結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

39 / 64
感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

お気に入りが減ると思ったら、増えている、だと⁉︎
……もしかして、遠慮なく書いていった方が面白い?



さて、今回は。
勇気を出して、当初の設定を変えずに挑戦っ。


“結城玲奈”

「……え?」

 

心をようやく立て直して変身し、玲奈の方へ向かった友奈は、恐ろしいものが転がっているのに気づいた。

 

………それは、見慣れたものだった。

 

 

白い肌に刻まれた、赤い火傷跡。見慣れた物が、本来あるべき場所を離れて転がっている。

 

———映像としては認識されている。ただ、その光景に意識が追いつくまで、時間が掛かった。

 

そして、数秒後。

 

 

「うあぁぁぁぁあぁぁぁっ⁉︎」

 

友奈は腰を抜かした。

転がっていたのは、腕だった。それも、いつも身近にいる少女の左腕。普段は包帯で隠されている火傷跡が外気に晒された状態で転がっていた。

 

「……れ、玲奈ちゃんは、どこに?」

 

 

その腕の持ち主を探す。……自分の見ているものが幻か何かだと信じたいがために。そして、彼女はすぐに見つかった。

 

 

「玲奈ちゃんっ‼︎」

 

友奈が探している少女は、前方に倒れていた。———左腕は、ない。

 

「ッ⁉︎……ねえ、玲奈ちゃんッ」

 

脳がようやく現実を認識し、慌てて友奈は声を掛けるが———返事は、ない。身体を揺すっても反応がなかった。

 

玲奈の左腕の切断面の側には血溜まりが出来ているが、既に出血は止まっている。———嫌な予感に苛まれて、胸に耳を当てた。

 

 

「……………」

 

 

心臓の鼓動は聞こえるが、弱かった。今にも消えてしまいそうな程に。

 

 

「……⁉︎そんなっ」

 

そして呼吸を確認して、完全に止まっている事に気づく。———学校の授業か何かの記憶を頼りに、人工呼吸を試みた。

 

 

(…えっと、確か、頭を持ち上げて、それから……)

 

混乱でオーバーヒート寸前になりそうな脳を必死に回し、朧げな記憶を辿りながら行動を模倣する。

それは、お世辞にも上手とは言えない処置だった。しかし、気道は無事に確保されている。………だから、彼女にとってはそれだけで充分だった。

 

———友奈にやってもらうというだけで、玲奈にとっては充分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東郷から、その手を離せえぇぇ‼︎……ガッ⁉︎」

 

「お姉ちゃん⁉︎…ぐっ⁉︎」

 

「うるさいなぁ。私の敵はこの子だけなんだから、じっとしていればいいのに」

 

 

壁の外で、美森を締め上げる鬼の少女に、犬吠埼姉妹は必死に立ち向かう。風も樹も、現状を正しく理解できてはいない。美森の砲撃で気絶した後、気が付いたら目の前で友奈の姿をした正体不明の何者かが美森を痛めつけていた。

 

———大切な後輩(先輩)が傷つけられているというだけで、この姉妹にとっては立ち向かう理由になる。

 

しかし、相手は強大だった。勇者の力を以ってしても、手も足も出ない。———現代の勇者が相手にならないという事実がどれほどの脅威であるのか、この姉妹は実感していなかった。

 

 

「……ぐぅ……風、せんぱ…」

 

首を絞められ、呼吸すら困難な美森が、虚ろな瞳で風に語る。———逃げて、と。

 

だが当然、逃げられるはずもない。

 

 

「あれ、まだ声出せるんだ?結構絞めてると思うんだけど。勇者システムの恩恵、かな?」

 

鬼の少女は、美森の首に掛ける力をさらに強くする。

 

「か……ぁ………」

 

常人ならば、首の骨が折れている握力。たが、勇者システムはそれを許さない。毒物による自殺さえも防ごうとする働きがここでも作用し、美森の生命活動を徹底的にバックアップ。結果的に美森はとうに死んでいるはずの苦しみを味わいながら、それでもなお生かされ続ける。

