なんかごちゃごちゃしてきたので情報の整理を。
世界線O: 郡千景が(間接的に)滅ぼした世界。千景が勇者の力を失った後、乃木若葉を庇えなかった所から原作と分岐している。
世界線A:この作品の本編で描く世界。千景が世界線Oよりも更に酷い虐めを受けていたり、若葉やひなたに対して極度に怯えていたり、千景がストーカーされたりリンチされたりブラック友奈が誕生したりするロクでもない世界。神世紀においては、結城玲奈という本来いないはずの謎の人物がいたりする。
———“私”は、人間を幸せにすることの難しさを学習しました。
人は想定よりも遥かに複雑で、それ故に誘導が難しい。人を幸せにできるのは、結局のところ人だけなのかもしれません。
人間の幸福とは、つまるところ『人間がどう感じているか』に依存するのでしょう。なるほど、ならば人の心が分からなければ、幸せを与えることができないのは道理というものです。
だから私は、人間の心を学ぶことにしました。
———私の存在意義を、全うする為に。
結城玲奈は前代未聞の事態に見舞われていた。
「……………………………どうしよう」
知ってはいた。フィクションで散々出てくるし、何百年も前から続く伝統あるものであるという事も耳にしたことがある。しかし、まさか自分が当事者になるとは思っていなかったのだ。
———彼女の手にあるのは、一通の封筒に入った手紙。というか、ラブレター。
(まさかの事態⁉︎どうするの落ち着いて取り敢えず素数を1,2,3,5,7,11,13,17,19,20じゃなくてええと)
軽くパニックである。
———まさか自分が、ラブレターをもらう日が来るなど、玲奈は想定していなかった。
友奈がラブレターをもらう日が来ることは考えていた。当然だ。あの可愛くて格好良くて優しくて可愛い、外見良し性格良し、天使の如き癒しの化身に惚れない人間などいるはずもないからだ。もし恋文などもらった場合には徹底的に相手を調べ上げ、場合によっては拘束し、必要ならば拷も……もとい尋問を行い、友奈に悪影響を及ぼさないと判断したら『認めよう』と思っていた(なお、認めるのは友奈に面と向かって告白し、返事を聞くことであり、交際ではない)。
しかしまさか、それが自分の身に起ころうとは………!
玲奈は自分の容姿が『悪くない』と認識している。………左腕の火傷を除けば。だから、外見だけを見ればこういう展開もあるかもしれない。
しかし中身は最悪である。
(……友奈以外に大して興味を持てない挙句、薬を常用するくらいの精神疾患。自分でも分かる、これは地雷臭が半端じゃないっ!)
結城玲奈は面倒くさい女子中学生である。普段の行動や様子を観察していれば、「あっ、これ関わらない方がいい人だ」と悟る筈だ。
———これがもしも西暦の時代、それも虐めが常習化しているような場所なら、彼女はまず生きていけない。精神的な歪みや心の病は、事情を全く知らない人間にとっては際立って異常に映るもの。心ない人間にとっては、排除しなければならない異物となる。『自分まで鬱になるから早く出て行け』と言わんばかりに攻撃を始める事だろう。
勘違いしてはいけない。いついかなる時も玲奈を見捨てない友奈が優しすぎるのであって、彼女は常人にはとても扱えない事故物件なのである。
そんな第三者的なモノローグを心の中で流しつつ、どうしようか悩んでいると、SNSを通じて玲奈にメッセージが届いた。相手は風。
「樹海でのことは水に流しますし睨んだことは謝りますから助けて下さい風先輩!」
助けを求めるメッセージを大慌てで送る。漢字の変換は忘れた。
15分後。
「ら、ラブレター⁉︎」
「…………これは流石に、驚いたわね」
なんやかんやで風との仲直りを済ませ、玲奈は勇者部の部室にいた。……もしも樹海の件で友奈に何らかの影響が出ていたらこうはならなかっただろう。『友奈に危機が迫ったものの、結果的に無事だった』からこそ仲直りできたのだ。
