結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

35 / 64
感想、お気に入り登録ありがとうございます!

………とうとう、核心に近づいてきた。

前話にて、園子様が玲奈が樹海化に巻き込まれない旨を語ってましたが………読み直したら間違えていて、訳の分からないことになっていたので修正しました。


東郷美森の選択

「……ごめんなさい。結局、幸せになる事は出来そうにないわね」

 

 

大社の人間がいなくなった病室で、千景はボソッと呟く。

 

———一般人に襲われた千景が目を覚ますと、事態が急変していた。

 

高嶋友奈は精霊の瘴気に蝕まれて暴走し、罪人となった。四国の結界の外は天の神の怒りによって炎の海と化している。しかし、千景が犠牲になる事で結界を強化し、人類を滅びから救う事ができるのだという。

 

大社からの要請に対し、千景は条件つきで了承した。———世界を救うのはついでに過ぎない。彼女が本当に助けたいのは、世界ではなく友奈なのだから。

 

 

 

『謝らないで下さい。それに、私はまだ諦めた訳ではありませんよ』

 

千景の呟きに答えるのは、千景の脳裏に響く声。千景の精神世界に住まう、『彼女』の声だ。

 

『私達はこれまで、あなたの事をずっと見てきました。だからこそ、諦められない。願いを聞き届けた中で、残っているのは私だけになりましたが……私は必ず、あなたを幸せにします』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犬吠埼家のリビングにて、勇者部のメンバーは美森からの連絡を待っていた。

ここに集まった理由は、言わずもがな樹のオーディション合格祝いのためのパーティーだ。電話が来たその日のうちにやるのはいくらなんでも急過ぎるというものだが、風は待ちきれなかった。

 

しかし。

 

———勇者システムの端末から、聞き覚えのある、されど聞き慣れないアラームが鳴り響いた。

 

 

「……嘘。なんでまた敵が来るのよ⁉︎」

 

「おかしいよ………!アラームが鳴り止まないよ⁉︎」

 

 

アラームはいつもよりも不気味な音色を奏で、端末の画面には『特別警報発令』の文字が表示されている。同時に始まる樹海化。それは、終わったはずの戦いが続く証で。

 

 

「……ッ。なに、これ……」

 

樹海化が完了した後、端末を確認した玲奈はレーダーに見たこともない反応が無数にある事に気付いた。

 

———マップに映るのは赤い点。まるで昆虫に群がるダニのようなその赤点は、とある一点から流れ込むようにしてこちら側に侵入している。

………そしてその側には、『東郷美森』の表記。

 

 

「…え、東郷さん⁉︎」

 

友奈は、嫌な予感にその身を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———美森が園子から聞いたのは、この世界の真実。

 

300年前、突如人類に襲いかかったバーテックスは、天の神の怒りによって差し向けられたのだという。そしてバーテックスから四国を守るため、勇者として5人の少女が選ばれたものの、その結末は悲惨だった。バーテックスとの戦いで二人が戦死。一人が戦える状態ではなくなり、さらに一人が神樹様を強化するために自ら犠牲となり、最終的に生き残れたのはただ一人。それでも天の神に打ち勝つことは能わず、辛うじて四国のみを存続させる事ができたのだと園子は語った。

 

———なお園子が語ったのは、本来ならば園子さえを知る事ができない大赦の機密事項も含まれているのだが、美森は知る由もない。

 

今の四国は神樹による宇宙規模の結界に守られた状態であり、そこから外に出れば天の神によって理を書き換えられた火の海が広がっている。

そのことを園子から聞き、美森は外の様子を確かめ、………そして絶望した。

 

まずはじめに目に入ったのは、園子が語った通りの火の海。辺りを見回し、よく目を凝らしてからようやく、気味が悪い白い生物が辺りを漂っているのに気づいた。……そして、その生物が集まり、倒したはずのバーテックスが再び生まれ始めていることにも。

 

———そして、彼女は決めたのだ。たとえどうなっても、ここで勇者の運命を断ち切るのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壁の中へと侵入してくる敵をひたすらに殲滅しながら、玲奈は突き進む。

 

「風牙ァッ‼︎」

 

端末に『東郷美森』の名前を見つけた時、一番最初に動いたのは友奈ではなく玲奈だった。もちろん、そこには相応の理由が存在する。

 

(友奈が東郷に会う前に確かめる……っ!)

 

玲奈はブレない。そして彼女は楽観的な考えも持たない。

玲奈は、壁を越えて敵が侵入しているこの状況を作り出したのが美森であると確信している。だから、友奈に会う前に彼女の真意を問い、止めなければならないと思っていた。

 

彼女は友奈以外の事はどうでも良いと思っている。彼女の価値観や判断基準は友奈に依存しているから、友奈に関わらないことには大して関心を持たない。

それは逆に言えば、『友奈に関することならばどんな些事でも見逃せない』という事でもある。

 

例えばの話。

彼女はきっと、友奈がなんらかの理由で亡くなった後ならば、世界が滅んでも大して気にしない。なぜなら友奈には既に関係のない話なのだから。……そもそも、友奈が亡くなった後、玲奈が生きている可能性は限りなく低いわけではあるが。

その一方で、友奈が関わるならばきっとどんな些事でも気にするだろう。『人とぶつかった』とか、『悪口を言われた』程度のトラブルに巻き込まれただけで、玲奈は沸騰する。

 

彼女にとって、友奈のいない世界に価値はない。しかし友奈の生きる世界は、たとえ命に代えても守らなければならないものだった。

 

———だから、決して玲奈は世界を裏切らない。裏切るとしたらそれは、友奈が失われた後のことだ。

 

