結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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そしてアンケートのご回答、ありがとうございました!別作品としてではなく、このまま突っ走ります!


……今日からのわゆピックアップ。やはりぐんちゃん祭り。2の倍数段でお正月ぐんちゃんがもらえるとは。………でも、お金がない。



重ねて、注意を。
この作品はフィクションです。学校ぐるみで虐めを容認していたり、平然と法を無視する中学校は現実にはない(と良いなぁ)ので、ご安心を。

ストレス溜まって精神状態最悪の時にブラックのお話を書くと筆が進む。………そして書いた話を読み返して精神状態が悪化するという悪循環。早くぐんちゃんを回復させないと……!








西暦2017年 5月 “悪”

「その子か。早く乗れ、大きい病院へ行くぞ」

 

少女を抱えて駐車場に着いた翼は、父からそれだけ言われた。

慌てて後部座席に少女を乗せ、翼も慌てて乗り込む。

 

「ありがとう。ごめん、急に」

 

「構わん。救急箱を持ってきた。終わっていない手当てを済ませてしまえ」

 

そう言うや否や、父は車を発進。———翼が火傷の手当て以外に手が回らない事を見越していたのか、包帯やガーゼ、傷薬や絆創膏などが入った救急箱が後部座席に用意されていた。

 

翼の父、神崎鷹雄(たかお)は鉄面皮である。初対面の人間からは十中八九『冷たそうな人』と思われるほどの無表情。声に感情は篭らず、まさしく『冷徹な仕事人』を絵に描いたような人間だと多くの人間が思っている。

 

………しかし、知る人ぞ知るその内面は外見とは真逆。息子のために投資を厭わず、仕事を投げ出してでもピンチに駆けつける情熱家。愛情の矛先が亡き妻と息子に偏り過ぎているだけで、彼は決して冷徹でも薄情でもないのだ。

………その内面のさらに奥深くに眠る本性に気付いているものは少ない。

 

 

そんな父親に心底感謝しつつ、翼は少女の手当てを進めた。包帯の下の化膿した傷を消毒し、包帯を取り替える。できたばかりの生傷に消毒液を掛け、傷の回復を促進するパッドを貼った。

———骨が折れているであろう左腕の包帯だけは、傷口を洗った時も、そして今も外せなかった。『素人が勝手に触っていい傷ではない』という思考もあったが、それ以上に恐ろしくて見ることができなかった。

 

 

「はい、手当完了」

 

「……終わったか」

 

「うん、おかげさまで」

 

骨折の処置はできないが、ベストは尽くした。———あとは、消えない傷跡が最小限になる事を祈るしかない。

 

 

 

 

「………ここ、は…?」

 

———そして、少女の意識が回復した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

郡千景は、知らぬ間に車の中にいた。「ここは?」と思わず呟く。………前後の記憶が全くない。

それに、何やら周囲の状況がおかしかった。見渡す限り、あらゆる物が茶褐色に見える。まるで茶色いゴーグルでも掛けているような景色。自分が車の中にいる事は理解できるが、それだけ。色の区別は曖昧で、どうして今の状況が出来上がっているのかが千景には理解できない。

———虐められている日々を過ごしていた事はぼんやりと覚えているが、それだけ。彼女は今日の日付さえも覚えていなかった。

 

 

「………お父さん、この子が初めてなんか喋った」

 

隣に座っているのは、男子の制服を着た同年代の少女。「お父さん」と呼ぶからには、運転しているのが彼女の父親だろう。……状況は全く読めないが、どうやら誘拐されているわけではないらしい、と彼女は悟った。

 

(……そもそも、私なんかを誘拐したところで殺されて終わりでしょうけど)

 

それは自虐的な思考ではなく、現実に基づいた推測だった。………家庭でも邪魔者扱いされてきた彼女にとって、あの父親が身代金の要求に応じるとは露ほども思えなかったからだ。

 

「大丈夫か?……痛くない……わけないよな」

 

見た目と声とは裏腹に、まるで男子のような言葉遣いで話しかけてくる少女。

 

(……痛い?……何を言って………)

 

………そこで初めて、自分が怪我をしている事に気づいた。

まず初めに目についたのは至る所にある擦り傷。まだできたばかりの生傷なのか、赤い血が滲んでいる。———一体いつ擦り傷を作ったのか、千景は思い出せない。

そして、次に左腕。血の染み付いた包帯の巻かれたそれは明らかに変な方向へと曲がっており、肘ではない所に妙な出っ張りが———

 

 

「……痛っ⁉︎く、あ、あ痛い痛い痛いいたいいたいいたいっ……⁉︎」

 

