結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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お待たせしました。

感想、お気に入り登録ありがとうございます!投稿前にまた増えててびっくり。

しかし残念ながら、今回のお話はバイオレンス的な意味でヤバい。……お気に入りが増えたそばから減少するのか…………いやでも、裏の記憶を投稿している時点で今更か。


“堕ちた者”による制裁

———美森は覚悟を決めていた。

 

風と樹が気絶しているのは、美森が満開状態の砲撃を容赦なく浴びせたからだ。精霊のバリアで命は守られているものの、満開した美森の砲撃による衝撃までは打ち消しきれない。彼女の狙い通り、犬吠埼姉妹は気を失い、戦闘不能になった。

 

———精霊の守りがあれば、少なくとも命は助かる。

 

だから、今の美森は仲間に対し攻撃する事を躊躇わない。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

大鎌を振りかざし、正面から突っ込んでくる玲奈。その彼女に、美森は雨のように砲撃を浴びせる。

 

「………!」

 

そして、美森は目を見開いた。

攻撃が玲奈に当たらない。敏捷性を活かした急激なランアンドストップ。慣性によって肉体に負担を掛けながらも、停止と疾走、そして急な方向転換を駆使して美森の攻撃を掻い潜り、躱しきれない砲撃か、もしくは壁に命中する恐れのある砲撃は大鎌で弾く。

 

「……なら!」

 

美森は作戦を変更。玲奈を直接狙うのではなく、壁を集中して狙う方針にシフトした。

 

「させないっ!」

 

当然、玲奈はそれを防がざるを得ないが、手数が足りない。だから、消耗を覚悟しつつ、精霊の力を使った。

 

「七人御先!」

 

分裂した玲奈が砲撃に対処する。彼女達は各々の鎌で砲撃をあらぬ方向へ逸らし、距離が遠い場合は鎌を投げつけて相殺し、不死性を活かして時には自ら盾となる。

 

「…取った!」

 

「……なっ」

 

そして美森が自分の砲撃に集中している隙に、玲奈の内の一体が美森の背後に回っていた。

そして、大鎌を振り上げ、

 

———その直後、レオ・バーテックスの放った火球が玲奈を焼いた。

 

「………!」

 

炎に呑まれ、焼けた玲奈が消滅する。そしてすぐに復活。その光景を見て、玲奈が歯噛みし、美森は更に作戦を変更した。

 

……バーテックスはどのような場合であろうと勇者を攻撃する。先程玲奈を攻撃したのも、美森よりも玲奈の方が距離的に近かったからに過ぎない。決して美森を庇った訳ではないのだ。

 

「……それなら」

 

美森は砲撃を繰り出しつつ、前進する。———自分が開けた壁の穴の内側へと。

 

「…く、ぅ……」

 

玲奈は七人御先で壁を防御しつつ、美森の進撃を止めようとするも———スタミナが足りない。先程まで戦っていた二体のバーテックスを仕留める為に相応に消耗していた玲奈は、七人御先を使った事で既に限界を迎えつつあった。

 

やがて玲奈の満開状態が解除され、元の剣と軽鎧の姿に戻る。それに伴い、髪の色も白銀に戻り、七人御先が消失した。

 

 

「……もう、じっとしてて」

 

玲奈が限界である事を悟った美森が、砲撃を止めて全速で進む。

 

(……ここからなら、神樹を狙える……!)

 

壁の内側に到達した美森は、自分の攻撃が届くのに十分近づいた事を目算で判断。そして攻撃用のエネルギーを砲口の一点に集中させつつ、

 

「……今!」

 

背後から放たれたレオ・バーテックスの火球を、間一髪で避けた。———その先には、神樹。

 

「させるかぁっ!」

 

そして美森の()()()()()、玲奈が空中に飛び出してきた。

 

 

「風牙っ!」

 

風を纏う剣の切っ先と火球が激突し、爆発。無事に火球を相殺できたものの、その衝撃で剣を取り落としていた。

 

———全ては、美森の計算通りだった。

 

美森は玲奈をよく知っている。『じっとしてて』と言われても、大人しくしている筈がない。たとえ限界に達していようと、無理をしてでも行動する事は読めていた。……そして、バーテックスの攻撃を手っ取り早く相殺する事も。

