久しぶりの連休で漸く投稿。………バイトが入っていたら、投稿があと一週間は先になっていたでしょう。連休に感謝。そしてモチベーションを上げて下さったお気に入り登録者様に感謝!
……ぐんちゃんを早く回復させなきゃ、と前回書いた。でも、すぐに回復させるとは言っていない………。
(……迷った)
千景が入院した日の2日後。
翼は彼女のいる病院の中で迷っていた。
(………分からない。なんでこんな場所でみんなが目的の病室にたどり着けるのかが、分からない)
なにせ右を見ても左を見ても同じ風景だ。統一感があるせいで目印になるものもない。無駄に長い廊下であるが故に、端から端まで歩くのにも時間がかかるし、面倒だった。
———病院に着くまでは楽だったのだ。なにせ今の時代、目的地を調べれば交通手段と到着までにかかる時間はすぐに出てくる。スマホさえあればGPSを用いたマップアプリで道に迷う事もない。
しかし屋内は別だ。建物の形そのものはマップアプリでも確認できるが、細かい構造や部屋の配置までは分からない。頼みの綱の案内板の場所さえも分からないのが現状だった。
(……どうする?聞くか?)
取り敢えずまっすぐ歩けばナースステーション(?)には辿り着くだろうし、そこで待機している看護婦に病室の番号を伝えれば行き方くらいは教えてくれる筈だ。
そう考えて翼は歩を進め———前方から松葉杖を突いて歩いてくる白い少女と目が合った。
(……?)
見知らぬ人と目が合う事はよくある事だ。ふと視線を感じて振り向いたら知らない人と目が合う、なんて事は———日常茶飯事ではないにしろ———珍しい事でもない。
だから、翼は大して気にもせずに歩く。そして少女とすれ違ったところで———
「……もしかして、翼ちゃん?」
「………ん?」
唐突に、白い少女に声を掛けられた。
「やっぱり翼ちゃんだ!久しぶり!元気にしてた⁉︎」
「……んん?」
少女の声に聞き覚えがある気がして、翼はまじまじと彼女の顔を見つめた。
色素の抜けた白灰色の髪に、白い肌。透き通る小豆色の瞳。美しさと可愛さを両立させた小さな顔。———よく見たら、見覚えがあった。
「もしかしてライキか⁉︎なんで髪そんな白くなってんの⁉︎」
「いやぁ……あはは!ちょっと色々あって」
快活に話す少女の名は工藤
翼の父、鷹雄に「子供の名前は世間体が第一。親のエゴを通した結果があの境遇だ」と言わせるくらいには不憫な環境で育っていたが、彼女の性格はとても明るかった。……恐ろしくなるくらいに。
翼が彼女と知り合ったのは小学一年生の時だ。当時から容姿でからかわれていた翼は、名前でからかわれている雷姫と自然に親しくなり———彼女が転校するまで、その交友は続いていた。しかしまさか、高知で会う事になるとは思いもよらなかった。
———“ライキ”とは、翼が彼女を呼ぶ愛称だ。下の名前を音読みしただけだが、それでもカタカナの読みで呼ぶよりは遥かに良い。女の子に『ライトニング』と名付ける彼女の親のセンスを、翼は心底疑問に思っていた。
「翼ちゃんは、どうしてここに?」
「お見舞い。……大怪我した子がいて、さ。そっちは……聞くまでもないか」
「うん。足をちょっと、ね」
杖を突く彼女の脚には、包帯が巻かれていた。……一目で歩行に支障の出る怪我であると分かる。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫大丈夫!痛みも引いてきたし、もうすぐ杖も要らなくなるってお医者さんが言ってたから!」
ニコニコ自然に笑うライキに、翼は困った顔をした。……どんなに観察しても彼女が無理をしているようには見えないが、自分の苦労や辛さが全く表に出ないのが彼女の長所であり、欠点だった。
———だから、このまま別れる事に抵抗を覚えてしまう。
「……あ、ちょうど良いや。肩貸すから、この病室の場所教えてくれない?」
『病室の場所を教えてもらう対価に肩を貸す』という建前で、翼は彼女を手助けする事にした。
千景の病室への行き方を教えてもらい、雷姫が入院している病室まで付き添った後。
翼は千景の病室の前で深呼吸をしていた。
(大丈夫だ、緊張する必要はない。……そもそも、嫌われているわけがない。普通に入ればいいんだ、普通に)
意を決し、扉を二回ノックする。———反応がない。
(……寝てるのか?)
