結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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………毎度、投稿をする度にお気に入り数が減少して落ち込み、1・2週間すると以前よりもお気に入り数が増えてやる気が出て執筆するスパイラル。本当に、ありがとうございます!

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“結城玲奈は勇者である”

「⁉︎……れ、玲奈ちゃん……?」

 

友奈は、信じられないものを見る目で目の前の少女を見つめた。

異国の戦女神を思わせるミラーシルバーの軽鎧。片手に持った細身の剣。そして白銀の髪と真紅の瞳を持つ、千景とそっくりな容貌。———その容姿は、まさしく勇者に変身した玲奈のものだ。

 

———しかし、登場の仕方が心臓に悪い。音も気配もなかったはずなのに、呼び掛けたらいきなり間近から返事があるのだ。友奈が魂だけの状態でなければ、確実に心臓が一瞬止まったことだろう。

 

 

 

「はい。玲奈ですっ」

 

———しかし、当の本人は御構いなし。なぜかウキウキした様子で返事をするや否や、いきなり友奈に抱きついた。

 

「…えーと、なんで敬語…ひゃっ⁉︎」

 

そのまま友奈の首元でスーハースーハー深呼吸しつつ、ユウナニウムを補充。……侮ってはいけない。ユウナニウムは非物質粒子。神としての玲奈ならば友奈の肉体がなくとも、友奈の魂があれば摂取できるのだ。

 

「……さて、ひと月ほどと前もって言っておきましたからね。時間はたっぷりあります。…まずは何から話しましょうか?」

 

玲奈は友奈に抱きついたまま、彼女の耳元で囁くように話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『———と、今頃私の半身は高天原で結城友奈とイチャコラしてる頃かもしれませんね』

 

「……何をやってるんだ、あの方は…」

 

若葉は自室で、頭の中に響く声に呆れていた。

 

『私はともかく、私の半身は結城友奈にゾッコンですから。おそらく、東郷美森の事も忘れている事でしょう。私の予想が正しければ、本当にひと月経つまで帰ってこないでしょうね』

 

「……この現状を、一ヶ月そのままにしておくことはできないだろうに。我儘というか、神らしいというか……」

 

———言外に、「お前は我儘だ」と若葉は言ったのだが、脳裏に響く声の主は気付かなかった。あるいは、気にも留めなかったのか。

 

『私の半身にとっては、結城友奈以外のことは二の次ですから。……というわけで、連れ戻して来てください。早急に』

 

「……相変わらず、人使いの荒い……」

 

———そもそも、自分で解決すれば良いだろうに。

そう言いたいのを、若葉は抑えた。………勘違いしてはならない。どれだけ親しく接しようと、相手は神樹の一部。主従関係は相手が主で若葉が従。あまり逆らい過ぎると、日常を送る自由さえも奪われる恐れがある。ただでさえ、園子の嘆願を受け入れて現勇者達を止める役割を放棄したのだ。これ以上神樹の意志を無視すれば、本当の意味で操り人形にされかねない。

……生存そのものが苦痛に変わりつつある今の彼女にとって、日常という小さな安らぎ(千景と遊べる時間)を奪われる事だけは避けたかった。

 

(……それに、東郷美森をあのままにしておくのは寝覚めが悪過ぎる)

 

神樹と繋がりを持つ若葉は、美森の状況を把握している。———いくら世界を滅ぼそうとしたとはいえ、恐怖で泣き叫びながら暴れる姿を見るのは心が痛んだ。

高嶋友奈(鬼の少女)によって、東郷美森は精神に深いダメージを負った。身体の傷は玲奈によって修復されているだろうが、心の傷は簡単には治らない。記憶を封じるなどして、トラウマを刺激しないように対応する必要がある。………神樹の一部たる玲奈の半身に動く気がない以上、結城玲奈の力は必要不可欠だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「玲奈ちゃん、女神様だったんだ……。これから何て呼ぼう?……玲奈様?玲奈神様?」

 

「今まで通り、玲奈で良いです。……否、玲奈が良いです。今まで通りにしないと、罰として下着をもらいます」

 

「あ、うん」

 

