結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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続けて投稿!………次話は、しばらく間が空きます。


西暦2017年 5月

———『なんで、こんな目に遭っているんだろう』と少女は思った。

その答えはすぐに浮かぶ。『世界を滅ぼしてしまったからだ』と。

 

これは罰なのだ、と彼女は思った。だから、全て受け入れた。

 

———陰で悪口を言われていても。

———私物を汚されたり、無くされたりしても。

———暴力を振るわれても。

———裸の写真を撮られて、学校中にばら撒かれても。

 

何をされても、彼女は抵抗しなかった。

———彼女本人どころか、親や教師も何も言わない。

 

だから、彼女を虐める人間は増えていき、その虐めの内容もエスカレートした。

———『巻き込まれたくないから』という理由で傍観していた少女が、積極的に虐めに加わるようになる。

———『みんなと同じ事をしているだけだ』と自分を正当化し、空気に逆らえずに虐めていた少年が虐めの中心人物になる。

 

村でも学校でも、大人も子供も。みんながみんな少女を虐めるものだから、『雰囲気に流されて』、あるいは『みんなから仲間外れにされる事を恐れて』、虐めを遠巻きに眺めていただけの人間も彼女を虐め、虐める側の良心は麻痺していく。『罪の無い少女を虐めてはならない』という当たり前の倫理は徐々に崩れ、『なぜ少女を虐めているのか』という疑問さえも持たなくなる。

 

———虐められる側の気持ちなど、考える事もない。

 

この村では、少女を虐めるのは当たり前の事だ。

ある人間はカラオケ代わりのストレス発散に。

ある人間はジョギングと同じく日課で。

ある人間は何も考えずに、少女を虐めた。

 

傷つけられるのは少女一人。しかし心が歪み、壊れているのはその村の全員。少女は傷つけられる事で精神にダメージを蓄積させ、加害者は自らの暴虐性を少しずつ加速させていく。故にこそ歯止めが利かず、その村の全員が、自分達がおかしくなっている事に気付かなくなっていた。

 

———その現状は、中学生になっても変わらない。

 

環境が変わった事で、虐めに加担していない人間もいたが、それでも虐められる事に変わりはなかった。気にかけてくれる教師もいたが、その教師も周りの教師達の圧力に負け、最終的には少女を傍観する側に立つ。

 

———少女の周りの人間は大きく分けて二つ。『虐める側』と『傍観する側』。

 

虐める側の大多数は、少女と同じ小学校出身の子供達。彼ら彼女らは、自らの行動に何の疑問も抱いていなかった。

傍観する側の大多数は、少女と関わりを持っていなかった子供達。少女がどんな人物なのかも知らず、接点を持たなかったが故に周りの人間の『虐め』に加担こそしないが、虐めの阻止のための行動を起こさない者たちだ。

『傍観する側』は『虐める側』と比べて非常に少ない。だから、『万が一』誰かが虐めを止めてくれる希望も無に等しい。そして『中学生』という精神的に不安定で荒れやすい時期であることもあってか、明らかに虐めの内容は小学生の頃に比べて過激になっていた。

 

虐めの被害者の少女の名は、郡千景。———本来の世界ならば、中学生になる前に勇者となり、この村を出ていたはずの少女。されどバーテックスの襲撃は起こらず、中学生になっても彼女は虐められていた。

 

 

長期に渡る過激化した虐めによるストレスは、少女の身体に異変を齎す。

———まず初めに、味覚が無くなった。……否、味を感じているはずなのに、それを認識できなくなった。

———次に、痛みに鈍感になった。………暴力が日常に溶け込んでいた彼女にとっては、都合が良かった。

———そして、色が分からなくなった。………視界に、褐色のフィルムを貼り付けたように景色が変わった。

———最後に、自分が分からなくなった。………起きていても、思考は鈍く、記憶は曖昧になった。ここまでになると、前の世界の事すら思い出せなくなった。

 

 

