結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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一人暮らしを始めて一週間。家事は思っていたより大変ではないものの、時間もお金もあっという間になくなって怖い。……ぐんちゃん引くために課金したいのにッ‼︎



さて、今回のお話は。
読んだ後に背中がムズムズしたり、最後まで耐えられなくて読めなかった人。既に厨二病を卒業していますね?
読んだ後に伏線(のようなもの)を見つけて考察する人。……多分そんなにいないな。


要するに、オリジナル入れ過ぎてお気に入り数が減少する類のお話である事をここに明記しておく。


後、活動報告にて、カスタムキャストについてのアンケートもしております。宜しくお願いします!





西暦2018年 4月 “天の裁き”

———リスクを度外視したわけではない。

 

俺は、自分がどれだけ恵まれて育ったかを知っている。尊敬する父親と美人で優秀な姉に愛され、過保護なほど守られながら生きてきた。だから、せめてその二人を悲しませる真似はしまいと、そう思っていた。

 

———でも、だからといって目の前で殺されそうになっている彼女を見捨てるなんて、できる筈がない。

 

避けたい事態を天秤に掛け、どちらを優先すべきかを考える。そうすると、避けたい事態は思いの外多くて、とても天秤の二つの皿じゃ足りない。

まるで死ぬ間際の人間が走馬灯を見るかのように、眼に映るもの全ての光景が遅くなる。それに反して、俺の思考はクリアで冷徹に、そして普段の何倍ものスピードで回り始めた。

 

———ちかちゃんを見捨てるのは論外。

———かと言って、自分を犠牲にするのも論外。身を盾にして彼女を守ったところで、俺を排除した後にちかちゃんに危害が及ぶのは明白。何より、それで俺が死んだりしたら、レナがどうなるか分からない。

 

———だとすると、もう敵対分子を排除するしかない。

 

 

短絡的にも思えるその結論は、しかし俺には魅力的に思えた。

 

———不意打ちで一人殺せたとして、残り二人。残りの二人が逃げてくれれば問題なし。仮に襲いかかってきたとしても、相手が冷静さを失った状態ならば処理出来る可能性は十分にある。

 

———問題は、俺が人殺しに対して躊躇や忌避感、そして事を成した後の動揺に支配されてしまうこと。もしも不意打ちの後、動揺して僅かでも時間を無駄にしてしまうような事があれば、それだけで生存率は一気に下がる。淡々と仕事を全て終わらせるつもりでないと、即死すると考えて間違いない。

 

———後の問題は考えるな。そこに思考が及んだ途端に、二人揃って生きて帰れる可能性はぐっと下がる。

 

 

俺は、愚かと知りながらも決断した。

 

———そして、その結果がこれである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ⁉︎」

 

殴り飛ばされた翼は、そのまま壁に激突した。持っていたナイフは弾き飛ばされ、手が届かない。

 

「ふざけやがってっふざけやがってふざけやがってっ‼︎てめえ、ぶち殺してやるっ‼︎」

 

「刺したりはしない。お前は、ボコボコに殴って、殴って殴って殴り続けて、最大限苦しませてから殺してやるよ」

 

翼の甘い目論見は、あっさり崩れる事になった。

確かに、一人を刺殺する事には成功した。しかし、残りの二人は逃げ出したりなんかしなかったし、翼は千景の異変一つで冷静さを失ってしまった。ミッションに失敗した彼に与えられたのは、反撃はおろか息継ぎさえ許されないほどの暴力の嵐。

金属バット一本。彼ら二人が持つ凶器はそれだけだが、別に暴力に凶器はいらない。片方が金属バットを使うなら、もう片方は素手と脚を使って嬲れば良い。細身の中学生など、大人にとってはさしたる脅威でもないのだから。

 

 

「……やめ、て……」

 

それを見ている事しか出来ない千景は、ボソリと呟くしかない。

痛みに耐える翼の呻き声は、彼の身体が受ける打撃音で掻き消されて聞こえない。肉を打つ音と骨が割れる音が響き、その度に血飛沫が床に飛ぶ。

 

 

「もう、やめて……つ、つばさ君が、しんじゃ……」

 

 

どうしてこうなったのだろう、と千景はぼんやりと考える。

今日は、いつも通りの日常を謳歌するはずだった。いつもみたいに翼と喋りながら登校して、クラスで雷姫や天童綾音と言葉を交わし、ちょっぴり退屈な授業を受けてから帰宅し、レナの家事を手伝う。そんななんでもない幸せを享受するはずだったのだ。

 

(……また、私のせい?)