…………それは風との絆を保ちたいが故か。はたまた、こうした方が『友奈の姉として相応しい』と考えたからか。それは本人にさえ分からないことだった。
「…それで、中身は読んだの?」
「………一応」
夏凜の問いに、ボソッと答える玲奈。中身を読んだからこそ、それが他の何物でもなく、ラブレターであると判断できた。大昔、西暦の時代に流行っていたという鈍感系主人公のような『すっとぼけ芸』は完封されてしまっているのである。
「ちょっと、見せてくれない?」
「…………はい」
風の要求に、嫌々従う玲奈。そこまで恥ずかしがるとは、一体中に何が書かれていたのか。
内容を確認すべく、風は玲奈から受け取った手紙を読み———。
「いやいきなりこれ⁉︎」
手紙の文章にいきなりツッコミを入れた。
『突然ですが、これはラブレターです。つまり、私はあなたの事が好きです。
人間としてとか、好感が持てるとか、そういう意味ではなく。恋愛的な意味合いで、私はあなたの事が好きです。
どうか、ご安心を。私は本気です。イタズラではありません。……普通はこんな余計な文を書かずに、あなたの魅力とか、どうして好きになったのかを書くべきなのでしょうが………警戒心が異常なまでに高いあなたに読んでもらうには、必要な事だと判断しました。
あなたは、自分を過小評価している。きっとあなたは、自分の容姿が良い事を認識していても、内面がマイナスになっていると考えている事でしょう。だから、あなたは知らない。この学校でどれだけの人間があなたを心配しているか。あなたがさり気なく行った親切で、どれだけの人が感謝しているか。あなたのデリケートさを鑑みて、『結城玲奈を見守る会』が発足されていることもあなたは知らない事でしょ——』
「いやちょっと待てぇい⁉︎」
「………今度はどうしたんですか、風先輩?」
風は思わずまたツッコミを入れた。それにビクッと反応したのは、結城玲奈。どうやら一度この手紙を読んだらしい彼女は、何の疑問も抱いていないようだった。
「………いや、あんた……この手紙を読んで、どう思ったの?」
「……嬉しいのが4割、恥ずかしいのが4割、この手紙の差出人に対する好意が2割ですが…」
「………うわあぉ」
風は天を仰ぎたくなった。どうやら手紙を渡された本人は全く気にならないらしい。
途中までは良かったのだ。回りくどい書き方だが、誠心誠意心を込めて想いを伝えようという意志が伝わってきた。途中までは良い事も書いていた。しかし何だ、『結城玲奈を見守る会』って?一番初めに風の脳裏に浮かんだのは、男子生徒がボディガードを装いながら集団で玲奈をストーカーしている光景だった。
———この状況はまさしく『類は友を呼ぶ』光景なのだが、生憎と風は玲奈の変態性について知らなかった。
「…えっと、それで……なんて書いてあったんですか?」
「………友奈はまだ知らない方がいいわ」
勇者部のメンバーがそわそわする中、一応内容を他の皆に見せても問題ないか確認するべく、風は先を読み進める。
『———う。つまり、あなたは自分で思っている以上に好かれていて、魅力的なのです。自らの怯えをおくびにも出さず、なんでもないように振る舞い、常に努力している。完璧超人などより、あなたのような人の方が、私にとっては眩しく、好ましい。何より、庇護欲をそそられる。
忘れてはなりません。たとえどんな理由であろうと、あなたが人に親切にしたこと、努力したということは決してなくならないのです。
最後に。私は確かに、ラブレターを贈りました。しかし、恋文とは私にとってはあくまで想いを伝えるもの。これであなたと付き合おうとまでは考えていません。……あなたの負担にはなりたくありませんから』
文章はこれで終わっていた。差出人も不明。内容もラブレターらしくない。
