結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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ハーメルンよ!私は帰ってきた!


卒論が終わり、「時間があるし、お金ないからバイト増やすか」と調子に乗ってバイト増やした事と、執筆スピードが遅くなっていた事により、想定よりも投稿が遅れました。
大変お待たせしました。
長い期間投稿していなかったにも関わらず、お気に入り登録をしてくれた方。そして、感想を下さった方、誠にありがとうございます!



……読みたい作品、全然読めてない……。


西暦2017年 9月 “問題児達”

(あ、しんじゃう)

 

どくどくと、私の身体から血が抜けていきます。お腹に空いた穴は熱くて、そこから流れ出る真っ赤な血が広がるとともに私の体の芯は冷えていきました。

 

死んだら、どうなるのでしょうか。天国は本当にあるのでしょうか。

———翼さんは、悲しんでくれるでしょうか。

 

バカなことをしたものです。小学生が鉄パイプなんて持ったところで、拳銃を持った大人に勝てるはずないのに。

でも、許せなかったんです。私の大好きな翼さんに、彼らは傷をつけました。頬が腫れ上がっているのを見たら、正気なんてとても保ってなんかいられなかった。

———そして駆け出したところであっさりとお腹を撃たれ、このザマ。いっそシュールなギャグ漫画にでも掲載されそうな瞬殺劇でした。

 

お父様に、助けを求めるべきだったんでしょうか?そうすれば、私は怪我をしないまま、翼さんも無事に助かったんでしょうか?

でも、お父様は海外にいます。すぐには帰って来られません。お父様ならどんな時でも電話に出て、きっと翼さんを助けるために駆けつけてくれると思います。それでも、すぐには帰って来られない。日本に着く前に翼さんの命が危ないかもしれないんです。だから、私がお姉ちゃんとして助けなきゃいけないと思いました。

 

耳が遠い。でも、翼さんの泣き叫ぶ声が聞こえます。幻聴でなければ、私のために泣いてくれているんでしょう。とてもうれしいと思いました。

倒れている私は、大人に蹴られて転がります。お腹が熱くて、何も感じませんでした。

 

翼さんの悲鳴が聞こえます。「もうやめて」と、私の弟は叫びました。「レナが死んじゃう」というセリフも聞こえました。どうやら私は、瀕死の重体にも関わらず、追い討ちを掛けるようにリンチされてるみたいです。許せません。私の大好きな翼さんに、翼さんが「可愛い」と言ってくれた私の身体に暴力を振るう様を見せつけるなんて、翼さんの心の成長に悪い影響が出てしまいます。

 

———翼さんのこれからの人生に影響してしまうほどの心の傷を、私は許せませんでした。

 

 

 

「あれ?」

 

気がついたら私は、血塗れになって立っていました。誘拐犯達は、みんなみんな死んじゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人並んで通学路を歩き、バス停から発車間際のバスに乗る。早い時間であるためか、他に乗客はいない。

 

「……部活の朝練とかで早く乗る人がいると思ったんだけどな?」

 

「でも、まだ6時よ?流石に早すぎるんじゃないかしら……?」

 

「野球部とか厳しい部活なら、そのくらいの時間が妥当な気がするけどな」

 

そもそも、なぜこんなに早い時間なのかと問われれば、「どんな学校なのかを突き止めるため」と答えるしかない。

なにせ、翼も千景も、転校先の中学について何一つ知らない。ホームページで校舎の外観を見た程度。見た感想は『普通の中学校』だが、それ以外は何も知らない。不思議なことに、転校手続きや入学試験などの情報も載っていなかった。

 

「もっとも、早く行ったところで……生徒がいないんじゃ、その学校の実態なんて分からないだろうけど」

 

中学生活の良し悪しを決めるのは周囲の環境で、そしてそれは生徒達によって決まる。いくら教師が有能な人格者であったとしても、陰で発生する虐めなどのトラブル全てを認知できるわけではないのだから。

 

「……そう、ね」

 

千景はこれまで自分がいた学校を思い出した。虐めを見逃し、外面だけが良い大人たち。あれならば、生徒がいなければ良い大人にしか見えないだろう。虐めに加担こそしないものの、生徒による虐めを咎める事もしない。……もっとも、千景の場合は村全体が敵対していたようなものなのだが。

 

そのまま沈黙が続く事15分。バスは次のバス停に停車し、

 

「あれ、翼ちゃん⁉︎」

 

「あ」

 

真っ白な乗客が乗ってきた。

白い肌に、白い髪。背が低く、しかし女性らしさを持ち始めた身体の少女。

 

「久しぶり、ライキ。病院以来か」

 

「うん、4ヶ月ぶりくらいだね!」

 

