結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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カメールさん、渚のグレイズさん!新たに評価ありがとうございます!そして投稿遅れてごめんなさい!就活で忙しくなってきたのでご了承を!


戦意

今日の私は、調子が良い。幻聴は一切聞こえず、感情も落ち着いている。いつもなら嫌な考えが常に頭に過ぎり、何かに対して不安や苛立ちを感じているのに。

 

———理由ははっきりしている。

 

友奈が一晩、ずっと一緒にいてくれたからだ。本当に、友奈さえいれば薬はいらない。アニマルセラピーならぬ友奈セラピー。ああ、素晴らしい。世界はこんなにも美しかったのね。

 

私はルンルン気分のまま、1日を過ごした。授業は一切居眠りをせず、苦手な国語の授業でさえ積極的に挙手し、休み時間は友奈の写真を眺めながら前の時間の授業で出た課題を速攻で終わらせた。

 

———そして、あっという間に放課後。

 

(……そういえば、勇者についての説明は今日してくれるんだっけ?)

 

とはいえ、昨日は何事もなく乗り越えられたのだ。そう悲観的になることはないだろうと私は考えた。

 

「結城玲奈、入りまーす」

 

ルンルン気分のまま、私は勇者部の部室に顔を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、全員揃ったわね」

 

玲奈が入室し、勇者部のメンバーは全員揃った。あとは、風が説明を行うのみ、なのだが。

 

(…覚悟はできてるけど、結構キツイわね)

 

これから話すことは、勇者部の面々にとっておそらく衝撃的なことだ。だが、言わねばならない。

 

———もしかしたら、嫌われるかもしれない。

 

特に、玲奈は怒るだろう。溺愛する妹を危険な目に合わせたのは、風なのだから。

あるいは、友奈が怒るかもしれない。普段でさえ精神的に不安定な姉に、トラウマを植え付けるかもしれなかったのだから。

 

しかし、それは仕方がない。神樹様に選ばれる確率は低かったし、予め話していたら、玲奈の精神状態がどうなるか予想できなかったのだ。それに、このお役目は極秘。もし選ばれなかった場合、勇者について話すのは部外者に機密情報を漏らしたことになってしまう。

 

風は、もう一度覚悟を決めた。みんながついて来てくれると、そう信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風先輩は、語った。

昨日の敵、バーテックスが全部で12体いること。他にも勇者の適正のある人間が意図的に集められた集団がいること。そして、数ある集団の中で讃州中学勇者部が選ばれてしまったことを。

勇者の役目は、神樹様から授かった力を使ってバーテックスを殲滅すること。当然、命の危険もある。

 

「こんな大事なこと、ずっと黙っていたんですか。……みんな、死んでいたかもしれないんですよ」

 

説明が終わると、東郷はそう言い捨てて部室から出ていった。すかさず友奈が、「私、行きます」と言って東郷を追いかける。……部室に残るのは、気まずい雰囲気の私、樹ちゃん、風先輩の3人だけ。

 

「…やっぱ、怒るわよね……。玲奈は、怒ってないの?」

 

「怒ってません」

 

風先輩の問いに、私は即答した。———幻聴が、聞こえない。

 

「友奈が怪我でもしたら怒ったかもしれませんけど。でも、そうはならなかった。それに、風先輩が私のことを気にして黙ってくれていたことくらいは分かりますし」

 

「……そっか」

 

「それに、東郷も本気で怒っていたんじゃないと思います。……私には、自分が役に立っていないことを気に病んでいるように見えました」

 

精神が安定している今なら分かる。私と東郷は、よく似ている。

私たちは、互いが互いに羨ましくて仕方がない。おそらく東郷は友奈と誰よりも長く一緒にいる私が羨ましいし、足が動かないことで友奈に迷惑を掛けてきたと思っているのだろう。……友奈本人は、迷惑だなんて思っていないにも関わらず。

私だってそうだ。出会って一年ほどしか経っていないのに友奈から『一番の大親友』と呼ばれる東郷が妬ましいし、出会った頃から私は友奈に迷惑ばかり掛けてきた。……面倒くさい人間だって自覚はある。

 

「……でも、黙ってたのは事実だし。どうすれば東郷と仲直りできる事やら」

 

「ちょっと占ってみるね」

 

そう言って、カードを捲る樹ちゃん。———捲ったカードが突如、不安定な状態で静止する。

 

 

 

 

 

「…あれ、まさか……」

 

そして、()()()()()()()()()()()()()、樹ちゃんと風先輩のスマホから鳴り響く。

 

「なに、これ……?」

 