もしも千景が、ストレスを吐き出していたならば何か変わったのかもしれない。彼女が普通の子供だったなら、不登校になるなり、非行に走るなり———自殺を図るなり、なんらかのアクションを起こしていただろう。

 

………しかし彼女は、普通ではない。前の世界で『勇者の郡千景』として戦い、戦友を死なせ、罪悪感を抱いたまま『虐め』を罰として受け入れる少女だ。心を閉ざして自分の認識すら危うくなっても、罪悪感だけは残り続けた。心を閉ざして、意識を曖昧にしなければ存在できなかった。虐めによる痛みも、前の世界から引き継いだ罪悪感も、全ての全てから逃れたくて、彼女は自らの心を闇に閉ざす。身の回りの事を認識したところで、そこには痛みしかないから。彼女の良識と理性が、過激化する虐めを罰として受け入れようとしても、彼女の心はそれから逃れたくて堪らなかったのだ。

 

………だから、全力で逃避する。様子がおかしくなっても、誰も何も言わないのだから。だから、誰も彼女の異変をどうにかしようと思わなかったし、そもそも虐めている側は彼女の異変に気付く事すらなかった。父親でさえ、この現状を何とかしようと動く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

そして。

 

———そして。

 

 

 

「はい、手当完了」

 

———千景の知らない間に、光が差し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神崎翼は転校生である。父親の気まぐれで関東某県から高知へ引っ越してきたばかりだ。ここで『金持ちな父親がいるだけのありふれた平凡な高校生』と描写すればライトノベルの主人公っぽく聞こえるかもしれないが、この少年は『平凡』と言うにはあまりにも個性が強すぎる。

 

———『鈍感』という点だけは、一昔前のライトノベルの主人公と共通しているかもしれないが、それでもそう都合良く難聴になったりはしない。『自分への好意に疎く、されど仲間やヒロインへの悪意には敏感』というのが物語の主人公や英雄における一つの『お約束』ではあるものの、彼の場合自分への好意には割と敏感だった。———それが相手の本心に由来するものか、それとも打算に由来するものかを判別できるくらいには。それでいて周囲の人間の異常や緊迫した雰囲気などには鈍いのだから、彼は物語の主役には向いていない。英雄を気取るには、彼はあまりにも自己中心的な性質の持ち主だった。

 

 

(……何だ、これは?)

 

………しかし、そんな彼にも、新しく転入する中学校の異様な雰囲気は敏感に察する事はできる。

まるで、下手な素人の演劇を見ている気分だ、と彼は思った。何故だかは分からない。視界に入る景色は普通の中学校。しかし、翼にはそれが寒々しい虚飾に思えてならなかった。

職員室に立ち寄って転校の手続きを済ませ、担任の教師に連れられて教室へと移動している道中もその違和感は拭えない。……あるいは、それは自分が緊張している証拠なのかとも思ったが、その考えはすぐに否定する。たかだか転校程度で緊張するほど、彼は柔ではないのだ。

———あるいはそれは、彼が他者に対して関心を持たないからか。

 

違和感を感じながら、担任の声に従って扉をくぐる。………すると、違和感が先ほどよりも強くなった。

 

「転校してきました、神崎翼です。宜しくお願いします」

 

淡々と、必要最低限の自己紹介をしつつ、脳のリソースの半分を違和感の発生源の探索に割り当てる。すると、すぐにその違和感の源が見つかった。

 

(……なんだ、あの子…?)

 

目に留まったのは一人の少女。

 

 

「どうして翼ちゃんは男子の制服を着てるんですか?」

 

「当然男子だからです。そして『翼ちゃん』ではなく『翼君』な」

 

 

クラスの男子からの質問に答えながら、彼は視界の隅で先ほどの少女を観察する。

 

「……本当に男子?男装した女子じゃなくて?」

 

「当然。………そもそも男装なら、もっと男らしい髪型にするだろうに」

 

「どうして髪伸ばしてんの?」

 

「当然、趣味です。可愛いだろ?」

 

 

初対面の人間にされる質問ばかりだったので、答えに困る事はなかった。……もっとも、観察に多少集中していた所為でクラスメイトの反応は頭に入ってはこなかったが。

 

(……大丈夫か、あの子?)

