結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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………これが、平成最後の投稿。ゴールデンウィークがなければ、とても投稿できなかった。

社会人になって、分かった事があります。『残業が無くとも、思っていた以上に時間がない』。



ようやく、勇者達が(ちょっとだけ)出ます。


西暦2018年 4月 “力”

———ただただ、走った。

 

逃げ惑う人々とは真逆の方向。避難指示を無視し、人混みを掻き分け、強引に進んだ。

 

———だって、誰も助けてくれない。

 

これは普通の災害ではない。地震も火災も、洪水も津波も、現代の日本の力ならある程度は対応できる。少なくとも、誰一人として何もできない、なんて事態はないはずだ。

 

———しかし、今回ばかりは事情が違った。

 

誰も、何もできない。自衛隊だとか、救助隊だとか、はたまた日本政府だとかの話ではない。———世界のありとあらゆる国家が、何もできない。

そうなってしまえば、あとは一瞬だった。善人も悪人も、警察官も逃亡中の犯罪者も、思いやりのある人も普段ボランティアに従事している人も。一瞬で、自分と、自分の身近な人の生存を維持する以外の余裕がなくなる。

 

———だから、いないのだ。新村アリサを助ける人間が。

 

 

「……くそったれッ!」

 

普段の限界を超えたスピードで、赤坂悠斗は駆け抜ける。全ては、アリサの為。彼女を助けられるのなら、命など惜しくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……な、にが……?)

 

ぼんやりする意識を無理やりまとめ、神崎レナは強引に思考能力を維持した。

思い出せるのは、白い怪物によって織り成される地獄。その地獄の中で、彼女は最愛の義弟を探していた、はずだ。

 

———ではなぜ、神崎レナはうつ伏せに倒れているのか。

 

「………」

 

疑問を覚えながらも、レナは起き上がろうとした。体勢を変えれば、視野が広がる。現状を認識するには、まず周囲の状況を目で見る事が先決なのだから。

 

「……?」

 

———しかし、立てない。右手で身体を起こそうとしても、全く動けない。

仕方なくレナは、左手で身体を起こす事にした。力を入れて起き上がり、そのまま右足を立てようとして、

 

「…??」

 

ドサッと、前のめりに倒れた。

 

(…な、何?)

 

彼女は、今の状況が全く理解できなかった。混乱している。精神はかつてないほどの心細さに支配され、うまく思考が回らない。

 

うつ伏せに倒れたまま、彼女は首を動かして、言う事を聞かない右腕を見た。

 

 

———肩から先が、無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして⁉︎ちょっと、しっかりしなさいよッ⁉︎」

 

天童綾音は声を荒げた。

思えば、今日は何かとおかしな日だった。転校してから一度も無遅刻無欠席であるはずの翼と千景は登校せず、連絡さえつかない。かと思えば空から白い怪物が降ってくるし、挙句の果てには———

 

「無事ですか、マイハニー……」

 

———星宮和希が、瀕死の重傷を負って倒れているのだから。

 

「無事よっ⁉︎あんたが死にかけてる以外はねっ‼︎」

 

辺りは地獄。校舎は瓦礫と化し、いつもの教室は消え失せた。

同じ教室にいたクラスメイトの大部分は瓦礫の下敷きになり、生き残った少数もまた、怪物の餌食になった。———生き残っているのは、綾音の見える範囲では、綾音自身と星宮和希だけだ。………そして、和希の命は、風前の灯。

 

「…なんの、これしき。痛い事は痛いですが、綾音の蹴りに比べれば快感がまるで足りない……」

 

否、もう生きていると言っていいのか疑わしい損傷だった。……致命傷という表現すら生ぬるい。和希の身体は、腰から下が無くなっている。むしろとうに息絶えてなければおかしいのだ。

 

———それでも、彼は強引に命を繋ぎ止める。

なるほど、確かにこれでは死は免れない。しかし、それでも言わなければならない事があった。

 

 