それを認識してところで、ようやく全身に激痛が走った。

目に見える所だけではない。視界に入っていなかった左脚の大腿部や、制服の下の腹部からも猛烈な痛みが発せられる。……とても悲鳴を堪えられる状態ではなかった。

 

 

「お父さんっ‼︎」

 

「分かっている。飛ばすぞ」

 

そんな親子の会話を聞き取れるほどの余裕は、千景にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……入院の手続きは終わった。検査の後、すぐに創外固定———手術だそうだ」

 

「…………くそ」

 

村から遠く離れた大きな病院へと少女を担ぎこんで1時間。翼は父親から少女の入院が決定した事を告げられた。

……その事に驚きはない。むしろ、これで入院しない方がまだおかしいくらいの大怪我だったのだから。でも、流石に『手術』と聞いては穏やかではいられない。

 

「薄々察してはいたと思うが、左腕が開放骨折していた。……早めに手術しなければ危険らしいが、今のところ命に関わる事態にはなっていないようだ」

 

「……それで、あの子の家族との連絡は?」

 

「繋がらん。電話番号は、これに書いてあったが」

 

そう言いつつ、鷹雄はボロボロの手帳を翼に手渡す。……言わずもがな、それは生徒手帳だ。身分証明書の代わりにもなり、個人情報も記入されている。少女の制服のスカートに入っていたものだった。

 

 

「手術の同意書は勝手に書いておいた。法的拘束力のあるものではないらしいからな」

 

「……ありがとう」

 

礼を言いつつ、翼は手渡された生徒手帳を眺める。全体的に歪んでいて、誰かに水でも掛けられたようだった。

 

「中を見ても構わん。どうせ大した事は書いていない」

 

「……そうかな?」

 

心の中で、「いや個人情報なんだから駄目だろ」と思いつつ、好奇心に負けて中を見る。………良心を捩じ伏せるほどに、彼は少女の名を知りたかった。

 

 

「……こおり、ちかげ。郡千景。うん、覚えた」

 

翼は勉強はできるが、博識とは言えない。だから、『郡』も『千景』も、一瞬読みが分からなかった。読めたのはふりがながあったからで、仮に漢字だけだったなら読めずに困っていたに違いなかった。

 

「…………」

 

ボロボロの生徒手帳を眺めながら、ぼんやりと考える。———今まで彼女は、どうやって生きてきたのだろう、と。

学校の様子を見る限り、日頃から虐められていることは明白。あれだけの大事になっているのだから、学校側も認識していないはずはない。当然、親も知っていると考えて良いはずだ。

 

(……そういえば、私立の学校は教育委員会が無いから、親が相談する窓口が無くて……虐めがあっても学校側が認めなければ表面化しないって聞いたような………)

 

そう考え、すぐに却下する。———翼が転校してきたのは公立の中学校。親が教育委員会に訴えればすぐに動きがあるはずだ。

 

(……だとすると、何だ……?まさか、親が何も言わない?子供が虐められているのに……?)

 

あるいは、親も虐待を行う側なのか。———だとすると、彼女の味方は今まで誰もいなかったことになる。

中学生は、まだ親の庇護を必要とする年齢だ。その親が味方をしてくれない孤独は、翼には想像できない。………今まで散々父親に守ってもらっている事を自覚しているのだから。

 

 

「……さて。ところで、荷物はどうした。学校に置いたままか?」

 

「あ。……すっかり忘れてた。スマホと財布しか持ってない」

 

「ならば、夜に取りに行くか。どのみち検査が終わるまでは身動きできん」

 

「……うん」

 

『神崎さん。2番の診察室にお入り下さい』

 

「……ん?」

 

父との会話中に唐突に流れるアナウンス。

 

「さて、次はお前だ」

 

「んん?」

 

そして、そのアナウンスの『神崎さん』が、まるで翼を示しているような父の反応。

 

「バレていないと思ったか。……右手の小指、怪我をしているだろう。突き指と思って甘く見るな。折れているかもしれん」

 

「……なんで分かった…⁉︎」

 

 

———実のところ、女子生徒の顎を殴った時に翼は右手の小指を痛めていた。筋力があまり高いとは言えない彼が殴ったところで、「ビキッ」と相手の顎から音がなるほどの威力は出ない。嫌な音が鳴ったのは女子生徒の顎ではなく、翼の小指だったのだ。

 

 

「覚えておけ。親は子供をよく見ているものだ」

 

「くっ。……医者、やだなぁ。……というか俺、問診票とか書いてない」

 

「心配するな、俺が書いた。子供の状態を把握していないわけがないだろう」

 

「……………」

 

神崎翼は、父親に戦慄しながら診察室の扉を潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。それで、その小指ですか」