 

否、多少集中していた、ではなく気に掛けていた、と言った方が正確か。

———翼が気に留めた少女は、端的に言って『二つの意味で』異常だった。

一つ目の異常は、その容姿。長い艶のある黒髪に、全体的に整ったシルエット。そして『可愛らしい』というよりも『綺麗』という言葉の似合う、美しい相貌。間違いなくクラスで一番、下手したらこの学校一の美少女だと翼は確信した。

 

………そして、もう一つの異常は、その容姿を台無しにする程の”傷”だった。

露出した肌はガーゼや包帯だらけ。しかもその処置は雑で、明らかに適切な治療を受けていない事が読み取れる。彼女は無表情のまま虚空を見つめ、瞳は暗く、明らかにこちらの自己紹介も意識に入っていない。

 

(……ヤバイな)

 

その傷が他者に付けられたものなのか、それとも自傷行為によるものなのかは判別できない。しかし、どちらにせよ彼女が精神的に危うい状態にある事に変わりはない。

 

何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

翼はこの学校のことも、クラスのことも何も知らない。だから、彼女の事情も周囲の事情も知らない。だが、それで一人の女の子が傷ついているという事実を見過ごして良い理由にはならない。

 

 

……だから。

 

「今度は俺が質問して良いかな?………どうしてその子、そんなにボロボロなの?」

 

手取り早く、クラス全員に聞いてみる事にした。

 

「「「———————」」」

 

その質問に、クラスの空気が凍る。誰もその問いに答えられない。何と答えていいのかが分からない。

どうして郡千景が傷ついているのか、という問いに対する答えを誰もが知っている。『この場にいる大半の人間によって、手酷く虐められているからだ』と、ただそう答えれば良い。

 

———だが、それができない。転校生から発せられていた濃厚な怒気が圧を生み、クラスの生徒ばかりか担任教師さえをも黙らせていた。

 

……でも、それは錯覚。確かに翼は多少苛ついてはいるものの、それは『女の子が傷ついているのに誰も心配している様子がない』からであり、虐めに気づいたからではない。だから、クラスメイト達が感じている怒気の圧は、彼らの心の奥底に芽生えた僅かな後ろめたさ故の錯覚だ。虐めを習慣化している彼らには、自分達が『後ろめたさを感じている』事に気付けない。それ故に、その後ろめたさは『翼から発せられる怒気』という勘違いに変換されていた。

 

 

———この学校の生徒達にとって、郡千景を虐めるのは当たり前の事だった。良心が麻痺する程度にまで習慣化していたものだから、『他所からやって来た人間にどう映るのか』という想像すらできてはいなかった。

 

———神崎翼にとって、可愛い女の子が守られるのは当たり前の事だった。彼が今まで通った学校に虐めなど無かったものだから、このクラスの空気が気持ち悪くて仕方なかった。『可愛い女の子が傷ついている』という状況にこのクラスが慣れてしまっている事くらいは、翼も気づいていた。

 

 

………結局誰も翼の問いに答える事なく、気まずい雰囲気のままホームルームが終わり、授業が始まる。誰もが新しく入ってきた転校生にどう接して良いのかが分からず、もはやお約束となっているはずの『転校生を取り囲む休み時間』は訪れず、そのまま二限、三限と授業が続いていく。

 

 

 

 

 

 

———そして。

 

 

 

 

この日、神崎翼は転校初日にして停学になった。

 

 




神崎翼。描写の通り、見た目は美少女の少年。彼は一体、何をしたのか。


活動報告欄にて、ゆゆゆいのフレンド募集中です。……ゆゆゆいが飽きっぽい俺をゆゆゆワールドに繋ぎ止め、モチベーションを保たせている。つまり、活動報告に書いても何の問題もないのだ。……ないのだ。
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