結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

36 / 64
感想、お気に入り登録ありがとうございます!珍しく早く更新!

さて、何度繰り返したか分かりませんが。

この作品は、オリジナル設定盛りだくさんです。


“神”

「園子様。現勇者の東郷美森の動向が怪しく……お力をお借りしたく存じます」

 

 

 

「え?嫌だよ?」

 

 

 

 

 

 

「…………………はっ?」

 

大赦職員の申し出を即座に断る園子に、大赦の職員はその無機質な出で立ちに似つかわしくない間抜けな声を漏らした。断られる事を想定していなかったし、何より………全く悩む事なく即答されると、どうしていいか分からなかった。

 

「しかし、園子様。もしこのまま東郷美森が壁を壊しでもしたら……」

 

「う〜ん。大変なことになっちゃうね〜。最悪、世界滅亡かも〜」

 

話の内容に対し、園子の口調はあまりにも呑気だ。

 

「でしたらっ!」

 

「でも、私は止めないよ。……だって、この世界の真実を教えたのは私なんだから」

 

「なっ……」

 

二度目の驚愕。最も頼りになる者が最大の脅威を生み出していたという裏切り行為に、職員は今度こそ絶句するしかない。

 

「馬鹿な………それでは、勇者が戦うわけがありません!」

 

「うん、そうだね。でも、それってずるくないかな〜?勇者が体を削るようにして戦っているのに、貴方達大赦は勇者を直接労うどころか、騙して戦わせてる。………子供を騙して、命を掛けさせなきゃ存続できないような世界なら、いっそ滅ぼしちゃった方がいいんじゃないかな〜」

 

———大赦職員一同は、「ふざけるな!」と叫びたかったが、もちろん声には出さない。

 

その代わり、彼女が動かざるを得ない言霊を使用する。

 

「そんな……貴女様はそれでも最高位の勇者ですか⁉︎それに、この世界が滅んだら……今まで戦った勇者は、三ノ輪様は一体、何のために…」

 

 

「———うるさいな。そろそろ黙ってよ」

 

「…ッ‼︎」

 

 

———職員は園子の逆鱗に触れた。

 

自分達よりも年下の少女の殺気に気圧され、その場の大赦職員が固まる。

そのまま呼吸すらも止まり、数秒が経過して———。

 

 

 

 

「一体何の騒ぎだ、これは?」

 

そこで、新しくその場に現れた人物。

彼女のその一言で園子から発せられていた怒気が収まり、大赦職員一同は呼吸を再開する。神聖な相手の手前、みっともなく咳き込む人間はこの場にはいない。それよりも、救いの女神がやって来てくれた事実に、職員一同は心底安心した。

 

「あ、ご先祖様〜。今日は来てくれたんだ〜」

 

やって来たのは乃木若葉。勇者以上の力を持つこの世界の守護者。永遠の時を過ごす者にして、乃木家の始祖。彼女に対して気安く話しかけられるのは、大赦内部では園子だけだった。

 

「ああ、暇だったからな。……それより園子、お前の言っていた事、デタラメだったじゃないか!」

 

「え〜?なんのこと〜?」

 

「惚けるな!胃袋を掴み、裸の付き合いで心の距離が縮まると言っていただろう!手料理を食べさせた後、裸に剥いて抱き締めて眠っても、大して進展しなかったぞ⁉︎」

 

「………私が言ったのは、入浴とかのことなんだけど〜。ご先祖様の発想がおかしいんじゃないかな〜?それとも、ジェネレーションギャップ?」

 

「…そ、そうなのか⁉︎」

 

「……いくらなんでも、それは引かれるよ〜。あ、それはそうと、その光景ネタに使えそうかも。写真に収めてきてほしいな〜」

 

「あれをもう一度やれと⁉︎鬼か⁉︎お前は祖先を何だと思っているんだ⁉︎」

 

 

呆然とする大赦職員の前で繰り広げられる会話。とても先代勇者と初代勇者の会話とは思えない、頭の悪い内容の雑談だった。

 

 

———しかし、これは好機でもある。

 

普段は姿を見せず、畏れ多くて嘆願など到底できない相手。しかし今は非常事態だ。世界の危機である以上、人類の守護者たる彼女に依頼できない道理はない。

 