 

「うん。まあ、骨は折れてないらしいけどな。それでもしばらくは固定しなければいけないらしい」

 

 

神崎家のリビング。

事のあらましを聞いた金髪メイドお姉さんこと神崎レナは、深いため息を吐いた。……まさしく心底呆れた、と言いたげな表情だ。

 

「本当に何をしてるんですか。……相手に怪我をさせるのは良いとしても、自分が怪我をするとは」

 

「……ん?もしかして俺、また叱られてる?さっきは『よくやったと褒めてあげます』とか言ってなかったっけ?」

 

「さっき叱ったのは停学になった事について。今のは怪我をした事についてです」

 

どうやら金髪青目のメイドさん(14)にとっては、同じ事件に関連していても別件扱いらしい。………それが自分を心配しての事だと理解しているので、反抗はできなかった。

 

 

———取り敢えず翼の診察が終わり、千景の創外固定(皮膚を突き破って出てしまった骨を戻すための処置)の手術が無事に成功した後のことだ。

翼は父親に言われてタクシーに乗り、一人で高知の中学校まで戻り———形式だけのお叱りと1ヶ月間の停学を言い渡された。

『しばらくお休みだぜヤッホー』と内心ウキウキしていたところに、非常に面倒くさい毎日書く反省文を課題として出され、意気消沈。また、それとは別に授業の課題の問題集やプリントも課された後に解散。教室に置き去りにされていた鞄の中にもらった反省文の原稿用紙を詰め込み、しぶしぶ歩いて下校した。———放課後に部活動に勤しむ生徒達の視線が痛かったような気もするが、翼は気の所為だと自分に言い聞かせた。

………そもそも公立の中学では『停学』という処分は存在せず、出席停止させるにしても両親への事情聴取や文書の交付など様々な手続きが必要であり、法律上学校側が生徒に対して強制的に登校を妨げることはできないのだが———翼はそれを知る由もない。

 

そして帰宅後に反省文に取り組んでいるところでレナが帰宅し、———今日の出来事を話して今に至る。

現在は午後9時。とうに夕飯を済ませているはずの時刻だが、翼は少しでも早く出された課題を終わらせるべく集中していたために気づかず、レナはレナで転校先の別の中学生の体験入部やら部活の後の突如発生した校舎裏での青春イベント(容姿に一目惚れした男子による告白)だので帰宅が遅れ、結局この時刻になってしまった。

 

「お父様は野暮用で明日の午後帰宅。……結局、件の少女の入院についてはどうなったんですか?」

 

「メールで『問題ない。全て解決した』って書いてあったし、大丈夫なんじゃないか?……あ、またメール」

 

バッテリーが半分くらいになったスマホが震え、すぐに手に取る。……送信元は父親。内容は郡千景の入院期間と入院している病室。

 

 

「ん?1ヶ月?……なんで?」

 

メールに記載されている入院期間は1ヶ月。……スマホで調べた開放骨折による入院期間はおよそ数日。明らかに長過ぎる。

 

「骨折以外にも何か異常が見つかったか、あるいは処置した箇所になんらかのトラブルが生じた、という可能性が考えられますね」

 

心底心配そうになる翼とは対照的に、レナはまるで他人事のようにそう呟いた。

 

 

 

 




神崎翼
強がりな人。自分が殴りかかったのに自分も怪我をするという事実を隠してカッコつけていた。……でも相手も相応のダメージを負っている。いくら筋力の低いパンチでも、打ち所次第でノックアウトが可能なのである。
ぐんちゃんの味方。


ぐんちゃん
ようやく正気を少しだけ取り戻した女の子。痛覚が回復した結果、大火傷と打撲と擦り傷と開放骨折の激痛に突然晒され、意識を取り戻した直後から心がヤバイ事になる。……この歳でこれほどのストレスを与えた虐めっ子たちは、惨たらしく鏖殺せねばならない。



金髪青目のメイドさん
翼くんが無事ならば、人をどれだけ傷つけても大して気にしない人。倫理観に問題あり。
………翼くんが怪我をしたのは本人の責任であるにも関わらず、翼くんに殴られた女子生徒を呪い殺したいほどに憎んでいる。曰く、『なんで(翼さんが)怪我をしない程度に顎を柔らかくしないんですか』。言っている事が無茶苦茶で意味不明である。



翼の父
本名『神崎鷹雄』。電話に出ないぐんちゃんの保護者に憤りを抱いている。曰く、『親は子供のために存在するもの。子供の緊急事態に電話に出ないのなら死ね』。
親バカが行き過ぎており、子離れできるか不安な人。





卒研の追い込み時期のため、更新が遅くなることをここに記しておきます。



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