大変お待たせ致しました。……今までで一番の遅刻。難産だった……。
それでも挫けなかったのは、ゆゆゆいによって保たれる愛と皆様の感想のおかげです。
「勇者パァーンチッ‼︎」
迫り来る火球を、友奈は追加武装のアームで迎撃する。———神の力を吸収し、より強大になったバーテックスの攻撃と友奈の満開状態の拳が激突。火球が霧散し、友奈は爆風で吹き飛ばされるが———
(私がいる限り、ダメージなど負わせませんっ)
千景の中の玲奈が飛ばされる友奈を風で包み、衝撃を殺しながら地面に着地させた。
「七人御先!」
千景は精霊の力を使用。7人に増えた千景の内6人が玲奈の風のバックアップでレオ・バーテックスに向けて飛び、大鎌による斬撃を見舞う、が。
「……ほとんど、効いてない」
鎌による斬撃で付くのは、浅い傷だけ。
千景の攻撃力が低いのではなく、単純にレオ・バーテックスの防御力が高い。神の力の制御が玲奈に戻っている以上、今の千景の攻撃力はかつての満開した玲奈よりも上。しかし、それでも今のレオ・バーテックスに大きなダメージを与える事は困難だった。
(……なるほど、そういう事ですか)
二人の戦闘をバックアップしながら、玲奈は冷静に現状を分析する。
(合点がいきました。……高嶋友奈が保有していた私の力を吸収するだけでは、これほど強力になるはずがない。そして私の知らぬ間に消えていた拘束用の分身……。そこから導き出される答えは、一つ。———分身の私を、吸収しましたね)
攻撃力はさほど上がっていないことから、吸収した神威のリソースは防御に割いているのだろう。少なくとも今のままでは、全滅する事はないと玲奈は判断する。
「……⁉︎ぐんちゃん、逃げて⁉︎」
———だが。
「……ッ‼︎」
友奈の警告の直後、レオ・バーテックスが大爆発。今まで放っていた火球とは比べ物にならない爆炎が吹き荒れ、攻撃の為に敵に張り付いていた全ての千景が炎上し、消滅。離れていた友奈と残っていた最後の一人の千景も後方に吹き飛ばされた。
(自爆⁉︎)
今まで行われていなかった攻撃。爆炎を周囲に撒き散らすのとはワケが違う。レオ・バーテックスの身体そのものが爆発し、その破片と爆発で周囲の全てを破壊する超攻撃。当然敵もタダでは済まないが、レオ・バーテックスは御霊さえあれば生き残れる。玲奈の神の力を吸収した事で再生力も上がったのか、自爆攻撃で消失した筈の身体は10秒後には完全な形に復元されていた。
(……なんて、デタラメな…)
玲奈は、自分が油断していた事に気づいた。———成る程、確かに相手はたかが神の僕。しかしその主は天の神。けして舐めてかかって良い相手ではなかった。
レオ・バーテックスに対する評価を上方修正する。———防御力だけでなく、攻撃力も脅威と判断。今まで放っている火球の威力も、こちらを油断させるべく敢えて手加減している可能性も否めなくなった。
(……予想以上に困難です。この驚異的な再生力に、防御力。そして自爆攻撃。他にもまだ隠し手がある可能性も否めない)
———絶望的な戦い。しかし、希望がないわけではない。
(満開後に追加された、三体目の精霊。……これを利用すれば、あるいは……)
この状況を覆す切り札に、玲奈は諸刃の剣の使用を視野に入れていた。
「……まずいわね。とうとう、結界の中に入ってしまった……」
先程から、ずっとこの調子だ。バーテックスの攻撃を相殺しては少しずつ後退する、の繰り返し。千景の攻撃でも敵を押し返す事は出来ず、徐々に、だが確実に敵は神樹目指して進んでいる。
「勇者、パーンチッ‼︎」
千景よりも威力の高い友奈の攻撃であれば多少のダメージは通るものの、その時に壊れた身体は即座に再生されてしまう。かと言って再生させまいと張り付いて攻撃すれば、全方位を巻き込む自爆攻撃がやってくる。