「………ラブレターっていうか、これどちらかというと応援メッセージね。………みんなに見せても良い?」
「はい」
そして、読んだ各々の感想は。
「………恋文って、こういうものだった………かしら?」
と、東郷美森。
「……えっと、よく分かりませんけど……良かったですね!」
と、犬吠埼樹。
「いやラブレターじゃないでしょ、これ」
と、三好夏凜。
「良かったね、玲奈ちゃん………本当に」
と、結城友奈。
「……でも玲奈?ラブレターに書いてある通り、相手が別に付き合うつもりじゃないなら、困ることなんてないんじゃないの?」
「………パニックになって風先輩にメッセージ送ったのが一行目読んですぐだったので…」
「なるほど」
「……でも、それとは別に気になる事があるんです」
そう言いながら、玲奈は手紙の裏を捲る。そこに書かれていたのは。
『P.S この暗号、解けますか?』
そしてそのメッセージの次に書かれているのは、見たことのない文字の羅列。暗号であると明記されていなければ、単なるデザインか絵柄かと思うくらい、馴染みのない形の文字だった。
「…それで、解けたの?」
「解けるわけないじゃないですか……。アルファベットとか数字とかなら『やってみようかな』みたいに思うかもしれないですけど、こんな文字見たことないですよ」
手紙の差出人の意図が分からない。ただ激励したいだけなら、表側に書かれたメッセージだけで良い。なのに裏側にも暗号として何かメッセージを残すには、意味があるはずだ。ただ暗号を解いて欲しいのか、はたまた読み手を試しているのか。
———それとも、第三者には伝えられない、重要なメッセージを送りたいのか。
「……どうする?」
風の問いに、玲奈は悩む。
———一番手っ取り早いのは、送り主の正体を突き止めることだ。しかし、差出人の名前を書いていないことから、相手はそれを望んでいない気がする。
———勇者部以外の人に声を掛けるのも論外。『渡されたラブレターを、第三者に見せまくっている』。それを知った時、自分に手紙を送ってくれるようなお人好しでもきっと悲しむことだろう。
———で、あるならば。
「…どうもしません。解けないのですから、このままそっとしておきましょう」
顔も分からない、誰かのエールを胸に刻んで。
結城玲奈は、ようやく前へと進む。
———この手紙が、彼女を本当の意味で救ったことなど、誰も知りはしなかった。
「……来ない、か」
神にその運命を捻じ曲げられた少年は、寂しげに呟いた。
———やはり、別人だったらしい。
結城玲奈を初めて目にした時、彼は驚愕のあまり叫び声を上げそうになった。そのくらい、彼女は彼の知る少女と瓜二つだった。
……しかし、姿かたちは似ていても、名前と内面は違っていた。
もしも”自分と同じ”なのであれば、彼はあの幸福な日々の続きを彼女と過ごすつもりだった。しかし、現実はそう甘くない。
………この少年は、玲奈に贈られた手紙の裏に暗号を書いた。
別に、彼が玲奈にラブレターを出したわけではない。『ラブレターを贈る友人』に頼んで、その手紙の裏に書き込みをさせてもらったのだ。
———暗号にして贈ったのは、この少年が今いる場所と、”彼女”に対するメッセージ。
「……帰ろ。全く、馬鹿みたいだ。柄にもなくはしゃいじゃって。俺の知るちかちゃんには、もう二度と会えないってのに」
———この日が、運命の分岐点であり、縁の切れ目だった。
遠く離れた平行世界からやってきた少年は、その場所を立ち去る。彼が恋い焦がれる少女と再会する事はなかった。
世界線X: 今回のお話の最後にちょろっと出てきた少年が暮らしていた世界。郡千景となんやかんやあったりなかったり、ドロドロの共依存な関係になったりならなかったりした世界。基本的に”人”の脳内に設定だけ存在し、作品として出力するかは未定。
なお、ぽっと出のオリキャラである少年はこの作品に今後出る予定はない。