———思えば、ずっと曖昧にしていた。確かに周囲は、和希と綾音をカップル認定していたし、二人ともそれを否定してはいなかった。しかし、和希と綾音は、未だに告白すらしていなかったのだ。……互いが想いあっている事を確信していたにも関わらず。

 

「…愛して、ますよ……誰よりもね」

 

「ふざけ、んな……ふざけないでよッ‼︎だったら、生き残りなさいよっ!知ってんでしょッ⁉︎あんたがいないと、私はダメだって事くらいッ‼︎」

 

「……大丈夫、ですよ。何だかんだ言って、あなたは、周りに合わせられる……」

 

「ふざけるなッ!私を未亡人にするつもりかッ⁉︎」

 

 

綾音も和希も、異端者だった。

なるほど、確かに空気を読んで自分の性癖を抑えられない事もない。しかし、ずっと抑えているのはストレスになる。

———和希という発散対象がいたから、綾音は日常生活で暴力性をもて余す事なく生きてこられた。

———綾音という存在のお陰で、和希は欲望を暴走させずに済んだ。

 

結局のところ、二人の関係の発端はその性癖の異常性で———だからこそ、誰よりも互いを必要とし、強い絆で結ばれていた。

———では、それが奪われたらどうなるのか。

 

「……とにかく……あなたが無事で、……よかった……」

 

「ちょっと……?目、開けなさいよ……ねぇ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……なに、これ……?)

 

瓦礫の下で、工藤雷姫は天童綾音と星宮和希の会話を聞いていた。

身体は全く動かない。しかし如何なる奇跡か、降り注いだ瓦礫はまるで雷姫の身体一つ分を空けるかのように積み重なり、雷姫を押し潰す事はなかったのだ。

もっとも、危機的状況である事に変わりはない。瓦礫に生き埋めになったまま、生き絶えた人間など枚挙に暇がないのだから。

 

 

(……ああ、最期まで嫌な人生だったな)

 

———思えば、生まれた時から嫌なことだらけだったように思う。

明らかにふざけているとしか思えない名前をつけられ、そのせいでからかわれる幼少期を過ごした。ようやく友達ができたかと思えば遠くに引っ越し、再会できたかと思えば白い怪物に蹂躙される。

 

———もう、うんざりだと彼女は思った。

良いことがなかったわけじゃない。だが、彼女の期待はいつも裏切られる。だから、せめて神崎翼の近くにいられる現状に満足しようと、そう思っていたのに———その結末がこれだ。

 

 

(———ふざけるな)

 

頭の奥で、悪魔が囁く。「もう、我慢する必要などない」、と。

今まで生きてきて、強引に堰き止められていた負の感情が、死の間際になって爆発した。

 

「ふざけるなぁあぁああぁぁぁーー‼︎」

 

そしてその怒りは、全てを破壊する雷となって顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なに、が?」

 

神崎翼は困惑していた。

気がつくと彼は、崩壊した廃墟で倒れていたのだ。———なぜか、無傷で。

翼の側には、千景が倒れている。———幸い、呼吸も脈もある。翼と同様に無傷で、ただ眠っているだけのようだ。

 

(……どこからどこまで、現実だった?)

 

周囲に、千景以外の人影はない。

暴力を振るわれた事も、不意打ちで男を刺した事も鮮明に覚えている。しかし、その暴力の傷は跡すら残っていないし、護身用に持っていたはずのナイフも見当たらない。極め付けに、四方の壁はまるで爆弾で吹き飛ばしたかのように大穴が空いている。まるで都合の良い夢を見ているかのようだ。

 

(……スマホが、ないか)

 

連絡手段がない事を確認し、彼は自分のすべき事を確認する。

 

(まずはちかちゃんを連れてここから出る。場所を確認次第、自宅に帰らないと。……いや、民家があれば電話を借りるか)

 

「……あれ?」

 