とうとう美森の呼吸は停止し、口から泡を吹き始めるが———それでも死なない。首の血流が止められ、脳が酸欠状態になりながらも細胞は死滅しない。———もはや、ただの呪い。

 

 

「離せって……言ってんでしょうがあ‼︎」

 

「東郷先輩を、放せぇ‼︎」

 

その様子を見て、黙って見ていることなどその姉妹にはできない。勇者システムの守りに期待し、風は美森に構わず剣を思いきり振り上げ、その陰で樹はワイヤーを放つ。———パワー押しの風の攻撃を囮に使った、樹のワイヤーによる捕縛作戦。しかし。

 

 

「アハっ」

 

「グボッ⁉︎」

 

「キャッ⁉︎」

 

 

鬼の少女は飛び込んできた風をサッカーボールのように蹴り飛ばし、樹の放ったワイヤーを掴んでそのまま彼女ごと火の海へと投げた。風のバリアが砕け、身体がくの字に曲がって吹き飛び、宙に舞う樹に激突して———そのまま炎の世界へ呑まれて消えた。

 

 

「私が思った以上に勇者システムの守りは強力みたいだから、つい手加減をやめちゃったけど……別に良いよね?あれくらいじゃ、どうせ死なないし」

 

鬼の少女は考える。美森を苦しめて殺す為に。

生半可な攻撃では殺せない。だから、普通の人間相手にはできないような苦しめ方もできる。

 

鬼の少女———高嶋友奈は、普通の人間相手にこんな残虐な思考を始めたりはしない。美森が千景を苦しめたからこそ、そして何より『千景が命を代償にしてまで救った世界を台無しにしようとする』からこそ、彼女の憎悪は際限なく膨れ上がり、ブレーキが利かなくなっているのだ。

 

(どうしようかなぁ?首はもう限界まで絞めてるし、手足ももう折ってるし………耳を千切るのは当然として、うーん。目をくり抜いたりもしたいけど、その前に変わり果てた自分の姿も見てもらいたいし………鏡とかないかなぁ?あ、その前に胸も握りつぶしちゃおっかな?)

 

 

彼女は痛めつけられる苦痛を知っている。人間をやめる直前に()()()()()悪夢によって嫌という程思い知った。だから、彼女が本気で人を傷つける方法は、徹底的なまでの暴力になってしまう。

 

「あ、そうだ!髪の毛も抜いちゃおう!髪は女の命って言うみたいだしね!」

 

そして、少女の手が美森の髪を掴もうとした、まさにその時。

 

 

———ゴッ、と。レオ・バーテックスから放たれた巨大な火球が迫ってきた。

 

「……私、もう勇者どころか、人間じゃないんだけどなぁ」

 

高嶋友奈は慌てない。首を掴んだまま美森を盾に使い、精霊のバリアが美森を守る。———当然ながら、鬼の少女は無傷。

 

 

奇しくもレオ・バーテックスは、単なる攻撃行動で二度も美森を救う結果になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……私は、もうどうなってもいい)

 

滅びゆく世界で、彼女はただ祈った。

 

(神樹様。もし次があるなら、どうかぐんちゃんを———)

 

 

(———ぐんちゃんを、幸せにして下さい)

 

 

 

その祈りを受け、神樹は最期の力を振り絞る。

神樹は、天の神から人類を守る神々の集合体だった。だから、その願いを聞き届けるのは、数多の神々。

神樹が寿命を迎えつつあったことで神樹は分裂し、元の無数の神々に分かれた。それこそ、人から信仰され、名を日本中に轟かせる神から、人に知られていない、土や水、大気に宿る小さな無名の神々まで。

 

1人の少女の願いを叶えるべく、分裂した神々は有力な神を核として再び集合し、数体の新たな神となった。新たな神々は滅んだ世界の基盤を並行世界を渡るための方舟という概念に落とし込み、郡千景を救う為に様々な並行世界に干渉した。

 

———そして、悉く失敗。

 

