結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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意外に優秀な球磨さん、評価ありがとうございます!




静かな思い

「……玲奈ちゃん、大丈夫?」

 

夜10時。そろそろ寝ようかという時間に、友奈が玲奈の部屋を訪れた。

 

「………何が?」

 

その友奈に対し、玲奈の返答はあまりにも素っ気ない。友奈の目には、姉が自分を心配させまいと無理をしているように見えた。

 

「……ここ、良い?」

 

「…ええ」

 

玲奈の許可を取り、友奈は姉と並んでベッドに腰掛けた。そのまま、玲奈の顔を心配そうに覗き込む。

 

「具合、あまり良くなさそう。勇者として戦ってる時から、なんか顔色悪かったし。ご飯を食べてる時も、左手が震えてたよ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———バレてた。

相変わらず、とんでもない観察眼である。薬の効き目が弱くなり始めたところから既に見抜かれていたとは。

 

(……妹に心配させまいとしていても、結局見抜かれる。本当、人に心配を掛ける才能だけは一流ね………)

 

うるさい。そもそもお前の声が原因なのに。

 

(……迷惑ばかりかけて、役には立たない。本当、良いお荷物よね?)

 

………っ。

 

頭に響く、嫌な声。胸が苦しくなって、押し潰されそうになったところで、また友奈が助けてくれた。

 

「勇者部五箇条、ひとつ!悩んだら相談!、だよ?」

 

相変わらず天使だった。……感情が制御できなくなりそうになる。私は泣き喚きたくなるのを堪えながら、ポツリポツリと話し始めた。

 

「……幻聴が、聞こえるの」

 

「……うん」

 

「……薬が切れたのかもしれないけど。私は役に立たないとか、いきなり戦わされて、これからはもっと酷い目に遭うとか……」

 

「…うん」

 

「…私、自分が分からなくなってきたの。頑張っているつもりだけど、本当は手を抜いているのかもしれない。風先輩は好きだし、恨んでなんかいないはずだけど、本当は心のどこかで憎しみとか嫌な感情を抱いていて……幻聴は、そのせいで聞こえるんじゃないかって」

 

———本当に、最低の姉だ。

妹を守って、導くのが姉の役割のはずなのに。私はいつも、何かをしてもらってばかり。そして今も、みっともなく友奈に甘えている。

 

「大丈夫。私、知ってるよ。玲奈ちゃんがいつも頑張ってるって。毎朝早く起きてお母さんの手伝いをしてるし、勉強も良い点数を取ってる。樹海化した時だって、玲奈ちゃんは誰よりも先に飛び出して行ったよね?それで私は勇気づけられたし、いつも勉強を教えてくれるし。……役に立ってないことなんてないよ。私、いつも助けられてるよ」

 

友奈は私を抱きしめて、背中をさすりながら私を肯定する。……友奈の手から、暖かさが染み渡るのを感じた。

 

……涙が、堪えられない。

 

「…う、あ」

 

「私、難しいことはよく分からないけど……。玲奈ちゃんは、きっと風先輩を憎んでなんかない。だって、そもそも嫌いな人のことなんて、玲奈ちゃんは私に話そうとしたりしないでしょ?こうして相談するってことは、今も玲奈ちゃんは風先輩のことが好きなままなんだよ」

 

「うう、うわあぁぁ……」

 

私は、抱きしめられながらみっともなく泣いた。

普段から、姉と妹の立場が逆転していると感じていたけど、とんでもない。これじゃ、母親と子供だ。

 

———幻聴は、聞こえない。

 

「よしよし。いいこいいこ」

 

そのまま、私の頭を撫でる友奈。精神の負荷が消えた私は、突然睡魔に襲われて。

 

(…薬が……)

 

そのまま、深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっとっと、危ない」

 

友奈は、倒れこむ玲奈の身体を抱きとめ、ベッドに横たわらせた。

 

(薬、効き始めたのかな?)