『もう一度ノックして、ダメだったら1時間後にまた来よう』と決め、もう一度扉を二回ノック。
すると、「…はい、どうぞ……?」と返事があった。
(……よし!)
覚悟を決め、ガラガラと病室の扉を開ける。すると、すぐに
(……想像より、痛そうだな)
彼が千景の姿を見て最初に思った事がそれだった。
開放骨折をした左腕には見慣れない器具が装着されている。……流石に痛み止めは飲んでいるのだろうが、それでも骨折と術後の痛みは相当なもののはずだ。
だがその己の内心を悟られまいと、翼は努めて気軽に声を掛ける。
「や、元気?」
「……あなたは、確か……」
ベッドの上で身体を起こしている彼女は、翼の姿を認めるなり目を見開いた。———だが、うんうん唸った後、途方に暮れたように項垂れる。それもそのはず、彼女は翼の名前を知らないのだ。翼が転校してきた時の自己紹介は、全く聞いていなかった。
翼は千景のいるベッドにまで近づき、すぐ側のスツールに腰を下ろす事なく名乗った。
「俺は神崎翼。よろしく」
本当なら趣味や好きな食べ物も話すところだが、自重して名前だけに留める。相手は怪我人であり、女の子だ。自分の事を過度にアピールするのは避けるべきだと考えた。
一方、千景はキョトンとして翼を見つめる。……自分に対して悪口以外で話しかけてくる相手は、彼女にとって非常に珍しかった。
「……郡、千景」
数秒掛かって、千景は漸く自分の名前を小さく呟く。……すると、目の前の少女(だと千景が誤解している少年)の顔が綻んだ。
「よろしくっ。……具合は大丈夫か?開放骨折とか聞いたんだけど……」
しかし翼が浮かれていたのは一瞬。本来数日の入院で済むはずの開放骨折で1ヶ月も入院するのだ。事態が深刻である事も覚悟しなければならない。
「…え、ええと………」
本気で心配そうにする目の前の少女(のような少年)に、千景はただただ困惑した。
千景は戸惑っていた。
絶対に訪れないと思っていた見舞客。
———質問には答えなければならない。義務感ではなく、『そうしなければ暴力を振るわれる』という自らの経験に基づく恐怖から、千景は辿々しくも言葉を捻り出す。
「……特に命に関わる傷はないので大丈夫、です」
「そっか……。無理はしないようにね?」
優しさのこもった相手の声も、千景には届かない。———彼女は嘘を吐いた。
確かに、命に別状はない。だが、決して『大丈夫』と言い切れる容体でもないのだ。それでも強がったのは、見舞いに来た相手を心配させまいとする心意気———ではなく。
単純に、これまでの経験から『正直に話したら特に酷い怪我をした部位を執拗に弄られる』と警戒しての事だった。
………その密かな警戒心を感じ取ったのか。
「初対面だし、あんまり長居するのも悪いか。……明日、また来るよ」
そう言って、そそくさと珍しい見舞客は立ち去った。———彼女(に見える彼)が病室にいたのは、たったの二、三分。長居でも何でもなく、ただ顔を見せに来ただけにしか思えない。
千景が思ったのは、『来てくれて嬉しい』でも『どうして来てくれるの?』でもなく、『もう来ないで』という拒絶だった。
———その感情は全て、記憶に残らない。
……そして、さらにその翌日。
「……あなたは、確か……」
千景は、神崎翼の名前を忘れていた。
5日間、翼は千景の見舞いに行った。そして、最初の3日間は名前を覚えてもらえなかった。
———しかし、翼は大して気にはしなかった。それは彼女が自分に興味がない証なのだろうと思っていたし、4日目になってから漸く名前を覚えてもらえた事で、舞い上がっていたのかもしれない。