 

「若葉様、恐れながら申し上げます」

 

「…ん?」

 

「現在、現勇者の東郷美森が暴走しつつあります。彼女の暴走を阻止すべく、是非そのお力をお借りしたく……」

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、無理だ」

 

 

即答。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………………………………………はっ?」

 

 

沈黙が訪れる。

園子の時よりも長い沈黙の後、ようやく大赦の職員は意識を現実へと戻したが、混乱は治らない。『最後の希望』だからこそ、その分ショックは大きかった。

 

 

「…い、一体なぜ…⁉︎」

 

「私がお願いしたんだ〜。もしも勇者達が暴走しても、動かずに静観してって〜」

 

「な………」

 

もはや何度目かも分からない絶句。それは園子が若葉に対して手を回したことではなく、若葉が園子の頼みを聞き入れた事に対する驚きだった。

 

 

「滅多にない可愛い子孫からのわがままだ。それを無視するほど、私も薄情ではないさ」

 

「…そんな、馬鹿な……!御身は、神樹様によってそのお振る舞いを制限されているはず……」

 

 

若葉は、神樹によって行動を制限される。故に神樹が許可しなければ戦う事も出来ないし、その逆も然り。『戦うべき時に戦いを拒否する権利』も、彼女にはない。

 

 

「…結構辛いが、もう慣れた。なあに、心配ない。私が動かなくても、あの方がなんとかしてくれるさ」

 

全身に激痛が走っているにも関わらず、若葉の声は穏やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今、なんて言ったの…?」

 

「だから、友奈を傷つけたくないなら、その分自分が傷つけばいいじゃない。友奈が戦い始める前に、敵を倒しちゃえば良い話でしょう?」

 

 

———認識の格差が、そこにはあった。

 

そもそも、美森と玲奈では考え方が異なる。

 

美森は大切な物を数多く抱えて生きているが、悲観的だ。そして苦しみも悲しみも避けたいと思っている。だから、この事態に対し、『仲間達がこれ以上傷つくのを避けるために世界ごと心中したい』と思っている。結局のところ、彼女はそれほどまでに仲間思いなのだった。

そして悲観的だから、この先に希望を見出せない。『この先、戦いが終わるかもしれない』『失った記憶や身体機能が戻ってくるかもしれない』というわずかな可能性を信じられず、『これ以上苦しむ前に全てを終わらせる』という短絡的な答えに行き着いてしまう。

 

それに対し、玲奈の大切な物は友奈だけ。あらゆる行動の源泉は友奈にある。たとえどんなに苦しむ羽目になったとしても、最後に友奈が無事ならばそれで良い。避けたい結末は友奈の喪失だけで、その最期が訪れない限り、彼女はいくらでも戦い続けることができる。

そのためならば、手段を選ばない。以前までの彼女ならば、『友奈に相応しいか否か』を考え、他の仲間の喪失を恐れない自らを忌避しただろうが、それも過去の話。ラブレターという名の応援を受け取ったことで、彼女は既に自らを肯定することができていた。

 

———しかし、それは本人達には分からない。

 

今まで互いが似ていると感じていたが故に、根本的に大きく違うことに気付かない。だから、美森は「この子は何を言っているの?」と困惑し、玲奈は玲奈で「こんな事も分からないなんて、東郷って思っていたより頭悪いのかしら?」と失礼なことを考えている。

 

友奈を含めた、勇者部全員を戦いから解放したい美森。

友奈だけを戦いから遠ざけたい玲奈。

 

 

2人の目的の達成条件は大きく異なる。

 

美森の目的は、勇者部全員をこれ以上戦いで苦しめないこと。しかし敵が来る以上、戦いは避けられない。故に世界を滅ぼすしかない。

玲奈の目的は、友奈だけを戦わせないこと。美森に比べて目的の達成は容易い。なぜなら、『樹海化と同時に敵と戦い、友奈が戦いに巻き込まれる前に終わらせる』ことを最後まで続ければ良いのだから。どうすれば良いかさえ分かっていれば、玲奈は迷わない。たとえ終わりの見えない辛い戦いでも、友奈のためならばいくらでも戦える。

 

 

