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「……高嶋、さん……?みんな…?」
呆然と、千景は周囲を見渡す。視界に入るのは、倒れ臥す勇者部の面々。友奈も夏凛も、そして犬吠埼姉妹も。精霊の守りによって直撃は免れたものの、倒れ臥す全員の満開が例外なく解除されていた。
———それはすなわち、全員が身体機能のどこかに欠損が生じたということだ。
「……そん、な…」
意識があるのは千景のみ。爆発の衝撃のせいか、倒れた彼女達は動く気配すらない。
(力が、戻ってきた。…今が好機です、千景!)
「ッ‼︎」
脳裏に響く玲奈の声が、千景を無理矢理に立ち直らせる。———心配するよりも先に、しなければならない事を彼女は思い出した。
「七人御先ッ!」
7人に増えた千景が、御霊だけとなったレオ・バーテックスに向かって走る。———御霊だけの状態で、敵は火球を繰り出してきた。
(そのまま突っ込んで下さいッ!)
風が吹き荒れ、飛んでくる火球が全てあらぬ方向へと逸らされる。……言うまでもなく、千景の中にいる玲奈の力。その風は千景を保護しながら同時に足裏に密集して爆発し、ロケットのように千景の突進を加速させていた。
「はあぁぁぁあッ‼︎」
気合一閃。レオ・バーテックスの御霊を斬り裂くべく放たれた一撃は、しかし突如襲来する星屑に防がれる。
———他の勇者達が戦力外になった事で、壁の外から侵入してくる星屑を処理できる人間がいなくなっていた。
「…ま、ず……」
御霊だけになっても、レオの能力は健在。火球を繰り出し、星屑を呼びよせ、千景を攻撃する。……いくら7人に増えても、処理するには無理のある物量攻撃。
(……耐えて下さいッ‼︎)
その物量を、玲奈は能力を全開にして対処。暴風は竜巻となって星屑を巻き込み、爆砕した。
「かふッ……何、これ……つら…」
(…まだ私の力に身体が慣れてないんです。多少の吐き気は我慢して下さい)
脳裏に響く声に、千景は「ふざけるな」と言ってやりたい気分だったが、堪える。———急速に悪くなる体調を気に掛けていられる余裕はない。星屑の数は増すばかり。いくら7人に増やしたと言っても、限度がある。玲奈の全力を無制限に出すにはまだ千景の状態が安定しておらず、そう何度も嵐を呼ぶ事は出来ない。
———千景は徐々に、だが確実に追い詰められていた。
———ぐんちゃんが、戦ってる。
意識が闇に閉ざされたまま、友奈は外の状況を感じ取った。
体は動かない。中途半端に働く聴覚と触覚だけが、戦闘音と振動を閉ざされた意識に伝える。
『ねえ。ぐんちゃんを守るんじゃ、なかったの?』
(…ッ‼︎)
脳裏に響くのは、自分とよく似た声。
『私を
その問いに、結城友奈はすぐに答える事が出来なかった。
———だから。
(……ある。犠牲にして良いものが、一つだけ)
誰かを犠牲にする事は出来ない。勇者部の皆も、この時代の両親も、学校のクラスメイトも。彼女にとっては何一つ欠けてはならない大切な人たち。———だが、それならば他者以外を犠牲にすれば良いだけの話。
犠牲にして良いものが見つかった彼女に、もはや迷いはない。
歳相応の恐怖を振り払い、覚悟を決めて友奈は覚醒する。
そして。
「う、ぐ……あああぁぁぁあぁぁッ‼︎」
散華して動かなくなった脚に構わず、友奈はもう一度満開した。
「ッ⁉︎高嶋さんッ」
火球と星屑の対処で手が一杯になっていた千景が見たのは、満開してレオ・バーテックスの御霊に突っ込んでいく友奈の姿。———友奈の復帰に対抗しようと、星屑が友奈に向かおうとするが、
「させないッ」
千景はそれを食い止める。———友奈が動けるようになった事で、千景の行動目的が御霊の破壊から友奈の防衛へとシフトした。
「私は、ぐんちゃんを……みんなを守るんだあぁぁあぁぁぁぁっ‼︎」
友奈は気合いと共に咆哮。レオ・バーテックスの御霊が極大の火球を生み出し、友奈の進路を塞ぐ盾とするも———止まらない。追加武装の大型アームを犠牲にして火球を相殺し、勢いのままに突き進む。
「ああぁぁあぁぁぁあぁあああッ‼︎」
ゲージの消費なくして満開を行ったため、満開の持続時間も短く、耐久もない。しかし、それでも、相討ち覚悟で友奈は敵の御霊に突っ込む。
そして———。
「届けぇッ‼︎」
ほとんど変身が解けた状態で友奈は御霊に拳を振るい、大爆発を起こした。
友奈によって御霊が破壊された事でレオ・バーテックスの火球が止み、星屑の動きが鈍る。その隙を千景が見逃すわけもなく、7人に増えた手数で敵の残党を処理した。
「……高嶋さん」
残りの全ての星屑を殲滅した千景は、倒れている友奈に歩み寄る。———幸い、目立つ怪我はない。呼吸も脈もある。
……だが。
(……しばらくの間、お別れです。千景)
「……え?」