 

誘拐犯達の会話から、彼らは翼の転校初日に、翼によって一網打尽にされた女子生徒の関係者である事は分かっている。そして今回の事件が、その報復であることも。だから、翼が千景を助けなければ———千景がいなければ、翼はこんな目に遭わずに済んだはずなのだ———

 

 

(———ふざけるな)

 

 

その思考を、千景は憎悪で以って否定した。

 

(翼君は、私を助けてくれただけ。私は何もしてないのに、あいつらが虐めていただけ。なのに、なんで翼君がこんな目に遭わなきゃいけないのっ⁉︎)

 

千景を助けた翼が、こんな目に遭う道理は無いはずだ。虐めをしていた彼女らは、その報いを受けただけなのだから。

 

(許さない)

 

翼を傷つけられる事に対する恐怖は、理不尽への憎悪に変わる。

 

(殺してやるっ。こいつらもあいつらも、みんなみんなみんなっ‼︎)

 

翼に暴力を振るう二人の男は気付かない。———千景の髪が白銀に染まり、瞳が真紅に変貌した事に。

 

(———皆殺しにしてやるっ‼︎)

 

 

そして、千景の憎悪がピークに達し、

 

 

———空から絶望が降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、本当に一瞬の出来事だった。『バギャン』とも『ズバン』とも言えぬ轟音を立て、廃ビルの天井が砕け散る。そしてその事実が認識される前に、翼を甚振っていた男の一人が空から降ってきた白い『何か』に『グチャっ』という水っぽい音を立てて押し潰された。

 

 

「へ、あ、……え?」

 

砕けたコンクリート片や砂埃が空気中に舞い、何が起きているのかは生き残った男にはよく見えない。だが、ぐちゃぐちゃと何かを咀嚼するような音だけが聞こえた。

———そして、視界が晴れる。

 

 

「う、あ、うわあああぁぁあああッ⁉︎」

 

晴れた視界に映ったものを見て、男は絶叫する。……彼が目にしたのは、膝辺りで千切れた脚。それがコンクリートの床に転がっていた。

———そして、それよりも目を引くのが、見たことも無い異形の化け物。

見た目を形容するなら、オタマジャクシのような何か、だろうか。オタマジャクシの尻尾を切り落として頭を長くすればその概形に近くなると思われるが、オタマジャクシのような可愛らしさは微塵もない。ただただ悍ましく、不気味。

………そしてその口と思われる器官からは、まるで咀嚼するかのような音と共に赤い液体が流れ出ていて。

 

 

「ああぁああぁああぁああぁあああぁあ⁉︎」

 

仲間が包丁で刺されても投げ出さなかった男が、絶叫しながら走り出そうとする———が、腰が抜けたのか、すぐに転んで立ち上がれない。這うようにして少しずつ進むものの、逃げ出すのに何時間もかかるであろう遅さだった。

 

 

(なに、これ……私は、これを知っている?)

 

一方、千景も身動きができなくなっていた。———ただし、恐怖ではなく既視感によって。

初めて見るはずなのに、『何度も何度も繰り返しこの敵を倒してきた』という妙な実感がある。心なしか、手に馴染む——の感触までもが生まれてくるような———

 

「つ、翼君っ!」

 

既視感によって生まれた雑念は、目の前の光景によって掻き消された。

視界に映るのは、地面に倒れたままピクリとも動かない翼と、異形の化け物。———翼は、生きているかどうかも怪しい。手足はあらぬ方向へ折れ曲がり、身体中が痣だらけになっている。そしてどう見ても重傷で動けない彼に、白い怪物が喰らい付こうとした、まさにその瞬間。