「嘘、まさか連日⁉︎」

 

 

樹海化が始まったのは、時間が静止した時に分かった。

 

……でも、樹海化する前の警報なんて、私のスマホからは鳴らなかった。———今も、昨日も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今回は三体、か」

 

風先輩が呟く。

前回の敵は一体。そして今回は三体。単純計算で前回の労力の三倍。もしも敵に知性があり、連携などを取ろうものなら倒す苦労や難易度はさらにその何倍にも跳ね上がるだろう。

 

(関係ないっ。敵が増えた?ならばこっちは、昨日よりも絶好調よ)

 

精神状態というのは、その人間の能力に大きく影響を与える。友奈のおかげで、今の私のコンディションは最高。昨日よりも遥かに強い。たとえどんな敵が相手でも、負ける気がしない。

私の目的は、友奈を守ること。彼女に怪我を負わせることなく戦いを終わらせられれば重畳。……そして、攻撃は最大の防御。私が突っ込み、敵が攻撃を仕掛けてくる前に殲滅してしまえればベストだ。

 

 

 

昨日と同じ手順で、変身する。戦う意思を示してアプリをタップすれば、昨日と同じように変身でき——————なかった。

 

「……あれ?」

 

「玲奈?」

 

何も、変化が起こらない。昨日よりもやる気があって、コンディションも最高なのに。うんともすんとも言わない。

 

「なんで、変身できないの…?」

 

戦う意志を示せば、変身できるのではなかったのか?……それとも、スマホが原因?樹海化の警報だって、私だけ鳴らなかったし。

私は途方に暮れて、立ち尽くした。……立ち尽くすしか、なかった。

 

———幻聴は、聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行ってくるね」

 

「…あ、友奈ちゃんっ…」

 

東郷と共に樹海化に巻き込まれた友奈は、東郷を安心させるように彼女の手を握った後、バーテックスの方へと駆けて行った。

 

(…早くやっつけないと!)

 

玲奈や美森を、危険に晒したくない。友奈はその想い一つで、バーテックスに立ち向かう。……自分がやらなければ、昨日のように玲奈が無理をするかもしれないから。

友奈は玲奈をよく見ている。戦う前までは安定していた姉の心が、戦闘中にいきなり乱れたのも一目で分かった。それが戦いによる緊張のためなのか、勇者の力によるものなのかは分からないが、いずれにしろ玲奈に戦わせるわけにはいかない。……友奈は、玲奈を幸せにしたいのだから。

すぐに風や樹と合流すると、玲奈がいないことに気づく。

 

「…あれ?風先輩、玲奈ちゃんは?」

 

「理由は分からないけど、なんか変身できないみたい。仕方がないから、私達だけで行くわよ!」

 

「はいっ」

 

友奈は密かに安堵した。勇者になれないのなら、戦う必要はない。玲奈は自分を責めるかもしれないが、敵をこちらに引きつけておきさえすれば危険な目に遭うことはないはずだと、そう思って。

 

「あの遠くにいる一体は放置っ。まずは近くにいるあの二体を先に封印するわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———そして、数分が経った。

 

「どうして、どうして変身できないのっ⁉︎」

 

玲奈の口から、悲嘆と焦りの混ざった悲鳴が溢れる。

友奈が、バーテックスの矢に襲われるのを見た。バーテックスの尾に弾き飛ばされるのを見た。そのまま針で突かれるのを見た。———精霊の守りが無ければ即死であったであろう攻撃。

 

 

……誰かが、あのバーテックスの針に貫かれ、絶命する光景がフラッシュバックする。

 

(……早く、早く早く早くっ!)

 

焦りばかりが募る。今は無事でも、いずれ精霊のバリアにも限界が来るかもしれない。そう思うと、平常心を保ってはいられない。しかし、相変わらず勇者システムは沈黙したまま。もう、生身のまま突撃しようかと考えた、その時。

 

「友奈ちゃんをいじめるなぁーーっ‼︎」

 

叫びと共に、美森が勇者に変身していた。

 

 

 

 

 

 

(……ほら、やっぱり役立たずのまま。東郷さんも変身できたことだし、本当に用済みね?)

 

………。

 

(……結局、無理なのよ。精霊がいなければ、あの子は●●●さんと●●さんの二の舞になっていた。どう頑張っても、私達に仲間を守ることなんて……)

 

 

「るせえさっさと変身しろぉーーーーっ‼︎」

 

精神の安定を犠牲にして、玲奈は勇者になった。——幻聴は、終わらない。




オリジナル設定マシマシです。
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