ジリ貧。まるで始まりの街を出たばかりの低レベルパーティで、バグによって現れたHP特化の隠しボスに遭遇したかのような、先の見えない感覚。相手は自分の必殺技を何度食らってもピンピンしているのに、こちらは相手の攻撃を受けられない理不尽。
(……手が、ないわけではありません。ただ、分の悪い賭けになりますが)
「……それは?」
脳裏に響く玲奈の声に、千景は問う。
(人間としての私の三体目の精霊、酒呑童子。その精霊を僅かな間だけ呼び出し、バーテックスに吸収された高嶋友奈との繋がりを強くする事で奪われた神威———神の力を取り戻す事ができるかもしれません。……ただ、リスクが非常に高いのですが)
「……分かった。やるわ」
リスクの内容を敢えて聞かずに、千景は決断した。
———千景は自分の心の弱さを正しく理解している。だから、その内容を聞いてしまうことで決意が鈍ることを恐れた。
千景にとって優先すべきは自分よりも友奈。だから、たとえどんな危険があったとしてもこの現状を乗り越えられるならば安い賭けだった。
(……私は敵から力を奪い返す事に専念しますので、手が離せません。もしもの時は、自分で打ち勝って下さい)
———これは、分の悪い賭けだと玲奈は知っている。
酒呑童子。その精霊は元来、高嶋友奈の切り札として与えられていた禁忌の精霊。西暦勇者の中でもトップクラスの勇者適正と粘り強い精神力を持つ高嶋友奈でさえ、使う度に精神を摩耗させた諸刃の剣。
———それをあろう事か、本来の使用者ではない郡千景に使わせようとしている。
別に、精霊の力を引き出して戦うわけではない。今の大赦の勇者システムを利用し、武装として顕現させるだけ。———ただ、それだけでも危険が伴うという話だ。
大赦は何を考えているのか、玲奈には理解できなかった。なぜ、三体目の精霊に酒呑童子を選んだのか。神としての視点を以ってしても全く理解できない。
人間の玲奈がその精霊を使ったが最後、その精神は瘴気に蝕まれ、高嶋友奈に全てを乗っ取られていた事だろう。それによってもたらされる被害も、大赦は予測できていたはずだ。酒呑童子は高嶋友奈の力の根源。その精霊を与えるという事は、わざわざ玲奈の中の鬼の少女に「どうぞ暴れて下さい」と言っているようなものなのだから。
———しかし、皮肉にもそれが今の唯一の活路となっている。
他に選択肢があるのなら、こんな手段は取らなかった。玲奈は『郡千景を幸せにする神』だ。玲奈が何を考えようと、郡千景を不幸にする行動など取れないのだから。『世界が滅ぶのを防ぐ』のも、そうしなければ千景を幸せにする事が出来ないと分かっているが故だ。
幸い、高嶋友奈の瘴気は浄化されている。ならば酒呑童子で共鳴を起こしたとしても、最悪の事態に発展するとは考えにくい。だからこそ、この手段を用いることができる。
何事もなく全てが解決する可能性に全てを賭け、玲奈は選択した。
「———酒呑童子」
千景が精霊を呼び出す。そして———
「……………」
(捕まえた。このまま引っ張って下さいっ)
「っ!」
精霊を呼び出した直後に失われた意識は、脳裏に響く声で取り戻される。意識を取り戻した千景が知覚したのは、自らに装着された小さな黒い籠手。精霊の力の使用者が異なるためか、高嶋友奈のような大型の拳ではなかった。
………そして、千景の体とレオ・バーテックスが光の糸で繋がっている。
「この、光は?」
(レオ・バーテックスに取り込まれた高嶋友奈との繋がりです。……綱引きと同じ要領で、引っ張って下さい)
言われるままに、千景は自分とレオ・バーテックスを繋ぐ光の糸を籠手で掴んで引く。思ったよりもやや軽い手応えと共に、光のシルエットがズルズルと引きずり出されていく———。
それに対抗しようとしてか、敵から過剰な程の火球が繰り出される、が。
「勇者パアァーンチッ‼︎」
身動きの取れない千景を守るべく、友奈が満開のアームを振るった。直接打撃を受けた火球は霧散し、発生した風圧は周囲の火球をあらぬ方向へと飛ばしていく。