 

 

 

———異形の化け物は、一瞬で切り刻まれて破片と化した。

 

 

 

「……あ、え?」

 

拘束されたまま動けない千景の口から、唖然とした声が漏れる。———だって、今更気づいたのだ。千景の視界に、いつの間にか新たな人影が増えていた事に。

 

———その人影は、全身が真っ黒な闇に覆われていた。

影とも霧とも知れぬ、漆黒に塗れたシルエット。辛うじて剣のような物を持っている事が分かるが、判別できるのはそのくらい。その人影が男なのか女なのか、そもそも人間なのかすら分からない。目の前の状況から、千景が判断できるのは、『白い異形の怪物を斬ったのがその人影である』という事だけだ。

 

 

『チッ。手間を掛けさせるな』

 

ノイズの掛かった、合成音声のような声がその人影から発せられる。———その声の高さから、恐らく女性であると千景は思ったが、確証はない。ただ、その声を聞いた途端、千景は背筋が凍りつくような錯覚に陥った。

 

———冷たい声に込められた感情は、世界の何もかもを燃やし尽くしてなお足りない熱量を秘めていた。

 

それは憎悪とも愛情とも知れぬ圧倒的なまでの”熱”。その感情が、あろう事か倒れたままの翼に向けられている。千景は確信した。その感情が人を慈しむ好意であれ、或いは人を害する悪意であれ———一個人に向けられれば破滅をもたらすと。

 

漆黒の人影は、倒れたままの翼に向けて手をかざす。……そして、その手には青黒い炎が灯っていて。

 

「……や、やめ……」

 

千景の制止に構わず、その人影は翼に向けてその炎を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———最初は、見ないフリをした。

 

だって、余裕が無い。彼女にとって一番大切なのは神崎翼で、翼よりも優先すべき事なんて無い。だから、辺りに広がる非現実的な地獄から目を背けて、ただただ走った。

でも、異形は上から絶え間無く降ってくる。地獄を見ないフリをしようにも、嫌でも現実を直視せざるを得なくなった。

 

腕や脚を失った人がいた。『助けてくれ』と叫びながら、怪物に喰われた人がいた。異形の群れは何をしても傷がつかず、人々にできるのは逃げ回って生存の時間を少しでも引き延ばす事だけだった。

 

 

———次は、自分を正当化しながら逃げ回った。

 

この村の連中は、千景や翼に嫌がらせをした。だから、報いを受けて当然だと、そう言い聞かせながら走り回った。縋る子供を無視し、泣き叫ぶ母親を無視して、ただがむしゃらに翼を探し続ける。

 

(……どこ、どこですかッ⁉︎翼さんッ⁉︎)

 

神崎レナは探し続ける。混乱の極みにある彼女にとっては、もはや『翼を探さなければならない』という事以外何も分からない。

そして、それで十分なのだ。翼のいない世界など、彼女にとってなんの価値もないのだから。

 

———だから、彼女は気付いてすらいなかった。周囲の人間を襲う怪物が、自らにも迫っている事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———翼に向けて放たれた炎は、しかし翼に傷一つつける事はなかった。

 

「こ、これ、は………?」

 

もはや何度目かも知れない驚愕が千景を支配する。

炎は絶えず翼に放たれ、彼の体を覆い尽くす。そしてその炎が包み込んだ傷が、みるみるうちに癒えていくのだ。痣は消え、あらぬ方向へと曲がっていた腕は元どおりになり、出血していた皮膚は傷一つない色白の肌を取り戻す。

 

———驚く事ばかりで、黒い人影に対する恐怖が消えたわけではない。しかし少なくとも、敵ではないらしい事は千景にも理解できた。

 

「あなた、は?」

 

声を絞り出し、人影に問う。

 

『……………』

 

それに対する返答はない。ただ、一瞬。ほんの一瞬だけ、漆黒の闇が薄くなり、真紅の瞳が覗いた。

 

「え、あの……」

 

磨き上げたルビーのような瞳。その眼光が千景を射抜くが、その視線に不思議と恐怖は感じない。それどころか、最初に抱いていた恐怖がいつの間にか消えている。

そして、千景は悟った。———名乗る気は無いが、敵では無いことを示す意思表示であるという事を。

 