 

………玲奈が一番の障害になると、彼女は想定していた。故に、玲奈を戦闘不能にしないまま行動に移すことなど、美森はしない。

 

だから、この時を待っていたのだ。………全ては、玲奈を無力化する為に。

 

「おやすみ、玲奈ちゃん。……少しの間、眠っていて」

 

限界までチャージしていた砲撃が玲奈に迫る。取り落とした剣を拾う時間はない為、大慌てでその場から離れようとするが、避けきれない。

 

 

「………え?」

 

 

その呟きは、一体誰の口から漏れたものなのか。

驚くほど軽い『ブチっ』という衝撃が玲奈を襲い、彼女はそのままゴロゴロと樹海に転がった。———真っ赤な血の色を樹海に塗りたくりながら。

 

「…くっ…が、ぁ……」

 

 

———美森に誤算があるとするなら、それは玲奈に精霊の守りがなかった事だ。

 

今までの戦闘で、玲奈は傷を負っていない。初めての戦いの爆撃で無事だったのも、精霊のバリアによるものだと彼女は勘違いをしていた。———実際には、風と鎧の守りに助けられていただけだというのに。

 

 

だから、この結果は必然だった。

 

 

 

 

 

「が、ぁ、あああ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁッ!??!!!?⁉︎!?」

 

 

 

 

 

 

———美森の放った砲撃によって、玲奈の左腕が欠損していた。

 

 

玲奈の鎧は精霊の武具であり、非常に強い耐久力を持つ。……しかし、それでも関節部分は弱い。しかも受けたのは通常の攻撃ではなく、満開した勇者の放つ、溜めに溜めた全力の一撃。耐え切れる筈がなかった。

 

 

 

「わ、私は……そんな、つもりじゃ……」

 

 

美森が狼狽えるが、その声も玲奈には聞こえない。激痛が彼女の感覚を満たし、視界が赤く明滅する。

玲奈の鎧の防御能力が高かったことが、今回に限っては災いした。

 

左腕は肘から先が無くなっている。……遥か後方に、割れた籠手に包まれた左腕の前腕部が転がっていた。肘の上からは綺麗な関節の形が残った白い骨が剥き出しになり、赤い血に塗れた神経か筋肉繊維か判別のつかない糸状のものがダラリと垂れ下がっている。そして腕の断面からは、蛇口を絞り忘れた水道のように絶え間無く出血が続く。

 

———鎧がなければ、腕は綺麗に消失していた。中途半端に残って、痛みが増幅されることはなかっただろう。

 

 

この鎧によって砲撃そのものは防げたが、その衝撃だけで左腕は肘の関節から無理矢理()()()()()()()結果になった。無くなった筈の前腕部から感じる幻痛と露出した神経から発生する現実の激痛が玲奈の脳を刺激し、感覚の全てがその痛みに支配される。

 

 

———そして、()()が動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()にとって、結城玲奈は邪魔な存在だった。当然だ。玲奈が消えさえすれば、郡千景は今頃現実の世界で日常を謳歌できていたかもしれないのだから。だから、結城玲奈がどれほど苦しもうと、精神が壊れる程の痛みに苛まれようと全く気にも留めないだろう。

 

 

 

———ただし、結城玲奈の感覚が郡千景と共有されていなければ、の話だが。

 

 

 

 

『ぐんちゃん、しっかりしてっ!ぐんちゃん!』

 

「…ごめん、なさい……今、返事できる余裕、ないの……」

 

 

 

()()———高嶋友奈は懸命に郡千景の意識を繋ぎとめようとする。

結城玲奈が表に出て肉体を制御している時、郡千景は精神世界内に留まりながら感覚だけを共有している。彼女は樹海の景色を常に視界に映すと同時に、痛覚や触覚、音や光さえも並行して感じているのだ。

 

『…大丈夫。じきに治るよ。……はい、深呼吸っ』

 

高嶋友奈は、痛みに苦しみながら寝そべる千景を抱き締める事しか出来ない。

 

「たか、しまさん………さむ、い……」

 