「私が傷ついて欲しくないのは、友奈ちゃんだけじゃない…!」

 

「……なんだ、東郷ってもしかして浮気性………うぷっ…」

 

茶化そうとするも、玲奈は既に限界を迎えている。しかし喉にせり上がってきた吐瀉物を無理やり押さえ込み、強引に堪えた。

 

 

「…場所、変えましょ。ここ、死ぬほど辛い……」

 

 

———その時。

彼女の呟きを聞いたのか。二人に忘れられていた哀れなヴァルゴ・バーテックスによる爆弾攻撃が、美森と玲奈を結界の内側に吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『郡千景が幸福に至る方法とは何か』。

 

この問いに対し、私達の回答は分かれました。

ある神は、『大勢の人間に愛されること』と定義しました。それが郡千景が望み、勇者として戦うモチベーションになったからです。

ある神は、『父親に愛されること』と定義しました。父親さえ味方になっていたならば、彼女はあの最期を回避できた公算が高かったからです。

ある神は、『バーテックスの襲来がないこと』と定義しました。バーテックスの襲来がなければ、あの最期は迎えない。命を失う事はないと考えられたからです。———私には、とてもそうは思えませんでしたが。

 

そして私は、『高嶋友奈と共に生涯を過ごすこと』と定義しました。高嶋友奈は、郡千景の最大の拠り所。彼女さえいるならば、郡千景はどんな困難にも耐えられる。彼女の幸せには高嶋友奈が必要不可欠と考えました。

 

私達は人でなしです。人間の心を知りません。だから、人の感情さえも理詰めで考え、判断するしかありませんでした。

 

 

———そして、大失敗をしました。

 

かつての神々が人類に過度に干渉しなかった理由を、私達は学習しました。神が人類に干渉する事で、何が起こるかを私達は知らなかったのです。

 

 

———『大勢の人間が郡千景を愛する』ように人類に干渉した世界で、人間達は簡単に壊れました。

郡千景は確かに大勢の人間に愛されましたが、愛されるが故に悲惨な最期を遂げました。その世界の観測を通じ、私は人間に失望しました。『愛と性欲は違うものだ』という主張の説得力が、失われてしまったからです。

 

 

———『父親が郡千景を愛する』ように干渉した世界でも、うまくはいきませんでした。

なぜなら、たとえ娘を愛するようになっても、郡千景の父親の性根は変わらなかったからです。最後は村中が敵となり、ストレスに耐えかね、父親は娘を殺した後自殺しました。すなわち、親子での心中です。……そこに、郡千景の意思は介在しませんでした。

 

 

郡千景は世界に呪われている、とある神が言いました。私達が手を尽くしても、不幸になって終わる結末しかないのだと。

 

しかし、そこで計算違いが発生しました。

 

 

———『バーテックスが襲来しないこと』と回答した神が担当する世界の郡千景が、思いもよらぬ事態に見舞われたのです。

 

それは、彼女が中学2年生に上がった時のこと。本来ならば丸亀城で訓練に勤しむ時系列ですが、その世界はバーテックスの存在しない世界。当然、彼女も普通の中学時代を送っていました。……ただし、壮絶ないじめを受け続けながら。

 

 

計算違いが発生したのは、中学2年の始業式の次の日のこと。とある転校生の少年が、いじめられている彼女を助けたのです。

そこから、その世界の郡千景の人生が一変しました。痛みと人の悪意しかない日々に光が差し込み、孤独から解放された彼女。残念ながら天の神の力は私達を遥かに上回っていて、結局数年遅れでバーテックスが襲来し、郡千景も勇者として戦死する事になりましたが………それでも、私達が今まで見てきた世界の中で、もっとも幸福な結末を迎えていました。

 

私達は人間を見くびっていました。直接郡千景を救うように干渉しなかったにも関わらず、1人の人間が結果的に郡千景を幸福へと導いたのです。

 

 

ですから、私は諦めません。———この世界の神樹の供物となる選択をした彼女を止める事は出来なくても、遠い未来に希望を託す事はできるのですから。

 

 




……原作のカッコいい若葉様の原型が、ない……。


まさかゆゆゆいの水着杏と風先輩の大赦ポイントボーナスが7月だけとは思わなかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。