 

「た、助けてくれ…っ」

 

その時、誘拐犯の中で唯一生き残った男が、掠れた声で助けを求める。見ると、翼のナイフで刺された男に縋り付いていた。

 

「魔法でもなんでも良いっ!よく分からないが、あんたならできるんだろっ⁉︎早くこいつを助けてくれよっ⁉︎」

 

「ッ」

 

 

なるほど、仲間想いではあるのだろう。しかし、なぜか『その男が黒い人影に助けを求めるのは筋違い』であると千景は思った。

理由は分からない。その黒い人影にとっては、千景も誘拐犯も初対面である事には変わりない筈だ。しかし、その男は決して人影に助けを求めてはならない、求める資格がないと千景は確信していた。

 

その男の求めに応え、人影が手をかざす。その手に灯るのは、翼の時と同じ青黒い炎。それが放たれ、刺された男を覆い———

 

———倒れていた男の身体は、跡形も無く焼失した。

 

 

「え、あ、ああぁああああぁああ⁉︎」

 

男の口から出るのは、狂ったスピーカーのような、呻き声のような悲鳴。男の遺体があった場所には、焦げてボロボロになった骨の残骸だけが残っている。人影はそれに構わず、その転がった人骨を踏み砕いた。

 

 

『なぜ、私がお前の頼みを聞かなければならない?』

 

踏み砕く。

 

『私の炎は、お前達を癒さない。ゴミは燃やして処理するのが道理だろう?』

 

何度も、何度も。()()()()()()()()()()()()()()、何度も何度も念入りに踏みつける。

 

 

「うぶ、オェえぇぇ……」

 

死体が焼けた臭いと、砕けた骨の粉末の臭いが鼻腔を蹂躙し、千景は吐いた。それに構わず、人影は憎悪を垂れ流す。

 

 

『お前達が余計な事をしなければ、こうはならなかった。……ああ、理解する必要はない。訳が分からないまま、魂に澱みだけ残して死んでいけ』

 

「や、やめろ、来るなっ……たす、たすぎゃあああぁぁああッ⁉︎」

 

 

「…うぷっ」

 

 

 

———そこから先は、惨劇だった。

人影はまるで痛めつけるように、男の指を切り落とし、膝と肘を切り落とし、四肢を切り落としていった。誤って失血死しないよう、斬った断面を瞬時に焼いて止血して、だ。

男は激痛と熱によるショックで嘔吐し、失禁し、言葉にし難い絶叫を上げながら苦しみ続けた。その視界に入る惨状と聴覚から入ってくる悲鳴、そして嗅覚を侵す刺激臭は千景を狂わせ、彼女もまた胃の中身が空になっても吐き続けた。

 

ようやく人影が手を止めたのは30分後。男が絶命し、切り刻まれた肉片と化してからのことだ。漆黒の闇を纏う人影は切り刻んだ遺体を全て焼き尽くし、綺麗に掃除した。

 

『……さて。生きているか?』

 

その問いに千景は答えられない。そもそも、人影の声が聞こえてすらいなかった。

 

『…少し、やり過ぎてしまったか。まあ、仕方がない。八つ当たりでしかないが、報いだと思って甘んじて受け入れてくれ』

 

「………」

 

『壊れてしまったか?……困るな。私が来た意味がなくなってしまう』

 

『仕方がない。処理はしてやる』

 

人影は千景に手をかざし、そして———

 

 

黒い人影———“復讐者”は、千景の記憶を封印した。

 

 

 

 

 





バーテックス
原作とは違い、なぜか高知県にもたくさん襲来。地獄をもたらす。


翼くん
良いところないな今回ッ!


ぐんちゃん
ストレス指数がヤバイ。


レナさん
以前住んでた村に行ったところで、バーテックスに遭遇。翼くんを早く見つけなきゃッ。でも襲われかけてる模様。



“復讐者”
守るべき者はもういない。故に今の彼女は———ではなく、復讐者。
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