結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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何とか年内に間に合った!
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西暦2017年 6月 “抗う者”

———クスクスと、笑い声が聞こえる。

 

それは、以前ならば当たり前になっていた嘲笑。そして、———恵まれた環境を知ってからは恐ろしくて仕方がない蔑みだった。

 

一月ぶりの再登校。千景と翼は、中学校への通学路を多くの視線に晒されながら歩いていた。

———千景は、その視線から逃れようと、翼の背中に隠れるようにして歩く。しかしそれでも、周囲から放たれる陰口や嘲笑からは逃れられない。

 

「………ッ」

 

千景は思わず、目の前を歩く翼の裾を掴んだ。

 

「大丈夫。どこにも行きやしないよ」

 

その穏やかな声で、ほんの少しだけ千景の心が軽くなる。———そう、ほんの少しだけ。結局のところ、また学校で虐められなければならないという事実は変わらない。それどころか、その虐めに翼を巻き込むかもしれないと思うと、千景の心はずっしりと重くなる。

 

「人の目を気にし過ぎだと思うけどな……ッ⁉︎」

 

千景を慰めようとしたところで、突然石が飛んできた。———それが彼女の顔に当たる寸前で、奇跡的にキャッチ。

 

「ゴミめ」

 

ジンジンと痛む掌を顧みず、悪態をつきながら石が飛んできた方へそのままリバース。苛立ちと怒りと焦りによって威力がブーストされた自然界の弾丸は、こちらを見ていた有象無象を掠めて飛び、音を立てて塀に直撃した。

 

「……逃げるくらいなら石なんて投げるなよ」

 

塀に当たった石を見て蜘蛛の子を散らすように逃げた群衆に毒づき、千景の安否を確認する。……観察する限り、怪我はなし。翼は千景を守る事に成功していた。

 

「……ありがとう、翼君」

 

「どう致しまして。怪我がなくて良かった」

 

少女に礼を言われ、ようやく翼は実感する。———ああ、これが誰かを守るということか、と。

今まで翼は、守られる側の人間だった。

 

———初めて誘拐された時は、鷹雄が助けてくれた。

———二度目の誘拐では、監禁場所をレナが見つけ、鷹雄が助け出してくれた。

———三度目の誘拐では、………信じられない事に、レナがたった一人で犯人全員をボコボコにして助け出してくれた。

 

そんな事件がなくとも、日頃から二人は翼を守ってくれている。どんな仕事をしているかは知らないが、鷹雄の収入によって何不自由のない暮らしができるし、レナが掃除や洗濯、料理をしてくれることで衛生的で健康的な生活ができている。少し過保護過ぎる気がしないでもないが、大いに助けられ、守ってもらっているという自覚が彼にはあった。

 

そしてようやく、彼は誰かを守る番になった。人に守られる温かさと安心感を千景にも知ってほしいと、翼は切に願う。

 

 

「さて、もう行こうか。大丈夫、いざとなったら不登校になれば良いし」

 

「……いいの、かしら?」

 

そもそも不登校になる事を見込んでいるのなら、最初から行かなければ良いのではないか………と千景は思わないでもなかったが、口には出さなかった。

 

「良くないよ。あんなゴミ共のせいで『できない事』が増えるなんて、それこそ許せない事だから」

 

「でも、」と翼は続ける。

 

「学校に行って傷つけられるなら、行かない方が良い。だから、不登校は最後の手段に取っておくんだ」

 

一度不登校になったら、学校へ行けなくなる。それが分かっているからこそ、翼は多少無理してでも千景を登校させようとしているのだ。もちろん、そのためのサポートは惜しまない。彼は全力で千景を虐めから守り抜き、それで守りきれないようなら学校という環境から遠ざける。今日の登校は、言わばその見極めの為の偵察に過ぎない。

 

「………私はいいけど、翼君は?私を庇ったせいで、虐められるんじゃ…?」

 

千景はむしろ、翼を心配していた。なにせ、彼女を助けるためとはいえ、彼は女子生徒に怪我を負わせている。その報復に何かされないかと、彼女は心配していた。

 

「大丈夫。君を虐めるような奴に価値なんてないから、俺は一切手加減せずに済むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———結論から言うと、ある意味では『大丈夫』だった。

 

「………なんだ、ちょっぴり緊張してたけど、全然大した事ないじゃん。度胸のない奴ら」

 

「全然大丈夫じゃ、ないじゃない……」

 

