大変長らくお待たせ致しました。……いやあ、まさかクリスマスまで引っ張る事になるとは。
感想・お気に入り登録、誠にありがとうございます!……お気に入り登録が増えてなかったら、大晦日まで引っ張っていたかもしれない。
クリスマスといえば、ゆゆゆいの公式ツイッターでRTキャンペーンやってるそうですよ。……私はツイッターとかやってないですが、あの画像でやりたくなった(始めたとは言ってない)。そしてそれ以上にクリスマス限定高奈ちゃんが欲しくなった。
今回はほのぼの(?)。ジェットコースターで言うと、退屈な上り坂。
「つまり、見たわけですね?郡千景の裸を」
「うん。……不可抗力でね?」
「そしてその後、下着を含む服を着せたと」
「……いや、まあそうなんだけれども」
「そしてその時、素肌に少し手が触れたりもしたと」
「……いや、そりゃちょっとは」
見た目が美少女の男子中学生、神崎翼は金髪青目美少女メイドの義理の姉から尋問を受けていた。———しかし、その内容が解せない。
(……なんで急に怒ってんの?)
下着を漁られて怒るのは分かる。しかし、この怒り方は理解できない。
『女の子の裸を見てはいけません』という怒り方ではないはずだ。なぜなら、(一応は)相手が見せてきたようなものなのだから。
(謎だ。……なんかヤキモチ妬いてるっぽい怒り方が謎だ。まさか弟に服を着せられたりしたいような変態でもないだろうに)
「それで、替えの下着というのは?着替えくらい、彼女も持っているのでは?」
そんな翼の思考を読み取ったわけではないだろうが、いきなり話を変えるかのようにレナは問う。翼はそれに、気恥ずかしさを抑えながら答えた。
「全部ボロボロ。……ブラジャーは擦れてるし、パンツは穴空いてるし、完全にアウト」
「…………本当にロクでもない親ですね」
郡千景には、母親がいない。詳しい事情は翼もレナも知らされていないが、彼女の母親が離婚して家を出たという話は聞いている。
———母親がいなくとも、子供が酷い目に遭うと決まるわけではない。現に翼にもレナにも母親はおらず、それでもこれまで健康に育ってきたのだから。
だが、母親がいないことで子育てが困難になるのは紛れもない事実だ。そして郡千景の父親には、頼れる親族がいない。子供が
———だから、世間的には見れば、千景の父親には同情の余地がある。少なくとも千景の父親はそう思っていたし、決してそれは間違いではない。
しかし、翼の父である神崎鷹雄は千景の父親にこう言った。
『性別を子育て放棄の言い訳にするな』、と。
それが他の誰かならばともかく、男手一つで実の息子と血の繋がらない娘を育てた彼が言ったのだ。誰にも文句など言えるわけもない。
鷹雄が郡家を訪ねたのは、千景が入院したその翌日のことだ。彼は千景の治療費と入院費用を払わせるべく、アポ無しで突撃した。
———玄関に出てきた郡千景の父親に、鷹雄は開口一番こう宣った。
『入院費払えやコラ』、と。
その後、強引に家の中に押し入り、彼は千景の父親に説教をした。一切の言い訳を許さぬ剣幕で、その結果千景の父は数日後に医療費の支払いをする約束をしたのだが———千景の父親はその約束の日の前に失踪。結果、千景の治療費と入院費は鷹雄が支払う事となったのだ。
その話を聞いた翼とレナの、千景の父親に対する印象は最悪である。———神崎鷹雄という『親』の姿を見てきたからこそ、二人は千景の父親に嫌悪感を強く抱いた。
そして引き取り手のいない千景は、しばらくの間神崎家で過ごすことがほとんど決定している。つまり。
「どのみち郡千景が暮らすのに必要な物資は購入しなければならないのですから、下着くらい買っておけばいいのでは?」
「それはつまりあなたの玩具になれと仰るんですか、レナさん?」
いかにもな理由で下着売り場やらランジェリーショップやらに連れ出そうとするレナに、翼は拒絶の意を示す。———なぜなら、レナと共に服屋に行ったが最後、ほとんど強制的に試着させられるというとんでもない辱めに遭うことは分かりきっているからだ。
………無論、それは洋服だけではなく、女性用の水着などの『まともな男子ならば耐えられない装い』も含まれる。そして翼の羞恥で真っ赤になった顔を、レナは『可愛い!』とハイテンションに撮影するのだ。
「……では、良いんですか?郡千景の下着を、お父様が買ってしまっても?」
「くっ……」
神崎鷹雄はある意味猛者だ。翼のように女と見間違える外見でないにも関わらず、平然と女性の下着売り場を歩き回り、レナの下着を選んで購入したという前科がある。必要とあらば、彼は平然と千景の為に下着を買ってくるだろう。……それはあまりにもよろしくない。世間体的にも、恐らくは千景の心情的にも。
「さあ!選ぶのです。自分の自尊心を犠牲にして郡千景の心とお父様の世間体を守るか。それとも郡千景の心とお父様の世間体を犠牲にして私の毒牙から逃れるか……!」
「くそっ。自分で毒牙って言いやがったな………!」
神崎レナは完全に開き直っている。彼女は翼をからかう事を楽しんでいた。
「ちなみに、私一人で買いに行く、という選択肢は無しです。その場合、郡千景の下着のデザインがおかしなことになります」
「……鬼か……」
彼に選択肢はなく、逃げ場もない。逃げたが最後、新しく購入する千景の下着が無事である保証がないからだ。
(………いや待て。よく考えろ。これはチャンスなのでは?むしろ、ご褒美なのでは?)