『……え?』

 

「それに、なんだか………暗く…?」

 

『ぐんちゃん⁉︎』

 

 

………元々、千景は無理をしていた。

2年前から高嶋友奈の瘴気を抱え込み、玲奈との境界が薄れながらも強引に現状を維持し続けた。そして今回の激痛による精神ダメージ。千景は限界を迎え、いつ消えてもおかしくない状態。

 

『玲奈ちゃんの役立たずっ!』

 

神の力は、千景を助けてくれない。そもそも、無理があったのだ。元々自分の物でもない力を制御しながら、自我を保ち続けるなど。

 

 

「…………」

 

千景はもう、高嶋友奈を知覚すらできていない。ブツブツと何かを呟きながら、昏い瞳で虚空を見つめている。

もう、これ以上は我慢できなかった。だから、

 

 

『もう、良い。あとは私がやる』

 

玲奈の神の力を利用して、高嶋友奈は表へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精神的なショックで満開どころか変身も解除され、座り込む美森が見たのは、玲奈から黒い煙のようなものが出始めるという異変だった。

 

「れ、玲奈、ちゃん……?」

 

声を掛けても、返事はない。絶叫が止み、倒れ込んでピクリとも動かなくなってから、結城玲奈は何も反応しない。だから、美森はただ呆然と座り込むしかなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という思考を、彼女は拒んだ。

 

黒い煙は徐々に濃さを増し、やがて影のようになる。そして次の瞬間。

 

 

「ぐ、がっ⁉︎」

 

影から現れた脚が、美森を蹴り飛ばしていた。咄嗟に精霊のバリアが発動したものの、そのバリアごと美森が吹き飛ぶ。そして影から現れたのは、一人の少女。美森の記憶にない制服に身を包んだ、1人の少女だ。

 

そしてその顔を見て、

 

(友奈、ちゃん…?…………じゃ、ない⁉︎)

 

咄嗟に美森は逃げようともがいた。

しかし、勇者に変身しなければ、美森は立つことすらままならない。脚が動かないというハンデは、この局面においても彼女に牙を剥く。

 

 

「アハっ!」

 

実体化した少女———高嶋友奈は、美森が動けないことを承知の上で攻撃する。この少女に良識などない。あるのはただ、ひたすらに偏った執着と愛、そして憎悪。そして彼女の負の感情の矛先は、全て美森に向かっている。

 

「死ね」

 

高嶋友奈が、渾身の蹴りを美森に叩き込む。………精霊のバリアが発動したものの、それを突き破って美森の腹に直撃した。

 

「グブッ⁉︎」

 

突き刺さった蹴りの一撃はメリメリと腹部にめり込み、その衝撃だけで内臓を文字通り押し潰す。受け身さえ取ることも出来ず、美森は樹海に転がりながら、血に染まった吐瀉物を撒き散らした。

 

「ゴボッ……ゲェ……おえぇぇぇ……」

 

確実に消化器系は破壊されている。それでもまだ生きていられるのは、精霊によって生命維持が為されているからか。しかし命は守られても、その苦痛まではなくならない。

 

 

「精霊のバリアが効くと思った?……残念だったね。玲奈ちゃんの力を使ってる今なら、私の一撃は神の守りだって力づくで壊せるよ」

 

 

目の前の少女はそう言いながら、ゆっくりと美森の方へと歩み寄る。……美森は時折その少女が後方へ転がっている玲奈を気遣うような視線を向けていることに気付いた。

 

しかし美森を見るその目は軽蔑そのもの。美森の知る友奈ならば絶対にしないであろう酷薄な笑みを浮かべながら、高嶋友奈は容赦なく追撃を加える。

 

「ガッ⁉︎」

 

肩を蹴られ、身動きが取れない状況からさらに転がされる。———その一撃で、肩と二の腕の骨が砕けた。

 

「苦しみたくないんだよね?でも、それは許さない。皆が犠牲になるのを見るのが嫌なら、あなた1人で死んでよ。………ぐんちゃんを巻き込むな」

 

 

 

狂った少女は、静かな怒りをその瞳に宿していた。












……痛い。心が痛い。

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