脳裏に響く、玲奈の声。呼び名が『郡千景』ではなく『千景』になっているのは、玲奈の中で何らかの心境の変化があったからか。だが、それよりも『お別れ』という単語が千景は気になった。
(……友奈の魂が肉体にありません。勇者の変身がほとんど解けた状態で御霊に触れたからでしょう。今の彼女の身体は、魂のないタンパク質の脱け殻です)
「…待って……何、それ……」
千景には玲奈の言う事が理解できない。
なぜなら、結城友奈の魂は千景と同じ世界の高嶋友奈のもので。
———それが失われてしまったという事は、彼女にとって最も大切な友達が亡くなったということなのだから。
(ですから、連れ戻しに行ってきます)
「……!」
玲奈の話には、まだ続きがあった。
(肉体がまだ生きているお陰で、彼女の魂と肉体の繋がりは途絶えていません。ですから、友奈を連れて帰る為に、ひと月ほど行ってきます。———友奈の身体と魂の繋がりを辿れば、私ならば必ず行き着くことができる)
「…どこに行くと言うの?」
———できれば自分も連れて行って欲しい、という念を込めた千景の問いに、玲奈は答えた。
「普通の人間が決して立ち入れない、天の神の居場所。———高天原ですよ」
日常が戻ってきた。
しかし、今までと全く同じ生活ができるわけではない。満開の代償として、風は左目の視力、樹は声、そして夏凛は右手右脚の機能と聴力を失った。———もっとも、散華して失われた機能は徐々に回復しつつあるのだが。
———それでも、失われたまま戻ってきていないものもある。
一つは、結城友奈。彼女は戦いの後数日間眠り続け、現在もまだ意識が戻っていない。目は開けているが、外部からの刺激に全くの無反応。俗に言う廃人状態であり、医者によると今後目を覚ます可能性は限りなく低いと言われている。
そして、二つ目は東郷美森だった。
『ああぁあああぁぁああぁぁぁぁッ‼︎』
「申し訳ありません。先程までは安定していたのですが……」
「……いえ。大丈夫です。また明日来ます」
廊下にまで聞こえる病室からの悲鳴と、看護師の申し訳なさそうな顔。それらから状況を悟った風は、看護師からの弁明もそこそこに病院を後にした。
———東郷美森は精神的に不安定になっていた。
目を覚ましたのは最後の戦いから2日後。覚醒直後から泣き喚き、手当たり次第に側にあった枕や花瓶を投げつけ、大暴れ。まともに会話が成立するようになったのはそのさらに2日後で、その後も度々発作のように暴れては大人しくなる、というサイクルを繰り返している。身体的に異常はないが、精神面での回復が見込めない為、精神性の疾患に特化した病院へ転院する事も検討されていると風は聞いていた。
そして、三つ目は結城玲奈。———最後の戦いの後に、その正体が判明した少女。彼女だけが、今の勇者部にとっての希望の光になっている。
最後の戦いが終わり、目を覚ました千景は、美森を除く勇者部員達に知る限りの事を話した。自分が玲奈ではない事、玲奈が神である事、友奈の魂が高天原に閉じ込められ、そこから救い出す為に玲奈が旅立った事を。
その後千景は、表向きは『結城玲奈』として生活している。人間としての玲奈の記憶を共有していた事もあり、玲奈としての演技をする事は不可能ではなかった。もっとも、「薬は飲まなくて良いの?」と結城夫妻に聞かれた時、誤魔化すのに苦労したが。
……しかし、日常を謳歌できても意味はない。彼女が求める少女の魂は、未だ囚われたままなのだから。
(早く、戻ってきて……高嶋さん、玲奈)
———気がつくと、私は殺風景な場所に浮かんでいた。
「……どこだろ、ここ?」
辺り一面は見渡す限りの灰色で、私以外誰もいない。———よく見ると、私の身体が揺らめく桃色の光になっていた。
「……なに、これ?…魂?」
そもそも、私はどうしてここにいるんだっけ?
………覚えているのは、バーテックスの御霊を殴りつけて壊した事だけ。その後、気がつけばここにいた。
「ぐんちゃーんッ!東郷さーんッ‼︎」
声を上げても、返事は聞こえない。怖くなるほどの静けさだけが、この場所にはあった。
(……もう、みんなに会えないのかな…?)
そう思うと、涙が出てくる。
……私は、一度死んだ。その後はこの世界で結城友奈として生きていて、ぐんちゃんとも奇跡的に再会できた。———だから、ぐんちゃんがいてくれれば、どんなに苦しくたって何事にも立ち向かっていけるって、そう思ってたのに。
(……こんなのって、あんまりだよ…)
それとも、罰なのかな。みんなに満開の事を黙って、東郷さんを止めることもできずに傷つけてしまったことへの。
「…玲奈ちゃーんッ‼︎」
折れかけた心を叱咤して、返事がないと分かっていても、私は玲奈ちゃんの名前を呼んだ。
「はい」
————え?
そしたら、なんかすぐ側から返事が聞こえた。
第1部、次回で終了予定。
その後はどうするか。……2年前のお話か、はたまたイタイ設定を詰め込んだ世界線Xのお話を別作品として書くか……。