「玲奈ちゃんってこんなキャラだったっけ?」と友奈は少し心配になった。———結城玲奈の本性を、彼女はまだ知らない。友奈の写真を自室に大量に貼っていたり、日記をつけている事は知っているが、彼女本人は大して気にしていなかった。

 

「…それで、どこまで話しましたっけ?」

 

「ぐんちゃんを幸せにするために生まれた神様ってところまでは聞いたよ?」

 

友奈からしたら衝撃の事実である。まさか死の間際の祈りが、本当に聞き届けられるなど。これを奇跡と言わずして何と言うのか。

 

「私は、彼女を幸せにするために手を尽くし———そしてこの世界に賭けました。彼女と出自を同じくするあなたがいれば……そしてモラルの向上したこの時代ならば、千景を幸せにするのはそう困難なことではないでしょうね…………———⁉︎」

 

「……玲奈ちゃん?」

 

話の途中で唖然とした表情を浮かべる玲奈に、友奈は怪訝な顔をせざるを得ない。………否、彼女の顔に浮かんでいるのは驚きだけではなく、絶望すらも混ざっていた。

 

「……そん、な……。どうして、彼女がここに……?まだ友奈と二人きりの状況を満喫できていないのに…‼︎」

 

「……えーと?玲奈ちゃん?」

 

友奈が辺りを見渡しても、何も分からない。殺風景な灰色の空間が広がり、寒々とした光景が視界に入るだけだ。

 

———否。

 

「……何、あれ?光?」

 

周囲を見渡した数秒後に、突如遠くから朝日のような光が差し込んだ。そしてその光を背にして、何かが飛んでくる。———それを見て、玲奈は苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

 

「……乃木、若葉………!」

 

「……え?」

 

 

———飛来したのは、一羽のカラスだった。

桔梗の花のように青い、およそ現実のものとは思えない幻想的なカラス。それが差し込む光をバックに、優雅に羽ばたきながら飛んでくる。そして友奈と玲奈の二人の前まで来ると、カラスはやがて人型へと変化した。

 

 

「…全く。本当にのんびりしているとはな」

 

その人型は、呆れた声で宣う。

小麦色の髪に、凛々しい相貌。青を基調とした衣装に身を包み、日本刀を携えた一人の少女。その名は———

 

 

「……若葉、ちゃん…?」

 

「ん?」

 

呆然と、友奈が名を口にする。

間違いない。その姿は透けているし、友奈の記憶の中の彼女よりも僅かに成長して大人びているが、確かに彼女は乃木若葉だった。

 

「なるほど。確かにそっくりだな。………別の世界の同一人物というのも頷ける」

 

魂だけとなった友奈を見るなり一人で納得して、若葉は話を先に進めた。

 

「はじめまして、並行世界の友奈。見ての通り、私は乃木若葉。———300年前から生きてるだけの、ただの死に損ないだ」

 

「……えーと……」

 

その自虐に満ちた卑屈な自己紹介に、友奈はどんな反応をしていいのか分からない。……当然だ。彼女が知っている乃木若葉は、いつも毅然と、堂々としていた。この世界で摩耗してしまった卑屈な乃木若葉を見ても、困惑するしかない。

 

 

「……乃木若葉。どうしてあなたがここに?まだそんなに時間は経っていないと思いますが」

 

その若葉の自己紹介の内容をバッサリ無視して、玲奈が問う。………玲奈からすれば、乃木若葉は邪魔者。「やった、一ヶ月友奈と二人きりっ‼︎」と密かに喜んでいたところでこの仕打ち。友奈の前でなければ本気で殺しに掛かっていたかもしれないくらいには、玲奈は若葉を忌々しく思っていた。———当然、現世で友奈の帰りを待っている勇者部の事は割と本気で忘れている。高天原に侵入する際に千景との繋がりも一時的に遮断されてしまっているため、『千景の幸せの為に行動する』思考パターンの制限も緩んでいた。

 

 

「どうして、と言われてもな。魂だけ高天原に飛ばされたのなら、連れ戻しに来るのは当然じゃないか?」

 