そもそも、新たな神は元々は神樹の一部に過ぎない。滅んだ世界の基盤を利用する事で、特定の方向においては神樹を上回る権能を発揮する事もできる。しかし、細かな調整は利かない。特に一柱目の神の世界では、『郡千景を愛してもらう』ように干渉した結果、友愛や親愛などの『人の理性に基づいた思いやりによる愛』ではなく、恋愛や性愛という『人の本能に基づいた欲望による愛』のみが増幅され、郡千景は不幸な最期を迎える羽目になった。

 

失敗した神は自らを残りの神に吸収させ、残りの神の成功に全てを託す。それを何度も繰り返し、やがて最後に残ったのは、嵐や暴風を操る神『一目連』を核とした神のみ。新たな神の中で最も強い力を持ち、郡千景が幸福に至るまでの方法として『高嶋友奈と共に生涯を過ごすこと』と定義した神であり、神々の中で唯一、郡千景の精神世界に入り込む事ができた女神だ。

 

 

 

 

 

 

(……ああ、そうか)

 

 

 

 

 

 

「………あなたは、誰…?」

 

『私は神です』

 

 

 

 

(私、は………)

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんなさい。結局、幸せになる事は出来そうにないわね」

 

『謝らないで下さい。それに、私はまだ諦めた訳ではありませんよ』

 

『私達はこれまで、あなたの事をずっと見てきました。だからこそ、諦められない。願いを聞き届けた中で、残っているのは私だけになりましたが……私は必ず、あなたを幸せにします』

 

 

 

 

 

(……人間じゃ、なかったんですね)

 

 

人間に()()()()()結城玲奈は、全てを思い出した。

———結城友奈の人工呼吸。それが、祈った者と祈りを受けた者との繋がりを作り、記憶を取り戻す引き金となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———人工呼吸。それは呼吸停止の危機に陥った人間を救う可能性のある、尊い行為である。

 

しかし、重要なのはその処置方法。鼻を摘んで、頭を傾けて気道を確保する。……それはどうでも良い。

重要なのは、処置をする者とされる者が唇を合わせるというその一点。その一点だけが、結城玲奈にとって重要な意味を持つ。

 

 

「私、友奈にキスされてますよオぉぉぉー⁉︎」

 

「………全部思い出してもブレないってどういうことなの」

 

「彼女は“()”の生みの親でもありますから。結局、結城玲奈としての私が過剰なまでに友奈に執着していたのも、それが一因でしょう」

 

結城玲奈の精神世界である樹海で、玲奈は左腕がなくなっている事も気にせず盛大に悶えていた。すかさず復活した千景が突っ込み、かと思えば玲奈———否、“神”は冷静に回答する。

 

 

———玲奈が全てを思い出した事で、千景と玲奈の感覚の共有は一時的に断たれている。それは激痛から千景を守る為か、はたまた友奈の感触を独占したいからか。それは玲奈本人以外には分からない。

 

 

 

「さて、やる事は山積みです。まずは東郷美森を止めて、壁を直しませんと。……ああ、その前にこの身体の腕を治す方が先でしたか。正直このまま友奈の唇の感触をずっと味わっていたいところではありますが

 

「……待って今最後なんて言ったの?」

 

千景の冷たい視線の問いを、玲奈は華麗にスルーした。

 

「ああ、でも。そういえばこの精神世界の時間は加速しているんでしたね。だったらこの世界でのんびりしていても、現実の世界の時間はそれ程流れないという事ですから———いくつかあなたの質問に答えます。先程の問い以外で」

 

 

ならば、と。千景はずっと気になっていた事を口にした。

 

「結城玲奈は、何者なの?」

 

玲奈の正体が、自分を幸せにしようと奮闘していた神である事は分かっていた。だが、その肉体はどうなっているのか。———もしも本来そこにいるはずの人間の存在を乗っ取ったりする事で『本来の結城玲奈』が消滅でもしていたら、千景は彼女を許す事は出来ない。

 

その問いに、玲奈は答えた。

 

 

 

 

「私が世界に干渉しなければ、“結城玲奈”という人物は、本来存在しなかったんですよ」

 

 

 







玲奈の正体、気付いていた人はいるかな?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。