心底拍子抜けした翼の声に、しかし千景は泣きそうな声で反論する。……否、彼女は実際に涙目だった。

 

 

「君がされてた事態にはなってないから、大した事ないよ。……レナはキレそうだけど」

 

確かに、卑怯な嫌がらせの標的にはなった。それでも、直接的な暴力の被害には遭っていない。

 

———朝登校したら、靴箱の中に毛虫が入っていて、上履きの中に画鋲が入っていた。

———自分の机に罵詈雑言が書き込まれていた。

———椅子の上にガムが貼り付けてあった。

 

せいぜいがその程度。どれも匿名性の高い悪戯。直接何か悪さをしてくるような輩はいなかった。

そして、今は昼休み。すなわち、あとは午後の授業をこなして終わりだ。

 

 

「本当に、小心者で卑怯な奴ばっかりだよな。女の子が相手なら暴力に訴えるくせに、一度ちょっとやらかした俺相手だと犯人の特定が難しい嫌がらせしかできないんだから」

 

「…………」

 

 

翼は堂々としている。どんな嫌がらせを受けても、まるで気にした様子がない。あるいはそれは、心の底から周囲の人間を無価値と断じているからか。

 

「それより心配なのは、次の体育の時間だよなぁ。……君と分かれて行動するって時点で、嫌な予感しかしないんだけど」

 

今朝から今まで、翼はずっと千景と共に行動していた。それは自分がいない隙に彼女に悪さをする連中を警戒しての事だったが、男女分かれて授業を行う体育はそうもいかない。

 

「男女混合なら、着替えの間だけ見張ってれば良かったんだけどなぁ」

 

男女で同じ内容の授業ならば、着替えは人気のないトイレの個室で行い、その間翼がトイレの個室の前で見張っていれば何とかなる公算だった。実際、千景は二回トイレに行っているが、用を足すのは人が通りかかり難い場所を選び、個室の前で翼が見張ることで事なきを得ている。逆に、翼がトイレに行くときは、同じような人気のない男子トイレの個室に千景を潜ませ、そのすぐ近くの小便器で用を足す事で何とかなった。………音とか気配で興奮を覚えたりしない事もなかったが、口に出してはいけない。虐めから彼女を守るには仕方のない事だったのだと、翼は自分に言い聞かせた。

 

 

「…その、そこまでして貰わなくてもいいわ。これまで、こんなに迷惑を掛けているのに………」

 

「迷惑じゃないよ。それに、ここまで来て放り出すのは無責任云々以前に気持ち悪いし……。体育は本当に危ないからね」

 

 

『いっそのこと、女子に交じって体育に出ようか』と本気で考える翼。体操着は男女共にデザインは同じなのだから、女子に交じったところで違和感はない。………だが、そもそも転校初日でやらかして有名になっている以上、他クラスの生徒はともかく同じクラスの生徒や教師にはあっさりバレる可能性がある。あまり賢い選択とは言えない。

ちなみに、男子は外でサッカー、女子は体育館で器械体操。行う場所が異なる以上、男子側の授業に参加をしながら女子の方に意識を割く事もできない。

 

 

「昼休み終了まで、あと10分……どうするか」

 

今翼達がいるのは、本来ならば立ち入り禁止の屋上だ。しかし立ち入り禁止と書かれていても、鍵が壊れていてはあっさり入れてしまう。厳重にテープで留めてあっても壊れた鍵が修理されていないところを見るに、よほどこの学校にはお金がないのだろうか。

 

うんうん唸っても、良い解決法は出ない。こういう時ばかり思考は嫌な方向へと進み、『千景を体育の授業に出席させる』という選択が危険に思えてならなくなる。

 

———例えば、跳び箱に細工をされ、跳んだ時に崩れて大怪我をする。

———例えば、落ちた時に首の骨を折り、植物状態になる。

 

 

「……なあ、千景ちゃん」

 

「……なに?」

 

「………危ないから、帰ろうか」

 

「………そう、ね」

 

あまりにも恐ろしい想像に、翼は戦略的撤退を決断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———そんな調子で、時は流れる。

 

神崎翼は、去年までは優等生だった。出された課題は不足なくこなし、授業でも積極的に手を挙げ、問題を解く。試験では常に高得点を取り、クラスメイトに頼まれれば勉強を教えたりもした。

 

ところが、この中学校における彼の評価は真逆。転校初日に暴力沙汰で出席停止(という体の停学)、集団行動のルールを守らず、度々授業をサボって帰宅する問題児。そのくせ試験の成績だけは良いのが何とも憎たらしいというのがほとんどの教師の認識だった。