「ありがとう、高嶋さん!」
「ぐんちゃん、しっかり‼︎」
千景の感謝の言葉に、友奈は火球を処理しながら激励の言葉を返した。
レオ・バーテックスから引き出される光のシルエットは徐々にその姿を現し、上半身と思しき輪郭が露出する。
———だが、忘れてはならない。四国を覆う結界には、穴が空いている。
「ぐんちゃん‼︎」
「…っ」
レオ・バーテックスの攻撃を捌きながら、友奈が悲鳴を上げる。———今更になって結界の外側から星屑が大量に出現し、千景に向かって進んでいた。そのタイミングから、レオ・バーテックスが星屑を呼び出したのだと玲奈は推察する。
(……こんな時にっ)
———レオ・バーテックスにとっては最善、そして千景と玲奈にとっては最悪のタイミング。
酒呑童子という極めてリスクの高い精霊を使用している以上、千景も玲奈もやり直しはできない。そして今、千景は高嶋友奈を引きずり出すのに精一杯で、玲奈の能力のリソースの全ては高嶋友奈との繋がりを維持する為に費やされている。そして友奈は、火球の処理から手が離せない。……すなわちこの瞬間だけは、千景は無防備。玲奈による風の守りは使えず、星屑一体の噛み付きで容易に命を落としてしまう状態。
———しかし、その場の3人は忘れていた。戦場に駆けつけてくれる仲間のことを。
「させるかぁぁああああ‼︎」
「夏凛ちゃんッ‼︎」
満開の後遺症で手足が動かなくなろうとも、勇者システムのアシストがあれば戦う事は可能。ゲージがゼロの状態でも意志の力だけで満開し、駆けつけた夏凛が無数の星屑を屠っていく。
(…よし、あと、少し………⁉︎)
「……なに、これ、……急に力が入らなく……」
光の糸を引っ張っていた千景から唐突に力が抜け、思わず膝をつく。糸から手は離れず、そのままズルズルとレオ・バーテックスの方へと引っ張られていく。
(…この局面で敵がこちらの力を逆に奪うべく引っ張り始めましたッ。耐えて下さい‼︎)
「……そんな、事言われても……」
耐えろ、と言われて耐えられるのならば、膝などついていない。手を離していないのは彼女の意思ではなく、まるで手が糸に吸いつくように離れないだけ。
(……まさか敵は、酒呑童子で千景の負荷が蓄積するのを待っていた……?力だけじゃなく、知識も吸い取って利用できると言うのですか⁉︎)
再びの戦慄。バーテックスに知能がある事は分かっていても、知識を利用できる程であるとは考えていなかった。
このまま千景が取り込まれてしまったら最悪だ。レオ・バーテックスはこれ以上に強大な敵となり、勇者達は打つ手を持たない。玲奈も千景も敵によって徐々に意識を侵食され、いずれ完全に消滅してしまうだろう。
……だが、まだ増援はいる。
「勇者部を舐めるなぁッ‼︎」
「玲奈さんを離せぇぇ‼︎」
「……!風先輩っ!樹ちゃんッ!」
再び聞こえる、友奈の歓喜の声。
自力で炎の世界から帰還した犬吠埼姉妹が、満開した状態で参戦。力、強度、射程全てにおいて飛躍的に向上したワイヤーがレオ・バーテックスを雁字搦めに拘束し、動かなくなった敵を風が大剣で攻撃。二人の参戦で力の余裕がなくなったのか、レオ・バーテックスからの引力が弱まった。
(…今ですッ。思い切り引っ張って!)
「く……あああぁぁぁッ‼︎」
玲奈の声に従い、千景は糸を思い切り引いた。やがてグイッという手応えと共に、少女の形をした光のシルエットが完全に敵から引き抜かれると同時に———。
「…逃げてッ⁉︎」
千景の悲鳴と同時に、レオ・バーテックスが大爆発した。
———その場にいた千景以外の全員を巻き込みながら。
爆発オチなんてサイテー!
難敵は勇者達にとってはレオ・バーテックスであり、私にとってはこの最新話でもある。
……くそ。今回でケリつけるはずが、いつまで経っても最終決戦が終わらない…。次こそは………!