今の彼女は美森を止めるために動いている。友奈の心を傷つけないために、彼女と美森が会う前に仕事を終わらせるつもりだった。

 

 

 

「……東郷。何を、してるの?」

 

そして、風を纏って走る事1分。玲奈は美森を見つけた。

無数の敵———星屑はなお増え続け、時折美森にも襲い掛かる。精霊の武装で淡々とそれらを処理しながら、美森はなんでもないかのように答えた。

 

 

「———壁を壊したのは私よ」

 

「………」

 

「どういう事よ⁉︎壁を壊したって…」

 

「……東郷さん」

 

玲奈に追いついた夏凛と友奈が、信じられないものを見る目で美森を見つめた。

 

———話を始める前に二人に追いつかれたのは、玲奈にとって完全に誤算だった。

 

確かに単純なスピードならば、玲奈にはどうあっても敵わない。単純な身体能力に加え、玲奈には風という武器があるのだから。しかし、今回に限ってはそれは適用されない。玲奈は先に進むために星屑を殲滅する必要があり、攻撃の度に減速せざるを得ない。対して二人は、玲奈が星屑を倒したことで生まれた空白地帯を全速で駆け抜ければ良いだけだ。距離を容易く詰められるのも道理だった。

 

 

「東郷。あんた、何やったか自分で分かってんの?」

 

夏凜が正気を疑う目で美森を見つめる。

 

「分かっているから、やらなければならないの……!」

 

そう言い残し、美森は壁の外へと繰り出す。彼女を問い詰めたい三人は、必然的に彼女を追うように壁の外へと飛び出し———。

 

「…………」

 

「なによ、これ……?」

 

友奈は絶句し、夏凜は呆然とする。しかし友奈のそれは未知に対する混乱ではなく、『自分の世界と同じような状況に陥っている』ことへの諦観と悲嘆だった。

 

 

「これが、世界の真実。私達にも、この世界にも未来はない。バーテックスは無限に湧き続けて、私達は永遠に戦い続けるしかないの。———身体の機能や、大切な友達との記憶を失い続けながら……」

 

「東郷、さん」

 

絞り出すように声を出す美森に、友奈は何も言えない。……それは、知っていながらもずっと黙っていた事だからだ。

 

「……だから、待ってて友奈ちゃん。もう、あなたをこれ以上傷つけさせない。勇者という生贄から、みんなを解放してみせる」

 

宣告とともに、再び外側から壁に銃口を向ける美森。……そして、その蛮行を止めるべく彼女に切っ先を向けるのは、夏凜。

 

「……夏凜ちゃん。どうして止めるの?」

 

「どうしてって………私は、大赦の勇者だから」

 

夏凜の歯切れは悪い。『大赦の勇者だから』とは言ったものの、実際は考えるよりも身体が先に動いただけだった。

 

「大赦は、あなたを都合の良い道具として利用していたのに?」

 

「…都合の良い、道具……?」

 

そこで夏凜の脳裏によぎったのは、勇者となるべく訓練に勤しんだ日々と、楠芽吹を始めとするライバル達。———彼女達も、幻想の名誉で誤魔化されて、利用されるために努力していただけだったのか。

 

 

「風牙!」

 

そこで、突風。結界の外にいる友奈達3人に向けた放たれたヴァルゴ・バーテックスの攻撃を、玲奈が爆風で吹き飛ばした。

 

———しかし、その余波で友奈と夏凜まで吹き飛ばされる。

 

 

「……ちょ、なんで私達まで…っ⁉︎」

 

「東郷さ……」

 

吹き飛んで体勢を崩したところで、さらに突風。玲奈は友奈と夏凜の二人を、結界の内部まで押し戻した。……結果、その場に残るのは美森と玲奈の二人だけ。

 

 

 

「……ようやく、2人で話せるわね」

 

真っ青な顔で、玲奈は無理矢理不敵に笑う。

 

「……ねえ、玲奈ちゃんなら分かるでしょう?友奈ちゃんをそんなに強く思ってるなら、私の気持ちだってッ!」

 

美森の叫びは、懇願に似ていた。

 

———美森は確信していた。たとえ他の皆が分かってくれなくとも、玲奈だけは自分の気持ちを理解し、手伝ってくれると。

 

現に今の玲奈の顔色は最悪だ。全身に脂汗を掻き、身体もフラついている。息も荒く、いつ倒れてもおかしくないような状態。身体機能は勇者システムが保護しているはずなので、その体調不良は精神的なダメージによるものだ。

 

………一瞬なら、問題なかった。以前結界の外に出た時は、千景に止められて慌てて結界の中に戻ったのだから。

 

しかし、数分もの間結界の外に出ているのは耐えられない。その赤い炎が、肌を焦がす熱が、否応無しに幼少期のトラウマを呼び起こす。

 

———しかし。

 

「ごめんなさい、分からない。友奈を強く思ってるなら、むしろ世界は滅ぼしちゃ駄目でしょう?」

 

状況を正しく理解したその上で、玲奈は美森を否定した。

 

「……何を、言って………」

 

美森は混乱する。とある点においては友奈よりも自分を理解してくれているはずの親友に、はっきりと意見を違えられた事実に困惑する。

玲奈は吐き気を堪えながら、決定的な一言を告げた。

 

 

 

「友奈が傷つくのが嫌なら、代わりに自分が傷つけばいいじゃない」

 

 

 




感想欄で度々、玲奈が東郷さんと共に暴走する予想がされてましたが……ごめんなさい。書き始める前から、東郷さんと対立する事は決まっていた。(対立するに留まらず、初期設定では………これ以上は言うまい)



200万ダウンロード記念ガチャ、回しておくべきだったか……!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。