 

なぜそうなったのかと問われれば、翼が『公共のルールよりも自分で定めたルールに従う性質の人間だったから』と答える他ない。彼には自分で定めたいくつかのルールが常に存在していて、そのルールには絶対に背かない。『そのルール』とは、すなわち彼にとっての正義であり、行動の軸だ。その軸に則って彼は行動し、公共で定められた規則と自分のルールが矛盾を起こした場合、彼は迷わず自分のルールを優先する。

 

たとえば、前の学校までは、彼が自分で定めたルールと公共のルールはほとんど一致していた。真面目に授業に取り組むのも、試験で高得点を維持するのも、クラスメイトとコミュニケーションを取る事も、学校のルールと言うよりは『自分で決めたルール』に従った結果と言える。そして、その周囲からの評判が良かった事が『彼が自分のルールに従った結果』ということは、すなわちそれは翼が前の学校に価値を見出していたからに他ならない。

 

………ならば、今の彼はどうか。

 

彼の今のルールには、『郡千景を守る』事が含まれている。そして今の学校は、その環境そのものがこのルールに反する。だから翼は学校のルールに従わないし、教師の言う事もまともに聞かない。必要ならば授業もサボるし、千景の周囲を見張る為に集団行動の流れにも逆らい、この学校の生徒を『無価値』と断じてコミュニケーションも取らない。そして無価値だと心の底から思えているから、執拗な嫌がらせにも平然としていられるのだ。少なくとも、表向きだけは。

 

この状況について、郡千景は何も言えない。言えるはずもない。なぜならば彼女は『守ってもらっている立場』だ。そして翼の庇護無くして学校生活を送れるはずもない彼女は、翼に対して『自分の事を守るのを止めるように』言う事が出来ない。孤独に対して弱り切ってしまっている千景は、学校全体に立ち向かう勇気など持てなかった。

 

———故に、この状況に正々堂々と文句を言えるのは()()だけだ。

 

 

「他県に引っ越すべきです!それが無理なら、翼さんと千景さんを私の中学に転校させて下さいっ!」

 

翼と千景が寝静まった後の夜。

神崎家のリビングで、レナの怒鳴り声が響いた。………翼と千景の部屋の壁が防音になっていなければ、起き出していたであろう声量だ。

 

「それも無理だ。一体何のために、お前と翼を別の学校に行かせていると思っている?」

 

彼女に相対するのは、神崎鷹雄。彼は激昂するレナに平然と切り返し———その態度が益々、レナを焦らせる。

 

「私は昔の私ではありませんっ。家の中ならともかく、学校の中なら()()()()できます!」

 

「きちんと、か。……まるで説得力がないぞ」

 

なぜ、同じ家に住んでいながらレナを別の学校に通わせているのか。その理由を正しく理解しているのは、鷹雄とレナだけ。そして翼にはレナが『お手本のような姉』だと思っていてほしいからこそ、この言い合いを彼が眠っている時間に行っているのだ。

 

 

「分かっています、翼さんを甘やかしてしまうだろうことは。……でも、今の環境よりはマシでしょう⁉︎」

 

「それで済めば良いがな。昔のように、やり過ぎて殺してしまうリスクは冒せん」

 

 

その反論に、……レナは何も言い返せない。

なぜなら、千景を追い詰めているのは学校だけではなく、この村全体だ。いくら離れた所にある私立の中学とは言え、レナの学校でも虐めが始まる可能性は完全には否定できない。

———そうなった時、レナはどう行動するのか。それは彼女自身にも分からない。千景だけならばともかく、翼が巻き込まれたのなら………レナには、自分を抑えきれる自信がなかった。

 

 

「とは言え、お前の言う通り、このままという訳にもいかん」

 

「…………」

 

俯くレナに、鷹雄は少しだけ微笑み、

 

「金がいるな。……教育委員会に通報するのは当然だが、確かにここを離れた方が賢明かもしれん」

 

そんな事を宣った。

 




本日カスタムキャストを始め……ハマりました。
取り敢えずレナさんを作りましたが、……イメージにはかなり近づいたし、文句無しの美少女ではあるものの、まだまだカスタマイズしたい。
絵心が無い以上、自分の頭の中にいるキャラクターを出力する手段はこれしか無いのだ……!



脱線しました。
皆さん、良いお年を!
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