。格闘ゲーム、レース、シューティング。ジャンルを問わず、2人は全力でプレイした。
……結局その日は、千景は一勝もできなかった。
「楽しかったな」
「……そうね。こんなにゲームをしたのも、久しぶりだわ」
若葉と千景は、暗い夜道を2人きりで歩いていた。これが西暦の時代であれば危機感のないことこの上ないが、今はモラルの行き届いた神世紀。しかも両者ともに高い戦闘力を誇る勇者だ。この程度は全く問題なかった。
大赦としては、敬うべき2人を車で送りたかったのだろうが……若葉の命令により、それは止められた。運転手という第三者が聞き耳を立てる中で会話をしたくはなかったし、何より少しでも長く共にいたかったのだろう。
「……千景。私は諦めないからな」
「……………」
「それに、記憶を取り戻しさえすれば、きっとこの方は、自分から体を明け渡す。そうだろう?」
ピタッと、千景の歩みが止まる。
「……どうして、それを?」
「………お前、私が何も知らないとでも思ってないか?」
若葉は知っている。千景が、この世界の結城友奈———すなわち、自分の世界からやってきた高嶋友奈にさえ打ち明けていないことを。
「言っただろう。運命だと思った、と。私はこの機会を逃したくなかったからな。この2年間、私は必死にお前について調べたんだ。時間はかかったが……神樹はようやく、お前についての情報を提供してくれたよ」
「………」
「…結城玲奈、か。真実を知りながら、お前はこの方を——」
「乃木さん、『この方』はやめて」
千景は若葉の話を遮り、ピシャリと言い放つ。
思っていたよりも長く話していたのか。いつの間にか、結城家や東郷家の並ぶ道路に2人は足を踏み入れていた。
「ここまででいいわ、乃木さん。ありがとう」
その言葉を最後に、千景は再び歩みを進める。
「……なあ、千景……その…」
その背中に、まるで置いていかれる子供のように若葉は声をかけるが、千景の歩みは止まらない。……しかし。
「……次は、負けないから」
一瞬だけ振り返り、千景は闘志を秘めた瞳でそう言い残した。
「…ああ!また、遊ぼう」
その言葉に心底安心した様子で、若葉は笑顔で千景を見送った。
———滅びゆく世界で、高嶋友奈は嘆いた。
既に郡千景は事切れている。彼女が未だ生きているのは、弱体化した勇者の力によるものだ。
「…ごめん、ごめんね、ぐんちゃん」
高嶋友奈は、もう動く事のない友の亡骸に縋り、泣いていた。
一緒に死ぬつもりだった。この灼熱の世界で、それも神樹の力が弱まった状態ならばすぐに逝けると、そう思って。しかし、生き残ってしまった。意識が朦朧とし、立つ事すら出来ないほどに弱っていても、脱水症状に苛まれながら辛うじて生きている。……これから何ができるわけでもなく、熱と痛みに苦しみながら果てるだけではあるが。
(……私は、もうどうなってもいい)
故に、彼女はただ祈った。
(神樹様。もし次があるなら、どうかぐんちゃんを———)
(———ぐんちゃんを、幸せにして下さい)
その願いを最後に、高嶋友奈は生を終えた。
………それが、全ての始まり。世界を滅ぼす原因を作った郡千景のために、1人の少女が抱いた祈り。それが、異なる世界にまで影響を及ぼすイレギュラーとなった。
天の神の炎に焼かれ、消えゆく神樹。しかし高嶋友奈の祈りによって、神樹という神の集合体は最期の力を振り絞る。
———全ては、この少女の祈りのために。
「……それは、本当なの…?」
「確証はありませんが………乃木園子は、そう言っていました」
美森と友奈が乃木園子と出会い、千景と若葉が再会した翌日。
美森と友奈の2人は、屋上で昨日聞いたことの全てを風に報告していた。
「満開の、後遺症が治らない、なんて………それじゃ、私は………みんなをこんな目に遭わせておいて、私は……」
「……風先輩が悪いんじゃありません。それに、……まだ治らないって決まったわけじゃないです」
風を慰めるために、嘘をつく友奈。そしてそれを、風は敏感に察する。……以前から感じていた大赦に対する不信感もあり、友奈が『治らない』ことを確信しているのはすぐに分かった。
「……まさか、私達以前にも勇者がいたなんて……大赦はそんなこと、何も言ってなかったのに」
「勇者が以前にもいた、なんてことを明かしたら、興味本位で以前までの勇者について嗅ぎ回る恐れもあります。多分、大赦はそのことを警戒していたんじゃないかと」
「あくまで、乃木園子の言うことが事実ならばですが」と付け足す美森。
「……そのこと、他の3人には?」
「まだ、何も伝えてません」
風は、少し悩み。
そして。
「……3人にはまだ、黙っていてちょうだい。一回、大赦ときっちり話をしてくる」
そう、答えた。
その後は普通に部活動だが、風はまだやることがあった。
「ちょっと用事があるから、先に戻っててちょうだい」と2人に告げる。その雰囲気から、何かを察したのか。二人は「頑張ってください、風先輩」と言い残し、先に部室へと戻っていった。
(……正直、会ってくれるとは思えないけど)
勇者部のSNS『naruko』から、玲奈1人に対してメッセージを送る。
『ちょっと話があるから、校舎裏まで来てくれない?』と。
おそらく、玲奈の風に対する印象は最悪だ。戦闘中に玲奈の行動を邪魔し、未だに謝罪もしていない(それは当然、当人と一対一の状況で直接謝らなければ意味がないと考えたからだが)。そして樹海化が解ける直前の、風を見る視線と、勇者部の部室から勝手に一人で帰宅したという事実。カンカンに怒っていればまだマシ。最悪の場合、二度と顔を合わせてくれない可能性さえある。
正直、胃が痛い。そして何より、勇者の都合に巻き込んでしまった罪悪感もある。ついこの間まで良好な関係を築いていたために、出来ることならこのまま逃げ出したいくらいだった。
……しかし、できない。
(勇者部に誘ったのも、勇者の都合に巻き込んだのも私。……どんなに言い訳をしたって、玲奈から逃げ出していい訳ないでしょう!)
玲奈は、風の命の恩人だ。7体のバーテックスが攻めて来た時、彼女は敵の攻撃の水球から身を挺してまで風を庇ってくれた。その恩を忘れたまま、玲奈との関係を終わらせることなどあってはならない。それは彼女たちの部長として、そして樹の姉として決してしてはならない事なのだ。
このことに、大赦は関係ない。大赦が何を隠し、勇者達をどう利用しようとも、風が皆を巻き込まなければ今のような事態にはなっていなかったのだから。
決めた筈だ。勇者のお役目は、文字通り命に関わる。勇者部の部員に対しては、責任を全うするのだと。
———と、内心で強がってはいるものの、やはり怖いものは怖い。
そもそもの話、勇者部の中で一番年長の風もまだ中学生。同年代の少女達とともに異形の怪物達と戦い、命をかけ、仲間の命の責任を負うことそのものに無理があるのだ。
悶々としているうちに、返信が来た。その内容に、風は驚きで目を剥く。
『たすけてください』
漢字の変換もなしに、ただの一言。「今どこにいるの⁉︎」と、風は慌ててメッセージを送った。
不穏な終わりだと思っているそこのあなた。安心してください。……全然シリアスではありませんので。