工藤雷姫。 小学生の頃からの友人が、同じバスに乗車した。

 

「千景ちゃんも久しぶり!」

 

「……お久しぶり、です」

 

「敬語じゃなくていいのに……」

 

「ライキとちかちゃん、面識あったんだ」

 

同じ病院に入院していたのだから、面識があっても不思議ではないが……基本的に病室に閉じこもっていた千景が翼以外の人間と接する機会はそうそうないように思えた。

 

「…お手洗いに行く時に、病院の中で迷ってしまって……その時、彼女が助けてくれたのよ」

 

「ヘルプ率高いな、ライキ」

 

思えば、翼が病院内で迷った時も案内してくれたのが雷姫だ。エンカウント率が高い辺り、足を悪くしているにも関わらず病室の外へ出る事が多かったのかもしれない。当然だが、バスに乗っている現在は松葉杖を使っていなかった。

 

 

「そういえば、ライキってどこの学校通ってるの?」

 

「そういえばなんで翼ちゃん達はこのバスに乗ってるの?」

 

 

翼と雷姫の質問はほとんど同時だった。

翼は、雷姫の服装が私服である事に気付いていた。———今日は平日だ。朝早く出かけるにしても、学校の制服を着ているのが自然な筈。もしかすると、創立記念日で休みなのかもしれない。

 

雷姫は、翼と千景がこのバスに乗っている事に疑問を抱いていた。———このバスを利用する人間は決して多くない。このバスの乗客の多くは、雷姫の通う中学の生徒だ。

———まさか、とは思う。これほどまでに都合の良い事などある筈がない。

 

先に問いに答えたのは、翼だった。

 

「見ての通り、通学。今日から転校するんだよ」

 

「!?!!???」

 

———雷姫にとって都合の良い事態が起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———転校先の中学は、なんともへんてこりんな学校だった。

雷姫の通うその中学は、髪型どころか服装の制限もない。制服こそあるものの、私服登校が可能。故に雷姫は私服でバスに乗っていたわけだ。

転入試験は存在しない。私立の中学であるにも関わらず、入試そのものがない。この学校に通う事ができるのは、家庭環境や周囲の環境に問題があり、通常の学校に通う事が困難となった優秀な少年少女。その『優秀さ』はそれまでに受けた模試の成績等によって評価され、正規の入学試験は存在しない。いわゆるコネによる裏口入学しか入学する方法がないという、学校として破綻したシステム。いくら学費がバカ高くとも、そもそもこのシステムではほとんど生徒は集まらない。生徒が集まらなければ利益が出ないのだから、当然学校の維持はできない。……どうやって成り立っているのか全く分からない学校だった。

今更であるが、一学期に通っていた中学内における評判とは打って変わって、翼も千景もテストの点数は良い。世話焼きのレナが千景の勉強を熱心に手伝った結果、ゲームに費やす時間が犠牲になると共に彼女の期末テストの順位は2位にまで上がっていた。そして翼は1位。その差は僅かなもので、翼は内心ヒヤヒヤし、悟った。———油断していたら、千景に抜かれると。

元々地頭が良いのか、それともゲームにより培われた集中力によるものか。千景は非常に学習能力が高く、レナを驚かせた。虐めさえなければ、もっと良い成績であった事は間違いない。既に彼女は、ストレスによる記憶能力の低下を克服しつつあった。

 

そして、今回の転校先である中学の生徒は、いずれも勉強のできる者ばかり。———つまりそれは、これまでのように容易に学年トップの成績を維持できない事を示している。

 

翼と千景が学校に到着したのは、1時間目の授業が始まる1時間半前。空き時間を使って、雷姫が学校の中を案内してくれた。……なぜか、翼に「大丈夫?ちゃんと覚えてる?」と確認していたが。

そして校舎内全てを見回り、雷姫に連れられて教室へ到達する。この学校のシステム上、生徒は普通の学校とは比較にならないほどに少ない。一学年につき教室は一つ。学校全体での生徒数は100人にも満たない。———逆に言えば、周囲の環境によって通常の学校に通う事が困難な優秀な中学生がそれだけ集まったとも言える。

 

 

「……空っぽ?」

 

「まだ30分前だからね。みんな、だいたい授業が始まる直前に来るから。……でも、今日はホームルームがあるから、早めに来るかも」

 

雷姫に連れられて入った教室には誰もいない。白い照明だけがついた、ガランとした空室。その広さに対して、机と椅子の数は少ない。見たところ15から20程度。

 

「……まあ、全校生徒が100人いないんじゃ、こんなもんか」

 

「人数は少ないけど、楽しいよ。面白い人ばかりで」

 

「……?」

 