だから翼は、思考を無理矢理ポジティブに切り替える。
(幸い、俺の見た目は女性用の下着を選んでも違和感が無い。見咎められない。………つまり、女の子の下着を選んでプレゼントするという世界中を見渡してもなかなかお目にかかれない経験をするチャンスなのでは⁉︎)
千景のサイズは既に把握済み。———つまり、嫌われる可能性にさえ目を瞑れば、翼は世界的に見ても珍しい体験をする事ができるのだ………!
(レナにおもちゃにされる?……だからどうした。そもそも、血の繋がっていない金髪青目美人の姉という超特盛の属性の女の子に着せ替えられるなんて滅多にできる体験じゃないぞ………多分同年代の男子が知ったら血の涙を流す)
しかもレナは翼よりも美人だ。それに、試着の際、翼を着替えさせるばかりか、自分も水着やら普段着にしてはやけに露出の多い服を試着して翼をからかう悪癖がある。
———それどころか、同じ試着室で着替えようとする始末。否、小さい頃は実際に同じ試着室で着替えをし、『売り物の水着は自分の肌に触れないように下着の上から試着するんですよ』とレクチャーされた記憶があるが、それはノーカウント。
(今まで頑張って見ないようにしてたけど………この際、レナの姿も目に焼き付ける!フハハハハっ!世界中のモテない男子諸君、悔しがるが良いっ!俺は余人には決して味わえない領域の体験をするぞっ!)
思考を無理矢理ポジティブにした結果、行ってはならない方向へと考え方が突き抜けてしまったような気がするが、もはや後の祭り。
「良いだろう。一緒に下着買いに行ってやるっ‼︎」
………神崎翼の思考は、ぶっ壊れた。
尚、今の時代は下着程度ならコンビニで買えるという事を、翼は知らない。
———そして、その過度のスキンシップが彼女に対する翼の認識を『異性』から遠ざけている事に、レナは気づいていなかった。
———時はあっという間に過ぎた。
「ありがとう。あとは大丈夫」
「そうか。何かあったら連絡しろ」
そんな会話を最後に、千景と翼を車から降ろした神崎鷹雄は去った。その場に残るのは、翼と千景の二人のみ。
「……ここが、翼君の家」
退院した千景は、目の前の家に気後れにも似た感慨を覚えた。
———別に、豪邸というわけではない。それなりに大きいが、一般的な一戸建ての領分に収まる大きさ。しかし、驚くべきはその庭だった。
花壇には色とりどりの花が植えられ、植木どころか池まである。そしてそれら全てが整然としていて、一目で並々ならぬ手間を掛けて手入れされているのが分かった。
———千景の実家とは、雲泥の差だ。
「レナがこういうの好きでさ。庭の世話……というか、家事全般はレナがやってくれてる」
千景にそう語る翼は、どこか自慢気だった。
「レナ…さん……確か、血が繋がってないお姉さん?」
「そうそう。ついでに金髪青目美少女兼メイドさん」
「……意味が分からないわ………」
意味が分からないのは当然だ。こんな一戸建てで家族をメイドにしている家庭など、そうはあるまい。
「………荷物、少なくね?」
そして翼の自宅に驚く千景をよそに、翼は翼で千景の荷物の少なさに驚いていた。
……千景の荷物は、勉強道具とゲーム機類、そして僅かな洋服のみ。女子にしてはあまりにも洒落っ気がない。
「……あまり、物持ってないから」
「……そっか」
会話はそれきり。そのまま翼は、片腕にギプスを嵌めたままの千景を連れて玄関の扉を潜る。……今は平日の真昼間。当然ながら、レナの出迎えは無かった。