玲奈という神の問いに、しかし若葉は怯まない。確かに玲奈は神であり、神樹とほぼ同格の存在であるが、神樹そのものではない。行動の制限を受けない以上、彼女に恐れる理由は存在しなかった。

 

「結城玲奈。あなたは気付いていないかもしれないが、結城友奈が昏睡状態になって既に一週間が経過している」

 

「えッ⁉︎」

 

「っ⁉︎」

 

乃木若葉の宣告に、友奈と玲奈は戦慄した。

友奈の時間感覚では、この空間にやってきてからまだ2日しか経っていない。そして友奈を追ってこの場所に侵入した玲奈の感覚では、経過した時間はまだたったの1日———実際に経過している時間と二人の時間感覚が、致命的なまでにズレていた。

 

「現世とこの場所の時間の流れは同期していない。早く戻らないと、取り返しのつかない事態になりかねないだろうな」

 

「……なるほど。私の時間感覚では、この空間に入るのに掛かった時間が1日足らず……そして友奈のいる場所に到達するのに掛かった時間は1時間ですから、現世を離れてから経過した時間はおよそ丸一日。単純な計算でも、時間の流れは7倍も違うのですね」

 

1日過ごして一週間ならば、一週間過ごせば現世ではおよそ2ヶ月弱。……時が経てば経つほど、時間の隔たりは大きくなっていく。

 

「……でも、私の時間感覚だと、この場所で過ごしたのは2日くらいだよ?」

 

「……え?」

 

一方、友奈の感覚ではこの場所で経過したのは2日。……玲奈がここへ辿り着く時間を考慮しても、玲奈と友奈の間の時間感覚が矛盾していた。

 

「おそらく、時間の流れに緩急があるんだろう。現世と違って、この場所は時間の流れも無秩序。今と1分後、あるいは1時間後で時間のスピードが異なっていると見ていいんじゃないか?」

 

「……若葉ちゃん、なんか頼もしい…」

 

「……チッ

 

淡々とした若葉の説明に友奈が感嘆し、それを見た玲奈が友奈に聞こえない音量で舌打ち。———しかし若葉が言っている事はもっともなので、玲奈は大人しく二人と共に現世へと舞い戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———怖い。

「この状態になってどのくらい経っただろう」、と美森は考えた。そしてその答えは、自分ではもう分からない。1日かもしれないし、一週間かもしれない。悪夢による睡眠不足と、覚醒状態で起こるフラッシュバックによって彼女の時間感覚は狂っていた。

 

———この状態が続くのが、恐ろしくて堪らない。

美森が医者から聞いた話では、症状が治らないようならば別の病院に転院する可能性が高い、との事だった。病院も暇ではない。身体に異常はないのだから、精神疾患の治療に特化した別の病院に移るのは至極当然と言える。

 

(………友奈、ちゃん……)

 

———何より恐ろしいのが、今までずっと一緒にいてくれた親友に縋る事が出来ないという事実だった。

 

時折見舞いに来てくれる勇者部の面々から美森が聞かされた話では、友奈は未だに目覚めず、ずっと昏睡状態なのだという。……そうなった根本の原因が誰なのか、言うまでもない。

それに加え、友奈の姿をした何者かによる暴力。………美森にも分かっている。あれが友奈に似ているだけの、別人である事など。

しかし、どうしても夢で見てしまうのだ。………隣にいた友奈が、突然自分に暴力を振るう光景を。

 

———たとえ友奈が回復しても、美森は彼女に縋る事は出来ない。「その資格がない」という罪悪感と、暴力を受けたトラウマによる恐怖で、彼女は友奈と顔を合わせる勇気が無い。

 

満開の後遺症はほとんど治りつつある。動かなくなっていた脚も、聞こえなくなった耳も、失われてしまっていた2年前の記憶でさえも、戻りつつある。………その事実も、美森の罪悪感に拍車を掛けていた。

 

———その罪悪感がありながらも、美森は痛みを受け入れられない。

罰を欲しながら、暴力によるトラウマは痛みを拒絶する。フラッシュバックが起これば自分を制御できなくなる。そんな自分を嫌悪しながら、美森は誰もいない病室で涙を流して———