———あるいは、見舞いに行く度に少しずつ彼女が警戒心を表に出さなくなっていたからか。千景の様子を事細かに観察していた翼は、彼女が自分にどのような反応を見せるのかを記憶していた。だから、日に日に警戒している様子を見せなくなっている事が嬉しくてたまらなかった。
油断していた。千景を取り巻く環境が、彼女にどんな悪影響を及ぼしていたのかという事についての考えが浅かった。
それを翼が実感したのは、病院が入院患者の面会を受け付けていない休日の朝の事だった。
「……記憶障害だそうだ」
「………え?」
始まりは、神崎鷹雄の一言。唐突に『記憶障害』と言われても、翼には何の事だかいまいちピンとこない。
「いや、記憶障害というのは大袈裟か。……検査の結果、脳が萎縮している事が分かったようだ。それで記憶力や脳の機能の低下が起こっているんだろう」
レナの作った朝食のサンドウィッチを頬張る翼は、頭にはてなマークを浮かべた。
「……ん?何、何の話?」
そこそこ頭の良い彼が話を理解できていないのは、起きたばかりでまだ頭が回っていないからか。それとも、無意識に話を理解したくないと思っているからなのか。どちらにせよ、彼は嫌でも真実に目を向ける事になる。
「郡千景の話です、翼さん」
鷹雄の話を引き継いだのは、メイド服のまま食卓についている神崎レナ。彼女はトーストしたタマゴサンドをフォークで突き刺しながら、世間話のように話に割り込んだ。
「…ん?え?」
そこで漸く、翼にも話が見えてきた。
「現代の医学では、ストレスが人間に与える影響は完全にはまだ解明できていません。……しかし、過度のストレスによって将来的に脳が萎縮したり、認知症を発症させたりするという話は聞いています。もっとも、その郡千景は『将来』ではなく、現時点でそうなってしまっているようですが」
耳を塞ぎたくなる、不穏な話だった。……少なくとも、翼にとっては。
「問題は、その脳機能の低下が回復するのか、という点だな。……前頭前野の樹状突起の回復は絶望的だろうが………脳全体の萎縮は回復する、か……?」
翼には父が何を言っているのか完全には理解しかねたが、その深刻さだけは直感できた。
だから、取り敢えず彼は自分の知りたい情報だけを聞き出す事にする。
「……結局、あの子は回復するの?」
「分からん。少なくとも、環境を変えねば難しいだろう」
その父の即答に対し、レナが冷たい目をした事に二人は気づかなかった。
今回はストレスのお話。
ストレスは大変怖いのです。お腹が痛くなったり、便意が止まらなくなったり、胃がキリキリしたり頭痛がしたり記憶力が低下したりぼんやりしたり失神しかけたりなどなど……。本当に怖い。
工藤雷姫
オリキャラ。しばらく見ない間に髪の毛が白くなっていた。………ゆゆゆ一期放送時にインターネット上で流れていた結城友奈ちゃんに関するとある考察(あるいは想像)が元になって生まれたキャラクター。
性格は温厚で明るい(と思われている)。容姿においては、神崎翼が自分以上と認める数少ない人物。現在の時系列においては、神崎翼が自分と同等・あるいはそれ以上の容姿と認めたのはぐんちゃん、レナ、雷姫の3人のみ。描写はないが、非常に小柄。身長は140センチ代。しかし胸はそこそこあり、全体的に細いため胸部装甲が実際よりも大きく見える。——が深い。
ぐんちゃん
もう色々とやばい子。執筆前に考えていた設定をそのままにした結果、非常に危うい事になった。……人類、滅ぼさなきゃ。
翼君
ぐんちゃんに惹かれるにつれて、密かに人間に対する不信感と憎しみを順調に募らせてる子。
金髪美少女メイドのレナさん
翼君にしか興味のないはずの子。義父が翼君に真実を曖昧にしている事に対して腹を立てている。