起き上がった翼は、しかしふと違和感を覚えた。

———身体が、軽い。

普段から、神崎レナによって翼の体調管理は万全だ。余程の事がない限り病気なんてしないし、体調が良いのが彼にとっての当たり前。しかし、今は普段以上に体調が良い。動かす手足は重力が仕事をしなくなったかのように軽く、硬い床に倒れていたはずなのに身体はどこも痛くない。

 

「…………」

 

———ふと足元を見ると、ちょうど投げやすそうな瓦礫が転がっている。当然ながらそれは廃墟の壁を構成していたコンクリート片であるので、それなりには重い、のだが。

 

「……?軽い」

 

まるでソフトボールのような、軽い手応え。見かけに反して、中身が空洞になっていたのか、それとも———。

 

 

「それっ」

 

軽い気持ちで、翼はその瓦礫を外へ投げた。

 

 

 

 

———その結果、瓦礫は『ビビョウッ‼︎』という音と共に、目にも留まらぬ速さで飛び、その直後に『ズガンッ』という何かにぶつかる音が響いた。

 

 

「…………ふむ、なるほど。……………なんだこれ?」

 

原因は不明だが、なんか身体能力が超人じみて上がっている事は理解できた。取り敢えず眠り続ける千景を運ぶべく、慎重に彼女をお姫様抱っこ。———何という事でしょう。まるでタオルケット感覚で彼女を抱き上げる事が出来てしまった。

 

「……まあいいか。都合が良い」

 

訳が分からない事象の解明は後で良い。それよりも、まずは家族と連絡を取る事を翼は優先した。

 

 

 

 

「……なんだ、これ」

 

そして廃墟から出た翼が見たものは、白い怪物が蔓延る地獄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、そうか」

 

右腕の喪失を認識したレナが感じたのは、驚きではなく納得だった。同時に理解する。「もう、自分の命は長く保たない」、と。

無くなった右腕が繋がっていたはずの肩からは、鮮やかな赤色の血が止まることなく流れている。出血量からして、思考を保てるだけでも奇跡なのだ。

 

(———翼さん、無事でしょうか?)

 

何せ、訳の分からない白い怪物の大群だ。地震や津波で生き残るよりも、生存率は一気に下がる。

 

(……翼さんに、会いたい)

 

彼女は、今までずっと、翼を守るために生きてきた。……あるいは、そう思考するよう無意識のうちに教育(洗脳)されていたのか。この状況に陥ってなお、彼女が感じるのは翼への未練だけだった。

 

(翼、さん……)

 

 

神崎翼は、郡千景と共に姿を消した。経験上、十中八九誘拐だと推測される。

翼をあらゆる危険から守るのは、レナの至上の義務であり、この上なく幸福な権利だ。その理由が家族愛であれ、義理の父親による洗脳であれ、歪んだ恋愛感情であれ、それは変わらない。だから、彼女が心から納得できる死に方は、それが『翼のためになる』場合だけだ。

 

 

———断じて、こんな孤独な『無駄死に』であってはならない。

 

 

(……嫌……。死にたく、ない……)

 

歪んだ価値観から出力されるのは、しかし生物としてこの上なく真っ当で、純粋な生存願望。

 

(…翼さん……)

 

その願望は、分岐する。

———神崎翼を守りたいという想いと、その想いを阻害する世界への憎悪へと。

 

(翼さん。会いたい。翼さん。愛してます。翼さん、翼さん翼さん翼さん翼さん翼さん翼さん翼さんさん翼さん翼さん翼さん翼さん翼さん翼さん翼さんさん翼さん翼さん翼さん翼さん……)

 

 

振り切れた感情は、人間の限界を超える。

 

———レナ本人は自覚していなかったが、彼女は既に失血死していなければおかしい状態だった。

彼女が自覚していたのは右腕の喪失。しかし、実際には右腕だけでなく、右脚も失っている。単純計算で、失血量は彼女の認識の二倍以上。

 

……それでも辛うじて生きていたのは、彼女の執念深さ故か。

 