 

玲奈が服用する薬は、副作用で眠くなる効果があるのだと友奈は聞いている。授業中もそれで居眠りする事が多いらしいが、それに反してテストではいつも(国語以外では)ほとんど満点。一位になった事こそないものの、テストの総合成績はいつも10位以内をキープしている。それが並ならぬ努力の賜物であることを、友奈は知っていた。

 

(……っ)

 

ふと、玲奈の左腕が視界に入った。普段は包帯に覆われて見えない、それ。玲奈がぐっすり眠っていることをよく確認してから、友奈はそっと左腕のパジャマの袖を捲った。

 

(……ひどい)

 

見ている側が痛みを感じてしまうような、赤黒く爛れた火傷の跡。本人は『痛くない』というが、それが本当かどうかは疑わしい。彼女は友奈に対しては特に見栄っ張りで、今日のように精神をギリギリまですり減らした時くらいにしか弱音を吐いてくれないのだ。

 

(………こんなの、気にして欲しくないのに)

 

友奈だって、分かっているのだ。この火傷のことについて、玲奈は誰にも触れて欲しくないことくらい。だから、いつも包帯で火傷は隠しているし、水泳の授業があるときは色のついた布を縛り付けるようにして無理やり隠している。

———そうしなければ、誰かに火傷のことについて聞かれるかもしれないから。

 

だが、それで本当に玲奈は幸せなのか?傷を隠すために気を配るのは、とても疲れる事なのではないかと友奈は思う。

 

(……こんなに頑張っているんだもん。これからは、きっと楽しいことばかりあるよ)

 

そう、自分に言い聞かせる。

玲奈は精神的に不安定だ。薬で抑えているとはいえ、いつ何が起こるか分からない。2年ほど前、自分でも気づかないうちに身体中に怪我を負っていたこともあった。

 

(私が、守ってあげないと…)

 

生まれた順番は関係ない。生まれた月が数ヶ月違うだけ。困っている事があるなら、助けて欲しいなら。友奈は、玲奈を放ってはおかない。

 

(今日は、一緒に寝よう?)

 

勝手にベッドを使うくらい、玲奈ならば笑って許してくれるだろう。

友奈は、玲奈を抱きしめながら眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———私は、困り果てていた。

目が覚めたら、友奈の顔が目の前にあるのだ。驚きを通り越して昇天してしまいそうなくらい嬉しかった。もうこのまま永遠に時が止まってしまえばいいのにと思うほどの幸福。強く抱き締められていたせいで寝返りが打てず、血行が悪くなっている事など問題にはならない。この友奈との接触密度、人生最高記録である。

 

……と、そうではなく。

私は現状を確認しようとする。現在は朝の5時。普段ならば友奈の写真を見ている時刻だが、友奈がいる手前それはできない。たとえ、自分の部屋の至る所に友奈の写真を飾ることを本人が認めてくれていたとしても、だ。

だが、普段の日課ができないことも、さほど問題ではない。問題なのは、

 

(東郷が、怒る…っ!)

 

いつも友奈を起こす役目を掛けて争っているというのに、姉の特権を利用して一緒に寝るなど言語道断。しかも、場所は私のベッド。正直、東郷の怒りから逃れる術が思いつかない。

これが友奈のベッドならばいくらでもやりようがあった。こっそり私が抜け出せばいいのだから。しかし、これは私のベッド。友奈を運んで彼女のベッドまで運べるほどの筋力は私にはないし、運ぼうとしたところで友奈を起こしてしまうだろう。それは避けたい。

 

……ふと、私は自分も身動きが取れなくなっている事に気づいた。当然だ。友奈にがっちりホールドされているのだから。

 

「………まあ、いいか」

 

よく考えてみれば、東郷が怒ることくらい大したことじゃない。私はもうどうでもよくなって、密着する友奈に意識を集中させた。

 

———相変わらず、可愛い。

 

ぴったりくっつく友奈の体温は冷え切った私の心を温め、友奈の柔らかい体の感触は私の心を優しくほぐす。友奈の微かな寝息は私の耳を慰め、友奈の香りは私の全身を包み込む。

 

……ああ、もう、最高。

 

体温がぐんぐん上がる。頭が熱に浮かされたようにボーっとして、でも不快な気分じゃない。きっと今の私の顔は真っ赤に染まっているだろう。

 

「…友奈、大好き」

 

そのまま私は二度寝をして、数年ぶりに寝坊した。東郷が起こしに来るまで、登校日であることを完全に忘れていたのだ。

 

……なお、東郷は私の予想に反して大して怒らなかった。

 




これも全部、友奈が可愛すぎるのが悪い。
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