「まずは、千景ちゃんの部屋に荷物を置いた方が良いか」
「……私の部屋が、あるの?」
「あるよ。この大きさの家に3人じゃ広くてさ、部屋が余ってた」
廊下を進み、階段を上る。やがて目的の部屋に着くと、千景はさらに驚く事になった。
「……え?ここが、私の部屋?」
「うん。ここが千景ちゃんの部屋」
翼が「部屋が余っていた」と言うものだから、千景はてっきり小さな物置代わりの部屋を想像していた。
———しかし。
「凄い、わね……」
広さは少なくとも千景の実家の私室より広い。そしてタンスや勉強机どころか、テレビまでもが置かれている。中学生の私室にしては、あまりにも豪華過ぎる内装だった。
「お父さんが色々買ってくれたからね。取り敢えず部屋は後にして、先に家の中を案内するよ。荷物だけ置いておいて」
そう言うやいなや、パタパタと部屋の外へ歩く翼。
「ここが二階のトイレ。二階はトイレ以外は私室しかないかな」
「…ひ、開いた?自動で?」
「最近のトイレはみんなそうだよ」
その後、階段を降りて一階へ。
「ここが洗面所、そこが風呂場。シャンプーとかリンスに拘りとかある?」
「……ないわ」
風呂場も広い。よく見ると、銘柄の異なる複数のシャンプーやリンスが置いてあった。ほぼ間違いなく、一人一人異なるシャンプーを使っているのだろう。
「なら、急いで新しく買う必要もないか。風呂場にある石鹸類は、好きに使っていいから」
その後も、千景に台所やリビングなどを案内し———その度に驚く彼女を見て、翼は戸惑いながらも、自分がどれだけ恵まれた環境にいるのかを改めて実感した。
彼にとって、勝手に便座の蓋が開くトイレも、一人一人違うシャンプーも、部屋に入ったら勝手に点灯する照明も、何もかもが当たり前だった。———それ故に、今まで自分のいる環境が当たり前になっていたその傲慢さに、少しだけ嫌気が差す。
「翼君」
「……ん?」
滅多にない自虐思考から彼を救ったのは、小さな千景の声。見ると、なにやら顔を赤くしてモジモジしている。
「トイレの場所、忘れちゃった?」
「…ち、違うわ……だから、その……えっと」
千景は今、記憶力が落ちている。恥ずかしそうに悶えている様子から、てっきり案内したトイレの場所を忘れたのだと翼は判断したのだが、それは的外れだったようだ。故に、千景が自分から話し始めるまで辛抱強く待つ事にする。
そしてなんとか何十秒も掛け、千景は言葉を絞り出した。
「案内してくれて……そして、今までお見舞いに来てくれて……ありがとう」
「どういたしましてッ!」
少女の感謝で、彼の感情は回復した。
翼君
金髪美人の姉に(変態に)目覚めさせられてしまった哀れな少年。ぐんちゃんのお礼によって一気に気分が回復する。ちょろい。
レナさん
過度なスキンシップをし過ぎたせいで異性として認識されなくなりつつある、手遅れ感のある人。……学校では「清楚で礼儀正しく、内面も容姿も全てにおいて優れた美少女」という、ラノベでよくあるヒロインのような評価をされているにも関わらず、本命には振り向いてもらえない。
………必死に羞恥心を表に出さずに誘惑(笑)しているくせに、悉く空振りする様は哀れを通り越して清々しくすらある。翼君からの評価は『容姿は最高クラス。(女性としての)体系は(胸部装甲によって)ぐんちゃんより上』。すなわちそれは、容姿面でのアプローチでの効果はあまり見込めないのだが……彼女本人が認識しているかは怪しい。
ぐんちゃん
突然家に押しかけてきた(?)系ヒロイン。……学校に行くのが怖い。