『面白い』という言葉には、大きく分けて二つの解釈がある。すなわち、『笑える』か、『興味深い』か。『馬鹿と利口は紙一重』という言葉がある。なるほど、『優秀な中学生』が集まるこの学校ならば、馬鹿な事をやらかす人間もいるのだろう。

 

「たとえば、お尻叩かれてお礼を言う人とか」

 

「ドMだなそれ」

 

「あと、服装自由である事をいい事に上半身裸で来る人とか」

 

「露出狂ね……」

 

「他にも、トイレの個室でお弁当食べる人もいるよ?」

 

「……なんか悲しいな」

 

『周囲の環境に問題があって普通の学校に通えなくなった優秀な中学生』とはなんだったのか。話を聞いている限り、当人達に問題があるように思えてならない。要するにこの学校は、変態と変態とボッチが通う中学らしい。

 

 

———そんな会話をしながら、朝のホームルームが始まるまでは過ごしていた。

それまでは平和だった。ホームルーム開始5分前になっても誰一人として教室には入ってこなかったので、雷姫は翼と千景にこの学校についての話を続けた。

その状況が一変したのは、ホームルーム3分前。

 

「Hello♪あら、新しいお友達っ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「おはよう、綾ちゃん」

 

翼と千景が絶句し、雷姫が慣れた様子で挨拶をする。

 

 

———教室に入ってきたのは、痴女だった。

 

 

明らかに染めている金色のツインテールに、カラーコンタクトを入れたであろう青い瞳。”Hello”の発音がやけに良かった事から、相当練習したであろう事が窺える。恐らくは外国人ぶりたかったのだろうが………残念ながら、血筋だけなら明らかに日本人ではない義理の姉がいる翼にとって、彼女のハリボテは一目瞭然だった。天然物にはどうやっても勝てないのだ。

……それは良い。問題は彼女の服装だった。

やけに丈の短いスカート。そこはまだ許容できる範囲であるとしても、胸に晒しを巻いて学ランの上着を羽織っただけの上半身は完全にアウトだ。翼や千景達と同じ中学2年生とは思えない大人びた体型であるから、背徳感が凄まじい。外を歩いていたら確実に職務質問でもされそうな姿。一体どうやって登校してきたというのか。

 

「天童綾音よ。宜しくね、転校生さん達」

 

痴女……もといヤンキーのような見かけに反し、フランクでまともな話し方だった。

 

「……こちらこそ。俺は神崎翼。宜しく」

 

「郡千景、です」

 

まさか上半身が裸であるのが女子生徒であるとは思いもしなかった翼だが、相手の態度からコミュニケーションは問題ないと判断する。前の学校で意思疎通の余地なく千景が虐められる環境にいたためか、装いがおかしくともコミュニケーションが取れれば翼に不満はなかった。

天童綾音の登校を皮切りに、続々と生徒が入ってくる。彼らは教室に入る時に軽い挨拶をし、翼と千景を一瞥してから席に着く。その様子を見る限り、天童綾音の対人コミュニケーションスキルはクラスの中でも一段上らしい。初対面で翼や千景に挨拶をするのは綾音だけだった。

 

「Good morning!」

 

そしてホームルーム1分前になると、1人の男子生徒が姿を現した。髪を赤く染めた、美男子と呼ぶに相応しいイケメン。流暢な英語で挨拶をし、教室に入るや否や———

 

「らぁッ‼︎」

 

「ありがとうございますっ‼︎」

 

天童綾音に回し蹴りをされ、なぜか礼を言いながら漫画のように飛びながら机に激突し、床に倒れた。

 

 

「⁉︎」

 

「⁉︎」

 

 

翼と千景が唖然とする中、……雷姫含む生徒達は平然としていた。どうやらいつもの光景らしい。

そして蹴り飛ばされた残念イケメンはビクンビクン痙攣しながら、「ああ……この威力………パンチラ……素晴らしい」などど呟きながら恍惚としていた。

 

((うわぁ……))

 

翼も千景も内心でドン引きだ。まさか格好以外はまともだと思っていた上半身露出少女がいきなり回し蹴りを仕掛ける暴力少女で、やられた被害者は蹴られて喜ぶ変態。

 

「はぁ……はぁ……」

 

……よく見たら、天童綾音も何やら顔を赤くして恍惚とした笑みを浮かべていた。どうやら変態同士仲良くやっているようである。

 

 

これが、翼と千景の転校先となる中学校の初日の朝だった。

 




天童綾音
痴女。暴力を振るう事と裸とかパンツを見られる事に喜びを感じる変態。その格好でどうして登校できるのかという謎はまだ誰にも解明されていない。



これはフィクションです。こんな少人数の、問題児ばかり集めた入試の無い私立中学はありません。多分。
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