 

———そこで、「コンコン」と軽いノックの音がした。

 

「………………はい…」

 

精神安定剤が効いているのか、今はノックの音を聞いても取り乱しはしない。———ノックの音を聞いただけで『鬼の少女』が入ってくる妄想をする程に、美森は追い詰められていた。

 

「入るわ」

 

「……千景さん」

 

入って来たのは、郡千景。2年前、美森や乃木園子らと共に戦っていた少女。面会謝絶でない限り、彼女はほとんど毎日この病室へ足を運ぶ。……もっとも、彼女は会話は上手くないので、見舞いの品を渡したらいつもはすぐに立ち去るのだが。

 

………そう、いつもなら。

 

 

「……千景さん?」

 

「少し、眠っていて…」

 

千景は美森に近づくや否や、美森の頭に手を翳す。———そこで、美森の記憶は途絶えた。

 

 

そして。

 

 

 

 

「後は、お願いします。乃木若葉」

 

「任せてくれ。……斬るのだけは、得意だ」

 

 

若葉の生大刀が、美森を斬った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、一時は本当にどうなることかと思ったわよ。退院できて、本当に良かったッ」

 

「……それ、これで何回目よ?もう1ヶ月も前のことじゃない」

 

文化祭の帰り道。風が泣きそうになりながら友奈と美森に抱きつき、それを見た夏凜が呆れたような声を出す。

 

「何よ。夏凜だって、毎日甲斐甲斐しくお見舞いに行っていたくせに〜。なんだっけ?『友奈がいないと、生きていても楽しくないんだからッ』だっけ〜?」

 

「ッ⁉︎アンタあれ見てたの⁉︎……忘れろッ‼︎今すぐ忘れろッ!」

 

友奈が入院している間に起きた出来事で風が夏凜をからかう。夏凜はそれに顔を真っ赤にしながら必死に風を追い回した。

 

 

「えっと、この度は大変心配をお掛けしましたっ」

 

「……本当に、良かった。こうして高嶋さんが戻ってきてくれて」

 

「……私も、ごめんなさい。私が壁を壊そうとしなければ、こんなことには……」

 

「ダメですよ、東郷先輩。この事はもう蒸し返さないって、みんなで決めた事なんですから」

 

 

———友奈と美森が退院してから、1ヶ月が経っていた。

友奈の退院後の回復は驚くほど順調。目を覚ましてから2日くらいは立ち眩みや目眩を起こしていたが、それもすぐに回復。予定よりもリハビリに掛かる時間は短くなり、今では健康そのものだった。

 

美森は友奈が目を覚ますなり、精神が安定。それまでの不安定な状態が嘘のように元気になり、友奈よりも早く退院できた。

 

そして、文化祭の劇は大成功。何のトラブルも発生せず、評判も上々。以前までの戦いが嘘のように、穏やかな日常が続いていた。

 

 

(………やはり、良いものです。友奈には、千景の側で過ごす日常が一番似合っている)

 

千景の中で、玲奈が微笑む。

———世界の実態が変わったわけではない。神樹の結界の外は未だに天の神による炎が渦巻いていて、人類は限られた地域でのみ生存している。その事実は変わらない。

ただ、先の一件でバーテックスの襲来が沈静化したのは事実。大赦からの情報が正しければ、友奈や千景が理不尽な戦いに巻き込まれ、散華して身体の機能を失っていくことはないだろう。

 

(……その日常に結城玲奈(人間の私)がいないことが心残りですが………それを差し引いても、満足です。人間の言葉で言うならば、これを『幸せ』というのですね)

 

 

勇者部の日常を眺めながら、結城玲奈は笑った。ずっと、笑い続けた。

 

 

 

 

 









終わると言ったな。あれは嘘だ。
次回、エピローグ。



今日実装されるゆゆゆいのSSRは……ぐんちゃんかな?ぐんちゃんかな?それともぐんちゃんかな⁉︎
もしもハロウィンに向けてお菓子作りとか仮装の準備をしているぐんちゃんが来たら………回すしかない‼︎

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