理論上不可能であるはずの生存を想いの力だけで成し遂げた彼女は、さらなる奇跡を求める。———すなわち、この状況を覆し、神崎翼を守り抜くための力を。

 

「……う、ああぁああああぁあああああーー‼︎」

 

そしてそれは、()()()()となって顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、こちらです!」

 

上里ひなたは、声を張り上げて避難指示をする。離れた場所には、もっとも信頼する幼馴染が、日本刀一本で怪物と戦っていた。

 

———今日は、彼女達が通う中学の始業式だった。

 

しかし突如、上空から白い怪物が来襲。始業式の会場である体育館の天井をあっさりと破ったその怪物は、教員・生徒問わず襲いかかり、一瞬で血みどろの地獄を作り出した。

 

———ひなたと彼女の幼馴染、乃木若葉が生き残れたのは、偶然の積み重ねに過ぎない。

 

もしも、登校中に倒れている妊婦を病院に運んで遅刻しなければ、二人は今頃、体育館の天井の下敷きになって死んでいたかもしれない。

もしも、小学生の修学旅行の時に偶然見つけた日本刀を若葉が持っていなければ、二人は怪物に太刀打ち出来ずにあっさりと喰われていたかもしれない。

 

———二人からすれば、全く訳の分からないことだらけだ。

 

どうしてひなたが、敵が少ない経路を選んで案内できるのかも、どうして若葉が敵に対抗できるのかも。そもそもの話、どうして小学生の頃以来、ずっと倉庫に眠っていた日本刀を、法律を犯してまで持ち出さなければならない気がしたのかも、二人には分からない。ただ己が感じたまま行動した結果、今の生存に繋がっているだけなのだ。

 

———上里ひなたの巫女としての力は、未だ不完全。故に、この状況を完全に理解できるだけの神託を受けられてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

———そして、同じ状況に陥っている人間は、彼女達だけではない。

 

 

 

「……くそっ。数が多いッ」

 

「タマっち先輩、無茶しないで!」

 

「そういうあんずこそ、休んでろ!」

 

愛媛県の、とある病院。そこでは、二人の少女が白い怪物を相手に戦っていた。

 

———積極的に前線に立ち、動き回りながら敵を屠る少女の名は、土居球子。

彼女は先週、木から落ちて足の骨を骨折し、入院した怪我人である。しかしどういう訳か、今日になって急に骨折の痛みがなくなり、動けてしまっている。

 

———後ろから球子の支援をする少女の名は、伊予島杏。

彼女は身体が弱く、日頃から病気で頻繁に入退院を繰り返している病人である。昨日までは高熱でまともに話す事も出来ない容体だったが、今日になって急に熱が下がり、回復。退院の目処が立ったところで怪物が襲来し、今に至る。

 

 

「しっかし、何だろうな、これ?怪物に効くのは良いけど、戦い方がイマイチ分からんッ」

 

「盾に見えるし、そういう使い方じゃない気もするけど……」

 

球子の戦い方は、一言で言えば大雑把だ。盾で殴り、殴り、投げつける。それで何とかなってしまっているから、今のところ改善の余地がない。

———()()()()()()()()()、勇者についてくらいは分かったのかもしれないが、それは無い物ねだりというものだろう。偶然拾った武器を、何となく使ってみたら化け物に効いた。ただそれだけの積み重ねで、彼女ら2人は生き残っている。

 

 

———勇者達が集結する日は、未だ遠い。




翼くん
なんか超人に変貌できていた。詳細は不明。




神崎レナ
死にかけ。右腕と右脚がなくなり、お腹も少し齧られてグロテスクな事になっているが、なんか生きてる。

Q.なんで生きてるの?
A.愛の力。





工藤雷姫
とうとう闇落ちしかかり、覚醒。





赤坂悠斗
ヒロインのために奔走する主人公。……こいつ主人公にした方が面白い気がしてきたが、きっと気のせいだろう。





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